「離職防止」の必要性|若手人材の離職要因と対策を紹介

更新:2024/05/29

作成:2023/08/29

古庄 拓

古庄 拓

株式会社ジェイック執行役員

「離職防止」の必要性|若手人材の離職要因と対策を紹介

「離職防止」への取り組みは、採用と並んで組織の人員確保のための重要な活動となっています。今は昔と違い、転職が当たり前の時代になっています。さらに知識労働者の領域で少子化の影響が本格化するのもこれからです。だからこそ、採用した人材の離職防止の重要性が増しているのです。

 

しかし、人材獲得競争が激しいからこそ、採用活動だけで手一杯となってしまい、離職防止にまで手が回らないという企業も少なくありません。若い人を採用して定着させるためには、価値観の変化にもうまく対応していく必要があります。

 

記事では、いまの時代に離職防止が特に必重要になってくる背景や若手人材の離職要因を紹介し、また、離職防止のための対策も紹介していきます。

<目次>

離職防止が必要になる背景

昭和や平成初期は「転職」はまだまだ一般的なものではなく、離職防止を本格的に意識する企業はまだ少なかったでしょう。しかし、今では大きく状況が変わり、採用後も継続したフォローが必要になってきています。まずは、どうして離職防止が重要になってきかという背景を確認しておきます。

 

転職を前提として就職する若手層の増加

終身雇用が約束されなくなった今の時代、Z世代と呼ばれる若手層は企業に依存しないキャリア形成を意識するのが普通になっています。

 

「不確実な時代」や「人生100年時代」とも言われ、また大手企業などでも倒産やM&Aなどが当たり前となり、企業の寿命は短くなる一方で、人の寿命はどんどん伸びていっています。

 

そのような中で、入社した企業に定年まで勤めるというイメージは持ちづらく、Z世代などは、転職は当たり前のことであるという認識です。むしろ、柔軟性があり体力的にも余裕のある若いうちに転職を経験して視野を広げ、幅広いスキルを身につけようと考えている人もいます。

 

いまの若手層は、新卒で入社した時から転職を意識しているとも言われ、社内に望むキャリア構築の機会がない、「転職したほうがキャリアの可能性がある」と思えば、すぐに離職を選択肢として考える側面があります。

 

だからこそ、離職防止が大切なのです。

 

人手不足による転職の容易さ

転職を経験するのが当たり前だという認識が広まったことに加え、人手不足によって転職しやすくなったことも離職防止がより重要となった背景のひとつです。

 

昔と比べると、「入社して1,2年で退職している」「20代で転職経験がある」といったことをネガティブに捉える会社は非常に少なくなりました。そして、進学率の上昇と少子化が打ち消しあうことで、少子化の影響はまだ「大卒就活生の人数」にこそ影響を与えていませんが、優秀な新卒や若手の確保に頭を抱える企業はどんどん増えています。

 

結果として、20代の若手はとくに転職先も見つかりやすく、離職のハードルはそれだけ低くなっています。こうしたことも伴って、若手社員の離職が起こりやすくなっています。

 

組織に対する帰属意識の低下

先ほども触れた通り、終身雇用が前提でなくなったことで、昔のような「愛社精神」を従業員に求めることは難しくなってきています。昔は、「就職=結婚と同じだ」などと言いましたが、いまは「就職=お付き合い」ぐらいの感覚かも知れません。

 

これに加え、仕事に全てを捧げるのではなく、仕事とプライベートとのバランスを重視するという「ワークライフバランス」の考え方が普及した影響も大きいものです。

 

「所属している会社の指示・命令よりも、自分の人生に重点を置く」という人も増えました。結果として、「会社が嫌になれば会社を見切って離職する」という価値観を持つ人も多くなっています。

 

離職防止を怠るリスク

優秀な人材を確保することが難しいからこそ、企業は「いかに優秀な人材を確保するか?」に意識が向きがちです。しかし、離職が容易に生じやすいからこそ、「採用」と「定着」はセットで考える必要があります。人材を定着させることができなければ、多くのトラブルを引き起こしかねません。離職防止を怠ってしまうとどのようなリスクが発生していくのかを見ていきましょう。

 

優秀な人材が流出してしまう

離職防止を怠ることの最大のリスクが、優秀な人材の流出です。

 

