Z世代と呼ばれる今の若者を育成していると「どう指導すればいいのかわからない」という課題にぶつかることはないでしょうか。弊社(HRドクターを運営する研修会社ジェイック)には連日のように新人や若手の指導について相談をいただきます。
中には現場から「採用した人のレベルが下がっていない?」と言われる採用担当者の方も増えてきているようです。
ジェイックでは毎年数多くの新入社員研修に登壇していますが、素直で良い子ばかりだと感じています。ではなぜ、現場では採用のレベルが下がったと感じてしまうのでしょうか?またなぜ、指導が難しいと感じてしまうのでしょうか?
それは、今のZ世代特有の価値観や傾向があるのです。本レポートでは、Z世代の特徴や、新入社員の指導に役立つ3つの極意を紹介します。
*本レポートは2023年10月26日に開催したセミナーを基に作成したものです。予めご了承ください。
<目次>
企業が新入社員に望んでいること
そもそも企業は新人に何を望んでいるのでしょうか。実際問題、入社したばかりの新人に、即戦力として活躍を期待する企業さんは、ほとんどいらっしゃらないと思います。
9割以上の方々は、まずは職場に慣れて仕事をしっかり覚えてほしいと考えていることでしょう。3年先、5年先、10年先の自社の将来を牽引するような「今後の成長」に期待して投資をしているのかと思います。
では、企業が期待する「今後の成長」ということですが、放っておいても自力で成長できる人というのは非常に稀です。多くの人は勝手には成長しません。そして上司や先輩は、そのことを忘れがちになってしまいます。
もちろん成長意欲が高く、自分で前向きに勉強・吸収しようという姿勢があり、それを実行できる能力もある方はいます。しかし、そういう方はごく稀で、多くの人は勝手には成長しません。我々が関わることを通じて成長していきます。
そして、やはり成長には時間と手間がかかります。
そして、成長のきっかけとなるのは、上司・先輩をはじめとした職場の人間関係が非常に重要なファクターになってきます。
新人が上司・先輩に目をかけてもらい、サポートしてもらうには、人間関係が大事です。もっと言ってしまえば、上司や先輩が、下のメンバーから見た時に、相談しやすい人間性があるかどうか、というところが問われています。
ただし、だからといって新人が「指導されて当たり前」「何でも上司や先輩がお膳立てしてくれる」と思うのは大きな勘違いです。社会人として違うところは、明確に伝えていかなければいけません。
しかし、その伝え方が難しいところです。この先でお伝えするポイントも参考にしていただければと思います。
新入社員の成長速度と、上司・先輩との関係性というのは、かなりニアリーイコールだと思います。前述の通り、上司・先輩との関係性がないと、新人から積極的に質問する、上司・先輩から気軽に声をかけられる、サポートしてもらえる、雑談等も含めてノウハウや考え方を教えてもらえるといった機会が減ってしまうからです。
そして、新人が上司・先輩から「サポートしたい」と思われる人間になるためには、自分から上司・先輩にサポートを求められるような積極性を持って仕事に臨めているかが大事になってきます。
しかし、これはシンプルなようで実は難しいことです。ここからは「可愛がられることが難しくなってしまう」Z世代特有の事情や価値観をお伝えしていきます。
Z世代の事情や価値観
毎年新人研修に登壇して、少しずつ変わっていく新人の価値観や状況を見ながら、「上司・先輩に可愛がられる新人である」ことが、コロナ禍の影響やZ世代特有の価値観によって難易度があがっているように感じる部分はあります。
上記は本当にあった上司や先輩の本音になるのですが、「挨拶をちゃんとしてもらえないみたい」といった話は結構いただきます。
また、「上司・先輩側から話しかけないと会話が生まれない」という愚痴もありました。
「ビジネスのコミュニケーションは報連相だ」と言われることもあります。確かに、報連相の質を上げるのは大事ですが、「雑談から人柄が見えてこないと、関わり方が分からない」という上司や先輩も多くいらっしゃいます。
