報告、連絡、相談のいわゆる「報連相」は、社会人として働いていくうえで必須のスキルです。その中でも「報告」と「連絡」はどのように違うのでしょうか?
「報連相」は新入社員研修では必ずと言っていいほど教えられるものですが、入社してからある程度年数が経ったという人でも、上司などからみると「これだと困る…」ということはよくあります。
なお、報連相に関する研修では、新入社員など「報連相する側」のスキルアップに目が行きがちですが、報連相が活発に行われるためには、「報連相を受ける側」のスキルアップや環境づくりも必要です。
記事では、ビジネスの基礎である報連相を強化するためのポイント、とくに報告と連絡の違いや使い分け、また、報連相する側とされる側、それぞれのすべきことを解説します。
<目次>
「報連相」はチームで働くための基本
仕事の成果は、自分一人の力によって生み出されるものではありません。成果を生み出すためには組織内でのチームの連携が必要不可欠であり、その連携で重要な役割を担っているのが報連相です。
とくに、まだ仕事のことがよく分かっていない新人にとっては、報連相を通じて上司や先輩の力を借りることが重要です。
まずは報連相の重要性や、よく混同されてしまいやすい「報告」と「連絡」の違いについて押さえておきましょう。
報連相の重要性と意味
どんな仕事においても、上司、同僚、取引先といった仕事に関わる多くの人がいます。仕事の「上流」に当たる人や「下流」に当たる人、そして、仕事を共同で進める人などです。
成果を生み出すためには、この人たちと的確、かつスピーディーにコミュニケーションしていくことが重要です。
報告や連絡のミスによってチームなどがうまく機能しなければ、いかに優秀な人材が揃っていたとしても、大きな成果を出せないということになりかねません。
チームで成果を出すのに必須となるのが、報告、連絡、相談の3つであり、言葉の意味としては以下のとおりです。
連絡:仕事などで関係する相手に必要な情報を知らせ、相互に意思を通じ合うこと。
相談:問題や課題について他の人から意見をもらうこと
報告、連絡、相談、3つの頭文字を取ったものが「報連相」であり、日本のビジネス世界では共通言語といっていいものです。
とくに上司から「コミュニケーションができていない」と指摘されれば、たいていはこの報連相ができていないという趣旨であることも多いでしょう。
前述の通り、まだ十分な知識や能力がない新入社員や若手にとっては、成果をあげる、また、自身の成長を加速させるためにも報連相がとくに重要になってきます。
報告がちゃんとできていることで、上司や先輩は的確に状況を把握して仕事のサポートをしやすくなります。
また、上司からすると的確に状況を報連相してくれる人には、多少能力が不足していたとしてもサポートできるのでチャレンジングな仕事を任せやすくなります。
報連相の質によって、やらせてもらえる仕事の質も変わってくるのです。
的確な報連相をできるようになるためには、「上司の関心事」にアンテナを立てて、上司の関心事を把握しておくことが重要です。
「報告」と「連絡」の違い
新入社員の中には、「報告」と「連絡」の違いが分からずに混同してしまっているという人が多く見受けられます。
似たようなものであるかのように思ってしまうかもしれませんが、両者には大きな違いがあります。仕事での成果につなげるためにも、2つの違いはしっかりと押さえておきましょう。
まず、「報告」は、位置づけとして「義務」であるという点が大事です。報告というのは、依頼者や決裁者から受けた任務について、遂行状況を述べたり、そのうえで判断を仰いだりすることです。
職場における依頼者や決裁者というのは、たいてい上司にあたります。また、営業職などであれば顧客であることもあるでしょう。
任務を受けたにも関わらず、経過や結果を報告しないというのは義務を果たしていないことであり、その時点で上司や顧客から信頼を失うことになりかねません。
一方、「連絡」は、位置づけとしては「気配り」です。
つまり、報告のように義務ではありませんが、状況を知らせておいた方がいい人、知りたいと思っている人に対して気配りして連絡するわけです。
「報告」と「連絡」は似ているように見えますが、このような違いがあります。
「報告」については、しっかりできていないと自身の評価に影響してしまう、信頼を失ってしまうという点は、特に注意が必要です。
“上司から「これどうなっている?」と聞かれたら報告不足”などとも言われますが、上司にとって必要な頻度や内容で報告をあげることは社会人としての義務なのです。
また「連絡」についても、義務ではないからやらなくてもいいというわけではありません。
連絡を怠ってしまうと、社会人として気配りができない人と見られてしまいます。
逆に言うと、連絡が上手な人というのは「この情報はあの人が知っておいた方がいいな」「あの人が気にしているかな」と気配りできる人であり、周囲の人からの信頼もあつくなります。