最近は「優秀な人ほどすぐに辞めてしまう」と頭を抱える企業も少なくありません。激しい人材獲得競争の中では、優秀人材が、今よりも良い待遇や仕事のやりがいのある環境を求めて抜けていってしまったり、ヘッドハンティングされて引き抜かれたりといったことも起こります。

 

とくに前述の通り、20代中盤~30代前半ぐらいの優秀な若手層は、どの企業でも引っ張りだこです。

 

優秀人材がいなくなってしまえば、組織の生産性はそれだけ低下してしまい、企業としての競争力の低下も招いてしまうことにもなりかねません。20代~30代の次世代リーダー層の離職は、企業の将来にも影響を及ぼします。そうしたことが起こらないようにするために、離職防止の対策が必要になってきます。

 

既存社員の負担が増し、モチベーションが下がる

従業員の離職に伴って起こりがちなのが、既存社員の負担増加です。とくに中堅層や優秀層の代役が務まる人というと、簡単に見つかるというものでもありません。

 

代わりの人員を充てることができず、後任者はいまの仕事にプラスアルファで、離職した従業員の仕事を担当するようなケースも出てきます。そうなると、負担の大きさに耐えられなくなって潰れてしまい、後任者までいなくなってしまうということになりかねません。

 

それだけでなく、やはり従業員の離職は、「会社の将来性が危ないのではないか」「自分も転職を考えたほうがいいかもしれない」といった懸念を残った従業員にもたらし、モチベーションやパフォーマンス低下につながります。

 

企業イメージが低下する

従業員の離職は、企業イメージにも影響してきます。

 

職場で従業員の離職が続けば、前述の通り、従業員が組織に対して悪い印象を持ちやすくなります。また、対外的に見ても、従業員の離職が多い会社というのは、顧客や取引先に不安を与える要因ともなりかねません。「安心して取引できない」と感じられてしまうと顧客離れにもつながりかねないので、注意が必要です。

 

さらに、最近は採用時にも離職率の開示などが義務化されています。従って、離職率が過度に高くなると、採用にも悪影響を及ぼすでしょう。

 

採用・教育コストがかかってしまう

離職が発生すれば、欠員補充の必要性が出てきてしまい、その分採用コストも多くかかってしまいます。前述の通り、離職が増えれば人材も集まりづらくなり、採用活動で苦戦を強いられ、採用コストも高騰してくるでしょう。

 

当然採用後の教育コストも発生してきますので、離職発生はコスト的にも悪影響を及ぼすことになります。

 

若手人材の離職要因

「最近の若い人はすぐに辞めてしまう」と嘆く採用担当者も多いものです。そうなってしまう理由を知るには、昔とは雇用環境が大きく異なるということを理解しておく必要があります。具体的に、どのような要因があるのかを見ていきましょう。

 

他社情報の流通

昔に比べると転職が一般化したことに加えて、ネット上の転職媒体はどんどん増えていますし、それがSNSなどとも連携して、他社で活躍する人の様子も非常に目につきやすくなりました。

 

積極的に転職を考えていなくても、華々しく活躍する同世代と自分を比較してしまったり、待遇の違いを目にしてしまったりしてしまうと、「うらやましい」「自分も転職すれば可能性があるかもしれない」と感じてしまう人は出てきてきます。

 

このように「隣の芝生が青く見える」状態を生み出すコンテンツがあふれており、社会の現実をあまりよく知らない若手の離職を促す要因の一つともなっています。

 

イメージしていた職場とは違っていたことへの困惑

入社する前に思い描いていた仕事や人間関係と入社後の現実とのギャップは、HR分野で「リアリティショック」と呼ばれます。

 

リアリティショックが大きくなれば、モチベーション低下につながりますし、さらに大きくなれば離職にもいたります。また、リアリティショックが大きいと、「採用時に騙された」ような感覚になることもあり、会社への信頼感もさがっていきます。

 

リアリティショックが要因となる転職は、働いたことが無い新卒層、また未経験業界や職種への転職といった場合に生じやすいものです。

 

長時間労働やワークライフバランス、待遇への不満

長時間労働によるストレスも、若手人材の離職要因の一つです。体力的に余裕のある若いうちは、長時間労働にもある程度耐えられます。しかし将来のことを考えて「このまま、この働き方を続けられるのか?」と感じるようになってくると、転職を検討するようになってしまいます。

 

価値観の多様化により、出世を目指さずに家族との時間を大切にしたいという人も増えており、家族との時間を確保できるように転職を考えるということもあります。また、将来の子育てなどのことも考えて待遇を上げたいという想いから転職に至ってしまうケースというのもあります。

