ダイバーシティと女性活躍を実現する取り組みとこれからの人財育成|清水建設・西岡氏

更新:2025/03/25

作成:2025/02/25

人財の多様化が進む中、企業はどのように制度や環境を整え、それぞれの人が活躍できる場を作っていくべきでしょうか。

 

清水建設株式会社は「ダイバーシティ推進室」を2009年に設立し、女性や外国籍社員、障がい者などの活躍支援に注力し、多様な人財が持つ力を引き出す環境づくりを進めてきました。

 

同社のダイバーシティや女性活躍推進の取り組み、これからの方向性について、清水建設株式会社 コーポレート企画室 DE&I推進部の西岡 真帆氏に、『HRドクター』を運営する株式会社ジェイック 執行役員 東宮が、お話を伺いました(以下敬称略)。

 

 

<目次>

女性活躍推進への挑戦と現場からの声

「ダイバーシティ推進室」設立の経緯

 

東宮御社では、2009年に多様な人財の活躍を促進するため「ダイバーシティ推進室」を設立されたと伺いました。設立の経緯や背景を教えてください。

 

西岡当社は、これまで主に国内での建設事業を手がけてきましたが、2010〜2020年の長期ビジョンを策定する中で、新規事業を含めた事業拡大やグローバル展開も視野に入れることになりました。

 

グローバルも含めた事業拡大を進める場合、より一層多様な人財が活躍できる環境づくりが重要になります。こうした流れから、人事部内に「ダイバーシティ推進室」が設立され、まずは「女性」「外国籍社員」「障がい者」の活躍推進から始めることになりました。

 

私は当時、土木系総合職として事業部門で働いていたのですが、社内で開催された「女性活躍推進フォーラム」での登壇をきっかけに、2014年に経営企画部へ異動、その翌年に人事部ダイバーシティ推進室長に着任しました。

 

当時、私にはダイバーシティ推進室長は務まらないと思っていました。また、正直なところ「女性活躍」という言葉にも違和感を覚えていて、「女性活躍を推進されなくても、すでに自分なりに現場でがんばってきたのに…」とも感じていました。

 

しかし「女性技術者として実績を残してきたからこそ、女性活躍の場を作れるはずだ」という言葉で覚悟を決め、思い切って引き受けることにしました。

 

女性活躍推進のハードルを超え、さまざまな施策を実施

東宮建設業界という事情やカルチャーの中で、女性活躍の推進にはさまざまなハードルもあったと思います。西岡様が現場で働いていた頃は、どのような課題に直面しましたか?

 

 

西岡建設工事現場では圧倒的に男性が多く働いているため、お手洗いやロッカーは男性用のみなど、男性しかいないことが前提の文化やルールがありました。その環境に女性の私が入ったことで、周囲も戸惑いを感じていたと思います。

 

特に印象的だったのは、私が生理で体調が悪化し、現場で倒れてしまったときのことです。そのときに初めて上司は生理休暇があることを知ったそうで、女性のための制度がほとんど浸透していないことを痛感しました。

 

一方で、男性社員は女性社員に対してとても優しく接してくれました。特に力仕事などは男性社員から「女性にそんなことをさせられない!」と止められるケースもありました。その気遣いはありがたいのですが、女性社員も「現場で活躍したいから入社している」という側面もあります。

 

たとえ能力とやる気があっても、然るべきチャンスを与えられなければ成長や昇進がしにくいという現実もありました。

 

このように、どうしても女性が浮いてしまう環境もありましたが、違和感をなくしていけるように工夫しながら働いてきたつもりです。

 

それから何年も経って、ダイバーシティ推進室に異動し、現場の女性社員から相談を受ける機会があったのですが、内容が当時とほとんど変わっていないことを知り、残念に思いました。この状況を変えていきたいという思いが、今も私のモチベーションになっています。

 

 

東宮現場での経験や思いが今の活動に生かされているのですね。2015年の着任以来、どのような施策に取り組んできたのでしょうか。

 

西岡まずは、社内への広報活動に着手しました。それまで社内では「ダイバーシティ」という言葉があまり浸透しておらず、私自身も、ダイバーシティ推進室の存在を知らなかったほどです。

 

社内のイントラネットや新しく作ったコーポレートサイトにダイバーシティに関する情報を多く掲載し、ダイバーシティという言葉や取り組みに触れてもらう機会を増やしました。

 

