新人研修で使える助成金は?種類や導入フロー、活用方法を解説!

更新:2023/07/28

作成:2021/07/08

高嶋 阿由里

高嶋 阿由里

株式会社ジェイック

新人研修で使える助成金は?種類や導入フロー、活用方法を解説!

企業で新人研修を実施するうえで、助成金が使える場合があります。厚生労働省や各都道府県が提供している助成金を活用できれば、研修費用は大幅に軽減できます。

 

多くの研修助成金は研修費用と給与補助が支給され、場合によっては研修費用を上回る場合もあります。一方で、助成金は利用対象が限定されますし、多くの手続きも必要となります。

 

記事では、新人研修に活用されることが多い助成金の種類と特徴、基本的な申請フローなどを紹介します。なお、助成金は年度によって金額などが変わることもあります。実際に利用を検討する際は、記事で概略を把握していただいたうえで、必ず行政等のホームページで最新情報を確認してください。

<目次>

新人研修に使える助成金は?

打合せをする若手社員

新人研修に使える助成金にはいくつかの種類があります。本章では、各助成金の概要、助成内容、対象企業、申請要件、支給額などを紹介します。

 

なお、繰り返しになりますが、助成金の利用条件には細かな制約があったり、年度ごとに条件が更新されたりしますので、詳細は必ず厚生労働省などのホームページをご確認ください。

 

 

人材開発支援助成金

人材開発支援助成金は、「正規雇用の従業員に職務に関連する専門知識や技能習得を目的とした訓練をする」場合に使える助成金です。かつては、キャリア形成促進助成金という名称でしたが、平成28年に名称とコース内容などが再編されています。

 

・特定訓練コース

労働生産性の向上に役立つ訓練、若年者に対する訓練、OJTとOFF-JTを併用した訓練など、効果が高い10時間以上の訓練に利用できるものです。比較的多くの企業で新人研修向けに活用されている助成金です。

 

 

○基本要件

「OFF-JTにより実施される訓練であること」と「実際の研修時間が10時間以上であること」の基本条件のほかに、ポリテクセンターや職業能力開発大学校などの高度職業訓練、中小企業大学校が実施する訓練、ITSSレベル4または3となる訓練などの7種類のうちいずれかの訓練を労働者に受けさせるなどの細かな要件があります。

*ITSSレベルとは情報処理推進機構が定めている「IT領域で価値創出するための必要スキル」のレベルです。

 

○対象企業の条件

人材開発支援助成金の支給対象になるのは、雇用保険適用事業所であり、訓練期間中の訓練受講者に対する賃金を適正に支払っているなどの8要件を満たした中小企業と中小企業以外の企業、事業主団体です。

 

○対象労働者の条件

人材開発支援助成金の支給対象となる労働者は、以下4要件のすべてを満たす必要があります

 

  1. 助成金を受けようとする事業所または事業主団体などが実施する訓練などを受講させる事業主の事業所において、被保険者であること
  2. 訓練実施期間中において、被保険者であること
  3. 訓練実施計画届時に提出した訓練様式第4号(訓練別の対象者一覧)に記載のある被保険者であること
  4. 訓練の受講時間数が、実訓練時間数の8割以上であること

 

 

このほかに、各コースによって異なる基準もあります。

 

例えば、建設業や情報通信業、製造業で実施されることの多い特定分野認定実習併用職業訓練では「15歳以上45歳未満の労働者」と「申請事業主などの構成事業主における被保険者」の2条件を満たすとともに、「新たに雇い入れた者」などの対象要件に該当する必要があります。

 

 

新人研修に利用できる特定訓練コースの種類

特定訓練コースで使える制度(訓練)は、以下のように時間数や業種、厚生労働大臣による認定の有無によって変わってきます。

 

OFF-JTのみOFF-JT+OJT
特定訓練コース

(訓練時間数:10時間以上)

特定訓練コース

(雇用型訓練※必要な訓練時間数は大臣認定の要件で変わる)

若手人材育成訓練雇用契約締結後5年経過せず35歳未満の者を対象とする訓練認定実習併用職業訓練OFF-JTとOJTを効果的に組み合わせた訓練として厚生労働大臣の認定を受けた訓練
特定分野認定実習併用職業訓練上記のうち建設・製造・情報通信業において行なうもの

出典:正社員の職務に必要な知識・技能の向上のために人材開発助成金(特定訓練コース/一般訓練コース)を使ってみませんか?

