新人営業の能力アップの鍵は、営業マインドの確立と新人の特徴に合わせた指導です。営業マインドを身につけた上で、聴く力やコミュニケーション能力、顧客の課題を見極める質問力、課題解決力を育てましょう。
一人ひとりの特性を重視し、個別に強みを伸ばすことで営業力UPが加速します。
記事では、営業職として働きだした新人の営業力を高めるうえで、身に付けさせたい考え方や5つの指導ポイントと指導のコツを解説します
<目次>
新入社員の営業力UPを妨げる要因
記事のはじめに、新入社員の営業力UPを妨げる要因を確認しておきます。営業力を高めるための指導に取り組みたいと思っても、営業力UPを妨げる要因を放置していると「ブレーキとアクセルを同時に踏んでいる」ような状態です。はじめに営業力UPを妨げる要因となる部分をしっかり解除しておきましょう。
以下では、新入社員と教育担当者、それぞれが持つ要因を解説します。
新入社員の要因
新入社員の営業力UPを妨げる大きな要因は、“営業という仕事への誤解”です。本来、営業の仕事は、「顧客の期待に応え、対価として費用をいただく」ことです。しかし、誤解している新人の多くは、「お金をいただく」、つまり「売る」行為に対してマイナスのイメージを持っています。
「顧客の期待に応え」という部分を見ずに「何とか売りつける」、また「頭を下げて買ってもらう」といったイメージを持っていては、営業の仕事に前向きに取り組むことは出来ないですし、営業力のポイントを指導してもなかなか吸収できないでしょう。
教育担当者の要因
多くの場合、新人営業の教育を任されるのは、営業リーダーや先輩社員です。会社側は「あなたのような営業職になれるように新人を育ててほしい」と期待しています。そして、良い業績をあげている営業職を指導役に任命するケースが大半です。
しかし、昔から「名プレイヤー、名監督ならず」と言われます。必ずしも営業職として優れているからといって、新人営業の教育担当として優れているとは限りません。新人営業の教育担当として必要な要素は、「営業のポイントを言葉等で説明できる」「新人のタイプに応じた指導ができる」「新人の強みを伸ばせる」といったものです。
「感覚的に行動しているので言葉で説明できない」「力があるからこそ新人がどこでつまずくか分からない」「相手の性格や特性を考慮せずに自分の成功パターンを押し付けてしまう」といったタイプは、営業職としては実績を出すことが出来ても、新人営業の育成には向いていないでしょう。
新人営業の教育担当者を決める際は、“営業として成果を上げる能力”と、“教育担当者として新人営業職を育てる能力”は違う、ということを念頭に置いておきましょう。
新入社員の営業力を高める5つの指導ポイント
本章では新入社員の営業力を高めるための指導ポイントが、5つあります。
- 営業マインド
- 対人コミュニケーション能力
- 質問力(課題発見力)
- 提案力(商品知識+思考力)
- 特性を生かす
順に解説していきます。
新入社員の営業力を高める指導ポイント① 営業マインド
新入社員の営業力を高めるためにまず大事なことは、正しい「営業マインド」です。前章で紹介した通り、営業の仕事を誤解している新入社員には、まず営業の真の姿を教えることが非常に効果的です。営業の仕事は、お客様の期待に応え、悩みを解決することです。感謝され、貢献している気持ちを感じることができる仕事です。研修や先輩社員との交流を通じて、営業という仕事の意義や価値をインプットしましょう。
営業の仕事の価値等を伝える際には、2つのポイントがあります。1つ目は、成果を出している営業経験者が伝えることです。成果を出している営業だからこそ、説得力ある話、実感のこもった話をすることが出来ます。2つ目は、良いことだけを伝えないことです。営業の仕事では、大変なこともあります。成功体験を積んでいる人は苦労した経験も多いでしょう。大変な部分も隠さずに、「大変なこともあるが、やりがいや見返りも大きい仕事である」ということを正々堂々と伝えましょう。
仕事のやりがいや価値は実際に経験してみないと分からない部分も大きいでしょう。しかし、新入社員が初めのやりがいを感じるまでの期間をモチベートしたり、実際にやりがいを感じた時に「こういうことか!」と理解できるようにしたりするために、はじめに営業マインドを指導することが重要です。
新入社員の営業力を高める指導ポイント② 対人コミュニケーション能力
