誰にでも判断を誤ったり、失敗したりしてしまうことはあります。その時に大事なことは「(自分の)誤りを認める」ということです。
しかし、経験を積み、年齢が上がり、地位や役職があがっていくほど、素直に誤りを認められない人も増えていきます。
コミュニケーションに関する名著『人を動かす』の著者、デール・カーネギーは、「自分の間違っている場合は驚く程多いものだ。
そういうときには速やかに自分の誤りを認めよう」といっています。
本記事では、デール・カーネギーの著書『人を動かす』より、「人を説得する12原則」のひとつとして紹介されている「誤りを認める」について解説します。
なお、本原則は書籍では「誤りを認める」ですが、デール・カーネギー研修の受講者に配られるゴールデンブックでは「相手の意見に敬意を払い、誤りを認める」と表記されています。記事内では、よりシンプルに表現された書籍の表記に合わせて解説していきます。
<目次>
『人を動かす』とデール・カーネギー
記事では、「誤りを認める」原則が掲載されている書籍『人を動かす』と著者デール・カーネギーについて簡単に紹介します。
デール・カーネギーとは
『人を動かす』の著者デール・カーネギーは、1888年にアメリカ・ミズーリ州のとある農家に生まれました。
大学卒業後、カーネギーは教師、営業、販売員などさまざまな仕事を経験しますが、残念ながらいずれの仕事も長くは続きませんでした。
そんなカーネギーにとって、転機となったのは、YMCAで話し方講座のインストラクターを依頼されたことでした。
カーネギーは話し方講座の人気講師となり、独立して自分の研究所を設立します。
そして、カーネギーは対人コミュニケーションやリーダーシップの向上に関する第一人者として世界に知られるようになります。
書籍『人を動かす』の概要
カーネギーの名を一躍有名にした書籍『人を動かす』は、ポジティブな人間関係を築き、人に良い影響を与えるための原則をまとめた本です。
1936年に初版が発行され、出版から80年以上たった今でもビジネス書ランキングにランクインするなど、時代を超えて世界中から支持を集めました。
同書は、現在までに日本で430万部、世界で1500万部というベストセラーになっています。
『人を動かす』の内容は、国や文化を問わず受け入れられる普遍的な内容であり、人間関係や人を動かすリーダーシップに悩みを抱える私たちにとって珠玉の1冊といえるものです。
『人を動かす』について知りたい人は、以下の記事で内容を要約しているので参考にしてください。
「人を説得する12原則」とは
書籍『人を動かす』は、「人を動かす3原則」「人に好かれる6原則」「人を説得する12原則」「人を変える9原則」の4つのパートから構成されており、全部で30の原則が紹介されています。
本記事のテーマである「誤りを認める」は、上記の中の「人を説得する12原則」のひとつです。
「誤りを認める」の詳細に入る前に、本章では「人を説得する12原則」の一覧を簡単に紹介します。
1.議論を避ける
人を動かす上で議論は避けるべきものです。理屈で相手を論破しても、相手は感情的に反発して、大抵の場合臨む結果にはなりません。
健全な議論は大切なものですが、相手を動かす上では、理屈で相手を説得、相手の意見を否定するようなことは避ける必要があります。
2.誤りを指摘しない
人は自分がしていることを正しい、もしくは、自分が置かれた環境の中では“これが最善である”“やむを得ない”と思っているものです。
そんな相手に正面から相手のミスを指摘しても、相手の自尊心を傷つけるだけです。
誤りは正面から指摘するのではなく、無視する、やんわりと指摘する、相手自身に気付いてもらうことが最適です。
3.誤りを認める
冒頭で紹介した通り、人は多かれ少なかれ過ちを犯すものです。その時、自分の誤りを素直に認めることがとても大切です。
あなたが誤りを素直に認めることで、相手も寛容になり、許してくれることが多いでしょう。
「誤りを認める」の詳細は、次章で詳しく解説します。
4.穏やかに話す
相手を説得したいのに、喧嘩腰で迫ったり、イライラした口調で話したり、命令口調で話したりすれば、うまくいかないことが多いでしょう。
見た目の印象では、相手が反発、警戒してしまうからです。穏やかで柔らかく話すことで、「この人は味方だ」と相手に思ってもらうことが大切です。
5.“イエス”と答えられる問題を選ぶ
誰かを説得したい時、いきなり相手と合意することが難しいテーマを選ぶと、相手と“対立”する方向に会話が進んでしまいます。
まずは相手が「はい」と答えられる質問、相手と同意が得られるテーマから始めることが有効です。
6.しゃべらせる
私たちは、相手を説得したいと思った時、ついしゃべり過ぎてしまうものです。
