演出を考える|デール・カーネギー『人を動かす』

演出を考える

私達は、日々、無数の商品やサービスに囲まれて生活しています。

 

商品・サービスがあふれた現代社会では、どんなに優れたものであっても、何の工夫もなく並べただけでは売れません。

 

そして、技術が進化した中で、市場にあふれる商品・サービスには機能的には微々たる違いしかない場合が増えています。

 

では、その中で売れ行きの違いを決めるものは何か? 違いを決める要因のひとつが、CMやプロモーションなどの「演出」です。

 

コミュニケーションやリーダーシップ教育の権威として知られるデール・カーネギーも、1936年の時点で

現代は演出の時代である。単に事実を述べるだけでは十分ではない。事実に動きを与え、興味を添えて演出しなければならない。興行的な手法を用いる必要がある。映画、ラジオ、テレビなど、皆この手法を使っている。人の注意を引くには、これによるのが何よりも有効だ
(デール・カーネギー『人を動かす』

といっています。

 

人の関心を惹きつける、人を動かす上で、「演出」は大切です。

 

本記事では、デール・カーネギーの「演出を考える」をテーマに、人間関係の中で「演出を考える」を実践するためのポイントを解説するとともに、「演出を考える」の原則が紹介されている書籍『人を動かす』と人を説得する12原則を紹介します。

<目次>

『人を動かす』とデール・カーネギー

最初に書籍『人を動かす』と著者デール・カーネギーについて簡単に紹介します。

 

デール・カーネギーとは?

デール・カーネギーは、1888年、アメリカのミズーリ州の農家に生まれました。

 

高校を卒業したカーネギーは、地元の教師養成学校に入学し、ディベートサークルで活躍します。

 

ここでカーネギーは、スピーチのコンテストで優勝するなど、雄弁家として名を馳せることになりました。

 

カーネギーは大学卒業後、営業職の仕事に就き、お金をためてニューヨークに移住し、俳優になることを目指します。

 

俳優の仕事では思うように成果が出なかったカーネギーでしたが、ある時、YMCAで話し方教室の講師を担当する機会に恵まれます。

 

カーネギーの授業は瞬く間に人気を博すことになり、カーネギーの人生を変えるターニングポイントとなります。

 

後にカーネギーはYMCAから独立し、自身の研究所を設立します。

 

研究所でもカーネギーは数々の成果を残し、1955年にカーネギーが死去するまで、カーネギーの「話し方教室」、またプレゼンテーションやコミュニケーション講座はアメリカ国内で750箇所、世界15か国に拡がることになります。

 

『人を動かす』の概要

カーネギーの名を一躍有名にしたのが、1936年に出版された書籍『人を動かす』です。

 

『人を動かす』には、私たちが好ましい人間関係を築き、人生を成功に導くための方法が書かれています。

 

人間関係を成功させる方法をテーマにした本は他にもありましたが、同書は誰にとっても理解でき実践できる分かりやすい書き方や事例が記されていたため人気を博しました。

 

出版時は人気となっても、時間の経過とともに売れなくなるビジネス書は数多いものですが、『人を動かす』は発売から90年近い現在でもAmazonのビジネス書ランキングに登場するなど、世界中で売れる一冊となっています。

 

『人を動かす』で紹介されている原則が、時代を超え、文化を超えて受け入れられる本物であるという証です。

 
『人を動かす』について知りたい人は、以下の記事で内容を要約しているので参考にしてください。

人を説得する12原則

書籍『人を動かす』は、「人を動かす3原則」「人に好かれる6原則」「人を説得する12原則」「人を変える9原則」の4パートから構成されており、全部で30の原則が紹介されています。

 

本記事のテーマである「対抗意識を刺激する」は、「人を説得する12原則」のひとつです。

 

「人を説得する12原則」では、自分の要望を受け入れてもらい、相手に主体的に動いてもらう上で重要な12の原則が書かれています。

 

「演出を考える」の詳細に入る前に、本章では「演出を考える」の一覧を簡単に紹介しましょう。

 

1.議論を避ける

議論をして相手を言い負かせば、自分は良い気分になるかもしれません。しかし、負けた相手はどんな気持ちになるでしょうか。

 

たとえ、論破されたとしても、心の底ではあなたに反発心を抱いたり、感情的には負けを受け入れていなかったりということも多いでしょう。

 

このような状態になれば、相手があなたの意見に納得して動いてくれることが期待できません。

 

つまり、議論に勝っても、人を動かすことには役立たないのです。

 

正面切って相手と議論することは、多くの場合、大きな損失を被るとして、カーネギーは議論を避けることの大切さを強調しています。

 

