笑顔を忘れない|デール・カーネギー『人を動かす』

笑顔を忘れない|デール・カーネギー『人を動かす』

私たちは誰でも、「心地よいコミュニケーションをしたい」「嬉しい気持ちになりたい」「楽しみたい」という思いを持っています。だからこそ、相手に対して普段から笑顔を絶やさない人の周りには、自然と人の輪が生まれます。それだけでなく、笑顔には私たちが想像する以上にとても大きなパワーがあります。

 

人間関係の普遍的な原則を記した名著『人を動かす』にも、「笑顔を忘れない」という原則が挙げられています。この記事では、人に好かれる原則のひとつである「笑顔を忘れない」について詳しく解説します。

 

なお、本原則は書籍の表記では「笑顔を忘れない」ですが、デール・カーネギー研修の受講者に配られるゴールデンブックでは「笑顔で接する」と、より分かりやすい表記になっています。記事内では書籍の表現に合わせて解説していきます。

 

 

<目次>

「笑顔を忘れない」の詳細と実践

最初に「笑顔を忘れない」の原則を詳しく解説します。

 

動作は言葉よりも雄弁である

笑顔の重要性について、カーネギーは以下のように話しています。

“動作は言葉よりも雄弁である。微笑みはこう語る──「私はあなたが好きです。あなたのおかげで私はとても楽しい。あなたにお目にかかってうれしい」犬がかわいがられるゆえんである。我々を見ると、犬は喜んで夢中になる。自然、我々も犬がかわいくなる。赤ちゃんの笑顔も同じ効果を持つ。”
(デール・カーネギー『人を動かす』より引用)

犬も赤ちゃんも、私たちから愛情を得ようと考えて、コミュニケーションをしているわけではありません。犬が可愛がられるのは、飼い主に全力でしっぽを振って喜びを表現しているからであり、赤ちゃんが周りの大人から好かれるのは笑顔を浮かべているからです。

 

私たちは、表面上の言葉以上に、表情や態度に相手の真意を感じるものです。だからこそ、コミュニケーションにおける「笑顔」は大切なのです。

 

笑顔がもたらす効果とは?

笑顔は私たちにどのような効果をもたらすのでしょうか?『人を動かす』の中でカーネギーは、心理学者ジェイムズ・マッコネル博士の以下の言葉を引用しています。

“「笑顔を見せる人は、見せない人よりも、経営、販売、教育などの面で効果を上げるように思う。笑顔の中には、渋面よりも豊富な情報が詰まっている。子供たちを励ますほうが、罰を与えるよりも教育の方法として優れているゆえんである」”
(デール・カーネギー『人を動かす』より)

ビジネスにおいて、笑顔でいることは具体的にどんな恩恵があるのか?身近な例で考えてみましょう。もし、どこかのお店に買い物に出かけたとします。

 

もし、ムスっとした表情で接客する店員と笑顔を浮かべながら楽しそうに接客する店員がいたら、どちらに声をかけたくなるでしょうか?きっと、ほとんどの人が後者と答えるでしょう。

 

店員さんの立場で考えれば、笑顔でいることが、より多くのお客様から声をかけられ、相談に乗る機会が増え、自分の売上すなわち仕事の成果にも直結するわけです。

 

ファン顧客もどんどん増え、よりたくさんの金銭的報酬を得ることにもつながるでしょう。このように、笑顔は、私たちのビジネスにおいても確かな恩恵をもたらしてくれるものです。

 

また、笑顔は目に見えなくても、声に乗って相手に届きます。

“笑顔の効果は強力である。たとえその笑顔が目に見えなくても、効果に変わりがない。アメリカ中の電話会社が実施している一つの企画がある。〝電話パワー〟と名づけられたこの企画は、サービスや商品を売るのに電話を使うセールスマンたちを対象にするもので、「電話でセールスをする時は、笑顔を忘れるな」というのがモットーなのである。〝笑顔〟は声にのって相手に伝わるというのだ”
(デール・カーネギー『人を動かす』より)

私たちはビジネスシーンの中で、電話でやり取りすることも多いでしょう。上記にあるように笑顔は顔の見えない相手にも伝わります。

 

同じ状況、同じ内容であっても、笑顔の場合とそうでない場合とで、相手が受ける印象は大きく変わります。

 

笑顔で相手に接することは、仕事がやりやすくなったり、家庭が円満になったりするなど、笑顔はあらゆる人間関係にポジティブな効果を発揮します。

 

笑顔を作ることは、自分も幸せにする

笑顔でいることは、相手だけではなく、自分も幸せにします。

“世の中の人は皆、幸福を求めているが、その幸福を必ず見つける方法が一つある。それは、自分の気の持ち方を工夫することだ。幸福は外的な条件によって得られるものではなく、自分の気の持ち方一つで、どうにでもなる。幸不幸は、財産、地位、職業などで決まるものではない。何を幸福と考え、また不幸と考えるか──その考え方が、幸不幸の分かれ目なのである。