また、女性技術者がダイバーシティ推進室長に就任したということが珍しかったこともあり、外部からも多くの取材依頼をいただいたので、それらをできるだけ引き受けて認知を広げていきました。

 

管理職向けには、男性が多い職場環境で働いてきた経験を生かし、いくつかの施策を実施しました。

 

具体的には、部下の育児支援や育成などに積極的に取り組み、働きやすい職場づくりを推進していることを評価する「イクボスアワード」や、その学びを深める「イクボスセミナー」を行いました。セミナーは現在も「インクルーシブリーダー研修」に名称を変更して継続しています。

 

また、外国籍社員向けには宿泊型研修を実施し、日本籍社員との深いコミュニケーションの促進を図るようにしました。

 

ダイバーシティ推進を通じて伝えてきたこと

 

東宮ダイバーシティ推進施策を通じて、一貫して大切にされてきたことはありますか?

 

西岡傾聴の大切さを伝えることです。そもそも男性同士、女性同士だったとしても、同じような考え方や価値観を持っているとは限りません。一人ひとりの価値観は異なること、だからこそお互いについて聞き、知ることがいかに重要かを、さまざまなセミナーや研修などで取り上げてきました。

 

「みんな同じではない」と理解することは、ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(以下、DE&I)の基本だと思っています。

 

東宮さまざまな施策を積極的に推進する中で、社内からはどのようなサポートがありましたか?

 

 

西岡現・代表取締役会長の宮本(洋一氏)は、社長時代から全面的にサポートしてくれています。トップが後押ししてくれているおかげで、前例がないような施策でも挑戦することができました。

 

また、現・代表取締役社長の井上(和幸氏)も、男性の育児休職取得推進に力を入れており、対象者に直筆で署名入りの手紙を送るなどして、取り組みを支えてくれています。

 

さらに、ダイバーシティ関連のイベントや新年の挨拶、入社式などには、会長・社長をはじめとする役員が必ず参加し、ダイバーシティ推進の重要性を発信してきました。宮本も井上も、ダイバーシティを経営課題として真剣に捉え、自ら動いてくれるので、とても心強いと思っています。

 

東宮経営層の協力はとても重要ですね。現場の社員は日々の仕事に集中しているからこそ、中長期な計画や会社の掲げるビジョンとの間にギャップが生じることがあります。こうしたズレを経営層が認識し、会社のビジョンやメッセージを発信し続けることは、現場にも大きな影響を与えるのではないでしょうか。

 

女性活躍推進における周囲の声

東宮女性活躍の施策を進める中で、会社にどのような変化が生まれましたか?またその過程で、周囲からはどんな反応があったのでしょうか。

 

西岡周囲からは、様々な反応がありました。例えば、女性管理職数の目標値を決めた際には、「女性に下駄を履かせるのか」と賛否が分かれました。しかし、男性が「これまで下駄を履いてこなかった」と言い切れるでしょうか。

 

従来のキャリアパスや常識にとらわれずに、社員それぞれの実力や希望を尊重できる仕組みを目指しました。その結果、個々の個性や価値観を生かして働くことの大切さが、社内でより一層認識されるようになったと思います。

 

また現在は、新入社員の約3割が女性です。入社時点から女性の役員や部長、課長がいるため「自分も将来はあのポジションを目指せるかもしれない」と思えるようになったことは、大きな変化だと考えています。

 

 

西岡1泊2日の社内研修を実施したときのことも印象に残っています。当社では定期的に自社の研修センターで泊まりがけの研修を実施しているのですが、小さい子どもがいる女性は参加しにくいという課題がありました。

 

土木関連の見積もり研修の開催が決まったとき、子どものいる女性社員から「なぜ1泊2日の研修を実施するのですか。私は、本当は研修に参加したいのに、子どもがいるから出席できません。何とかできないでしょうか」と意見をもらいました。

 

そこで思いついたのが、子どもも一緒に現地に連れて行ける体制を整えることです。研修センターには食堂や小部屋、入浴施設などが揃っています。そこにベビーシッターを呼べば、子連れでの研修参加が実現できるのではないかと考えました。最初は「前例がないから難しい」という意見も多かったのですが、ひとつずつ問題を解決して実現しました。

 

その結果、受講を希望する社員が全員参加できたことはもちろん、研修施設に子どもがいることで、仕事中には見られない社員の一面が垣間見え、コミュニケーション面で副次的な効果も見られました。非常に大変でしたが、実施してよかったと思える施策です。

 

