キャリアオーナーシップとは?支援施策9選と成功のポイント、事例を紹介

更新:2024/09/21

作成:2023/10/03

古庄 拓

古庄 拓

株式会社ジェイック執行役員

キャリアオーナーシップとは?注目の背景と企業・個人が推進する方法を解説

キャリアオーナーシップとは「自分のキャリアに対する責任を自身で持つ」という考え方や姿勢を指します。

 

終身雇用が崩れ、転職が当たり前となり、成果主義やジョブ型も導入されている中で、各労働者は自身のキャリアを自らが主導して築き上げていくことで、働き方や生き方の自由度や可能性が広がる世の中になっています。企業側も終身雇用、また成果主義やジョブ型導入によって待遇向上などを従業員に約束できる状態ではなくなったなかで、キャリアオーナーシップを支援することで、エンゲージメント向上や離職低下につなげることができます

 

本記事では、キャリアオーナーシップの意義や背景、推進方法、企業が直面する課題と解決策の解説、また、企業事例を紹介します。

<目次>

キャリアオーナーシップとは?

キャリアオーナーシップは前述の通り、「自分のキャリアに対する責任を自身で持つ」という考え方や姿勢を指します。

 

高度経済成長の時代は終身雇用を前提として、会社が従業員のキャリアを設計し、ある程度、転勤や人事異動に関して会社が主導権を持つという雇用状態がありました。しかし、終身雇用が崩壊したことで、かつてのような会社主導、また会社依存のキャリア形成は難しくなりました。

 

このような背景から、労働者もキャリアを自身で設計し、主体的に管理する必要性が高まりました。自分の興味や能力、価値観を理解し、目指す働き方やライフスタイルを自分でデザインし、実現すること。これがキャリアオーナーシップです。

 

キャリアオーナーシップの支援は、従業員のエンゲージメント向上、離職防止の施策、また、ジョブ型人事の導入やリスキリングの推進等にも有効なのでキャリアオーナーシップの支援に取り組む企業が増えています。

 

 

キャリアオーナーシップが注目される背景4つ

キャリアオーナーシップが注目されるようになった背景には以下の4つの理由があります。

  • 1.終身雇用制度の崩壊
  • 2.定年後も働く必要性
  • 3.評価制度の変化
  • 4.選択肢の多様化

終身雇用制度が崩壊したことで、労働者個人も自分のキャリアを真剣に考えていかないと、キャリアを構築できない時代になりました。定年後の就労率も増加傾向となっており、定年後も働くことも視野に入れなくてはならないなかで、自身がこれまでに培ったスキルや知識を活かし、終身学習や経験の積み重ねを行う必要があります。

 

さらに、人事評価制度の変化もキャリアオーナーシップが注目される背景です。すでに多くの会社で、年功序列型から成果主義へと評価制度が移行しています。近年は更にジョブ型への切り替えを進める企業も増えています。こうした制度変更の中で、会社に在籍し続けるだけでは賃金もあがらず評価もされないので、個人は主体的に自分自身のスキルや能力を高め、成長することが必要です。

 

働き方に関する過去のロールモデルは崩壊し、転職は当たり前となり、副業やパラレルワーク(複業)、育児や介護と仕事の両立、さらにはフリーランスとしての独立、会社を離れての学び直しなど、キャリアについて選べる選択肢も多様になっています。選択肢が増えたからこそ、自分自身のキャリアについて主体的に考え、計画を立て、行動するというキャリアオーナーシップが重要です。

 

 

企業がキャリアオーナーシップを支援するメリット

キャリアオーナーシップの概念に対して、「キャリア自律を促すことは従業員の退職につながるのではないか?」と懸念される人もいます。しかし、実際には真逆で、企業が従業員のキャリアオーナーシップを支援することには以下のように多くのメリットがあります。

  • 1.従業員のエンゲージメントが向上する
  • 2.従業員の離職防止につながる
  • 3.生産性が向上する
  • 4.優秀な人材を確保しやすくなる

 

1. 従業員のエンゲージメントが向上する

キャリアオーナーシップを支援することで、従業員の企業に対するエンゲージメントが向上します。キャリアオーナーシップによって、従業員は自分の仕事に対して意味付けがされたり、働きがいを見出しやすくなったりします。

