穏やかに話す|デール・カーネギー『人を動かす』

穏やかに話す|デール・カーネギー『人を動かす』

仕事の打ち合わせやプライベートの会話で、真剣になればなるほど、自分の意見に確信があればあるほど、議論が佳境になってくると、思わず感情が入ってしまう。

 

このような経験はないでしょうか。コミュニケーションの際に熱が入るあまり、無意識のうちに感情が高ぶってしまうという経験は多くの人にあることでしょう。

 

しかし、態度や話し方が感情的になってしまうことは、人を動かしたり説得したりするうえではネガティブに働くことも多いものです。

 

感情的に自分の意見を通そうとする人に出会った時、皆さんはどんな風に感じるでしょうか。

 

心がザワつくという人もいるでしょうし、相手に激しく迫られると委縮して言葉が出ない人もいるかもしれません。

 

いずれにしても、感情的な態度や物言いを目の当たりにすると、相手と協力関係を築いたり、協働して良いアイディアを生み出していこうという方向にはなかなかなりづらかったりするものです。

 

人間関係のバイブルとして世界中で支持されている書籍『人を動かす』の著者であるデール・カーネギーも、人の心を変えるには怒声よりも親切で友愛に満ちた態度と話し方が重要であると伝えています。

「イソップはクリーサスの王宮に仕えたギリシアの奴隷だが、キリストが生まれる600年も前に、不朽の名作『イソップ物語』を書いた。その教訓は、2500年前のアテネにおいても、また現代のボストンにおいても、バーミンガムにおいても、同じく真実である。太陽は風よりも早くオーバーを脱がせることができる──親切、友愛、感謝は、世のいっさいの怒声よりもたやすく人の心を変えることができる。」
(デール・カーネギー『人を動かす』より引用)

本記事では、デール・カーネギーの著書『人を動かす』より「人を説得する12原則」のひとつとして紹介されている「穏やかに話す」を詳しく解説します。

<目次>

『人を動かす』とデール・カーネギー

記事では最初に「穏やかに話す」の原則が紹介されている書籍『人を動かす』、および著者であるデール・カーネギーを簡単に紹介します。

 

デール・カーネギーとは

デール・カーネギーは、コミュニケーションと自己啓発の分野で大きな成功を収めた作家・講演家です。

 

カーネギーが生まれたのは、1888年、アメリカ・ミズーリ州の貧しい農家でした。カーネギーは、大学を卒業すると、俳優やセールスマンなど、いくつかの仕事に就きます。

 

ある日のこと、カーネギーはYMCAで弁論教室の講師を依頼されます。

 

そして、カーネギーが登壇した弁論教室の講座はたちまちのうちに人気を博すことになりました。

 

その後、カーネギーは独立し、自らの研究所を設立。話し方、スピーチ、プレゼンテーション、人間関係の構築に関する一連のトレーニングプログラムの開発に専念します。

 

研究所でもカーネギーは様々な成果を生み出し、広く知られるようになりました。

 

著書『人を動かす』の概要

カーネギーは、YMCAで教えていた話し方講座の中で、生徒達がプレゼンテーションなどだけでなく、対人関係の強化も必要としていることに気づきました。

 

当時はコミュニケーションや対人関係に関する適切な教材が少なかったこともあり、カーネギーは独自のプログラムや教材の開発も並行して進めていきました。

 

そして、開発した教材や講義経験を基に、一冊の本にまとめあげ、1936年に書籍『人を動かす』として出版します。

 

『人を動かす』には、他人に好かれ、周囲と良好な関係を築き、他人に影響を与えるための原則が記されています。

 

カーネギー自身の苦悩や経験に基づくエピソードも数多く盛り込まれ、数多くの人から支持された結果、全世界で1500万部以上を発行するベストセラーとなりました。

 

出版から80年以上が経過した今も、amazonのビジネス書ランキングなどでランクインし続ける同書の内容は、時代や文化を超える原則であるといえるでしょう。

 
『人を動かす』について知りたい人は、以下の記事で内容を要約しているので参考にしてください。

「人を説得する12原則」とは

前章ではデール・カーネギーの著書『人を動かす』の概要を紹介しました。

 

書籍『人を動かす』は、「人を動かす三原則」「人に好かれる六原則」「人を説得する十二原則」「人を変える九原則」の4パートから構成されており、全部で30の原則が紹介されています。

 

本記事のテーマである「穏やかに話す」は、「人を説得する12原則」のひとつです。

 

「穏やかに話す」の詳細に入る前に、本章では「人を説得する12原則」の一覧を簡単に解説します。

 