ジェンダーギャップ解消を目指す「シン・ダイバーシティ」活動

「シン・ダイバーシティ」活動とは

 

東宮御社が2022年度から始めた「シン・ダイバーシティ活動」について教えてください。

 

西岡「シン・ダイバーシティ活動」を始めたきっかけは、会長の宮本からの言葉です。これまでダイバーシティ推進に取り組んできたものの、活動の広がりに伴い「女性活躍の取り組みが薄れているのではないか」との意見をもらいました。

 

これを受け、会長自らが全国の支店を周り、ジェンダーギャップを解消することをテーマに「シン・ダイバーシティ活動」を行うことになりました。会長自らがDE&Iのテーマで全国を回ることはなかったないので、各支店では大きな話題になりました。

 

会長とともに、シン・ダイバーシティ活動をする中で、支店の社員は「本社の社員は何かと注目されていて、ダイバーシティ推進の対象者だけれど、自分たちはそうではない」と感じていたことに気づきました。

 

しかし、会長と直接話すことで、本社の社員だけではなく自分たちもしっかり見てもらえていることが伝わったのか、「会社が本気なら、自分もダイバーシティについてしっかり考えよう」という気持ちを持ってくれました。

 

また、女性社員が自らのキャリアについて考える機会にもなり、「今まで自分は期待されていないと思っていたけれど、会社に貢献できるようになりたいと思った」との声もありました。

 

一方で、なかなか解決しない課題もあります。それは、女性社員が管理職に魅力を感じていないということです。彼女たちに「どんな管理職になりたいのか」を聞いたところ、現在の管理職が感じている魅力と、彼女たちが思う管理職の魅力が異なるとわかりました。

 

具体的には、現在の管理職は「権限が大きくなること」「給与が上がること」などに魅力を感じていますが、彼女たちが理想としているのは「チームワークの良い組織を作れること」「話しかけやすく温かみのある上司でいられること」などでした。

 

また、管理職を魅力的に感じない一番の理由が「責任が重く、長時間労働を強いられるのではないか」ということでした。家庭を顧みずに仕事をしなければならないのなら、管理職にはなりたくないという意見が多くありました。

 

今後は、現在の管理職に、女性社員が思う「理想の管理職」と、今の管理職が思う「理想の管理職」のギャップを認識してもらい、彼女たちが「なりたい」と思えるような管理職を増やし、働き方改革と女性活躍推進を両輪で進めていこうとしています。

 

「シン・ダイバーシティ活動」を始めてから3年が経ち、大きな変化を感じているので、これからも注力していきたいです。

 

東宮御社では女性管理職の比率を2025年度は5%以上、2030年度は10%にする目標を掲げているとのこと。現時点での進捗を教えていただけますか?

 

 

西岡女性管理職比率は、2024年度時点で4.9%に達しました。よって、2025年度の5%という目標は達成できる見込みです。また、2030年度の目標を見直す必要性も感じています。

 

今回、女性管理職比率の目標を設定したことで、計画的に女性管理職の登用を進めようとする意識が生まれました。現在は管理職の比率のみ目標を掲げていますが、今後は、役員における女性の比率や部長職における女性の比率など、目標を細かく設定することも重要ではないかと考えています。

 

障がい者向け現場見学会を実施、各種制度も拡充

東宮御社は、外国籍社員や障がい者など女性活躍推進以外のダイバーシティ活動にも注力されています。最近ではどのような施策に取り組まれましたか?

 

西岡まず障がい者関連では、障がいのある社員向けの現場見学会を実施しました。当社の障がいのある社員の定着率は比較的高く、彼らが仕事のやりがいを感じながら長く働けるような環境づくりを意識しています。

 

彼らは基本的に本社や支店などの内勤部署に配属されることが多いのですが、実は以前から「私は車椅子だけれど、せっかく清水建設に入社したのだから現場での作業風景を見てみたいです」といった声がありました。

 

そこで、2023年に北陸支店の工事長に協力してもらい、障がいのある社員を対象とした現場見学会を開催しました。参加者からも好評で、実施してみてよかったと思います。

 

 

西岡また全社向けには、ワークライフバランスの実現に寄与する制度を拡充しています。具体的には、2023年に「ライフサポート休職」を新設しました。

 

これは社員のライフイベントの中で、育児や介護、傷病・自己都合休職にあてはまらない事情により、一定期間、仕事を離れることを希望した場合に利用できる制度です。

 