 

組織への所属意識や仕事の意味付けがなされることで、仕事への取り組み方も変わります。成果への意欲向上やチーム・組織への貢献度が上がることも期待できます。

 

エンゲージメントが高い組織は顧客満足度の向上や、新商品・新サービスの開発などのイノベーションが生まれる可能性にもつながります。

 

2. 従業員の離職防止につながる

キャリアオーナーシップを推進することは、所属する組織や仕事に対する意味づけにつながり、離職率の低下につながります。

 

「キャリアオーナーシップを推進すると従業員が離職するのではないか?」と心配する人もいます。しかし、広告やSNSなどにも転職情報があふれ、“隣の青い芝生”の情報が意図せずとも目に飛び込んでくる現在、情報を遮断することで従業員を社内に囲い込もうというのは不可能です。

 

事業や仕事内容をよく理解して人的なネットワークも持っている現職の中で、自分のキャリアを見いだせれば、多くの従業員が継続して働くことを選ぶものです。キャリアオーナーシップを支援して、自身のキャリアについて考えてもらい、社内でのキャリア構築を考えてもらえる比率を増やす方が有効でしょう。

 

3. 生産性が向上する

キャリアオーナーシップの推進を通じて、離職防止やエンゲージメント向上が実現すれば、組織の生産性も高まります。

 

また、自己決定が尊重される環境になってくると、従業員が自身の能力を最大限に発揮しやすくなります。従業員が自らの仕事に関心を持ち、クリエイティビティを持って取り組めるようになれば自己効力感も高まり、生産性の向上につながるでしょう。

 

4. 優秀な人材を確保しやすくなる

キャリアオーナーシップの支援によって優秀な人材も確保しやすくなります。

 

優秀な人材は自己成長を求め、自分のキャリアを主体的に決めたいと考えています。キャリアオーナーシップを尊重し、キャリア自律を実現できる環境を整備した企業は優秀な人材の関心を引くことができるでしょう。

 

優秀な人材が集まれば組織の競争力は自ずと高まり、より良い成果を生み出します。

 

 

キャリアオーナーシップを支援するデメリットや注意点

キャリアオーナーシップを支援する場合には、一定のデメリットや注意点があります。

 

コストや工数

キャリアオーナーシップを推進するためには、一定のコストが必要になります。

 

キャリアオーナーシップを実現するためには、キャリア研修やリスキリング支援など外部のサービスを利用することも有効ですが、そのためには一定のコストがかかります。また、社内公募制度や異動希望制度の導入、キャリア面談、1on1ミーティングの実施などもベーシックな施策ですが、社内人材の工数も必要になってきます。

 

一方で、キャリアオーナーシップを上手く支援することで、組織のパフォーマンスが高まり、社員のエンゲージメントが向上しますので、最終的にはコスト以上のメリットが得られるでしょう。

 

管理職の負担増

キャリアオーナーシップを支援する際、管理職の負担が増加する傾向にあります。

 

キャリアオーナーシップには、キャリア面談や1on1ミーティングなどが必要になってきます。また、組織への周知、組織目標と社員のキャリアプランの擦り合わせ、キャリアオーナーシップの啓蒙、各社員の進捗度の確認など、管理職は様々な業務を行わなくてはなりません。

 

このように管理職の負担は増えますので、管理職に過度な負荷がかからないように、人事、また外部サービス等をうまく組み合わせて進行することが大切です。

 

企業の期待と従業員の描いたキャリアプランがズレる可能性

キャリアオーナーシップを推進することで、従業員は将来に向けてどういった経験を積み、どんなスキルを身に付ける必要があるか、自らのキャリアプランを主体的に考えるようになります。

 

この時、企業が従業員に期待する社内でのキャリア形成と、従業員が目標とするキャリア形成がズレる可能性が生じます。そして、その生じたズレが離職につながる可能性も少なからず存在します。

 

しかし、キャリアオーナーシップを推進せず、従業員のエンゲージメントや業務へのモチベーションが低下し、若手や優秀層が離脱するリスクの方が企業にとって、リスクが顕在的であり大きいと言わざるを得ません。

 