ここでの対人コミュニケーション能力とは、「対話を通じて相手を理解し、その上で相手に自分を理解してもらう」スキルを指し、大きくは「伝える力」と「聴く力」で構成されるものです。
対人コミュニケーション能力を高めるには、どうすればよいでしょうか。重要なのは「相手の気持ちを考えさせる」ことです。相手が何を話していて、どういう思いから話しているのか、なぜ話しているのか等を新人に考えさせます。そして、どう考えたかをアウトプットさせたうえで、考えたことが正しかったかを確認します。
「自分が考えたこと」と「実際に相手が考えていたこと」が一致してくる割合が増えてきたら、「相手の気持ちを考える力」が付いてきたと言えるでしょう。また、「実際に相手が考えていたこと」を聞くプロセスを通じて、「聴く力」を磨くこともできます。
営業というと、商品の良さや魅力を「伝える」ことが大事だと誤解している人も多いですが、実際には顧客の話を聴いて理解することこそが重要です。聴く力がないと、“顧客がニンジンを希望しているのに営業がプリンを提供する”といったチグハグなことが起こります。
「相手のことを想像する」⇒「相手の話を聴いて確認する」というトレーニングを通じて、新人の対人コミュニケーション能力を磨いていきましょう。
新入社員の営業力を高める指導ポイント③ 質問力(課題発見力)
3つ目の指導ポイントは「質問力」です。「課題発見力」とも言い換えられます。先ほど、「相手の気持ちを確かめる」ために「聴く」ことが大事であるとお伝えしました。質問力も広い意味では「聴く力」に含まれますが、質問力はより能動的に相手の情報を得て、課題を発見して的確な提案をおこなうための力です。
的確な提案をおこなうためには、顧客の課題を発見・把握しなければなりません。課題とは、顧客にとってのありたい姿と、現状とのギャップです。営業は、質問を通じて、顧客の課題を把握する必要があります。質問力が高くなれば、相手が心を開いて本音で話してくれるようになり、営業は顧客の真の課題を把握し、的確な提案をすることができるようになります。
事例を紹介すると、先日、ある企業から、「現場の部長クラスが部下の育成をしないので、部下育成力を身に付けさせたい」と相談を受けました。話を聴きながら質問していくと、「部長と課長との間に距離があり、課長がまったく育っていない」状況でした。
さらに質問を重ねると、真の課題は「部下育成力という“スキル”ではなく、部下を育てる意欲がないという“マインド”」であることが分かってきました。結果として、「まずは部下を育成する意義や目的についての研修を実施しましょう」、同時に「部長が部下育成に興味を持たなくなる原因となっている制度を変えていきましょう」という提案をする形になりました。
「部下育成力を身に付けさせたい」という話だけで質問が止まっていたら、上記のような提案にはなりません。営業にとっての質問力は、顧客の真の課題を発見し、的確な提案をするうえで不可欠なものです。
では、質問力を高めるには何を指導すればよいでしょう。ポイントは、事前の「情報収集力」と「仮設を立てる力」です。まず顧客に関する情報をWEBサイトやSNS等でリサーチし、収集した情報をもとに仮説を立てます。そして、実際の商談で、質問を通じて仮説を顧客にぶつけることで真の課題を探っていきます。
情報収集や仮説立てをおこなうときに大切なのは、5W1Hで考えることです。
- 顧客がなぜその情報を知りたいと思ったのか(Why)
- 今のタイミングで知りたいと思う理由は何か(When)
- 誰から情報を得て(Who/Whom)
- それをどこで(Where)
- 何に、どのように使おうとするのか(What、How)
等、5W1Hを基本にして考えることで整理しやすくなります。情報が整理されていると、質問もスムーズになり顧客との会話がどんどん広がります。
上記を踏まえて、新人営業の「質問力」を指導する際には、
- 商談の事前準備を入念にさせる
- 「どんな仮説を立てて、商談当日に何を確認したいか?確認したい意図は何か?」を確認する
ことがおススメです。
新入社員の営業力を高める指導ポイント④ 提案力(商品知識+思考力)
顧客の課題を発見したあと、的確な解決策を提案するためには、「商品(サービス)知識」と「課題と商品を結びつける力」が必要となります。