 

とくに働き方改革などで長時間労働=悪といったイメージも浸透しており、40代50代の上司などからすると「こんなものだよ」と思っている残業の感覚が、若手とズレていることもよくあります。

 

自分のキャリアと会社の将来への不安

終身雇用の感覚を持っていない今の若手は、会社にキャリアや人生を依存できる状況ではなく、会社は自分を守ってくれないという価値観を持つ人が大半です。

 

「自分の身は、自分で守る」という考えを持つ傾向が強く、ある意味では、過去よりも成長意欲は高いともいえるでしょう。

 

逆にいうと、「このまま今の会社にいたのでは成長できない」と感じてしまうと、すぐに会社を見切って転職してしまうことも起こりやすくなっています。

 

 

人間関係のストレス

上司や先輩との人間関係は、今も昔も変わらない転職の主要因です。

 

特に今の若手は多様な価値観を認められて育っており、会社や上司の価値観を押し付けられることを非常に嫌います。

 

結果的に、「会社や上司の価値観が絶対」といった昭和型のマネジメントを受けると、大きな不満を感じる傾向があります。そうなると、やがて「古い体質の会社にはいられない」と考えるようになってしまい、転職につながる要因ともなってきます。

 

離職防止のための対策

昔と環境が大きく異なるからこそ、離職を防ぐためには今の時代に合ったやり方が必要になってきます。具体的な離職防止の対策についてご紹介します。

 

採用時の情報開示

まず採用時における基本的な対策として、リアリティショックを最小限に抑えるために選考プロセスや内定者時代に、正しい情報を伝えたりするなどして認識のズレをできる限り少なくすることが重要です。

 

採用選考では、志望度を上げるために自社を良く見せようとしがちになりやすいものですが、話を盛り過ぎないように注意が必要です。

 

また今の若い世代は、SNSを通して活躍する先輩や同世代の姿というのも見ています。SNSの投稿などは良い面しか出されていないことが多く、場合によっては内容が盛られているということもあり得ます。そういった投稿を目にして誤解してしまっている応募者もいる可能性があることには、注意が必要です。

 

選考ステップや志望度の兼ね合いも見ながら、自社に不都合な情報も正直に共有することが大切になってきます。

 

ミッションやパーパスの周知徹底

ミッションやパーパスを社内に浸透させることも、離職防止のうえでは有効な手段です。

 

採用時にもミッションやパーパスに共感した人が集まってくればミスマッチを減らすことができ、離職を抑えることにつながります。また、会社全体にも研修や朝礼、会議などを通してビジョンやミッションやパーパスを浸透させることが重要です。

 

ミッションやパーパスを浸透させることで、従業員は自分の仕事にやりがいを見出しやすくなり、エンゲージメントが高まります。

 

 

柔軟な働き方ができる環境の構築

子育てや家族の介護、自身の病気といったことを理由に仕事を辞めなくてもいいように、柔軟な働き方ができる環境を構築するのも離職防止に有効です。

 

キャリアを「線」、エンプロイージャーニーという視点で考えると、上記のように育児や介護、病気など、さまざまな要因によって仕事だけを中心に据えられないタイミングも生じます。フレックスタイム制やリモートワークの導入によって働き方に柔軟性を持たせれば、仕事とプライベートとのバランスをうまく取りながら働き続けることができるでしょう。

 

また、こうした柔軟な働き方ができる会社であることを採用活動においてアピールできれば、人材の確保につなげられることも期待できます。

 

適切な評価制度の構築と運用

離職を防ぐためには、上司や会社からちゃんと評価してもらえているという実感が持てることが重要です。そのためには、公平で透明性のある人事評価制度を整え運用することが大事になってきます。

 

「自分はちゃんと評価されていない」と感じている人の中には、上司や会社が何を求めているのかを十分理解しきれておらず、方向性がずれてしまっていることに気づけていないというケースもあります。何が求められているのかを明確にし、頑張りがどのように評価されているのかを目に見えるようにすることで、モチベーションアップにもつながります。

 

人事制度は、制度だけでうまくいくものではありません。運用の中で、公平さ・透明性などをきちんと改善していき、自社にあった制度運用を構築していきましょう。

 