しかし、“話し上手は聞き上手”というように、相手に遠慮なく話してもらうことが相手を説得するポイントになってきます。
まずは相手の話に真摯に耳を傾けて、相手に喋り切ってもらうことが大切です。
7.思いつかせる
人は、他人から押し付けられたアイデアよりも、自分が思いついたアイデアの方を正しいと感じ、思い入れを持つものです。
だからこそ、人を説得したいと思った時、自分のアイデアを押し付けたり、自説の正しさをプレゼンしたりするよりも、たとえば、アイデアの種だけを提供して、相手自身に思いついてもらうことが有効です。
8.人の身になる
「相手の立場だったらどう感じるだろうか」「相手の立場だったらどういう反応をするだろうか」と相手の身になって考えることが大切です。
相手の立場で考えてみることで、相手を説得するヒントが得られるでしょう。
9.同情を寄せる
人は思いやりを求める生き物です。だからこそ「相手に共感する」ことが大切です。
相手の感情や選択に共感し、理解を示し、相手と信頼関係をつくることから始めましょう。
10.美しい心情に呼びかける
人は自分自身を善い人間、尊敬に値する人物であると思いたいものです。
だからこそ、時には論理的な正しさではなく、相手の良心や道徳心に訴えかけることが非常に効果的です。
11.演出を考える
単に情報を伝える、依頼するのではなく、時には相手の感情を動かすための演出も大切です。
相手が興味を持ったり、相手の感情が動いたりするような演出ができないか、考えてみましょう。
12.対抗意識を刺激する
様々なランキングに一喜一憂した経験は誰にでもあるのではないでしょうか。
私たちは「特別な存在」「他の誰よりも優れた存在」になりたいと心の中で思っています。
従って、人を説得したり、心に火をつけたりするうえで、競争意識や対抗意識を刺激することも有効な手段になり得ます。
「誤りを認める」の詳細と実践
本記事のテーマでもある「誤りを認める」について詳しく解説していきます。
1.誤りを認めないとどうなるのか?
私達は人間ですから、何をするにしても完ぺきではなく、人生の中でミスや間違いはつきものです。
だからこそ、「もし自分が間違っていると分かった時にどうするか?」ということが重要です。
自分が誤っていることに気づいたのであれば、素直に間違いを認めることが大切です。
しかし、私たちは年齢や経験を重ねたり、立場が上がったりするにつれて、「それはこうだったので…」「でも、○○○じゃないですか?」といった形で、言い訳や誤魔化しをしてしまいがちです。
とくに、ビジネスにおいて責任者や管理職になるほど、プライドや面子を気にして、間違いを認められないところもあるでしょう。
プライドや面子以外にも、「誤りを認めれば無能だと思われるかもしれない」「責任を追及されるかもしれない」という不安もあるでしょう。
従って、立場や責任がない人でも、素直に自分の誤りを認めることは勇気が必要かもしれません。
カーネギーは以下のように、もし自分が間違えたのなら素直に、自分から先に言ってしまうに限ると強調しています。
(デール・カーネギー『人を動かす』より引用)
確かに、自分を相手に置き換えて考えると、変に言い訳されるよりも素直に間違いを認めてくれた方がよっぽど印象が良いでしょう。
間違いを認めたからといって、相手が自分を嫌う、無能だと断定するといったことはそうありません。
むしろ、誤りを認めず、クドクドと言い訳を口にしたりする方が、人から嫌われたりマイナス評価をされたりすることになるでしょう。
相手や周囲の人からあれこれ指摘される前に、自ら非を認め謝ることで、相手も寛大な態度を示しやすいものです。
「負けるが勝ち」ではありませんが、変に言い訳をするよりも、誤りを認めるほうが有効なのです。
2 過ちを認めることは、相手の重要感を満たすことになる
(デール・カーネギー『人を動かす』より引用)
繰り返しになりますが、カーネギーはとくに相手から批判される状況であるときほど、素直に誤りを認め、相手よりも先に自分の落ち度を批判せよと説いています。
前述した通り、相手に指摘される前に、まず自分の誤りを認める、ということが最善の手です。
相手の指摘で誤りに気付いたのであれば、言い訳や抗弁は口にせず、相手の指摘に感謝し、自分のミスをしっかりと受け入れましょう。
間違いを指摘してくれた人に対して、「あなたのおかげで間違いに気が付くことが出来ました。」と感謝したら相手はどう思うでしょうか。
また、ミスによって引き起こされてしまうかもしれない事態やリスクの重大さの認識をきちんと示したらどうでしょうか。
きっと相手の自己重要感は大いに満たされることでしょう。
相手の指摘に感謝し、自分の過ちを認めるということは、『あなたの意志を尊重しています』というメッセージを相手に伝えることになります。
