VUCA(ブーカ)とは、4つの単語の頭文字をとった言葉で、「今後の未来を予想することが困難な状況」のことを意味します。近年では、現代を象徴する言葉としてビジネスシーンでよく用いられることが多い単語です。
「時代の変化のスピードが速い」「変化する事象の量が多い」など、将来の変化を予想できない時代では、企業が優先すべき取り組みや個人に必要なスキルを認識することが重要です。
本記事ではVUCA(ブーカ)とは何か?を確認し、個人・企業で求められる必要スキルを紹介します。
<目次>
- VUCA(ブーカ)とは?
- VUCAを構成する4つの要素と事例
- VUCA時代はどんな時代か?
- VUCA時代に個人に必要とされる7つのスキル
- VUCAに企業が対応するために必要なこと
- VUCA時代に有効なフレームワーク
- VUCA時代を乗り切るためには常に準備を怠らない
VUCA(ブーカ)とは?
まずは、最近よく使われるVUCAとは何か、「なぜ今、ここまで注目されているのか」を確認します。
VUCAとは”未来が予測困難な時代”を指す言葉
VUCAとは”未来が予測困難な時代”を指し、時代の特徴を表す以下4単語の頭文字をつなげたものです。
- Volatility=変動性
- Uncertainty=不確実性
- Complexity=複雑性
- Ambiguity=曖昧性
もともとはアメリカの軍事分野で登場した用語ですが、今はビジネス場面などでも幅広く用いられています。
VUCAが注目される理由
「未来が予測困難で、時代の変化が激しい」ということ自体は、大正や昭和の昔から叫ばれていたことです。
大前提として、時代の渦中にいる人にとって時代変化はいつも急激であり、予測が難しいものなのです。
ただし、現代がITの発達やグローバル化を通じて、物理的・経済的・情報的に世界中がより強く、また早くつながる時代になっていることは間違いありません。
例えば、日本国内でドメスティックにサービス提供するうえでも、グローバル企業との競争が生じることは当たり前になっています。
例えば、街中の書店が苦戦を強いられている最大の原因はamazonですし、同じようにCDやDVDのレンタルサービスが廃れていく理由はNetflixやSpotifyであるわけです。
さらに、最近ではITサービスのプラットフォームに対する規制などは政治的な要素も絡んできます。
世界中がつながっていることで、海外での問題が日本国内での製品やサービス提供、経済活動に影響をおよぼすことも珍しくありません。
このように昔と比べてさまざまな要因から、現代はより未来予測が困難になっているのです。
VUCAを構成する4つの要素と事例
次にVUCAを構成する4つの要素を具体的な事例とともに解説します。
Volatility=変動性
Volatility=変動性とは、字のごとく、変動の激しい状態を意味します。
かつて、半導体最大手である米インテルの共同創業者の一人、ゴードン・ムーア氏は1965年に「半導体回路の集積密度は1年半〜2年で2倍となる」とコメントしました。
これはムーアの法則として現在も有名です。
上記は技術進歩を述べたものですが、技術進歩だけでなくサービスの普及スピードなども変動性は激しくなっているでしょう。
例えば、ここ十数年でのスマートフォンやSNSの普及スピードはそのひとつです。また、現在は市場ニーズや消費者の価値観などの変化も激しくなっています。
変化に対応できなければビジネスが衰退する一方で、変化に追随、先取りできれば急成長のチャンスにもなりえます。
現代に関していえば、IT技術の急速な進展、クラウドサービスの出現等、どこかで生まれたサービスや価値観が一気に世界中に広がって、世の中に変化をもたらすようになっています。
Uncertainty=不確実性
Uncertainty=不確実性とは「この先の環境がどう変化するのか?」という不確実性な事柄が多い状態を意味します。不確実性が高いと、事業計画などの見通しを立てることが困難になります。
たとえば、日本国内で2020年からの新型コロナウイルス感染症の感染拡大がもたらした影響などは予測できない不確実な変化の典型といえるでしょう。
個人や組織は不確実性が増している、想定していない変化が起こることを前提にして、対応する柔軟性を持ったり、リスク管理をしておく必要があるでしょう。
Complexity=複雑性
Complexity=複雑性とは、さまざまな要素や要因が絡み合っていて解決策を導き出すことが難しい状態のことです。複雑性が高いと、成功事例をそのまま活用することができません。
世界的に普及しているものの日本国内で浸透しきらないキャッシュレス化の問題なども、複雑性の例として挙げられるでしょう。
キャッシュレス化の促進でいえば、例えば、ハードウェア、ソフトウェア、通信端末、人々の異文化への受け入れ、既存産業への影響、店舗などの利用事業者の負担や都合など、さまざまな問題が複雑に絡み合います。
複雑化に伴って、1つの国や企業だけでは問題を根本的に解決できないことも増えています。
Ambiguity=曖昧性
Ambiguity=曖昧性とは「この方法なら問題を解決できる!」という絶対的な解決方法が見つからないなど曖昧な状態のことです。
Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性が組み合わさることでAmbiguity:曖昧性な状態になります。
上記のような確実な解決方法が見いだせないということに加えて、白黒がハッキリしないグレーな状況、ケースバイケースによる判断が求められることも増えるでしょう。
ただし、曖昧性が高くなるからこそ、先を読んでリスクを取ることでチャンスが生まれるという側面もあります。
VUCA時代はどんな時代か?