また、連絡上手な人は、相手にとっては「自分が知りたい情報を提供してくれる人」ですので、相手からも情報を得られることが増えるでしょう。
このように連絡は義務ではありませんが、信頼関係を深め、成果をあげるために、連絡をちゃんとできるようにすることが大事です。
新入社員の報連相スキルを高めるポイント
「報告」と「連絡」の違いがわかったところで、次は的確に報連相を使いこなせるように、中身について掘り下げてみましょう。
「報告」と「連絡」の使い分け
先ほども解説した通り、位置づけとしては、「報告」は義務であり、「連絡」は気配りです。
そうはいっても、具体的にどう使い分けていけばいいのかイメージしづらい人も多いかもしれません。より的確に使い分けができるように、細かな違いについて整理してみましょう。
比較してまとめたものが、以下の一覧表です。
報告 | 連絡 | |
---|---|---|
Why(目的) | 依頼者や決裁者の状況把握・意思決定のため | 関係者や欲している相手への情報共有 |
When(いつ) | 依頼した仕事の完了時点出来る限り速やかに。 また、途中経過や判断を仰ぐ必要があるタイミングで適宜。 | 状況が発生した時点でできる限り速やかに |
Who(誰に) | 依頼者もしくは決裁者(上司や顧客であることが多い) | 情報を必要とする関係者全員 |
What(何を) | 進捗状況や問題点、仕事の結果 | 発生した状況や意思決定、意見や方向性など |
How(どのように) | 重要性や緊急性に応じて使い分けることが大切。 内容は相手が把握しやすいように簡潔に。 | 重要や緊急でなければ、書面やメールなど相手の仕事を妨げない方法がおすすめ |
このように整理してみると、報告と連絡は、似ている点もありますが、違うものであることが理解できるのではないでしょうか。
まず、報告は「仕事を依頼してきた人へのフィードバック」です。
この場合のフィードバックというのはアドバイスや助言などではなく、相手の依頼に対して、進捗や状況に関して「戻す情報」という意味です。
たとえば、「パソコンのキーボードで文字を打つと画面に表示される」。これがフィードバックです。フィードバックが得られなければ、依頼した側は、依頼したことに関する状況が分かりません。
文字を打つという事例で考えれば、自分が打った文字が画面に表示されないとしたら、ミスなくタイピングできているのか、ここで変換キーを押したらいいのか、変換で表示されている漢字はあっているのか、打っている側は判断が非常に難しいでしょう。
報告もまったく同じです。適切な報告がなければ、依頼したことが順調に進行しているのか、何か問題が生じていないか、このまま任せておいてよいか、依頼した側は判断ができません。
途中経過をこまめに報告してもらえれば、たとえ当初の予定からずれが生じてしまったとしても素早い対応がとることができ、無駄な時間や労力を節約することができます。
従って、報告は「適切なタイミング」で実施することが非常に大切です。
なお、報告をする上では、やり方や頻度を相手によって調節することが大切です。
上司や依頼者によって、どのような手段でやって欲しいのか、また、どれくらいの頻度で報連相が欲しいのかが異なります。
とくに主な報告先となる上司については、やり方や頻度について問題ないか、いまの自分の報告で改善してほしいことがないかを定期的に確認すると良いでしょう。
一方、連絡については「スピード感」が大事になってきます。情報や状況が発生した時点でスピーディーに連絡・共有することで、必要な人が対処していくことができます。
スピーディーな連絡を徹底することで、チームや組織全体としてのスピード感が増し、生産性が向上することになるでしょう。
とくに今の時代はメールやチャットなどのツールが充実していますので、相手の仕事を妨げない形で、広く連絡することが可能です。
報告で特に重要になってくること
「連絡」は、必要事項を端的にまとめるだけですので、それほど難しいことではありません。また、報告ほどの精度を求められない側面もあるでしょう。
一方の「報告」は“義務”だからこそ的確に実施するには、少し注意が必要です。
新入社員に限らず、入社してからある程度年数が経った社員でも「報告が下手だ」と思われてしまう人もいるものです。
そこで、報告する上での重要なポイントを解説していきます。
【報告するうえで重要なポイント①】
まず、報告と連絡に共通することですが、事前に相手に伝える内容を整理することが大切です。
とくに報告は口頭での実施も多く、きちんと内容が整理されていないと「ダラダラと、結局何なの?」と相手の気分を害してしまったり。抜け漏れが生じやすくなってしまったりして、トラブルの原因です。
以下の「5W3H」を使って情報を整理しておくと、抜け漏れを防ぎ、素早く内容をまとめることができます。
- ①What :何を(具体的な内容は?)