つまり、過ちを認めることが、相手の自己重要感を満たすことにもなり得るのです。
3 自分の過ちを速やかに認めることは、人間的な成長を後押しする
カーネギーは『人を動かす』の中で、アメリカの南北戦争において、南軍の総司令官であったロバート・リー将軍のエピソードを紹介しています。
リー将軍は、ゲティスバーグの戦闘で部下のピケット将軍が突撃して失敗した責任を一人で背負いました。
(デール・カーネギー『人を動かす』より引用)”
カーネギーは、歴史を紐解いて「誤りを認める」ということの難しさと素晴らしさを説いています。
立場や責任が重くなればなるほど、自分の過ちを素直に認めるということは、困難で勇気の要る行為になるものです。
逆に言えば、自分の誤りを素直に認めるということは、自分の人格を高めることにもつながるものなのです。
4.自分の誤りを素直に認めるために大切な事
お伝えしたように、自分の誤りを認めることは難しいものです。
それを踏まえて、私達はどうすれば、素直に自分の誤りを認めることができるようになるのでしょうか。
私達が自身の誤りを認めようとする際、「自尊心を傷つけられる」「責任問題になるかもしれない」「自分の無能をさらけ出して周囲からどう思われるか分からない」といった不安が生じるものです。
そこで役に立つのが、『人を動かす』と並ぶリーダーシップ開発の名著『7つの習慣』、第1の習慣「主体的である」の考え方です
書籍『7つの習慣』は、私たちが望む人生を送る上で不可欠な習慣が全部で7つ紹介されています。
そして、著者のスティーブン・R・コヴィー博士が、「7つの習慣を実践する上で最も重要な習慣」であると、話しているのが、第1の習慣「主体的である」です。
第1の習慣「主体的である」は別名、“選択の習慣”です。
すなわち、瞬間的な恐れやネガティブや感情に惑わされず、自分の価値観や信念、またありたい姿に則って責任ある選択をすることこそが「主体的である」ということです。
主体的になれば、自身の過ちや失敗も素直に認めることができるでしょう。
コヴィー博士は、主体的な姿勢と態度を身に付けるカギとなるのが、人間だけが持つ「4つの力」であると言います。
- ①自覚:自分の置かれている状況を客観的に把握する力
- ②想像:経験や目の前の情景を超えたその先を想像する力
- ③良心:物事の分別や善悪を区別し、自分の言動が原則と一致しているかを判断する力
- ④自由意思:外的な影響に縛られることなく、意思決定できる力
仮に自分が過ちを犯してしまった時、4つの力を以下のように活用するのです。
- ①自覚:自分の行動や感情を客観視する。自分が失敗を犯し、また、それを認めることへの恐れ、阻害するプライドがあることを自覚し受け入れる。
- ②想像:仮に自分が言い訳して誤りを認めないときに何が起こるかを想像してみる。相手がどう思うか?自分自身に誇れる選択になるかを考えてみる。
- ③良心:過ちと向き合うのか?それとも誤魔化して逃げるのか?どちらのあり方が正しいのかを自分に問う。
- ④自由意志:自分に問いかけた結果に基づいて、自らの意思と責任で選択する。
このように4つの力を意識して行動することで、恐れやプライドに邪魔されず、自分自身に誇れる選択、必要であれば過ちを認める選択ができるようになるでしょう。
まとめ
記事では、デール・カーネギーの『人を動かす』で紹介されている「誤りを認める」の原則を解説しました。
人は完璧な存在ではなく、誰にでも間違いや失敗はつきものです。
社会的動物である私たちにとって、自らの間違いを認めることは、「相手から嫌われてしまわないか」「周囲に無能だと思われないか」といった不安や恐怖を伴うものです。
自尊心やプライド、面子を傷つけけられるような感情も生じるかもしれません。
しかし、ミスや間違いをした時、「いや、それはこういう事情があって~」「あの時は、そう考えていたんです」と言い訳すれば、心の痛みを先延ばしするだけであり、相手の信頼を失う結果で終わってしまうでしょう。
それよりも、速やかに自分の誤りを認める、誤りから生じるリスクを確認する、相手の指摘を受け入れて感謝するといったほうが余程有効です。
自分の誤りを認め自己批判することで、相手は寛容な態度を取りやすくなるものです。
自分の人格を鍛える機会だと捉えて、勇気をもって、誤りを認め素直に謝罪することが大切です。
なお、HRドクターを運営する研修会社ジェイックでは、米国デールカーネギー・アソシエイツ社と提携して、日本でデール・カーネギー研修を提供しています。
「管理職のマネジメント力を高めたい」「営業職の営業力をあげたい」とお考えの人は、以下のデールカーネギー研修、セミナーの情報を参照してください。