新人教育の計画の立て方【作成のポイントと計画シートのサンプルをプレゼント】

更新:2023/07/28

作成:2020/03/31

高嶋 阿由里

高嶋 阿由里

株式会社ジェイック

新人教育の計画の立て方【作成のポイントと計画シートのサンプルをプレゼント】

新人教育は計画を立てて実施するのが重要です。無計画、行き当たりばったりで新人育成をおこなうと、抜け漏れが起きたり、詰め込みになったりして、成長スピードの鈍化やモチベーション低下に繋がります。しかし、どのように計画を立案すれば、スムーズに新人を戦力化していけるのか、悩む声も多く聞きます。

 

本記事では、新人教育の計画を作成するポイントを解説します。

<目次>

新人教育の計画を作る目的は?

新人教育に計画が必要な理由は、新人(新卒や業界未経験の新入社員)の教育を現場任せや行き当たりばったりでしてしまうと人材育成の効率が悪くなるためです。

 

そもそも「新人に何を教えることでスムーズに成長できるか」という設計に抜け漏れがあれば、成長スピードが鈍化してしまうことは想像に難くありません。新人育成では、現場での学び(OJT指導)はが不可欠ですが、手前でしっかりと初期教育が終わっていなければ吸収が遅くなります。

 

現場のOJTをスムーズに行うためには、初期教育で何をどのレベルまで教えているかを事前に共有する必要があります。さらに、OJTのスタート後は現場に業務面の指導は任せながら、メンタル面のケアや節目の振り返りは人事が行う、といった役割分担も重要です。新人教育の計画はスムーズな新人育成を行うための羅針盤となります。

 

また、計画を作るもう1つの効果は「振り返りの精度UP」です。事前の計画があるからこそ、実際に運用した後の振り返り精度があがります。計画通りにいったことは何か、うまくいかなかったことは何かを、次年度の計画に反映していくことで、新人教育のレベルがどんどん高まっていくのです。

新卒の新人教育

一般的に、新卒の新人教育は、入社前(内定者研修)、初期研修、現場配属、という3つの区分で運用することが多いでしょう。

 

新卒の新人教育がうまくいかない典型的なパターンは、人事が内定者研修と初期研修の設計のみ行っていて、現場配属後を現場に任せきりにしてしまうケースです。この場合、OJTでの育成計画や受け入れレベルが現場ごとにばらついてしまうことで、育成が遅れたり、場合によっては早期退職に繋がってしまったりします。

 

新卒の新人教育を成功させるには、以下のポイントが重要です。

  • 現場配属後の教育プログラムを、事前に現場主体で設計してもらう(計画を作ることに会社としてコミットする)
  • 初期教育で教えている内容を、人事/教育部門から現場のOJT指導者に引き継ぐ、
  • 現場配属後も、配属後1ヶ月、配属後3ヵ月、入社1年、入社2年などの節目タイミングで集合研修やレビューを行い、人間関係やモチベーション面を人事/教育部門からケアする

中途の新人研修

他社で経験を積んで入社してくる「中途社員の新人研修(受け入れ)」は、日本ではまだまだ整備されていない分野です。経験やスキルがある中途社員には「なるべく早期に戦力となってもらいたい」また「早期に戦力化するだろう」という過剰な期待が生じがちです。

 

しかし、実は経験があり、同業や同職種の経験を持つ人材こそ、戦力化するためには丁寧な受け入れが重要です。組織論の世界では“組織社会化”と言いますが、組織には固有の「文化」があります。例えば、言語(社内用語、業界用語)、歴史(沿革や成り立ち)、政治(意思決定のされ方、上層部の関係性)、(上司、同僚、部下などとの人間関係)、組織目標・価値観(ミッションやビジョン、暗黙知)などです。

 

組織文化への適合が基盤にあったうえで、職務スキルに習熟して、始めて戦力として力を発揮できます。新卒の場合には、①経験がないからこそ吸収がスムーズ、②初期研修やOJT期間を通じて学べる、③周囲も「できない」ことへの許容度が高い、という特徴があります。

 

一方で、中途社員の場合、①これまで培われた「常識」が吸収を邪魔する、②いきなり現場に配属される、③経験値が高いほど周囲が過剰に期待する(遠慮である場合もありますし、悪意を持って「お手並み拝見」という場合もあります)という特徴があります。中途社員の受け入れ体制を整えているGE(ゼネラル・エレクトリック)などでは、経験値やポジションが上位の中途社員ほど「組織社会化」のプロセスを丁寧に行う仕組みがあります。

 

組織社会化のプロセスを適切に行う仕組みは、オンボーディングとも呼ばれ、別の記事で紹介していますのでご興味あれば、ぜひご覧ください。

新人教育の計画を立てるポイントは目標設定

口元に手を当てて考え込んでいる男性

 