ライフサポート休職を利用すれば、不妊治療やパートナーの海外赴任などの理由でも、まとまった休みを取得できます。併せて不妊治療の際には、月2万円まで支援金を支給する制度もあります。新設した制度をしっかりと活用してもらえるよう、申請や手続きの整備も同時に進めた結果、想定よりも多くの社員に活用されています。

 

また、子どもの誕生後8週間以内に最大4週間、2回まで分割して有給休暇を取得できる「パタニティ休業制度」という男性社員向けの制度や、出張の際に子どもを連れていき、仕事中のベビーシッター代を会社が負担する制度も設けています。

 

人それぞれ大事にしたいことは異なります。その人にとって大事な理由で一定期間会社を休む必要があったときに、安心して会社に戻ってこられる仕組みを作ることが、重要だと思います。全員が必ずしも戻ってこないといけないわけではありませんが、選択肢を増やすことはこれからも意識していきたいポイントです。

 

これからの人材育成と意識改革

ダイバーシティや女性活躍を推進する上で必要なこと

東宮ダイバーシティや女性活躍を推進し、会社がさらに成長していくためには、管理職や当事者の女性、そして社員に必要なマインドセットやスキルがあると思います。それぞれに求められるものを教えてください。

 

西岡DE&Iは一人ひとりが当事者であり、それぞれ異なる価値観を持っているからこそ、理解のための対話が不可欠です。相手を知り、リスペクトの気持ちを持って、関係性を築こうとするマインドセットが大切ではないでしょうか。

 

一方で、企業で働く社員としては、期待されている役割を果たすことも大事になります。どんな事情があっても、責任を果たそうとする姿勢は全員に求められるものだと考えています。

 

 

私がこれから取り組みたいのは、男性の育児休業に関する仕組みづくりです。具体的には、男性と女性の育児休業期間を同じ長さにすることを目指しています。現在、男性の育休取得率は80%を超えでいますが、平均取得期間は29日間と1ヶ月に満たないのが現状です。

 

しかし、女性は育児のために長期間仕事を離れることが多く、復職後に自分に対する自信を失ったり、復職後の生活に苦労してキャリアを断念したりするケースが少なくありません。

 

男性も女性と同じ期間育児休業を取得するようになれば、育児休業期間が男女で平等になり、管理職や周囲からの対象者への理解もより深まると考えています。

 

実際、若手の男性社員からは「育休期間が短いと夫婦間でキャリアのバランスが取れず、良くない」との声も聞きます。男性が長期間の育休を取得することで、女性の復職が早まるケースもあるかもしれません。

 

今後は、男性が女性と同じように育休を取得するのが当たり前になることを目指したていきたいです。

 

東宮今回のお話を聞いて、現場の声を受け止めてから行動するまでのスピードに驚きました。考えすぎて動けなくなるのではなく、まずは試してみることで新しい景色が見えるという考え方に深く共感しています。過程では多くの苦労や試練があったと思いますが、その姿勢が今の成果に繋がっているのだと感じました。

 

本日は貴重なお話をいただき、ありがとうございました!

西岡 真帆氏
清水建設株式会社
コーポレート企画室 DE&I推進部長
西岡 真帆氏
発電所建設に従事していた父に憧れ、1995年4月、土木系総合職として清水建設に入社。都内の道路トンネル現場で施工管理を経験後、1998年10月より土木本部にてシールド関連の技術開発を担当。2001年4月から約13年間、土木技術本部にてコンクリートの専門技術者として全国の現場を支援。2011年4月に課長職に昇進。2014年5月、コーポレート企画室経営企画部に異動後、2015年6月より人事部にてダイバーシティ推進に携わる。2023年4月より現職。日本建設業連合会「けんせつ小町委員会」幹事長。元祖「けんせつ小町」として、建設業界における女性活躍推進に取組んでいる。
東宮 美樹氏
株式会社ジェイック 執行役員
株式会社Kakedas 代表取締役社長
東宮 美樹氏
1997年筑波大学を卒業。食品会社や人材派遣会社などを経て、ジェイックに入社。新人~次世代リーダー・管理職までコミュニケーション改善や主体性発揮、エンゲージメント強化の研修、また、自身の経験も踏まえた女性活躍やキャリア研修、イクボス育成などを得意とする。2019年にジェイック取締役、キャリア面談プラットフォームを提供する株式会社Kakedas取締役に2023年に就任、2025年よりKakedas代表取締役社長。

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