 

たとえば、同じ場所で同じ仕事をしている人がいるとする。二人は、だいたい同じ財産と地位を持っているにもかかわらず、一方は不幸で他方は幸福だということがよくある。なぜか? 気の持ち方が違うからだ。”
(デール・カーネギー『人を動かす』より)

“楽しいから笑顔になるんじゃない。笑顔になるから楽しくなるんだ”といった言葉は聞いたことがあるかもしれません。

 

最近の脳科学の研究では、笑顔になることで、幸福を感じさせる脳内物質が分泌されることが分かっています。幸せだから笑顔になることも事実ですが、笑顔になることで幸せを感じられることも事実なのです。

 

カーネギーが言うように、笑顔になる、ポジティブな気持ちになることで、私たちは幸せになれるのです。

 

笑顔になりたいときの処方箋

ここまでお伝えしたように、笑顔でいることは、私たちに様々なメリットをもたらしてくれます。しかし、人間ですから、気分や感情によって、笑顔になれない時もあるでしょう。

 

このような時は、どうすればいいでしょうか?

 

ここで、ひとつ問題です。

「子どもは一日400回、大人になると一日15回」

何の回数だと思いますか?想像がつくと思いますが、答えは「1日の笑顔の回数」です。

 

私たちは、年を重ねて大人になると、「楽しいことがあったから」「面白いことがあったから」「宝くじが当たったから」など、何かしら理由がないと笑顔になることができなくなってしまいます。

 

もし、子供のように、理由が無くても笑顔になることが出来さえすれば、これまでよりもずっと多くのチャンスに恵まれるのかもしれません。

 

カーネギーは、『人を動かす』の中で、ハーバード大学のウイリアム・ジェイムズ教授の言葉を引用しています。

“動作は感情に従って起こるように見えるが、実際は、動作と感情は並行するものなのである。動作のほうは意志によって直接に統制することができるが、感情はそうはできない。ところが、感情は、動作を調整することによって、間接に調整することができる。したがって、快活さを失った場合、それを取り戻す最善の方法は、いかにも快活そうにふるまい、快活そうにしゃべることだ……”
(デール・カーネギー『人を動かす』より)

私たちが笑顔になったり、ポジティブな気持ちになったりするのは、気分や感情次第だと思うかもしれません。しかし、前述の通り、笑顔を作ったり、前向きな態度を示したりするなど、私たちは動作によって間接的に気分や感情をコントロールすることができます。

 

ですから、悲しいこと、つらいことがあっても、元気に前向きな態度や表情で振舞うことが大切です。こうすることで、悲しいことやつらいことを忘れ、やがて気持ちが前向きになり、心の底から笑顔を浮かべることができるようになります。

 

根性論のように聞こえるかもしれませんが、笑顔になれない時こそ、無理やりにでも笑顔をつくることが大切です。

 

まずは表情だけでも笑顔にする、そしてこの時ついでに、いま抱えている問題がすべて解決してうまくいったことを想像してみましょう。

 

繰り返しますが、笑顔になることで人間関係がうまくいく、笑顔になることで幸せになれるのです。

 

 

書籍『人を動かす』とは

「笑顔を忘れない」の原則が紹介されている書籍『人を動かす』の概要を紹介します。

 

『人を動かす』は、デール・カーネギーが1937年に出版した書籍です。日本国内で430万部、世界で1500万部以上の売り上げを誇り、発売から80年以上経った現在でも世界中で読み継がれているベストセラーとなっています。

 

『人を動かす』に書かれているのは、タイトルの通り“人を動かす”ために有効な普遍的な原則です。いずれの原則にも共通しているのは、「自らの行動を変えることで、他者の行動を変えていく:相手を動かす」ことです。

 

好ましい人間関係を築き、行動へ導くための実践的かつ分かりやすい内容を記した本書は、カーネギーの代表作であると同時に、現代でも数多くの人々に影響を与えている歴史的名著です。

 

『人を動かす』と著者デール・カーネギーについて詳しく知りたい人は、以下の記事で内容を要約しているので参考にしてください。

 

 

人に好かれる六原則とは?