今の時代、ネットやSNSを通じて外部の情報が入ってきますし、転職活動の準備もネット上でいくらでも出来る時代です。従って、従業員のキャリアを無理に自社内に押し込めようするアプローチは不可能です。

 

キャリアプランにズレが生じるリスクを考えることよりも、従業員のキャリアオーナーシップを支援し、従業員のキャリアプラン実現につながるような人事制度の整備、また、1on1などを通じてフォローすることの方が大切です。

 

キャリア自律した若手、優秀な人材が離職しないようにするために、社内でどういった仕事ができるのか、キャリアが積めるのか、将来の見通しを描けるようにすることで離職リスクを減らすことができるでしょう。

離職者が生じる可能性

キャリアオーナーシップを推進することで、離職者が発生する可能性は考えられます。

 

キャリアオーナーシップでは、自身の将来の目標やキャリアプランを考えていきます。その際に、現状があまりにも理想とかけ離れていると感じたり、現在の仕事ではキャリアを築けない、また、このまま会社にいてもキャリア形成が難しいと考えた場合、結果的に離職につながる可能性があります。

 

しかし、前述の通り、いまの時代に社員のキャリアを自社に囲い込もうとすることは不可能です。組織自体をしっかりと整えて、キャリアオーナーシップを促進することで、優秀層を引き留め、滞留層に自身のキャリアをしっかりと考えて選択してもらうことが、結果的に離職率の低減や組織のパフォーマンス向上につながるでしょう。

 

キャリアオーナーシップの推進を支援している企業であれば、適切な方法で従業員を導き、企業と個人の目標をすり合わせ、社内で理想のキャリアを実現するサポートをしてくれます。自社内にキャリアオーナーシップに関するノウハウがない場合には、外部の企業を利用するのもおすすめです。

 

 

キャリアオーナーシップ支援でおすすめの施策9選

キャリアオーナーシップを推進するために、企業に取り入れることをお勧めしたい施策は以下の9つです。

1. キャリア研修

キャリアオーナーシップを支援する上では、まずキャリア研修を行うことがベースです。キャリア研修は、自分自身の将来に向けた夢やビジョンを描き、それを実現するためのプロセスを考える、また仕事と紐づけていく研修です。

 

キャリア研修を実施することで従業員のキャリア意識を高め、また、キャリア形成を考えるきっかけを与えられます。キャリア研修は、キャリアオーナーシップを支援する上で、まず基礎となるものだといえます。

 

ただ、いきなりキャリアオーナーシップと言われても、ミドルやシニアの従業員はぴんと来ないことが多いでしょう。一方で、Z世代などの若手層はキャリアオーナーシップやキャリア自律の考え方はすでに身につけていても「自分が何をしたいのか?」「何が強みなのか?」「どうすればキャリアを構築できるのか?」といったことは分からない人が多いものです。

 

キャリア研修を行うことで、キャリアオーナーシップの概念を理解するとともに、自身のキャリアや強みや関心、能力・経験を振り返り、具体的にどのようにキャリアを構築するかを考えることができます。

 

なお、キャリアオーナーシップはキャリア研修だけで完成するものではなく、キャリア研修はキャリアオーナーシップの意識を持つ、考え始めるきっかけだと捉えることが適切です。

 

 

2. キャリア面談

キャリア面談は、キャリアコンサルタントや人事、上司などが実施する、キャリア形成に関する面談です。

 

自身のキャリアを従業員が真剣に考え、考えを整理する機会がキャリア面談です。キャリア面談を行うことで、キャリアオーナーシップを自分事として捉えてもらい、実現へのプランを考えてもらうことができます。

 

上司や人事によるキャリア面談は、社内だからこそ、話の理解やアドバイスをしやすいという利点があります。一方で、従業員からすると本音を語りにくい側面もあります。

 

従業員が安心して話せる外部とのキャリア面談をベースとして、そのうえで、社内事情や制度を踏まえたアドバイスが欲しい際には人事と面談できるといった二階建ての形などで、外部と内部を組み合わせることがおススメです。

 

 

3. 社内制度の整備

キャリアオーナーシップを推進するうえで、キャリア形成を支援するための社内制度の整備も基盤となる部分です。たとえば、自己啓発制度やスキルアップ支援制度、また社内公募や異動希望などの制度です。