1.議論を避ける

自分の意見を相手に受け入れてもらいたいならば、まず何よりも議論を避けるべきであるという原則です。

 

正面からの議論で勝負をつけるのではなく、お互いに同意できることから入っていったり、相手自身に気付かせたりする。

 

自分の意見を受け入れてもらうためには、この姿勢が大切です。

 

2.誤りを指摘しない

周囲の誰かが間違った言動をするのを目にすると、私達はついつい指摘したくなるものです。しかし、面と向かって相手の間違いを指摘するのは禁物です。

 

カーネギーは、『人を動かす』の中で、相手の自尊心やプライドを傷つけるような形で誤りを指摘するのは厳に慎むべきであると強調しています。

 

3.誤りを認める

人間は誰しも、生きていれば間違いを犯すこともあるでしょう。

 

しかし、私たちは経験を積み、年齢を重ねたり、役職が上がっていったりするに連れて、自分の誤りを認めることが苦手になりがちです。

 

しかし、「自分の誤りだ」「判断を間違えた」と素直に誤りを認める姿勢が周囲との人間関係を良好にするものです。

 

4.穏やかに話す

相手に対し、「自分はあなたの味方である」ことを印象付けるためには、穏やかな口調で、物腰を柔らかくして話すことが重要です。

 

冒頭で記載した通り、感情的になり、相手と対立するような態度を取ってしまえば、相手とのコミュニケーションがうまくいくことは少なくなってしまうでしょう。

 

「穏やかに話す」は、次章で詳しく解説します。

 

5.“イエス”と答えられる問題を選ぶ

人は自分と異なる意見、対立する意見を持つような相手に対しては警戒心を抱くものです。

 

従って、何かを議論したり、相手を説得したりする際、いきなり相手と対立する話題、確信に入るようなテーマから入ってしまうと、ポジティブな返事を引き出すことは難しくなります。

 

まずは、相手が受け入れられる話題、イエスと答えられる問題を選ぶことが肝心です。

 

6.しゃべらせる

人は、成功体験や自慢話など「自分の話を誰かに聞いて欲しい」という願望を持っています。

 

だからこそ、あなたがよい聞き手になり、相手に思う存分喋らせれば、相手はあなたに好印象を抱き、あなたの話を聞くようになります。

 

「人を説得したい!」と思うときほど、まず自分自身が相手の話の良い聞き手になることが大切です。

 

7.思いつかせる

人は他人から何かを強制されることを嫌がります。

 

これは、心理学で「心理学リアクタンス」と呼ばれる心の動きであり、周囲に強制されると、心の中で無意識に反発する感情が生じます。

 

相手を説得したい、相手を動かしたいのであれば、自分の意見を押し付けるのではなく、相手が自分自身で思いつかせたり、いくつかの選択肢の中から自分自身で決めたように錯覚させたりすると効果的です。

 

8.人の身になる

相手を説得したいのであれば、まず相手を理解することが大切です。相手を理解するには、相手の立場から考えることです。

 

例えば、何かを指摘したり提案したりする際においてはも「あなたの立場であれば、私もあなたのように判断するだろう」と相手の身になることが有効に働くでしょう。

 

9.同情を寄せる

人は共感されることを求める生き物です。「あなたがこんな風に感じることはよく理解できる、無理もない」と相手に同情を寄せる、相手に共感することで、相手はあなたに好印象を抱き、あなたの意見に賛同しやすくなるものです。

 

10.美しい心情に呼びかける

人は誰しも良心があり、自分自身が良い人物である、尊敬に値する人物であると思いたいものです。

 

だからこそ、相手を品行方正で分別のある人物として扱うことによって、相手の良心を刺激することができます。

 

提案された内容に正当性があり、自身の尊厳を高めてくれるものであれば、相手が自ら進んで選択したり行動してくれたりする可能性は高まるでしょう。

 

11.演出を考える

同じ内容でも、伝え方一つで相手を説得できるかどうかは大きく変わってきます。

 

ただ事実を伝えるのではなく、相手が興味を持ってくれる演出をすることがカギを握ります。相手の心を動かせないか、サプライズや演出を考えてみましょう。

 

12.対抗意識を刺激する

人間は誰しも「特別な存在でありたい」「優れた存在でありたい」と願っています。

 

従って、提案にうまく競争性やゲーム性を持たせることによって、相手に対抗意識を芽生えさせることができ、仕事の質やパフォーマンスを向上させることが可能になるでしょう。

「穏やかに話す」の詳細と実践

本記事のテーマでもある「穏やかに話す」について詳しく解説します。

 