紹介した部長研修の例では、顧客の課題を発見したのち、スムーズに提案をおこなっていますが、新人の場合、「顧客の課題はわかったものの、自社の商品がわかっていない(商品知識の不足)」、あるいは「自社の商品はある程度わかるが、何を提案するのがベストなのか考えられない(思考力の不足)」ということがありがちです。
商品知識の不足であれば、しっかり時間をとって学習させることが必要です。ロールプレイング等を行って知識を確認したり、テストなどをしたりすることも有効です。
思考力の不足がある場合にも、ロールプレイングが有効です。また、「新人の思考力がそもそも低い」と感じられた場合には、お勧めの訓練方法があります。それは、普段から「課題と解決策」を考えさせることです。思考力が低い新人は、そもそも思考することに慣れていない場合があります。日頃の自分の行動や社会の出来事に対して「課題」を定義して、課題をどう解決するかを繰り返し考えるのです。
たとえば、「目覚まし時計では起きられない人を、どうすれば毎朝しっかりと目覚めさせられるか?」や「仕事で残業が増えるのはどうしてか?どうしたら解決できるか?」等、本当に起こっていることを課題として捉えさせ、どう解決するのかを考えさせます。習慣化すると、「課題に対して解決策を考える力」が鍛えられます。
新入社員の営業力を高める指導ポイント⑤ 特性を生かす
人にはそれぞれ強み・弱みがあります。だからこそ、新人営業を指導する際には一人ひとりの特性に合わせた指導がポイントです。たとえば、フットワーク軽く動ける人もいれば、情報を集めて提供するのが得意な人もいます。新人の特性、とくに強みに合わせて育成することが、営業力を効果的に高めるうえで大事です。
例えば、トップセールスは「喋りがうまい」と思われがちですが、あるトップセールスは、コミュニケーションが苦手で、人と話す時もどちらかというと聞き役、説明や交渉も得意ではない……というタイプでした。しかし、“コツコツと地道に活動できる”ことが強みで、顧客に有益と思われる情報提供を毎回必ず行い、契約いただいた後もタイミングを決めてフォローすることを欠かさず行っていました。それが顧客に評価され、徐々に売上を伸ばし、最終的にトップセールスにまでなったのです。
ここまで紹介したように、新入社員の営業力を高める上では、「聴く&伝えるコミュニケーション能力」「顧客の課題を発見する質問力」「課題と商品サービスを結び付けて提案する課題解決力」などが指導のポイントであり、王道です。ただ、型にはめるのではなく、指導の中で新入社員一人ひとりの特性を見極めて、強みを伸ばしていきましょう。
新人営業から優秀な営業になるうえで大切なこと
次に、新人が優秀な営業になるために、押さえておきたいポイントを紹介します。
顧客への提供価値を確信する
顧客への提供価値を営業自身が確信することは、営業にとって非常に重要です。自社の商品やサービスが顧客の課題を解決できると、絶対的な自信を持つことが、優秀な営業になるうえで必要です。
営業が顧客へ提供できる価値には、「機能的価値」と「情緒的価値」の両方があります。機能的価値は、具体的な機能や利益によって顧客の課題を効果的に解決することを指します。
顧客が直接利益を得ることができる機能や時間・コストの節約など、顕著な効果を提供します。
一方、情緒的価値は、顧客が感じる感情や心理的な利益です。商品の高級感や安心感やサービスが提供する特別な体験はもちろんですが、「価値提供できる!」という確信を持った営業本人からの言葉や態度も顧客が感じる付加価値になるでしょう
もちろん完璧な商品・サービスはないでしょう。ただ、商品・サービスの使い方、事例等をしっかりと知る中で、「こういう顧客のこの課題であれば、確実に価値提供できる」「こう使ってもらえれば、絶対に顧客にとって価値あるものになる」という確信が営業する上では非常に大切です。
ゴールから逆算して行動・判断する
優秀な営業ほど、目標や結果に向けて自分がとるべき行動を逆算しています。
例えば「売上目標を達成するためには、今の商談進捗を踏まえると、新規商談があと何件必要か」「来月の目標を達成するために、今月何をする必要があるか」「月末までに受注するためには、顧客に何を確認しておく必要があるか」などです。
また「目標や結果につながらない無駄なことはしない」ことも優秀な営業の特徴です。「ゴールから逆算する姿勢」を身に付けさせることは、営業育成に欠かせません。
相手に合わせてコミュニケーションを変える