 

◯特定訓練コースの助成額

特定訓練コースで受けられる助成額は、以下のように定められています。

 

OFF-JTOJT
賃金助成

(1人1時間あたり)

(※上限は1,200時間(一部1,600時間))

中小企業760円〈960円〉実施助成

(1人1時間あたり)

(※上限は680時間)

中小企業665円〈840円〉
大企業380円〈480円〉大企業380円〈480円〉
経費助成中小企業45%〈60%〉
大企業30%〈45%〉

出典:正社員の職務に必要な知識・技能の向上のために人材開発助成金(特定訓練コース/一般訓練コース)を使ってみませんか?

 

 

人材開発支援助成金の助成額は、いくつかの注意点があります。

 

まず、訓練によって企業の生産性向上が認められた場合、「生産性要件を満たした」ということで〈 〉内の数字の通り助成額が引き上げられます。

 

また、職業能力開発計画のOFF-JTにかかる経費助成の限度額(1人1年間)は、実訓練時間数と企業規模に応じて、以下のように変わる仕組みになっています。

 

企業規模10時間以上100時間未満100時間以上200時間未満200時間以上
中小企業事業主

事業主団体など

15万円30万円50万円
中小企業以外の事業主10万円20万円30万円

 

・一般訓練コース

人材開発支援助成金の一般訓練コースは、職務に関連した専門的な知識および技能の習得をさせるための職業訓練であって、特定訓練コースに該当しないものです。2018年より通信制など(e-ラーニングを含む)により実施される訓練(一般教育訓練給付指定講座に限る)が助成対象(経費助成のみ)に追加されています。

 

 

◯基本要件

一般訓練コースの制度で助成金を受給するには、以下の3要件を満たす職業訓練を行なう必要があります。

 

  • OFF-JTにより実施される事業内訓練または事業外訓練であること
  • 実訓練時間数が20時間以上であること
  • 雇用する被保険者に対して定期的なキャリアコンサルティングを実施することについて、就業規則や労働協約、または事業内職業能力開発計画で定めていること

 

○対象企業の条件

一般訓練コースも人材開発支援助成金にあたりますので、支給対象事業主の要件は前述の特定訓練コースと同じです。雇用保険適用事業所であり、訓練期間中の訓練受講者に対する賃金を適正に支払っているなどの8要件を満たした中小企業と中小企業以外の企業、事業主団体になります。中小企業かどうかの判断基準も同じです。

 

○対象労働者の条件

一般訓練コースも、以下4要件を必ず満たす必要があります。

 

  1. 助成金を受けようとする事業所または事業主団体などが実施する訓練などを受講させる事業主の事業所において、被保険者であること
  2. 訓練実施期間中において、被保険者であること
  3. 訓練実施計画届時に提出した訓練様式第4号(訓練別の対象者一覧)に記載のある被保険者であること
  4. 訓練の受講時間数が、実訓練時間数の8割以上であること

 

◯一般コースの助成額

一般訓練コースでは、対象経費と労働者1人1時間あたりの賃金に助成が行なわれます。

 

OFF-JT
賃金助成

(1人1時間あたり)

(※上限は1,200時間(一部1,600時間))

380円〈480円〉
経費助成30%〈45%〉

出典:正社員の職務に必要な知識・技能の向上のために人材開発助成金(特定訓練コース/一般訓練コース)を使ってみませんか?

 

一般訓練コースの場合、大企業でも中小企業と同条件で受給が可能です。また、生産性向上が認められた場合、〈 〉内の金額・割合に変わります。そして、経費助成は訓練時間に応じて以下の上限額が設定されています。

 

20時間以上100時間未満7万円
100時間以上200時間未満15万円
200時間以上20万円

出典:正社員の職務に必要な知識・技能の向上のために人材開発助成金(特定訓練コース/一般訓練コース)を使ってみませんか?

 

一般訓練コースの助成額にも、さまざまな条件や注意点がありますので、詳細は厚生労働省のホームページで確認してください。

 

 

社内型スキルアップ助成金・民間派遣型スキルアップ助成金(中小企業人材スキルアップ支援事業)

東京都内の中小企業または中小企業の団体が実施する短時間の職業訓練に対して、助成金を支給する制度です。

 

かつては東京都中小企業職業訓練助成金と呼ばれていましたが、令和3年度より「社内型スキルアップ助成金・民間派遣型スキルアップ助成金(中小企業人材スキルアップ支援事業)」に名称が変わっています。

 

記事内で紹介するのは東京都の制度ですが、都道府県単位で独自の助成金が用意されている場合もありますので、ぜひ確認してみてください。

 

 

◯対象事業主の条件

中小企業人材スキルアップ支援事業の助成金を申請できるのは、大きく分けて中小企業事業主と共同団体の2つです。「中小企業」は、以下の資本金額と常用労働者数のいずれか一方(もしくは双方)に該当する企業になります。