私たちの態度・話し方で、コミュニケーションの結果は大きく変わる

私たち人間は、一人ひとりそれぞれ違った考え方を持っています。また、立場等の違いによっても、異なる利害や思惑が生まれることもあるでしょう。

 

従って、ビジネスや日常生活の中で、相手と意見や見解の食い違いが生まれることは、しばしばあります。

 

相手と意見や見解で食い違いが生じた、相手の主張に納得できない、受け入れられないという場合、私たちの口調や態度につい感情が出てしまうこともあるでしょう。

 

しかし、感情的な態度や話し方で相手に接すれば、相手と対立関係に陥ってしまい、相手を説得できないどころか、人間関係にヒビが入ってしまう結果にもなりかねません。

「相手の心が反抗と憎悪に満ちているとき、いかに理を尽くしても説得することはできない。子供を叱る親、権力を振り回す雇い主や夫、口やかましい妻、こういった人たちに対するとき、人間は自分の心を変えたがらない、ということをよく心得ておくべきだ。人を無理やりに自分の意見に従わせることはできない。しかし、優しいうち解けた態度で話し合えば、相手の心を変えることもできる。」
(デール・カーネギー『人を動かす』より引用)

カーネギーは上記のように話しています。

 

“反抗と憎悪”というと大げさですが、相手が警戒心や反発心を抱いていれば、こちらが言っていることは半分ぐらいしか耳に入らない、端から断固として受け入れないと決めている、といったことになりがちです。

 

「自分自身がそういった状態で相手の話を聞いたことがある」という経験をしたことがある方も多いのではないでしょうか。

 

相手がこのような状態であれば、いかに論理を尽くして説得しようとしても、相手の心を動かすことは難しいでしょう。

 

逆に言えば、相手に対して警戒心や反発心を生じさせない穏やかな態度・話し方で接することで、会話の方向性、得られる結果は大きく変わる可能性があるのです。

 

穏やかな態度・話し方は、意識と習慣で自分のものにできる

誰かを説得する際は、まず「私はあなたの味方ですよ」というメッセージを相手に伝えることが肝心です。

 

そのための第一歩が、穏やかな態度・話し方で相手に接するということです。カーネギーは以下のように言っています。

「”バケツ一杯の苦汁よりも一滴の蜂蜜のほうが多くのハエがとれる”ということわざはいつの世にも正しい。人間についても同じことが言える。もし相手を自分の意見に賛成させたければ、まず諸君が彼の味方だとわからせることだ。これこそ、人の心をとらえる一滴の蜂蜜であり、相手の理性に訴える最善の方法である」
(デール・カーネギー『人を動かす』より引用)

穏やかで落ち着いた雰囲気の話し方の人と、対話するシーンを想像してみてください。

 

安心して楽しく会話できそうだ、自分の意見も聞いてもらえそうだと思うのではないでしょうか。

 

このように、落ち着いた雰囲気の話し方や口調、加えて、相手との共通点や相手と合意できる話題から話に入っていくことはとても有効です。

 

「あ、この人は自分の味方なんだな」と相手に受け入れてもらえるよう、穏やかな雰囲気の話し方、物腰で接することを心がけましょう。

 

穏やかな態度・話し方は、習慣化することで、確実に身に付けることができるものです。

 

特に、接客行や営業職など、周囲と心地よい人間関係を築きたい人、初対面の相手に好印象を持ってもらいたい人は、穏やかな態度と話し方を普段の人間関係の中で意識して習慣づけることをお勧めします。

 

アンガーマネジメントで感情をコントロールする

ここまでで、穏やかな口調、物腰柔らかな態度で接することが人間関係においてとても大切だとお伝えしました。

 

しかし、普段の仕事や私生活の中で、相手の対応にイラッとしれたり、感情的になったりする場面もあるものです。

 

このような状況で「穏やかに話す」を実践するために役立つのが、怒りや苛立ちといった感情と上手く付き合うアンガーマネジメントの技法です。

 

普段は落ち着いて物腰の柔らかな人でも、イライラが溜まってくると、「不機嫌になり、物や人に当たる」「虫の居所が悪くなり、友達や家族に愚痴をこぼす」といった、怒りや不機嫌さが表に出てきてしまうことは少なくありません。

 

このような「怒り」の感情はどこから来ているのでしょうか。

 

怒りの感情が生まれる源は、主に自分が大切にしている「~すべきだ」「~であるべき」という価値観が、他者によって裏切られたり、非難、侵害されたりしたときに生じると言われます。

 

たとえば、「時間は守るべきだ」と考えている人は、遅刻したりや会議で長々とくだらない話を続けたりする人に対して、より強い苛立ちを感じることでしょう。

 