 

教材や受講費用の補助や資格取得による評価、報酬の見直しなど、自己啓発を推進する制度を設けることで、従業員が自己学習に取り組む機会を広げられるようになるでしょう。また、社内研修や外部研修の補助、海外研修への参加支援など、スキルアップ支援制度を設けることで具体的な職務への適応能力や専門性を高める機会を与えられます。

 

さらに、キャリア形成という意味では、社内公募制度や異動希望制度なども大切です。社内公募制度を取り入れることで、自分が進みたいキャリアを見出したときに、社内で実現できる可能性を高められます。

 

これらの社内制度を整備することで、従業員のキャリアに対する意識を高め、キャリアオーナーシップを支援できます。

 

4. 成果主義へのシフト

キャリアオーナーシップを推進するためには、従業員が自身の能力向上や成果を意識する成果主義へシフトすることも重要です。

 

成果主義の風土になれば従業員それぞれが、自分の業績が自身の評価や報酬に直結するという認識を持てるようになり、より自発的な行動や主体的な仕事への取り組みを促せるでしょう。成果主義を導入することで、従業員は自分自身の能力レベルや仕事の成果が待遇やキャリアにつながるイメージを持てるようになるでしょう。

 

ただし、従業員から評価制度に対して不公平・不平等・不明瞭などの印象を持たれてしまうと不満につながってしまい、却ってエンゲージメントが低下してしまいます。成果主義を導入する際には評価基準の明確化や評価結果に対するフィードバックの徹底など丁寧な運用が不可欠です。

 

成果を上げた従業員が報われると感じられる制度にすることで、各々の従業員が自己成長と成果を追求しながらキャリアを築き上げていくための環境が整うでしょう。

 

5.ジョブ型へのシフト

キャリアオーナーシップを促進するうえでは、ジョブ型を取り入れることも有効です。

 

成果主義をさらに推し進め、専門性とパフォーマンス向上が待遇等に直結するジョブ型を導入することによって、従業員は自身のキャリア構築を思考しやすくなります。企業側も従業員の市場価値・能力と報酬バランスを意識しやすくなります。

 

社内公募などとあわせて社内が疑似的な「転職市場」となることで、離職防止やエンゲージメント向上が実現していくでしょう。

 

6. 社内公募制度

キャリアオーナーシップを推進するにあたって有効な手段のひとつが、社内公募制度です。社内公募制度は企業内の採用ポジションやプロジェクトで従業員から志願者を募るものです。

 

選考を経て採用されれば、従業員は新たな部署や役割に異動したりアサインされたりすることができます。つまり、従業員自身が自らの意思で、能力を活かせる場を選べる、また、プロフェッショナルとして新たな経験を積むことが可能になります。

 

社内公募制度は従業員に自ら進んで挑戦する機会を提供するだけでなく、企業にとっても新たな視点やアイデアを生み出す基盤となり、オープンイノベーションの推進にも効果的です。異なる部署間の交流や理解を深める一助となるでしょう。

 

ただし、社内公募の成功にはきちんとした運用が不可欠です。選考基準や流れを明確にする、また、結果のフィードバックも必要です。とくに「応募したけど異動やアサインが叶わなかった人」にきちんとフィードバックすることが重要となります。

 

7. 1on1ミーティング

従業員の主体的なキャリア形成をサポートするためには、直接的なコミュニケーションも重要です。その手段のひとつが、1on1ミーティングです。

 

1on1ミーティングは従業員と上司や人事担当者が定期的に対話する時間を設ける仕組みです。通常の業務レビューではなく、従業員が相談したいテーマ、自己成長やキャリア形成について議論する場となります。

 

1on1ミーティングで、上司が部下の課題や不安、将来に向けた希望や目指す方向性などを知ることで、マネジメントや支援もスムーズになるでしょう。部下も自分自身の成長やキャリアビジョンを自らの言葉で表現することで、自分自身のキャリアがクリアになっていきます。

 

1on1ミーティングは定期的に実施することで、より高い効果が期待できます。隔週に1回~月1回実施できるとよいでしょう。継続的な対話により信頼関係を築くことができ、キャリアのサポートへと繋がるでしょう。