2.誤りを指摘しない

周囲からみるとどんなに間違った行動に見えても、本人は「正しい」と思っていることが多いものです。

 

従って、正面から誤りを指摘しても、相手は機嫌を損ねたり、「やむを得なかったのだ」と自分を守る姿勢に入ってしまったりします。

 

つまり、議論に勝つことを同じで、誤りを手厳しく指摘することは、「相手を動かす」ことにつながらないのです。

 

正面から指摘するのではなく、婉曲に伝える、相手自身に気付いてもらうといったアプローチが良いでしょう。

 

3.誤りを認める

自分が過ちや失敗をしてしまった時は、相手に言われるよりも先に自分から謝罪することが有効です。

 

素直に自分の誤りを認め、謙虚な姿勢を示すことで、相手には話を聞く余裕が生まれます。

 

あなたが提案するリカバリー案などを受け入れてくれる可能性も高まるでしょう。

 

4.穏やかに話す

相手に味方だと思ってもらうためには、話し方が重要です。

 

穏やかで友好的な話し方で接すれば、相手の警戒も解け、打ち解けた雰囲気でコミュニケーションができるでしょう。

 

相手が、あなたの意見を理性的、好意的に聞いてくれる状況をつくることが大切です。

 

5.“イエス”と答えられる問題を選ぶ

人は、“イエス”を重ねることで、徐々に「相手を受けいれるモード」に入っていきます。

 

交渉などで相手からポジティブな返事を引き出したいときは、相手が“イエス”と答えられる話題から入ることが大切です。

 

相手と合意していること、相手と共有していることを確認して、“イエス”の答えを引き出していきましょう。

 

その上で、相手との交渉を要するテーマに入っていくことが大切です。

 

6.しゃべらせる

信頼関係を築きたい、動かしたい人がいるなら、こちらは聞き役に徹することが肝心です。

 

心置きなくしゃべってもらうことで、相手は自然と自分に好印象を持ってくれるようになるでしょう。人は自分自身のことに一番興味を持っています。

 

だからこそ、まずは「自分自身の意見」を聞いて欲しいものです。相手の意見を聞き切ることで、相手もあなたの意見を聞いてくれる姿勢になるでしょう。

 

7.思いつかせる

人は、他者から押し付けられた意見よりも、自分で思いついた考えを大切にするものです。

 

こちらの意見を一方的に押し付けたり、命令したりするよりも、相手に相談を持ちかけたり質問したりして、相手に考えてもらい、それが自分の発案だと思えるようにしましょう。

 

自分の考え、“マイベイビー”だと思えれば、相手は主体的に行動し始めるものです。

 

8.人の身になる

人を動かそうとするときは、まずは相手の立場・視点で考えることが大切です。

 

「自分が相手の立場ならどう感じるか?」「相手は何を欲しているだろうか?」「相手にどう聞こえるだろうか?」と相手の身になって考えてみることで、効果的なアプローチが見えてくるでしょう。

 

9.同情を寄せる

人は、他者からの同情や共感、承認に飢えているものです。従って、相手を味方につけたり、動かしたりするには、相手に同情を示すことが大切です。

 

「あなたがそう思うのは、もっともです。もし私があなたなら、やはりそう思うでしょう」といった形で、心からの同情の言葉を伝えることで、相手はあなたに好意を持つでしょう。

 

10.美しい心情に呼びかける

人はみな、自分自身を「立派な人間である」「高潔で道徳的な人間である」と思いたいものです。

 

人を動かすには、こうした美しい心情に呼びかけることも効果的です。本人が望むような人間、立派で高潔で道徳的な人間とみなして相手に接しましょう。

 

これにより、相手は期待に応えようと行動するものです。

 

11.演出を考える

事実や要件をただ伝えても、なかなか相手は動いてくれないでしょう。相手が興味・関心を持てるような演出を工夫して、伝えるようにしましょう。

 

「演出を考える」の詳細は、次章で詳しく解説します。

 

12.対抗意識を刺激する

人に負けたくない、自分が1番でありたい、といった気持ちは誰にでもあるものです。このような対抗意識を刺激することも、人を説得する効果的な方法のひとつです。

 

周囲と競い合う雰囲気や仕掛けをすることで、今までよりも高いパフォーマンスを発揮させることができるでしょう。

「演出を考える」を実践するためのポイント

本章では、記事のテーマである「演出を考える」の詳細と活用するためのポイントを解説します。

 

1.なぜ「演出」が重要なのか?