また、人一倍責任感が強い人であれば、無責任な言動、他責にする人を見かけると、「許せない!」という怒りがふつふつと湧いてくるかもしれません。

 

このように、怒りの感情を生み出している要因は、「他人」であると同時に、「自分自身の価値観(大切にしたい規範)」であったりもするのです。

 

従って、まず自分自身の価値観を客観的に把握し、「自分はどんな刺激や出来事に反応しやすいのか?感情的になりやすいのか?」を明確にすると、アンガーマネジメントにとても役立ちます。

 

次に大事なポイントは、怒りというのは一種の生理反応だということです。

 

ですから、怒りやイライラが生じたとき、無理やり「これぐらいで感情的になってはいけない」「この程度で怒るべきではない」と言い聞かせて、“怒らないようにする”、“自分の感情に蓋をする”と感情的にしんどくなってしまいます。

 

アンガーマネジメントでも「怒るときには怒り、怒らなくていい場面では怒らないようにする」という考え方を基本に据えています。

 

大切なのは、「怒りに任せて行動しない」ことであり、「怒りに任せて行動して、望む結果を得られなくなる」事態を避けることです。

 

怒りの感情への対処法として、アンガーマネジメントには、いくつかのやり方があります。

 

その中で最もシンプルな方法が、怒りのピークである「最初の6秒をやりすごす」というものです。

 

怒りの感情は、瞬間的に沸き起こるものであり、約6秒でピークがやってきます。

 

この6秒の間に行動してしまうと、怒りに身を任せた態度や振る舞いにつながってしまいます。したがって、最初の6秒間をやり過ごすことが肝心です。

 

怒りの感情を感じたら、いま自分が怒っている原因、怒りの原因となった自分の価値観を紙や手のひらに書いてみる、あるいは、またはその場をいったん離れクールダウンしてから戻ってくるなどを行うと良いでしょう。

 

怒りを感じた時、感情的になる時間をやり過ごせることができれば、衝動的に人間関係を壊すような言動を取ったり、感情的な態度や物言いになってしまったりすることを避けられるでしょう。

 

アンガーマネジメントの実践については、以下の記事でも詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。

まとめ

記事では、デール・カーネギーの書籍『人を動かす』で書かれている原則「穏やかに話す」を解説しました。

 

誰かと話し合ったり、説得したりする場合、「穏やかに話す」ことが大切です。

 

感情的な態度になってしまったり、怒りや苛立ちを相手にぶつけるようなことをしてしまったりすれば、相手は警戒や反発モードに入ってしまい、どんなに理を尽くして説得しても、相手の耳に届くことは無いでしょう。

 

逆に、警戒した態度の相手でも、自分が穏やかで打ち解けた態度で接し、「あなたの味方・仲間です」というメッセージを送ることができれば、相手のガードは解け、落ち着いた雰囲気でコミュニケーションを交わすことが可能になります。

 

記事では、「穏やかに話す」を実践する処方箋として、アンガーマネジメントを紹介しました。

 

怒りを生み出す基になる自分の価値観を把握したり、怒りのピークをやり過ごす「6秒ルール」を実践したりすることで、ネガティブな感情を表したコミュニケーションを避けることができるでしょう。

 

相手との会話を建設的なものとし、周囲に影響力を発揮する上で、ぜひ「穏やかに話す」を実践してみてください。

 

なお、HRドクターを運営する研修会社ジェイックでは、米国デールカーネギー・アソシエイツ社と提携して、日本でデール・カーネギー研修を提供しています。

 

「管理職のマネジメント力を高めたい」「営業職の営業力をあげたい」とお考えの人は、以下のデールカーネギー研修、セミナーの情報を参照してください。

著者情報

近藤 浩充

株式会社ジェイック|取締役 兼 常務執行役員

近藤 浩充

大学卒業後、情報システム系の会社を経て入社。
IT戦略事業、全社経営戦略、教育事業、採用・就職支援事業の責任者を経て現職。企業の採用・育成課題を知る立場から、当社の企業向け教育研修を監修するほか、一般企業、金融機関、経営者クラブなどで、若手から管理職層までの社員育成の手法やキャリア形成等についての講演を行っている。
昨今では管理職のリーダーシップやコミュニケーションスキルをテーマに、雑誌『プレジデント』(2023年)、J-CASTニュース(2024年)、ほか人事メディアからの取材も多数実績あり。

著書、登壇セミナー

・社長の右腕 ~上場企業 現役ナンバー2の告白~
・今だからできる!若手採用と組織活性化のヒント
・withコロナ時代における新しい採用力・定着率向上の秘訣
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