この数年で社会に出てきた21卒~24卒の方達はかわいそうな話にはなりますが、大学生活の一部をコロナ禍、緊急事態宣言が日常的だった中で過ごしてきています。特に22卒や23卒というのは大学生活の多くがコロナ禍でした。その結果として、対面のコミュニケーション力に課題がある方が多くなっています。
授業もオンラインが中心で、飲食や接客などのアルバイト先も見つからない。アルバイトに行っても雑談等の会話は殆どできない。対面でコミュニケーションを取る機会に恵まれてなかったわけです。
上記のような事情を通じて、慣れない相手や年代の離れた相手との対面の会話が圧倒的に経験不足になっています。
先輩も上司も、今は昔と比べてフランクになってきている傾向があると思いますが、そんな中でも「自分から一歩踏み込めない」「何の話をしていいのかわからない」新人が増えています。
そもそも初対面の相手と対面で接点を持つ機会も少なかったわけです。その中で、第一印象を意識する機会が少なかった側面もあります。オンラインの就職活動の中で、身だしなみはやっていても、挨拶やコミュニケーションといった部分は弱くなっています。
その結果、会社でのコミュニケーションを見ていて上司・先輩からすると「なんか元気なく見えたり、ダラダラして見えたりする」こともあるかもしれません。
休憩中はずっとスマホを使って、目の前に上司や先輩がいるにも関わらず、声をかけない新人も増えています。
Z世代とは?再確認
Z世代とは、1997年から2012年に生まれた世代を指します。
Z世代のふたつ前、X世代と呼ばれていた方々は、車や時計、一軒家などを所有したり、家族に対して還元したりすることに価値を感じてきました。
Z世代のひとつ前、Y世代は社会貢献性に価値観を感じる傾向を持つ世代になります。「NPOで活動する」「ボランティア活動に力を入れている」など、社会や周囲への貢献意欲が強い世代と言われています。
また、何かをシェアすることに対して価値を感じている方も多くなります。SNS上に写真をアップして見てもらうことに価値を感じてもらうといった行為です。
また、意識として「競争」というより「協調」を求める方も多くなっています。競争しないからやる気がないわけではなく、誰かと勝ち負けを競うのではなく、みんなで一緒にやっていきたいという感覚です。また、無条件の強い上下関係というよりも、フラットな人間関係が求める傾向です。
この辺りは上の世代の方たちの「関わり方がわからない」という意見が出てくる要因かも知れません。
あとは「多様性」や「自分らしさ」を認めてもらってきた世代であり、「社会人としてこうしなさい」「こう決まっているから」と決めつけられる/押し付けられると、ガードが上がってくる傾向があります。
多様性の時代であり、「自分らしく働きたい」「自分らしく生きていきたい」と求めている傾向にあります。
一見すると「分かりづらいし、可愛げがないなあ」と思う方も多いかもしれません。しかし関わっていくと分かってきますが、誤解されやすく馴染むまでの時間がかかります。
時間をかけてじっくり人間関係を強化していくと、本人たちの良さが見えてきます。また、協調性や貢献心が強い方も非常に多いです。また、現実主義で、理にかなっていると納得すれば、素直に行動を変えられる傾向もあります。
そんなZ世代の育成のポイントですが、我々が人間関係を強化するために歩み寄ることも大事ですが、同時に、本人たちも意識を変えて「自分から上司や先輩との人間関係を作っていく」、このように双方向で人間関係を築く基礎を身につけることが大切になります。
新入社員に伝えたいことを伝えるアプローチ3つの極意
当たり前のことですが、新入社員に理解してもらうために時には「厳しく伝える」ことも重要です。
ただし、「厳しく伝える」と言っても、感情的に怒ってしまうと完全に心を閉ざしてしまう要因になってしまうので、伝え方が非常に大事になってきます。
本当に伝えたいことを伝えるために私たちが意識している3つの極意があります。
まず1つ目の極意から見ていきたいと思います。
新入社員に何かを伝える時、「響く言葉」になっているか?ということが、ぜひ考えていただきたいテーマです。例えば、以下のように伝えても響きません。
では、これらをどのように言い換えるのかというと、以下のような形がお勧めです。