- ②Who:誰が、誰に(誰が言っているのか、関係しているのは誰か?)
- ③When:いつ、いつまで(日程や期限は?)
- ④Why:何のために、なぜ(目的や理由は?)
- ⑤Where:どこへ、どこで(場所は?)
- ⑥How:どのように(手段や方法は?)
- ⑦How much:いくら(必要な費用や予算は?)
- ⑧How many:どのくらい、いくつ(必要な数量は?)
【報告するうえで重要なポイント②】
情報を整理したうえで、「結論ファースト」で内容をまとめましょう。
上司は忙しいことが多いものです。まず、結論を先にもってくることで、話の全体像や何を聞けばいいのかをつかみやすくなります。
結論ファーストは、2ステップを意識すると実践しやすいかも知れません。
- 1)テーマと報告の許可
- 「○○に関して報告です。1分だけよろしいですか?」
- 2)報告内容の結論
- 「値引きを要請されていてどう対応するか、判断を仰ぎたいと思っています」
- 「○○の部分で先方から返答がありました」
【報告するうえで重要なポイント③】
報告するときに重要になってくるのが「事実」と「意見」をしっかり分けることです。
「事実」とは、誰がどう見てもそうであるという話や「この人がこう言った」という出来事です。
例)この建物は1975年に建設された
- 顧客の○○さんから「10日までに納品できないか?」と質問された
一方の「意見」とは、個人がどう感じているのか、とくに自分はこう捉えた、自分はこう思う、といった解釈や考えを含んだものです。
例)この建物は古い
- 顧客の○○さんがすごく急いでいる
1つめの文章でいうと「古い」かどうかは主観的な判断であり、この文は意見を表しているということになります。
そして、2つ目が難しいところになりますが、「○○さんがこう言った」は事実ですが、“○○さんはすごく急いでいる”は自分の解釈であることが多いでしょう。
顧客や他人の言った言葉、状況などを勝手に言い換えたり、解釈したりして報告すると、上司の判断を誤らせる恐れがあります。
また、意見を事実であるかのように表現してしまうと、事実を歪めてしまういい加減な人という印象を与えてしまう可能性もあります。
例)日本人は、みんな寿司が好きです。
- 顧客はみんな○○と言っています(最近、顧客にこういう傾向が強まっています)
1つめの文章で言えば、もちろん日本人の中にも生魚が苦手だという人もいるため、個人の考えを一般化し過ぎているということになります。
これも難しいのは2つ目です。「直近2社連続でこう言われた」という事実を、「顧客はみんな」「最近の傾向として」と主語を拡張して事実のように伝えしまうと、“いい加減”な人と思われがちですので注意しましょう。
「事実」と「意見(解釈・考え」などをごっちゃにしないようにくれぐれも注意しましょう。
【報告するうえで重要なポイント④】
報告は、タイムリーに行うという点も重要です。
上司は、部下からの報告を受けて意思決定を行います。報告するのが遅くなれば、上司の意思決定のタイミングも遅れてしまいます。
悪い内容の報告ほど、迅速な対応が必要となります。被害を最小限に抑えるためにも、悪い報告ほど早くやるという習慣が大事になってきます。
報連相を受ける上司側に必要なスキル
報連相と言うと、入社したばかりの若手が新入社員研修で習うことだというイメージを持っている方も多いでしょう。
もちろん報連相をする側のスキルアップは大切ですが、実は報連相を受ける側のスキルも大切です。
「報連相がない」と嘆く上司の課題
「毎回催促しないと、なかなか報告を上げてこない」「いつも連絡が遅い」「何も相談してこない」…こういった悩みを抱える上司の方も多いでしょう。
一見すると部下の側に問題があるように思えるかもしれませんが、必ずしもそうとは限りません。
コミュニケーションは、よくキャッチボールに例えられます。
報連相をする部下が「球を投げる」側、報連相を受ける上司が「球を受け取る」側だとすれば、球を受け取る上司の側がうまくキャッチできる状態でなければ、部下が球を投げるのは難しくなります。
とくに、組織内で特定の上司に報連相がされにくい状態になっているようなときは、その上司に問題があることも多いでしょう。
報連相を受けるスキルというのが不足しているため、部下の側のスキルに問題が無くとも、報連相が集まりづらくなってしまうのです。
そのような上司を放置してしまうと、組織の生産性にも大きな悪影響が出てしまいかねません。
報連相がその上司の手前で止まってしまい、経営陣のところまで上がってこないことになってしまえば、経営の意思決定にも影響してきます。
人事の担当者としては、そういった上司を見過ごすわけにはいきません。
報連相に関する研修というと、報連相をする側の若手の育成にばかり意識が行きがちですが、報連相を受ける上司の側の研修もじつは大切です。
報告や連絡を受ける上司に求められる「おひたし」とは
それでは、報告や連絡を受ける側である上司は、どういったことに気をつければいいのでしょうか。報連相をしやすい上司となるためには、「おひたし」です。
「おひたし」とは、以下の4つの頭文字を取ったものです。
報連相を受け取る上司に大切な「おひたし」とは?