待遇・労働生産性の改善

待遇と労働時間は、仕事における衛生要因です。業界の標準的なレベルを下回ったり、過度な残業等があったりすると、一気に離職につながってきます。同業他社の水準をチェックし、あまり下回り過ぎてしまわないように注意しましょう。

 

ただし、待遇改善には労働生産性の向上が必要であり、中長期で取り組む必要があります。しっかりしたビジョンを示し、社員を引っ張っていけるようにすることが大事になってきます。

 

管理職のマネジメントスキル強化

上述したように、人間関係はいつの時代も離職要因となるものであり、離職防止に取り組むうえでは、管理職のマネジメントスキル、とくにヒューマンスキルやコミュニケーションスキルの強化は欠かせません。

 

とくに今の時代は、指揮統制型のマネジメントは通用しなくなってきています。

 

世代間の価値観や考え方の違いを踏まえたうえで、上司が適切なコミュニケーションを行なえるようにすることが重要です。そうすることで、部下のエンゲージメントを高めることができ、離職を防げるようになります。

 

キャリア自律の支援

いまの若手は、自分自身の能力で安定するしかないと思っているからこそ、様々なスキルや経験を身につけようと成長を求めています。従って、「この会社では成長できない」と感じてしまうと、さらなる成長の場を求めて辞めていってしまう人が出てきます。

 

そのようなことになってしまわないように、キャリア研修やキャリア面談、社内公募制度などを通して自らキャリアデザインできる環境を整えることも重要です。

 

とくに社内公募などをしっかりと運用して、社内を一種の「市場」として、自社への惹きつけを意識することで、人材の外部流出、離職を防ぐことが期待できます。

 

 

離職防止をサポートする研修

離職防止のためには、人間関係が円滑で安心して働ける職場環境を整えるとともに、人材の成長を継続的にサポートしていくことが重要です。HRドクターを運営する研修会社ジェイックでは、離職防止に役立つ研修として以下の3つをご提供しております。

 

上司のコミュニケーションスキル強化研修

まず職場内の円滑な人間関係の構築に役立つのが、リーダーシップ&コミュニケーション能力を鍛えるデール・カーネギー研修です。

 

研修では、『人で動かす』で有名なデール・カーネギーが確立した人間関係の原則を実践的に身につけることができます。

 

若手社員向けの成長と対人スキル強化のための研修

コミュニケーションや考え方は、管理職側だけの問題ではありません。若手社員側にもビジネスパーソンとしての考え方や異なる価値観・世代との関係構築力を身に着けてもらう必要があります。

 

若手社員向けに、成長を促し対人スキルを強化できるのが「7つの習慣®」研修です。研修では、組織を引っ張って行けるようになるための優れた人間性を身につけることができます。

 

たとえば、若手人材の中には、評価してもらえないことの不満を抱いて辞めていく人も多いものです。研修の中では、「まず理解に徹し、そして理解される」という習慣を学びます。自らが周囲のことを理解する姿勢を持つことで、自分に求められていることが分かるようになります。

 

そうなることで、評価されるためにはどういった行動を取ればいいのかということが分かり、「がんばっているのに評価されない」という不満の解消にもつながります。

 

キャリア自律研修

社員のキャリア形成に役立つのが、キャリア自律支援プログラムです。

 

研修では、才能診断ツールであるストレングスファインダー®を活用し、自分の強みを見出したうえで、自分のキャリアを考えます。

 

強みという軸でキャリアを考えることで、今までキャリアについて考えたことがない層も前向きにキャリアを考えることができます。また、強みという少し抽象度が高い軸で実施することで、今の仕事などにも紐づけやすくなります。

 

さらに、1対多の研修できっかけを作ったうえで、1対1のキャリア面談を組み合わせることで、しっかりと自分自身に落とし込むことができるようになっています。

 

従業員はキャリアを思い描けるようになるとともに、組織としても従業員の本音をつかむことで改善策を打てるようになります。

 

著者情報

古庄 拓

株式会社ジェイック執行役員

古庄 拓

WEB業界・経営コンサルティング業界の採用支援からキャリアを開始。その後、マーケティング、自社採用、経営企画、社員研修の商品企画、採用後のオンボーディング支援、大学キャリアセンターとの連携、リーダー研修事業、新卒採用事業など、複数のサービスや事業の立上げを担当し、現在に至る。専門は新卒および中途採用、マーケティング、学習理論

著書、登壇セミナー

・Inside Sales Conference「オンライン時代に売上を伸ばす。新規開拓を加速する体制づくり」など

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