 

産業分類資本金の額常用労働者数
小売業・飲食店5,000万円以下50人以下
サービス業5,000万円以下100人以下
卸売業1億円以下100人以下
上記以外の産業3億円以下300人以下

出典:東京都TOKYOはたらくネット 社内型スキルアップ助成金・民間派遣型スキルアップ助成金(中小企業人材スキルアップ支援事業)

 

 

共同団体とは、事業協同組合や一般社団法人、企業組合などのうち、団体構成員の3分の2以上が中小企業であるものを指します。共同団体に含まれる対象は非常にたくさんありますので、詳しくは社内型スキルアップ助成金・民間派遣型スキルアップ助成金のホームページを確認してください。

 

 

◯申請要件

中小企業人材スキルアップ支援事業の助成金に申請をするには、以下4要件を満たす必要があります。

  • 東京都内に本社または事業所(支店や営業所など)の登記があること
  • 訓練に要する経費を受講者に負担させていないこと
  • 訓練を通常の勤務時間内に行ない、通常の賃金を支払っていること
  • 助成を受けようとする訓練について、国または地方公共団体から助成を受けていないこと

 

 

◯対象訓練の条件

助成金申請ができる訓練は、以下3つの要件を満たす必要があります。

  • 受講者の職務に必要な専門的な技能・知識の習得・向上または、専門的な資格の取得を目的とすること
  • 集合で行なわれ、通常の業務と区別できるOFF-JT訓練であること
  • 交付決定日から令和4年3月31日までの間に訓練を開始し、終了すること

 

 

また社内型スキルアップ助成金と民間派遣型スキルアップ助成金のそれぞれに、以下の要件が設けられています。

 

社内型スキルアップ助成金民間派遣型スキルアップ助成金
申請者中小企業・団体中小企業
訓練時間6時間以上12時間未満3時間以上20時間未満
訓練場所東京都内東京都内
修了者数2名以上1名以上
訓練の実施方法集合型訓練および

同時かつ双方向のオンライン訓練

集合型訓練

出典:東京都TOKYOはたらくネット 社内型スキルアップ助成金・民間派遣型スキルアップ助成金(中小企業人材スキルアップ支援事業)

 

 

◯助成受講者の条件

中小企業人材スキルアップ支援事業は、以下3条件に該当する受講者を助成対象としています。

  • 中小企業では当該企業の従業員、団体では構成員である都内中小企業の従業員
  • 常時勤務する事業所の所在地が東京都内である者
  • 訓練時間の8割以上を出席した者

 

 

◯助成額

中小企業人材スキルアップ支援事業の助成額は、選択するコースによって異なります。

 

社内型スキルアップ助成金民間派遣型スキルアップ助成金
助成対象受講者数×訓練時間数×430円

(団体の場合、訓練に要した経費-収入の額を上限)

助成対象受講者1人1コースあたり受講料など(税抜き)の2分の1

(20,000円を上限)

出典:東京都TOKYOはたらくネット 社内型スキルアップ助成金・民間派遣型スキルアップ助成金(中小企業人材スキルアップ支援事業)

 

 

◯助成限度額と注意点

中小企業人材スキルアップ支援事業で年度内に交付申請できる金額の上限は、社内型と民間派遣型を合計して100万円になります。

 

また、助成対象受講者1人あたりの助成対象訓練時間は、社内型と民間派遣型を合計して年度内で100時間以内が上限と決められています。

 

 

新人研修に助成金を利用する際の注意

新人研修に助成金を使うことができれば、研修費用や期間中の人件費負担が大きく減ります。一方で、助成金を利用するためには研修内容の制限が生じたり、必要な書類の整備に工数がかかったりします。

 

助成金を使うために研修効果が損なわれたりすることがないように注意しましょう。

助成金の一般的な申請フロー

申請書のイメージ

助成金の申請から受給(助成金が振り込まれる)までの一般的な流れを紹介します。助成金の手続きはかなり長期にわたるため、経験のある社内スタッフがいない場合には外部の社会保険労務士などに支援を求めることがおススメです。

 

 

計画書類の作成

自社に合った助成金を選び、応募要項を確認しながら申請書類を作成します。具体的には、企業の社員教育に関する方針書類や、実施研修に関する日程、内容などが必要になります。

 

そのなかでも詳細を求められるものとして、実施計画や新人研修のプログラムに記載した書類があります。研修の目標や期間、研修内容に加えて、指導員・講師の名簿や経歴などが必要になる場合もあります。

 

 