- 怒らない
- 否定しない
- 助ける
- 指示する
えてして上司の側は、ミスやトラブルの報告があった際、またうまく進捗していない際は、イラっとするものです。上司も人間ですから、イラっとすること自体はやむをえません。
ただ、イラっとした気持ちを表面に出して、怒ってしまうと問題です。「怒る」とは、感情的に怒鳴り散らしてしまうといったことです。
たとえば、悪い報告は迅速に行う必要があるものですが、部下の側が「怒鳴り散らされるのでは?」と感じてしまうと委縮してしまい、報告しづらくなってしまいます。怒鳴り散らすまでいかなくても、
- 報告に不備があると、ねちねちと責められる
- 「報告ひとつ出来ないのか」と嫌味を言われる
- 「報告が遅いんだよ」と詰められる
- 「それでどうするの!?」と威圧的に解決策を求められる
- ネガティブな報告だとあからさまに機嫌が悪くなる
こんな上司は、ネガティブなことを言われたくない部下から敬遠されてしまいます。
部下に課題があれば指導して改善していくことは必要かもしれませんが、部下から敬遠されて、必要な報告や連絡、相談がされなくなるようでは本末転倒です。
また、必要に応じて、上司がサポートのために動いたり、指示を出したりすることも大切です。
せっかく報連相をしに行っているのに何も反応が無い上司となると、部下は報連相をする気を無くしてしまうでしょう。
部下に報連相を求めてばかりではなく、上司自身も報連相をしやすい上司になれるようにスキルアップすることが欠かせません。
上司の側もリーダーとしての心構えを持ち、組織を引っ張って行けるようにする必要があるのです。
スキルと心理的安全性を高めて強い組織を作る
報連相がまともにできない組織になってしまうと、どうなってしまうのでしょうか。報連相ができなくなってしまった部下が陥ってしまう代表的な状態が、以下の3つです。
- 沈黙する
- 限界まで言わない
- 最後まで我慢する
これらは頭文字を取って、「ちんげんさい」とも呼ばれています。部下に沈黙されて必要な報告や連絡が何もこないと、上司は適切な判断を下すことが出来なくなってしまいます。
また、部下が仕事を一人で背負いこんでしまい、限界まで何も言ってこないというのも問題です。たとえば、進捗が思わしくないとき、早い段階で報告があれば上司としてサポートすることができます。
しかし、もはや手が付けられないとう状態で報告や相談をされても、上司も「どうしてこうなるまで、何も言ってくれなかったのか?」と困惑することになってしまいます。
そうなると、後処理に多くの時間や労力がかかってしまい、組織の生産性にも悪影響が出てしまいます。
これは報告しない部下の責任でもありますが、報告をあげにくくしている上司にも責任があることです。
さらに最後まで我慢してしまうということになると、メンタルヘルスの面においても、限界に達した時にうつ病などによって潰れてしまうリスクが出てきます。
したがって、適切な報連相の妨げになっているものを特定し、対処することが上司には求められます。
部下のスキルが不十分であるなら、スキルを鍛え直す必要があります。
また、上司の側に問題がある場合や職場の心理的安全性に問題がある場合もあります。
部下と上司の双方に十分なスキルが備わっており、報連相がやりやすい環境が整っていてこそ、組織内で活発なコミュニケーションを行うことができます。
近年ではデジタル化も進み、チャットツールの活用など報連相のやり方も変わってきました。また、リモートワークを導入する企業も増えています。
報連相はビジネスコミュニケーションの基礎であり、基礎がしっかりしていてこそ、個人も組織も高いパフォーマンスを発揮できます。
便利なコミュニケーションツールが登場し、ビジネスパーソンを取り巻く環境が変わっても、基礎の重要性は変わりません。
組織が思うように成果を生み出せていないとお感じであれば、今一度基本に立ち返り、報連相がちゃんとできているかどうかをチェックされてみてはいかがでしょうか。