『人を動かす』は、「人を動かす三原則」「人に好かれる六原則」「人を説得する十二原則」「人を変える九原則」の4パートで構成されており、全部で30の原則が紹介されています。

 

本記事のテーマである「笑顔を忘れない」は、上記のうちの「人に好かれる六原則」の中のひとつです。

 

人に好かれる六原則では、相手と好ましい人間関係を築くための原則が書かれています。本章では「人に好かれる六原則」の各原則を簡単に紹介しておきます。

 

1.誠実な関心を寄せる

私達人間は、まず自分のことに興味を持っている生き物です。だからこそ、一番の関心事である「自分」に関心を寄せてくれる相手に、人は好感を抱きます。

 

相手に関心を寄せることで、逆に、相手から自分にも関心を持ってもらえます。

 

従って、もしよい関係を築きたい相手がいるのであれば、まずは自分が相手に誠実な関心を寄せることが重要です。

 

 

2.笑顔を忘れない

先ほど解説した原則であり、人と接する時は笑顔を絶やさないことが肝心という内容でした。

 

笑顔の人と接すると私達の心は温かくなり幸せで満たされます。私たちの気持ちをポジティブにしてくれるのが笑顔です。

 

また、表情は感情にも影響します。笑顔になるのが難しい気分でも、頑張って笑ってみるようにすると、自然と前向きな感情になってくるものです。

 

3.名前を覚える

私たちにとって、名前は「自分」を象徴する極めて大切な存在です。

 

もし、過去に一度会っただけの人と久しぶりに会ったとき、相手が自分の名前を憶えていて呼んでくれたら、ほとんどの人は嬉しく思うでしょう。

 

日ごろから相手の名前を大切にして、相手の名前で呼ぶことで、相手に良い印象を与えることができます。

 

 

4.聞き手にまわる

人は自分の意見や考えを話すことに心地よさを感じます。自分の話を熱心に聞いてくれる相手には好感を抱きますし、人間関係が上手な人は例外なく聞き上手です。良い聞き手になるには、相手の話に興味を持ち、質問やリアクションをすることが大切です。

 

 

5.関心のありかを見抜く

人は自分が関心を持つ話題を話すことが特に好きで、その話を共感しながら聞いてくれる人に強い好意を抱きます。相手の関心を見抜けるかどうかは、今後の関係構築に大きく影響します。

 

相手の関心を見抜くには、事前に相手の関心をリサーチすること。そして、会話中に相手の服装や持ち物、態度、リアクションから手掛かりを探ることが有効です。相手の関心を見つけたら、その話題を振り、聞き手に回ることで関係が深まります。

 

 

6.心からほめる

自分に惜しみない賞賛をしてくれる相手に好感を抱かない人はいません。人と話すときは遠慮せず、率直に褒めることが大切です。小さなことでも構いませんが、重要なのは心からの称賛であり、口先だけのお世辞ではなく、心から称賛することです。

 

口先だけのお世辞は、相手に見抜かれて逆効果になります。心から相手を褒めるには、普段から相手に関心を持ち、良いところを見つける意識を持つことが大切です。

 

 

人に好かれる6原則の全体像は以下の記事で解説していますので、ぜひご覧ください。

 

 

まとめ

記事では、デール・カーネギーの人を動かす六原則のひとつである、「笑顔を忘れない」をテーマにお伝えしました。

 

笑顔には、私たちが想像する以上の数々の恩恵があります。「スマイル0円」が有名だったファーストフードの話は有名ですが、笑顔は元手なしで沢山のメリットをもたらしてくれます。

 

笑顔でいることを習慣にできるかで、私たちの人生はガラリと変わってしまうと言っても過言ではありません。

 

「笑顔を忘れない」の原則は知っているだけでは何の役にも立ちません。実践してこそメリットが得られます。普段の仕事や私生活でも、折に触れ立ち止まって笑顔を作ることを習慣にしていきましょう。

 

HRドクターを運営する研修会社ジェイックでは、米国デールカーネギー・アソシエイツ社と提携して、日本でデール・カーネギー研修を提供しています。「管理職のマネジメント力を高めたい」「営業職の営業力をあげたい」とお考えの人は、以下のデールカーネギー研修、セミナーの情報を参照してください。

 

著者情報

近藤 浩充

株式会社ジェイック|取締役 兼 常務執行役員

近藤 浩充

大学卒業後、情報システム系の会社を経て入社。
IT戦略事業、全社経営戦略、教育事業、採用・就職支援事業の責任者を経て現職。企業の採用・育成課題を知る立場から、当社の企業向け教育研修を監修するほか、一般企業、金融機関、経営者クラブなどで、若手から管理職層までの社員育成の手法やキャリア形成等についての講演を行っている。
昨今では管理職のリーダーシップやコミュニケーションスキルをテーマに、雑誌『プレジデント』(2023年)、J-CASTニュース(2024年)、ほか人事メディアからの取材も多数実績あり。

著書、登壇セミナー

・社長の右腕 ~上場企業 現役ナンバー2の告白~
・今だからできる!若手採用と組織活性化のヒント
・withコロナ時代における新しい採用力・定着率向上の秘訣
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