計画申請

助成金は、申請可能な期間が決まっています。そのため、申請期間内もしくは計画の実施1ヵ月前までに、ハローワークや管轄する職業能力開発センターなどの受付場所に申請書類を提出します。必要書類の作成には工数が必要となりますので、余裕を持って準備を進めましょう。

 

 

承認

担当の行政機関で申請書類の審査が行なわれ、計画が承認されると、交付決定通知が届きます。教育系の助成金は一般的に「計画の申請と承認」と「実施報告(受給)の申請と承認」という2ステップになっており、計画が承認されたのち、実際に研修を実施して「実施報告(受給)の申請」をする流れになります。

 

  1. 提出した計画どおりに研修を実施
  2. 実施報告を添えて受給申請を提出
  3. 申請内容を審査
  4. 受給の承認

 

 

研修実施

提出した計画の通りに新人研修を実施します。助成金によっては、実施記録として日報などの提出が必要になる場合もあります。研修を始める前に実施報告時の提出書類を確認しておきましょう。

 

 

報告書類の作成

受給申請に必要な実施報告書を作成します。基本的には、承認された計画どおりに研修を実施したことを証明する書類です。助成金によっては受講者本人が作成した受講レポートなどの提出も求められます。

 

 

受給申請

各制度で決められた期間内に受給申請を行ないます。「提出期限が一律で決まっている場合」や「研修実施から2ヵ月以内に提出する場合」などがあります。助成金を利用するときには、受給申請を含めたスケジュールも事前に確認しておきましょう。

 

 

受給

受給申請の審査が通れば、助成金が支払われます。ただし、申請が集中すると審査に数ヵ月~半年程度かかることもあります。助成金の申請から研修の実施、受給までをトータルで考えると、半年~1年近くかかることもあります。

助成金の活用事例

新人研修に助成金を使うときの活用事例として、訓練内容や時間、受講料、1人あたりの助成金額などのサンプルを紹介しましょう。

 

 

パターン1(人材開発支援助成金(特定訓練コース:雇用型訓練))

「自社にはビジネスマナーなどの講師ができる人材がおらず、OJTに入るために必要なシステム開発の基本スキルを含めて外部の教育訓練を活用」する中小IT企業のケース。

 

《教育訓練の内容》

○教育訓練機関:外部教育訓練機関

○受講コース:新人IT研修+C言語コース(115日間)

○訓練目標:社会人のビジネスマナー、システム開発の基本スキル、C言語について学ぶ

○訓練時間:1人あたり920時間、<OFF-JT>240時間、<OJT>680時間

○受講料など:1人あたり1,000,000円

 

《助成金のコース内容》

◯コース:特定訓練コース(特定分野認定実習併用職業訓練)

◯助成率・額(生産性要件を満たしている場合)

〈OFF-JT〉経費助成:750,000円(受講料×75%)、賃金助成:230,400円(240時間×960円)

〈OJT〉実施助成:571,200円(680時間×840円)

○支給総額:1,551,600円

 

 

パターン2(人材開発支援助成金(特定訓練コース:雇用型訓練))

「業務に必要な電気工事の関連資格を取得するために、職業訓練センターのプログラムを利用して資格取得に向けた技能習得を目指す」中小企業のケース。

 

《教育訓練の内容》

○教育訓練機関:県立職業訓練センター

○訓練時間:18時間

 

《助成金のコース内容》

◯コース:特定訓練コース(若年人材育成訓練)

◯助成率・額(生産性要件を満たしている場合)

〈OFF-JT〉経費助成:22,200円(受講料×60%)、賃金助成:17,280円(18時間×960円)

○支給総額:39,480円

 

まとめ

新人研修で助成金を活用できれば、費用負担を大幅に軽減することができます。ただし、助成金の種類に応じて、使える企業やプログラム内容・受講者・研修期間などが異なります。また、計画申請から受給申請までの間に多くの書類も必要です。

 

助成金の活用を考える場合は、十分な余裕を持って利用できる助成金を調査しましょう。また、初めて申請する場合や、社内に申請経験を持った社員がいない場合には、外部の社会保険労務士などへの依頼を検討することがおススメです。

著者情報

高嶋 阿由里

株式会社ジェイック

高嶋 阿由里

明治学院大学卒業後、精密機器メーカーに勤務。新規事業をPJとして立ち上げから収益化までを行い、事業部にまで発展させる。その後、住生活関連のベンチャー企業に入社し、人事として社長直下で働いた後、ジェイックに入社。ジェイックでは、講師として受講者に寄り添い、現場でチームメンバーと協働して動ける「自立型人材」を育てる研修に特徴がある。

保有資格

「7つの習慣®」担当インストラクター、アンガーマネジメントファシリテーター、EQPI®トレーナー等

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