新人教育の計画をつくる上で重要になるのは目標設定です。目標設定を考えるうえでは、「1人前に育てる」というゴールから逆算して、以下の問いを考えてみると良いでしょう。

  • 自社での「1人前」とはどんな状態か?(何ができる、どんな成果をあげられるか?)
  • 「1人前」までの成長プロセスは、どんなステップに分解できるか?
  • 各ステップでの目標(担当顧客数、売上、成果指標など)は何か?
  • 目標を達成するためには、どんなスキルが必要となるか?
  • スキルを身に付けるうえで、どんなプロセスやハードルがあるか?
  • 各ステップで、離職/モチベーション低下の要因になり得るどんな経験があるか?
  • 人材育成で、現在どんな問題が生じているか?

上記は各現場で新人育成をする上で、OJT指導者は頭の中で何となく考えている項目ですが、教育計画を作る上ではゴールから逆算して、どんなステップがあるか、何を教える必要があるかを、言語化して洗い出すことが大切です。質問を考えるうえでは、新人の教育目標に関する3つの視点も持っておくと有効です。

自社組織への統合(GAPの解消、組織風土の吸収、人間関係の形成など)

先ほど記載した組織社会化のプロセスです。組織固有の「文化」:言語(社内用語、業界用語)、歴史(沿革や成り立ち)、政治(意思決定のされ方、部門構成)、人々(上司、同僚、部下との人間関係)、組織目標・価値観(ミッションやビジョン、暗黙知)を覚えることです。

 

具体的には、

・ミッションやビジョン・バリューを覚えて他者に説明できる・社員の顔と名前を覚える
・自社の企業紹介ができる
・主要な社内用語を覚える
・日報の作成、勤怠の提出方法

などが挙げられます。

業務スキル

ビジネスマナー、仕事で成果を挙げるために必要な業務スキルです。新人教育で一番イメージしやすい分野です。

 

業務スキルは営業であれば、テレマ、商談(アイスブレイク、企業紹介、ヒアリング、サービス紹介、見込の判断、クロージング)、見積もりの提出、受注後の処理などになるでしょう。仕事で必要なスキルをしっかり分解することが大切です。

 

業務目標

業務スキルを使って成し遂げるゴールです。営業であれば、受注社数・売上金額などのゴール指標。また、訪問数・商談数などのプロセス指標などが業務目標になるでしょう。

 

質問を考えることは、手間がかかるようですが、始めにこのプロセスを踏むことで教育計画の抜け漏れがなくなります。また、教育を受ける新人側に対して計画の全体像を提示することで成長スピードの加速や自発的な学習が促進されるという効果もあります。

新人教育を目標から計画表に落とし込む

質問の答えを踏まえて、各プロセスを入社前、初期教育、配属後にどんなスケジュール、教育手法で教えていくかが計画立案のプロセスです。計画立案の中では、他社の教育内容やカリキュラムなども参考になるでしょう。

 

ただ、良さそうなカリキュラムを自社にそのままコピーしても効果が上がりません。そのカリキュラムが何を達成するためのカリキュラムなのか、自社のゴールとあっているかを考えながら、自社流にアレンジして取り入れることが重要です。

 

新人教育の計画を設計するうえで、「1回教えたからといって身に付くものではない」ということは大前提です。全体像を教えて、やって見せて、試しにやらせて、フィードバックして、繰り返しやらせて、徐々に習熟していくわけです。

 

従って、1つのスキルを教えるうえでは、知識の伝達、ロールプレイング、実践、チェック(現状の把握)、フィードバックといったステップを意識して計画すると有効です。以下の記事を参考にしてみてください!

大枠の計画から細かいカリキュラムを作る

新人教育の計画で大枠ができてきたら、次は1つ1つの細かいカリキュラムに落とし込んでいくことになります。カリキュラムに落とし込んでいくうえでは、以下の情報が参考になるでしょう。

 

Off-JTとOJTをうまく組み合わせる

Off-JTは「研修」の時間を確保して、体系や知識をインプットしたり、ロールプレイングを通じてスキルを実践できるようにしたり、現場から離れて振り返りや目標設定を行う教育です。

 

一方で、OJTは実践しながら覚える、フィードバックを受けながらより実践的にスキルやノウハウを身に付けていく教育です。

 

Off-JTには、集合研修、eラーニング、課題学習、1on1などさまざまなやり方があります。集合研修は、座学やスキル研修だけでなく、先輩へのインタビュー、営業同行、課題を実施しての発表など、アクティブラーニングの要素を取り入れると、学習効果を高めたり、リアリティショックを解消したりするうえで有効です。