 

 

8. リスキリング支援

企業として従業員が時代の変化に対応できるように、リスキリングの機会を提供することが必要です。

 

従業員が新たなスキルを学び、自身のキャリアを拓くことは個々の成長だけでなく、組織全体の知識や技術の向上につながります。従業員が自らのキャリアを広げられるだけでなく、企業にとっても競争力を維持できるようになります。

 

リスキリングを推進する主な方法には、社内研修制度やオンライン学習支援、外部の専門家を招くセミナーや資格取得支援制度などが挙げられます。

 

リスキリング支援を行う際には従業員の意欲を引き出すことが大切です。制度やプログラム提供だけでなく、学習の機会を活用するための風土づくりやモチベーション支援施策が求められます。

 

9. 副業の許容

副業の解禁・推進をすることも、キャリアオーナーシップを育むうえで有効な方法です。従業員が自分自身で副業を選択し、社外での経験を積むことで新たなスキルや視点を身につけられます。

 

上手く設計された副業であれば、従業員は自分の興味や能力を活用でき、自身の働き方やキャリアの選択肢を広げられます。異なる業界や職種から得た知識や経験は本業に対する新たな視点を提供し、組織全体の多様性を高めることにも寄与するでしょう。

 

一方で、副業を推進するためには企業が明確なガイドラインを設けることが求められます。たとえば、自社の利益を損なわないために、本業と同業種の業務には携わらないなどが挙げられます。また、働き過ぎの防止なども必要ですし、本業がベーシックインカムのようになってしまわないようにも注意が必要です。

 

このように許容範囲やリスク等もありますが、うまく推進することで誤解やトラブルも未然に防ぐことができるでしょう。

 

 

キャリアオーナーシップの企業事例

キャリアオーナーシップに取り組んでいる企業事例を紹介します。

富士通株式会社

富士通株式会社では、2022年4月より、社員一人ひとりの挑戦と成長を後押しする「ジョブ型人材マネジメント」の考え方に基づく新たな人事制度を導入。社員のキャリアオーナーシップを支援するプログラム群を「FUJITSU Career Ownership Program(FCOP)」と名付け、全社員のキャリアオーナーシップの醸成を推進しています。

 

ジョブ型雇用導入とともに人事制度を大胆に刷新し、

  • 個人のパーパスを明確にする「Purpose Carving」
  • 評価制度「Connect」
  • 社内ポスティング(社内公募)制度

上記の活用など、様々なキャリア自律の施策を成功させています。例えば、2021年度には国内8万人のグループ社員のうち述べ2万人が社内ポスティング(社内公募)に手を挙げ、7,795人が実際に異動したということです。

 

富士通株式会社 執行役員 EVP CHRO 平松氏にHRドクターを運営する株式会社ジェイック/株式会社Kakedas 取締役 東宮が、富士通のキャリア自律、キャリアオーナーシップについてお話を伺ったインタビュー記事も参考にしてみてください。

 

 

ソニーグループ

「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」をPurpose(存在意義)とし、”Special you, Diverse Sony”を人材理念として掲げるソニーグループ。

 

多様な個(人・事業)の成長の総和をグループ全体の成長と考え、「個を求む」「個を伸ばす」「個を活かす」の3つの軸で人事戦略を体系化しています。中でも「社内募集制度」は1966年から導入され、50年以上続いている日本における社内公募の先駆けとなる仕組みです。

 

ソニーグループは「キャリアオーナーシップとはたらく未来コンソーシアム(第3期)」にも参画し、積極的に従業員のキャリアオーナーシップを推進していることでも知られています。

 

ソニーグループ株式会社 安部専務室・組織開発アドバイザー 望月氏にHRドクターを運営する株式会社ジェイック/株式会社Kakedas 取締役 東宮が、富士通のキャリア自律、キャリアオーナーシップについてお話を伺ったインタビュー記事も参考にしてみてください。

 

 

カゴメ

カゴメでは従業員のキャリア自律を推進するため、人材要件定義書を基盤としたジョブ型を導入。適所適材という視点で人事を行っています。2015年からは働き方改革と暮らし方改革の2つから構成される「生き方改革」に取り組み、副業制度もスタート。