VUCA時代を乗り切るためには、どんな状態になるのかを想定して準備しておくことが大事です。ビジネス場面でいえば、考えられる状態は以下のようなものです。
- 想定外のことが次々と発生する
- 新サービスの登場によって市場が急激に変化する
- 今までの常識が覆される
想定外のことが次々と発生する
経済、ビジネス、個人のキャリアなど、あらゆるものの複雑さや変動性を増して将来予測が困難になります。最近では、新型コロナウイルスの感染拡大はその典型といえるでしょう。
コロナ禍自体も、予測不可能なものでした。さらに、コロナ禍を契機として働き方や人の価値観、ビジネスのあり方が、わずか数年で大きく変化しました。
コロナウイルスのようなUncertainty=不確実性のある将来に備えるには、変化のトレンドを見つけ、そこに素早く対応していくことが必要です。
新サービスの登場によって市場が急激に変化する
これからの時代、ひとつの新サービスが市場を激変させる可能性があります。とくに当初からグローバル展開することを想定して開発されたインターネットサービスは数年で世界中に広がります。
上述したようなNetflixやSpotifyもそうですし、インターネットを軸にしたリアルサービス、AirbnbやUberなどのモデルも、短期間で一気に広がり、既存産業に影響をおよぼしています。
従来のビジネスは「同じ業界の企業」が直接的な競合でしたが、今は”業界”という概念そのものがなくなりつつある部分もあります。
今までの常識が覆される
想定外のことが次々と発生したり、新サービスの登場で市場が急激に変化したりすれば、今までの常識も覆されていきます。
前述したコロナ禍に伴うリモートワークの普及、それに伴うマネジメントの変化などは、今までの常識が覆された点も多いでしょう。
また、VUCA時代では、今までは強みだったリソースが、一気に足かせになるような現象も起きます。
例えば、デジカメの定着・スマートフォンへの組み込みによって、アナログカメラやフィルムの業界は一気に淘汰されました。
製造業などでは、アップルに代表されるような製造機能を持たないファブレスメーカーも当たり前になりつつあります。
すべての変化に追随することが、自社のビジネスにとって有効は限りません。
ただし、無暗に変化を拒んだり、従来の常識に固執したりするのではなく、変化の方向を見極めたうえで、自社の状況や事業特性を踏まえて、対応する必要があるでしょう。
VUCA時代に個人に必要とされる7つのスキル
VUCA時代を生き抜くためには、個人のスキルを伸ばしていく必要があります。自分や部門メンバーに当てはめてみたり、自己開発や人材育成を考えたりする参考にしてください。
□ | 考え抜く力 |
---|---|
□ | 感情を扱う力 |
□ | 幅広い情報収集力 |
□ | 多様性を武器に変える力 |
□ | アジャイル思考 |
□ | リーダーシップ |
□ | 曖昧さを受け入れる力 |
考え抜く力
現在、多くの仕事がITやAIに代替される時代になってきています。単純労働だけではなく、これまで知識労働の典型とされてきたような仕事もAIに代替される可能性は大いにあります。
その中で必要なのは、人間にしかできない”考える力”を高めることです。
AIは過去の事例がない課題を解決したり、アイデアを生み出したりすることはなかなかできません。AIができない”考え抜く力”を徹底して身につけるのが、これからの時代で重要なスキルです。
感情を扱う力
感情労働の領域も、まだITやAIには苦手な力です。人間の感情や気持ち、気分は、科学でも解明されていない部分が大きいのです。
数十年前からいわれている”IQの時代からEQの時代へ”という変化は、AIの世界を踏まえてより進んでいます。
考え抜く力の重要性と併せて考えると、”知識と記憶の時代から感情と創造の時代”といえるかもしれません。
幅広い情報収集力
競合の概念が変わったり、世の中に大きな変化が起こったりするなかで、視野を広げて情報収集する力が求められます。
Web上の情報を素早く検索したり、俯瞰して大きなトレンドを見出したりする力も大切です。
同時に、顧客などとコミュニケーションをとる、また、チームや組織の枠を超えてネットワークを広げて幅広く一次情報を得る力も大切です。
多様性を武器に変える力
多様性を尊重して、違いから相乗効果やイノベーションを生み出す力もVUCA時代を生き抜くポイントです。
多様性が増すことは、さまざまな価値観がぶつかり合って人間関係のトラブルが発生しやすくなるという側面もあります。
大切なのは、多様性を受け入れつつ、異なる価値観や意見を成果につなげていくコミュニケーション力やファシリテーション力、そして人格です。
アジャイル思考
変化の激しい時代、計画を立てることに時間をかけすぎてしまうと、ビジネスチャンスを逃してしまいます。そもそも、VUCA時代に“完ぺきな計画”を立てることは不可能だともいえるでしょう。
従って、いきなり完成形を生み出そうとするのではなく、素早く試行錯誤する力が大事です。