 

1on1は一般的な「教育」ではありませんが、現場配属後にリアリティショックの解消、OJTの吸収度や周囲との人間関係の確認など、メンタル面のケアに有効です。

 

入社前や初期教育は主にOff-JT、現場配属後は主にOJTが中心になるでしょう。入社前や初期教育においては、Off-JTの中に様々なバリエーションを作って学習効果を高めること、また現場配属後はOJT中心で進めつつも、必要なOff-JTの機会をしっかりと確保することがポイントです。

「インプット」したら「アウトプット」の機会を作る

「インプット⇒アウトプット」を意識することも、教育効果を高めるうえで重要となります。

 

例えば、「ミッションやビジョンの学習」であれば、

【インプット】 座学、経営陣やさまざまな部門の人からヒアリング↓
【アウトプット】 グループ単位で発表する

といった形です。

 

アウトプットは、他にもレポート、テスト、ロールプレイング、実践、課題提出など、さまざまな形が可能です。新人教育においては、必ず学んだ内容をアウトプットする場を作りましょう。アウトプットの場を設けることで、インプットの真剣度が上がる、アウトプットに向けて整理・咀嚼することで理解が深まる、指導側が理解度を確認できる、といった効果があります。

 

インプット/アウトプットの事例として、ある企業では「新人研修の講師を新人自身がやる」という取り組みをしています。例えば、ビジネスマナーの身だしなみ、敬語、名刺交換、電話応対といった内容を新人内で分担します。担当パートに関して、自分で学んだり・ヒアリングしたりして準備した上で、「講師」として他の同期に教えるというプログラムです。

 

自分が新人として一方通行で教えてもらう場合に比べて、学ぶ真剣度は段違いに高まります。「インプット⇒アウトプット」というやり方を突き詰めた事例と言えるでしょう。

新人教育を成功させるコツはOJT時の現状把握とフォローアップ

隣り合って真剣に話し合っている2人の女性

 

各部門に配属してOJT期間に入ると、人事/教育部門は「もう新人教育は終わり」といった気分になってしまいがちですが、新人教育を成功させるうえで最も重要なのは、OJT期間の取り組みです。上司や先輩社員との人間関係、思っていた仕事と違った、仕事についていけなくなったなど、さまざまな悩みから早期退職のきっかけが生まれやすいのがOJT期間です。

 

教育計画の運用を現場任せにするのではなく、人事や教育部門で定期的なレビューをおこなったり、日報の提出状況や内容をチェックしてモチベーション状態を把握したりすることが重要です。

 

場合によっては「OJT担当を変える」進言が必要な場合もあります。また現場とも相談しつつ、現場配属後もオンラインや短時間での集合研修(ロールプレイングやケーススタディ、商品知識のインプット)等を取り入れると、即戦力化に有効です。

また、初期教育とOJT期間が終わった後は入社6ヶ月、1年、2年など、節目のタイミングでフォローアップを行うことが重要です。集合研修を通じて、成長実感を生み出したり、仕事の意味付けを行ったり、次の1年へのビジョン形成を行ったりして、リモチベートしましょう。

 

2年目、3年目社員の離職や伸び悩みに課題がある場合には、業務スキルや人間関係ではなく、メンタル面での停滞感が原因になっている場合が少なくありません。新人教育というと、現場配属までが主になってしまいがちです。

 

頻度は入社初期と比べるとグッと落ちますが、入社3年までは人事部門からフォローが必要な期間として、始めから計画しておくと、定着率の改善や戦力化への好影響が見込めるでしょう。

まとめ

新人教育の計画づくりは、新人の戦力化スピードを速めるうえで非常に重要なプロセスです。多くの企業で抜け漏れがちなポイントは、

  • ①入社前研修や初期研修に「組織社会化」のプロセスを組み込む
  • ②「1人前」のゴールから逆算して現場配属後の成長プロセスを設計する
  • ③現場配属後も人事/教育部門が介入する

の3点です。ポイントをしっかりと押さえて計画づくりを行うことで、新人のスムーズな成長が期待できるでしょう。

著者情報

高嶋 阿由里

株式会社ジェイック

高嶋 阿由里

明治学院大学卒業後、精密機器メーカーに勤務。新規事業をPJとして立ち上げから収益化までを行い、事業部にまで発展させる。その後、住生活関連のベンチャー企業に入社し、人事として社長直下で働いた後、ジェイックに入社。ジェイックでは、講師として受講者に寄り添い、現場でチームメンバーと協働して動ける「自立型人材」を育てる研修に特徴がある。

保有資格

「7つの習慣®」担当インストラクター、アンガーマネジメントファシリテーター、EQPI®トレーナー等

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