 

大企業につきものである転勤に関しても「地域カード」施策を創設。今の勤務地に留まる、もしくは希望の勤務地へ行くことを意思表示できる制度で、1人2回までの行使が可能。1回の行使で3年間有効、という従業員本位の非常に画期的な取り組みも実施しています。

 

また、人材育成担当のHRBP制度も導入。個人のキャリア自律の促進とともに、現場の課題を明確化し、課題解決にも取り組んでいます。このようにカゴメでは従業員が自分主体で働き方、暮らし方を選択できるように、キャリアオーナーシップを強力に推し進めているといって良いでしょう。

 

カゴメ株式会社 CHO 常務執行役員の有沢氏にHRドクターを運営する株式会社ジェイック/株式会社Kakedas 取締役 東宮が、富士通のキャリア自律、キャリアオーナーシップについてお話を伺ったインタビュー記事も参考にしてみてください。

 

 

株式会社JTB

株式会社JTBでは、キャリア改革を経営改革の1つに位置づけ、キャリアオーナーシップを推進しています。従業員による主体的なキャリア開発を目指すカルチャー改革、ウェビナーなどで学びを支援する「あなたの学び応援団・JTBユニバーシティ」では年間800本以上の集合研修やウェビナーの実施といった学びの機会を提供。

 

キャリアを考える多様な「対話」の機会の創出として、成果プロセス評価シート、未来への行動チェックシートの活用などに取り組んでいます。

 

(参考:「グッドキャリア企業アワード2020」好事例集|株式会社JTB)

 

ボストン・サイエンティフィックジャパン株式会社

ボストン・サイエンティフィックでは「キャリア・オーナーシップ」を推進、入社時の所属に関わらず、その後の経験やスキル・関心に応じて自分だけのキャリアパスを作っていくことが可能です。そのために次のような制度を整えています。

  • 社内公募
  • 社内インターンシップ
  • キャリア開発支援

こうした取り組みにより「グッドキャリア企業アワード2020」でイノベーション賞を受賞しています。また女性のキャリア支援を行うための従業員リソースグループ(ERG)である「EmpowHER」も立ち上げています。

 

(参考:「グッドキャリア企業アワード2020」イノベーション賞受賞|ボストン・サイエンティフィックジャパン株式会社)

 

アサヒグループジャパン株式会社

それ以前からもキャリア支援は行っていましたが、アサヒグループでは2022年9月、キャリアオーナーシップ支援室を新設。社員が「自分らしい」仕事人生を歩んでいる状態になることをビジョンとし、キャリア自律に向けたさまざまな支援を行っています。

 

キャリアオーナーシップの育成を支援する「セルフ・キャリアドック」を実施。社内・社外のキャリアコンサルタント等によるキャリア研修及びキャリアコンサルティングを行い、若手、中堅、シニア層のキャリア形成を促進・支援する取り組みを行っています。

 

またキャリアに関するオンライン配信「キャリカフェ」を通じて社員が自らのキャリア自律について考えるきっかけ、深めるきっかけを提供しています。アサヒグループは「キャリアオーナーシップとはたらく未来コンソーシアム(第3期)」にも参画しています。

 

三井情報株式会社

三井情報株式会社では、社員一人ひとりが主体的に働きキャリアを形成していく「キャリアオーナーシップを推進するために、「働きやすさの促進」と「働きがいの醸成」に取り組んでいます。

 

「働きやすさの促進」では多様な人材が活躍できるよう人事制度を改定、タレントマネジメントシステムの整備等を実施、「働きがいの醸成」キャリアオーナーシップの推進では、従業員が自分自身のキャリアを考えるため、外部有識者を迎え実施されるMKIキャリアフォーラム、キャリアデザイン研修等を実施しています。

 

キャリアオーナーシップに関する施策を継続して実施していくために、CHRO(最高人事責任者/Chief Human Resource Officer)が副社長を兼任していることも特徴的です。

 

三井情報株式会社のキャリアオーナーシップに関する取り組みは、日本の人事部「HRアワード 2023」に入賞、「キャリアオーナーシップ経営 AWARD 2023」で優秀賞を受賞と高く評価。「キャリアオーナーシップとはたらく未来コンソーシアム(第3期)」にも参画しています。