冒頭で触れたように、商品・サービスがあふれた現代社会の中で、売れ行きの違いを生み出すひとつの要因は、広告やプロモーションであり、そこでなされる「演出」です。

 

たとえば、最近では、飲食店に行ったり、空港でお土産を買おうと思ったりすると、お店の歴史や商品の開発ストーリーが紹介されていることがよくあります。

 

あれもひとつの「演出」です。

 

単に

[おススメ] カレー

と書かれているよりも、例えば、

1970年の創業当時、インドの名店●●で修行して帰国した店主の●●が“日本人の口に合うカレーを作りたい”と試行錯誤しながら作り上げた17種類のスパイスを配合して作り上げた“和風カレー”です。
スパイシーな辛みと共に、どこか懐かしい味がする。当店一番人気のカレーです。

と書かれていると、何となく「美味しそう」「注文してみよう」と思ったりするものです。これも一種の演出です。このように演出には人を動かす力があるのです。

 

演出はなぜ重要なのか。カーネギーの言葉を引用しながら、改めて見ていきましょう。

“現代は演出の時代である。単に事実を述べるだけでは十分ではない。事実に動きを与え、興味を添えて演出しなければならない。興行的な手法を用いる必要がある。映画、ラジオ、テレビなど、皆この手法を使っている。人の注意を引くには、これによるのが何よりも有効だ。”
(デール・カーネギー『人を動かす』より引用)

『人を動かす』の本が出版されたのは、1936年のことです。商品やサービスの種類やバリエーションは、現代よりも圧倒的に少なかったに違いありません。

 

しかし、上記に引用したように、カーネギーはこの時代においても既に「現代は演出の時代」だと強調しています。

 

現在、私たちが普段目にしているテレビやインターネット、スマートフォンで流れている広告は、ほとんどすべて「演出」です。

 

何の「演出」もされずに、私たちの目に触れる商品・サービスは殆どないと言ってよいでしょう。私たちは普段から「演出」に慣れっこになっているともいえます。

 

本章の冒頭で紹介したような“飲食店における商品の開発ストーリー”なども、20年前はまだ珍しいものでしたが、今では当たり前のものとなり、始めた見た時のような驚きや感動はなくなっているでしょう。

 

このようにカーネギーの時代以上に「演出」に慣れ親しんでいる現代だからこそ、カーネギーがいう「事実に動きを与え、興味を添える」演出は、当時以上に重要な役割を担っているといえます。

 

2.「演出」は、人を説得する上でも重要になる

私達の日常生活では、相手への頼み事、商談の交渉…など、他人を説得して動かしたい状況がしばしば訪れます。

 

しかし、この時も、依頼をそのまま伝えただけでは、相手は期待するように簡単には動いてくれないこともあるでしょう。

 

「演出」は、人を動かしたり説得したりする上でも重要です。

 

例えば、忙しそうにしている上司に、依頼や相談があるとしましょう。

 

この時、もし「部長、今お時間よろしいですか?」といきなり切り出せば、「申し訳ない、いま忙しいので、また今度にしてもらえるかな」と返されてしまうかもしれません。

 

しかし、たとえば、「部長、○○の件で”今1分だけ”お時間よろしいですか?」と伝えれば、「1分だけなら…話を聞こうか」と時間をもらえる可能性は高まるかもしれません。

 

実際には、上司が質問をしてくると、話は1分で終わらず5分、10分と続くこともあるかも知れません。

 

しかし「1分だけ」と加える事で、忙しい上司も「手短に報告してくれるなら…」と、その場で時間をくれる可能性は高まるでしょう。

 

このように「いま1分だけ」と添えるのも、相手の関心を惹きつけるための「演出」です。

 

「演出」は大々的なものばかりではありません。相手の状況、気持ちを考えたうえで、ちょっとした「演出」を心掛けると、人の気持ちは動くものです。

 

3.「演出の達人」から学びを吸収する

人の関心を引いたり、説得したりする上で、演出が重要であることをお伝えしました。

 

では、実際にはどんな演出をすればいいでしょうか。

 

どんなタイミングで、どのように伝えるか?・・・演出の仕方や工夫を考え出すと、無限というぐらいのバリエーションがあります。

 

だからこそ、「実際の場面でどんな演出を取り入れればいいのか、なかなか分からない…」という人もいるかもしれません。

 

そこで、ビジネスや私生活で相手を動かす効果的な演出を身に付ける方法として、お勧めなのが「演出の達人」の行動から学びを得るというものです。

 

先ほど紹介した、上司に時間を取ってもらう際の伝え方などはよく使われているものです。

 