優秀な営業ほど、相手を尊重するコミュニケーションをとる力が高いものです。商品説明を行う際にも、専門用語や業界用語をむやみに使うのではなく、相手にとってわかりやすい言葉を選択します。
また、相手の話を聞く場面でも、相槌の打ち方、目線など、相手が話しやすいように心配りを行っています。
相手に合わせてコミュニケーションの取り方を変えていくスキルも重要です。たとえば、商品を買おうかどうしようか迷っているお客様に「背中を押す」こともあれば、自分で決めたいタイプであれば「相手に判断を委ねる」といった形で、相手に合わせたコミュニケーションスタイルをとることが相手の納得感や行動につながります。
学び続ける
高い業績を上げ続けている優秀な営業は、常に学び続けています。心理学やモチベーションを維持するための自己啓発など、書籍や動画での学習はもちろんですが、実践や現場で学習している量も多いです。
例えば、結果を出している人のやり方を真似し、取り入れていくといった姿勢です。
自分の経験や型だけにとらわれず、結果のでるやり方を柔軟に吸収し、結果を出すために自らを変えていく姿勢は、結果を出し続ける人に多く見られる特徴です。
自分の顧客構造を作る
優れた営業パーソンは、顧客構造を作ることに熱心です。特に購買額が大きい、購買頻度が高い、購買ポテンシャルがあるといった顧客を中心にして、しっかりとアフターフォローや深耕、また新規のアプローチを継続的に行っています。
一般に「新規の顧客開拓は、既存深耕の10倍のコストがかかる」と言われています。優れた営業パーソンは顧客構造をしっかりと作ることで、安定した成果をあげているのです。
新人営業を指導・育成するときのコツ
新人営業を指導するときには、指導係が理解しておきたい育成のコツがあります。新人育成のポイントを見ていきましょう。
営業ロールプレイングを実施する
営業の能力は座学や知識の習得のみで向上するものではありません。営業育成にはロールプレイングを積極的に取り入れるようにしましょう。コミュニケーション力は、適切なトレーニングを積むことで鍛えることが可能です。
営業育成が強い企業では、必ずロールプレイングを行う文化が根付いています。“100本ノック”(独り立ちまでに社内で100回の営業ロープレを行う)や、“営業道場”(入社後1年間は週1回ロールプレイングを行う)など、商談力の強化にはロールプレイングを繰り返すことが不可欠です。
商談に同行する
営業は、相手がいる仕事だからこそ、実際に商談同行等をしながら学んでもらうことも非常に重要です。
座学⇒ロールプレイング⇒商談への同行(先輩や上司が主)⇒新人の営業に同行(新人が主)というステップを踏んで、実務で鍛えていきましょう。
最初のうちは、先輩や上司が主で進める商談に同行してもらい、座学やロープレで学んだ内容が、実際の商談にどう活用されているかを理解してもらいます。そして、そのあとは新人が主で商談を進行してもらうものに同行する形です。
商談同行をしながら、
など、新人が何に悩んでいて、どこに不安を感じているのかを理解し、フィードバックをしていきましょう。
定期的な1on1を実施する
新人営業の育成では、コミュニケーションを増やすことも重要です。営業で成果をあげるためには、顧客事例の紹介や課題に応じた提案などが重要です。
新人や若手は経験値がありませんので、ベテランや先輩社員の経験値を移植していくためのコミュニケーションが必要です。
新人や若手が持っている案件を共有して、先輩から使える事例をフィードバックする時間を作ったり、商談での悩みにアドバイスしたりするなど、定期的な1on1の実施を実施することがおススメです。
おわりに
多くの新入社員が配属されるのが営業職です。営業職は、顧客と直接接して業績をつくる、企業にとって欠かせない仕事です。しかし、営業職に対して「ノルマに追われる」「顧客に頭を下げる」「何とか売りつける」といった誤解をしている新入社員も少なくありません。
新入社員の営業力を高める上では、まずは正しい営業マインドをセットすることが大切です。その上で、「聴く&伝えるコミュニケーション能力」「顧客の課題を発見する質問力」「課題と商品サービスを結び付けて提案する課題解決力」をしっかりと指導していきましょう。
また、指導のポイントを押さえたうえで、一人ひとりの特性を見極めて強みを伸ばすことで営業力UPのスピードは加速します。ぜひ記事で紹介した指導ポイントを押さえていただいたうえで、新入社員自身が自分の強みを自覚して生かしていけるように指導していってください。