 

キャリアオーナーシップ支援を成功させるために大切なポイント

キャリアオーナーシップを企業が取り入れるにあたって、従業員自身も意識を変えることが大切です。各従業員が取り組めることは、以下の3つです。

  • 1.キャリアを点ではなく線で捉える
  • 2.ポータブルスキルの向上
  • 3.キャリアの3か年計画を策定する

従業員に浸透させられるように、一つひとつ解説していきましょう。

1.キャリアを点ではなく線で捉える

キャリアオーナーシップやキャリア自律を考えるうえで、自分のキャリアを「点」ではなく、「線」で捉えることが大切です。

 

キャリアは非常に中長期的なものです。

 

「今この瞬間」だけでキャリアを考えると、思うようにならないこと、希望通りにならないことも多いでしょう。

 

「線」として数年スパンの視点を持って、自分の望むキャリアに近づけていく意識が大切です。

 

また、人生はキャリアのことだけを常に考えられるわけではありません。育児や介護など、キャリアを中心に据えられない時期もあるでしょう。

 

キャリアを「点」ではなく「線」で捉えることで、こうした時期も捉えやすくなります。

 

2.ポータブルスキルの向上

キャリア自律を図る上では、専門性とポータブルスキルのバランスが大切です。

 

キャリア構築というと、つい専門能力やスキルを意識してしまいがちですが、専門能力やスキルを支えるのは、コミュニケーション能力やタスク管理、そして、主体性や論理的思考といったポータブルスキルです。

 

社内外で通用する力を身につけるためには、専門性とポータブルスキルのバランスを意識する必要があります。

 

とくに、若手世代は専門性を身につければ市場価値が身に付く、成果をあげられると勘違いしがちです。もちろん成果を上げて、社内外で通用する市場価値を持つためには専門性は大切です。

 

しかし、専門知識だけを身につけても、土台となるポータブルスキルのレベルが低ければ、せっかくの専門知識も十分に発揮できなくなってしまいます。

 

従業員一人ひとりのポテンシャルを発揮させるために、しっかりとポータブルスキルを磨くように意識づけましょう。

 

3.キャリアの3か年計画を策定する

キャリアを線として捉えたうえで能力を磨き、自分の望むキャリアに近づけていくためには、3年をひとつのスパンとして考えるとよいでしょう。

 

会社の中期経営計画のように、個人も3か年程度のキャリア計画を作成し、それを毎年更新していくといったやり方がおすすめです。

 

3か年程度の時間軸で考えると、市場価値の向上を考えながら成果創出やスキルUPに取り組んだり、社内公募や転職、副業などの選択肢も有効に生かしたりすることができるでしょう。

 

 

キャリアオーナーシップ推進で失敗しやすい企業の特徴

キャリアオーナーシップを推進する際には、以下のような課題が生じがちです。

  • 1.主体的に学習する習慣が身に付いていない
  • 2.ベテラン社員の意識が低い傾向にある
  • 3.若手社員の考える時間軸が短い
  • 4.チームプレーへの弊害を及ぼす

課題を先回りして理解しておけば、よりスムーズにキャリアオーナーシップを推進できるようになるはずです。ひとつずつ見ていきましょう。
 

1.主体的に学習する習慣が身に付いていない

キャリアオーナーシップの課題としてよくあるのが、多くの社員が「主体的に学習する習慣」が身についていないことです。キャリアオーナーシップを推進するうえでも、自分が望むキャリアを形にするために自ら学ぶ習慣が非常に大切です。主体的に学習できなければ、新しいスキルや知識が得られず、自身のキャリアを高めることはできないでしょう。

 

主体的に学習する習慣を従業員が習得するためには、まず自己啓発、成長の重要性を理解させることが大切です。企業側から常に新しい知識や技術を学び、自分自身をアップデートすることの重要性を伝え続けることが必要です。また、学び続ける意欲を養うためには学ぶ機会を提供し、結果を評価する制度を設けるなど、組織内の支援も欠かせません。

 

自己啓発は時間と労力がかかるものです。自己啓発が成長とキャリア構築につながり、自らの望むものを手に入れるための手段であることを理解してもらいましょう。

 