“人を動かす演出のうまい事例”は、気を付けて見てみると、身の回りに意外とたくさんあるものです。

 

たとえば、新規開拓の営業電話で相手に興味を持たせるトーク、食品売り場で新商品を手に取ってもらうマネキンさんの声掛けの仕方、また、メンバーの気持ちを動かすことがうまい管理職や幹部、上司や他部署への頼みごとがうまい同僚…など、「演出の達人」は身近にもいるものです。

 

「人を動かす演出」にアンテナを立てていると、どんどん工夫やテクニックを発見できます。

 

営業の仕事であれば、同じ商品・サービスを提案しているのに、どんどん契約を決めてくる人もいればそうでない人もいます。

 

売れている人は、どんな風に伝えているのか、そこにアンテナを立てておくと、多くの学びがあります。

 

他に、YouTubeなどの動画を参考にしても良いでしょう。

 

たとえば、YouTuberとしても活躍中している講演家、インフルエンサーの鴨頭嘉人(かもがしら よしひと)さんの動画なども参考になります。

 

https://www.youtube.com/c/kamohappy

 

鴨頭さんは講演でもトークショーでも、常に人を沸かせる「演出の達人」です。

 

話す内容は、当たり前のこと、一見ありふれたテーマも少なくありません。

 

しかし、鴨頭さんは、ありふれた内容でも、時には場を沸かせ時にはしんみりさせながら、伝えたいメッセージをスゥっと相手の頭の中に浸透させていきます。

 

鴨頭さんは日本有数の講演とセミナーのプロですから、なかなか同じように・・・というわけにはいかないかもしれません。

 

しかし、緩急やテンポの付け方、本題を伝える前にどんな前置きをして、どのタイミングで切り出すのか・・・といった相手を惹きつける話し方の演出は、商談やプレゼンなどで大いに活用できるものでしょう。

 

このように身近にいる「人を動かす達人」から、演出のやり方を吸収する習慣を付けることがお勧めです。

まとめ

記事では、デール・カーネギーの『人を動かす』で紹介されている「演出を考える」の原則を解説しました。

 

お伝えしたように、私達は、無数の商品やサービスに囲まれた現代社会で生活しています。

 

これほどまでに商品・サービスがあふれた現状では、たとえどんなに優れた商品やサービスであっても、何の工夫もなくただ並べただけでは売れません。

 

このような現状で、ヒットするかしないか?お客さんに手に取ってもらえるかどうか?を決める大きな影響力を持っているのが、CMやプロモーションなどの「演出」です。

 

カーネギーが「現代は演出の時代である」と提言してから何十年も経った中で、演出が私たちの社会に与えるインパクトは、さらに高まっていると言えるでしょう。

 

「演出」は物やサービスの売れ行きだけでなく、人を動かしたり説得したりする上でも重要です。

 

ただ事実や要望をそのまま伝えるのではなく、相手の状況、気持ちを考えながら「演出」を盛り込むことで、相手の気持ち・行動に変化を与えられる可能性もグッと高まるでしょう。

 

ぜひ身の周りにいる「演出の達人」がしている演出の工夫にアンテナを立てて、人を動かす演出を自分のものにしていただければと思います。

 

なお、HRドクターを運営する研修会社ジェイックでは、米国デールカーネギー・アソシエイツ社と提携して、日本でデール・カーネギー研修を提供しています。

 

「管理職のマネジメント力を高めたい」「営業職の営業力をあげたい」とお考えの人は、以下のデールカーネギー研修、セミナーの情報を参照してください。

著者情報

近藤 浩充

株式会社ジェイック|取締役 兼 常務執行役員

近藤 浩充

大学卒業後、情報システム系の会社を経て入社。
IT戦略事業、全社経営戦略、教育事業、採用・就職支援事業の責任者を経て現職。企業の採用・育成課題を知る立場から、当社の企業向け教育研修を監修するほか、一般企業、金融機関、経営者クラブなどで、若手から管理職層までの社員育成の手法やキャリア形成等についての講演を行っている。
昨今では管理職のリーダーシップやコミュニケーションスキルをテーマに、雑誌『プレジデント』(2023年)、J-CASTニュース(2024年)、ほか人事メディアからの取材も多数実績あり。

著書、登壇セミナー

・社長の右腕 ~上場企業 現役ナンバー2の告白~
・今だからできる!若手採用と組織活性化のヒント
・withコロナ時代における新しい採用力・定着率向上の秘訣
・オンライン研修の「今と未来」、社員育成への上手な取り入れ方
・社長が知っておくべき、業績達成する目標管理と人事評価
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・社長の右腕 10の職掌 など

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