こちらから一方的に話すのではなく、問いかけて本人から引き出すことが大事です。問いかけて自分たちで考えさせることで、心の中で思っていることを引き出します。
そして、いつ言うかですが、「何度も何度も同じこと言わせるな!」と思われることもあると思いますが、それをそのまま伝えてしまうと、本人たちは心を閉ざして相談してこなくなってしまいます。
大切なことに気づかせるためには、何度でも考えさせることが大事です。「鉄が熱いうちに」伝え続けることです。とくに新入社員の研修期間では粘り強く伝え続けることが大事です。
同時に、中長期で「熱が冷めないように」伝え続けることも必要です。
現場配属後のOJTやOFFJTも含めたフォローする仕組みも考えておく必要があります。1回伝えたからできると考えずに、長期間で伝え続ける仕組みや相談できる環境を整えることが大事になってきます。
最後に、誰が言うかという観点ですが、会社の人から言われると「今どき、それはないでしょ」「うちの会社だけでしょ」となって、隣の芝が青く見えてしまうこともあります。従って、心構えの要素などは社外の人から伝えると納得度が高まります。
さらに、最近は年齢の近い世代の人から伝えた方が効果的な傾向が強くなっており、弊社でも新入社員研修の講師の年齢層をかなり若くしています。
上から一方的に伝えるのではなく、「はじめはそう感じることもあるよね。ただ、私も実際にやってみて、こう取り組んだ方が、成果が上がると実感して・・・」と等身大の姿で伝えるイメージです。
また、年齢の近い若いメンバー達が伝えることを実際に実践して成果をあげていると、新人に「やっぱ大事だよな」と気付かせることができます。
年齢が離れている30代、40代、50代が伝えると、「それはあなた達の時の話でしょ?」となってしまいがちです。これも踏まえて、我々も年齢が近いメンバーが登壇するようにしているわけです。
改めて、新人への伝え方のポイントをまとめると、以下の通りです。
新入社員研修への伝えることの実例
最後に、実際にジェイックが提供する新人研修の実例も交えて、一部お伝えします。以下は研修の一部内容になります。
まず木の絵をイメージしてください。根っこまで含めてできるだけ大きくイメージをしてください。どんな木が浮かんだでしょうか?
ビジネスマナーの伝え方
なぜ、木をイメージしていただいたかというと、私たちは人を評価する際に、まずは目に見えやすい部分を見ます。
仕事力が高い、成果が上げられる、報連相がしっかりできる、こうした目に見えやすい、当たり前のビジネススキルができていることは大切です。
一方で、たとえば、誠実さ、嘘をつかない、素直さなど、人の目に見えにくい根っこの部分も重要です。
ただし、人から見て、まず目につくのは「目に見えやすい」部分です。だからこそ、私たちは、まず目に見えるビジネスマナーやビジネススキルをしっかりと学んでいきましょうと伝えています。
それができないと信頼されませんし、皆さんの評価は変わりません。
ただ、スキルだけにこだわるのではなくて、皆さんがどのように社会人としてどのような心構えを持つのか、どのような考え方で活躍していくのか。中長期的には考え方が大事になってくることもお伝えします。
根っこの部分は、実は上のビジネススキルに紐付いてくることもお伝えします。なぜ、「第一印象が大事なのか」「どういった印象の人と働きたいと思うのか」。そんな心構えをお伝えしていきます。
「敬語がなぜ大事なのか」「電話応対スキルがなぜ必要なのか」「時間管理がなぜ大事なのか」、これらを本人たちに納得するように伝えることによって、行動が変わるようにしています。
たとえば、上記のような話も「社会人なのだから敬語が使えないとダメ」「新入社員が電話対応するものだ」といった伝え方だと、上手くいきません。
給料に見合った価値提供
また、新人研修の中では「給与に見合った価値提供をしていく必要がある」という話もしていきます。
上司や先輩、お客様からの期待やニーズに対して成果や価値で貢献し、その対価としてお金をもらっていることを理解してもらいます。
新人の時は、会社が将来に期待して先行投資してくれているわけです。従って、研修期間に「どんなことを価値提供できるようになる必要があるか?」はイメージしながら受けてもらうことも大切になります。