試行錯誤しながら、常にアンテナを張って、迅速に軌道修正を行えるようにすることが求められます。計画どおりに物事が進まない場合、現状に合わせて臨機応変に対応する柔軟さも大切です。
リーダーシップ
VUCAの時代、変化が激しいからこそ、今までのようなトップダウンは通用しなくなります。
これからは個人や小チームのリーダーが意思決定することがより求められます。適切な状況判断を行ない、複数の選択肢のなかから行動を選択する決断力が求められます。
曖昧さを受け入れる力
複雑性が激しい時代に、ひとつの基準ですべてを判断することは難しくなっています。問題解決したり意思決定したりするうえで、物事に白黒をつけるよりも曖昧さを受け入れる包容力も必要です。
前述したアジャイル思考にもつながりますが完璧や正解を求めていると、動き出せない・意思決定できないことが増えてしまうでしょう。
VUCAに企業が対応するために必要なこと
次に、企業が対応するために必要な対応を3つ紹介します。
□ | 人材の育成 |
---|---|
□ | 迅速な経営判断 |
□ | リスクに備える |
人材の育成
VUCAの時代には、多種多様なパフォーマンスを発揮できる人材の育成が重要です。
育成すべき人材の特徴は前章で述べたとおりです。人材育成におけるリーダーシップや柔軟性、思考力やEQなど、ヒューマンスキルの重要性が増しています。
迅速な経営判断
状況に応じて迅速に経営判断を行ない、柔軟に対応する必要があります。将来予測も大切ですが、VUCAの時代に予測に時間をかけすぎると変化に乗り遅れるリスクがあります。
したがって、スピーディーに意思決定し、軌道修正を行なうことが重要なのです。個人と同じく、組織や経営にもアジャイル思考が求められています。
リスクに備える
VUCA時代、また、企業の社会的責任が強く求められる時代となり、企業が抱える潜在的なリスクはどんどん増しているともいえます。
前述のとおり、2020年からのコロナ禍などはVUCA時代における予測不可能なリスクを象徴するような事態でしたし、最近ではデータ化とネットワーク化が進んだなかで、個人情報の管理などもリスクをはらんだ問題となっています。
また、ハラスメントや勤怠管理などに関する社会的な価値観の変化、またSNSによる炎上リスクなどもあります。
従って、アジャイル思考を取り入れたり、迅速な経営判断を実施したりするなかでも、適切なリスクマネジメントを実施することが必要です。いわば「攻め」と「守り」、どちらも尖らせる必要があります。
なお、リスクマネジメントとは、リスクを取らないだけでなく、リスクを見極めたうえであえてリスクを取ることも含まれます。
「リスクに備える」ことが重要とはいえ、守ってばかりいても変化には対応できません。適切に守るべきポイントを見極めて守る、同時に、それ以外の領域では攻める、といった対応が求められています。
VUCA時代に有効なフレームワーク
最後にVUCA時代に有効とされるフレームワークを2つ説明します。考え方だけでも知っておくと役に立つでしょう。
- OODAループ
- VUCAプライム
OODAループ
VUCA時代に注目されているフレームワークの1つで、もともとアメリカ空軍で使用されていました。PDCAに対応した概念で、以下4つの概念をループさせるというフレームワークです。
- 1.Observe(観察)
- 2.Orient(状況判断、方向づけ)
- 3.Decide(意思決定)
- 4.Act(行動)
PDCAが、計画⇒実行⇒検証⇒再実行を順番に実行していく大きなフレームワークだとすると、OODAループは大きな方針やゴールが定まっている中でアジャイル的に物事を進めていく考え方ともいえます。
PDCAの「P」で計画をつくる難易度が増していることを踏まえて、ゴールや基準だけは明確にして、早々に試してみる(「D」に入る)。試してみる中で、OODAループを活用して、高速で試行錯誤を回していく。
その上で、ある程度の切りがいいところで、一回立ち止まって検証「C」して、次の大枠を定める「A」といったイメージが良いでしょう。
VUCAプライム
VUCAプライムは2007年にロバート・ヨハンセンが提唱したリーダーシップモデルで、VUCAに対抗するために必要となる4つの要素を示したものです。
- ●エンゲージメント
- ●エンパワーメント
- ●データドリブン
- ●ビジョン
自社のマネジメントや組織開発、人材育成を振り返る視点として、有効に活用できるでしょう。
VUCA時代を乗り切るためには常に準備を怠らない
将来が予測不可能で変化が激しいVUCA時代を乗り切るためには、しっかりと準備しておくことが大事です。
現状や従来の常識に固執して変化に対応できなければ、すぐに時代に取り残されてしまいます。
組織としては、リスク管理の視点はしっかりと持ったうえで、人材育成を通じて、変化に柔軟に対応していけるマネジメント、人材育成、組織開発を進めていくことが非常に大切です。