2. ベテラン従業員の意識が低い

ベテラン従業員の意識が低いこともキャリアオーナーシップを進められない企業がぶつかりやすい課題です。

 

年齢の高いベテラン従業員は終身雇用や年功序列が当たり前だった時代に就職して仕事していますので、キャリアオーナーシップの概念になじみが薄いことはやむを得ません。しかし、ベテラン社員の意識が低いと、若手にキャリアオーナーシップが浸透しづらいですし、組織全体が変わりにくくなってしまいます。

 

また、経験を重ね、待遇も向上していることで、新たな業務に対する意識やモチベーションが低下し、チャレンジから遠ざかってしまうベテラン従業員も少なくありません。新しく学ぶことに負担を感じたり、自己のスキルや経験に自信があったりすることで、新たな考え方や手法を取り入れるのに抵抗を感じるのです。

 

意識が低いベテラン社員に対する解決策は、組織全体の意識改革を行うことです。「自己のスキルや知識をさらに伸ばし、新しい価値を創造するためには、失敗を恐れずに新たな挑戦、自己成長を追求し続けることが重要である」というメッセージを伝え続ける必要があります。

 

また、失敗したとしても学んで成長していける風土をつくることも大切です。

 

3.若手社員の考える時間軸が短い

若手社員の考える時間軸が短すぎる傾向も、キャリアオーナーシップの支援に失敗する企業によくある特徴です。

 

キャリアというのは「点」ではなく「線」で考える、また数か年~10年ぐらいのスパンで考えていくことが適切です。キャリアを築くには一定期間のインプットが必要ですし、機会とのめぐり逢いは一種の「運」のような部分もあります。キャリアは短期で実現できるものではありません。

 

しかし、若手世代は社会人経験が短く、さらにキャリア構築意向が高まっているため、キャリア構築や自己成長への焦りが生まれ、短いスパンでキャリアを考えてしまいがちです。

 

「いま望んでいる仕事ができていない」「今回の人事で希望する仕事への異動がかなわなかった」といったように、短すぎるスパンで物事を捉えて「この会社ではキャリアを作れない」と捉えてしまいがちです。

 

若手社員にキャリアに対する適切な時間軸を持ってもらうことも、キャリアオーナーシップを推進するうえでは大切です。

 

4. チームビルディングできていない

キャリアオーナーシップの支援が進まない、上手くいかない企業では、チームビルディングが出来ていないことも多くあります。

 

キャリアオーナーシップの推進は、個々の従業員が自身のキャリアを主導することから生まれます。そのため、各社員が自己の目標や意識に集中するあまりにチーム全体としての一体感が失われ、協力や連携が乏しくなることがあります。過度の個人主義は組織としての生産性や効率性を妨げ、場合によってはメンバー間の摩擦を生む原因ともなり得ます。

 

個々の社員が自身のキャリア成長を追求しつつも、チームとして他者と協力して共同の目標に取り組むというチームビルディングを行う必要があるのです。また、組織全体のビジョンやチームの目標に貢献することが、自分のキャリア形成につながることを意識してもらうことも重要です。

 

 

まとめ

キャリアオーナーシップとは、自分のキャリアに対する責任を持つという考え方や姿勢を指します。

 

個人にとってキャリアオーナーシップを持つことが必要となっていることに加えて、企業も従業員に対してキャリアオーナーシップの支援をすることで、生産性の向上や離職率の低下などが期待できるため、従業員のキャリア支援に取り組む企業は増えています。

 

企業が支援する中では、従業員個々の意識への働きかけと、キャリア支援の整備制度のバランスが大切です。

 

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著者情報

古庄 拓

株式会社ジェイック執行役員

古庄 拓

WEB業界・経営コンサルティング業界の採用支援からキャリアを開始。その後、マーケティング、自社採用、経営企画、社員研修の商品企画、採用後のオンボーディング支援、大学キャリアセンターとの連携、リーダー研修事業、新卒採用事業など、複数のサービスや事業の立上げを担当し、現在に至る。専門は新卒および中途採用、マーケティング、学習理論

著書、登壇セミナー

・Inside Sales Conference「オンライン時代に売上を伸ばす。新規開拓を加速する体制づくり」など

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