企業や組織を経営するうえで欠かせないのが“経営資源”と呼ばれるものです。従来まで経営資源として重視されていたのは人材・資金・物の3つでした。
しかし、近年ではその3つに加え、情報や知的財産、組織、スキル等も経営資源と呼ばれることが増えています。
記事では経営に必要な10個の資源を解説し、分析・分配するためのフレームワークを紹介します。
<目次>
経営資源とは?
経営資源とは、その字の通り、企業の経営に必要な資源(リソース)を指す言葉です。
昔から経営資源として言われてきたものが「ヒト・モノ・カネ」という3種、そして、この数十年は加えて4つ目に「情報」と言われます。
上記4つの経営資源の重要性はまったく変わるものではありませんが、経営やマネジメントを考えるうえで、もう少し細かく経営資源を分類したほうが考えやすいこともあります。
以下では、全10種類の経営資源を紹介します。
知覚可能な5つの経営資源
まず知覚可能、つまり認識や定量化しやすい経営資源として5つ紹介します。ヒト・モノ・カネ・情報、に知的財産を加えた5つです。
人材(ヒト)
人材(ヒト)は経営資源のなかでも特に重要なものです。というのは、残りの経営資源を活用するのは人材(ヒト)だからです。
人材(ヒト)がなければ、どれだけ他の経営資源が豊富でも活かすことはできません。
また、人材(ヒト)はマネジメントによって成長する経営資源でもあります。
日本では少子化によって労働生産人口の減少し、かつ知的労働に従事する従業員の割合が増えるなかで、優秀人材(ヒト)を確保して定着・活躍させたり、人材(ヒト)が仕事や組織にエンゲージメントしている状態をつくったりする重要性はますます高まっています。
資金(カネ)
資金(カネ)も当然、非常に重要な経営資源です。まず運転資金がなければ、組織を存続、事業を継続していくことはできません。
それに加えて、人材を採用したり、新規事業や設備に投資したりするためにも資金が必要です。
当たり前の話ですが、経営する上で資金の調達、そして、ビジネスの中できちんと資金が回る、そして、利益が生み出される状態をつくることが不可欠です。
物(モノ)
物(モノ)は、商品を製造する機械やサービスの管理・販売に必要な設備、工場から事務所まで、企業が保有する物理的な“物(モノ)”すべてを指します。
ITやWeb業界、サービス業などは物理的な“物(モノ)”をあまり所有していないことも多いでしょう。
しかし、メーカーや設備産業、インフラ産業、運輸業など、事業運営に“モノ”が不可欠な業種においては、物理的な“物(モノ)”の管理や投資、有効活用は非常に重要になってきます。
企業の生産性を上げるためには、持っているものをきちんとケアする、使い倒すことが大切です。また、資金を投資して物を刷新することで生産性を高める視点も重要です。
上述したような設備産業などの場合には、物(モノ)に対する意思決定が非常に大きなものとなるでしょう。
情報
情報はヒト・モノ・カネという3種の経営資源に、4個目としてよく加えられる要素です。
現代では、顧客データ、コミュニティや地域とのつながり、商品・サービスに関するノウハウなど無形資産の重要性が従来よりも非常に高まっています。
市場環境の変化などの情報を先行して掴めれば、多大な利益を生み出せる可能性もあります。
一方で、情報は目に見えずコピーされたり漏洩したりする恐れがあるものだからこそ、管理には慎重な扱いが求められるものです。
知的財産
知的財産とはいわゆるIP、Intellectual Property(インテレクチュアル プロパティ)の略であり、著作権や特許権、意匠権など、法律で守られた経済的価値のある創作物を指します。
知的財産には、特許や商標、意匠などに加えて、広義ではインターネットのドメイン名、肖像権、著名標識、営業秘密なども知的財産に含まれます。
知的財産は、組織が持つ情報の一種ともいえますがブランディングへの注目度、また、エンターテインメント業界や各種ライセンスビジネス、キャラクターなどの普及を見れば、知的財産が持つパワーと重要性がよくわかるでしょう。
このような知的財産を有効活用して収益を生み出す経営を知的財産経営と呼びます。
知覚不可能な5つの経営資源
上述した5つが主要な経営資源であり、知覚や定量化しやすいものです。
それに対して本章で述べる5つの経営資源は知覚や明瞭な定量化等が難しい一方で、経営やマネジメントするうえで重要になるものです。
上述した5つと重複する部分、概念もありますが、経営資源を網羅的に理解する上で補足的に紹介します。
知覚不可能な経営資源として紹介するのは以下の5つです。
- 組織
- ブランド
- ビジネスモデル・事業戦略
- スキル
- 時間
組織
人材(ヒト)は、組織内における個々の”人”を指す概念ですが、人が集まってできている組織、また組織風土や組織文化も重要な経営資源です。
組織風土や組織文化は目に見えない暗黙知であることが多いですが、中にいる人が確実に影響を与えるものです。
人は周りの人間や環境の影響を受けやすいという性質があります。
その意味で、組織風土や組織文化が人材のパフォーマンスに大きな影響を与えますし、組織内の連携やイノベーションなどを生み出すものでもあります。
ブランド
ブランドとは「この企業の商品なら安心できる」「この企業の商品を保有していたい」といったユーザーの信頼感や憧れ等を生み出すものです。
ブランドを保有しているとプロモーション活動が不要になったり、高い利益率を実現したりすることができます。
これからの時代、事業の維持・成長を目指すうえで「いかにブランドを構築し維持するか」は重要な経営要素のひとつです。
知的財産のひとつである意匠や商標などもブランドの一部ですが、ブランドの本質はユーザーの“認識”や“信頼”の中にあるものであり、知覚することは難しいですが確実に存在するものです。
M&Aにおける“のれん代”などを見ても、ブランドが大きな価値を持っていることがよくわかります。
ビジネスモデル・事業戦略
企業が事業活動を行なう根幹となるビジネスモデルや事業戦略も経営資源の一つです。
知的財産の一種としてビジネスモデル特許などの概念もありますが、多くの場合、ビジネスモデルや事業戦略法律等で保護されるものではありません。
しかし、楠木健氏の著書『ストーリーとしての競争戦略』などを読めばわかるように、よくできたビジネスモデルや事業戦略は表面的・部分的にコピーできるものではなく、それ自体が一つの経営資源、競争力となるものです。
スキル
組織内で培われている事業運営のノウハウやメンバーの能力なども経営資源の一つです。
人材や情報、組織、ビジネスモデルや事業戦略などと重複する部分もありますが、経営資源の一つとして重要視されるケースも少なくありません。
例えば、トヨタ自動車の競争力となってきたKAIZENや“5回のなぜ”といったものは、組織内で醸成・共有されてきたスキルの集大成といえます。
このように日本では、スキルと組織のかけ合わせが大きな競争力となって成長してきた企業がいくつかもあります。
時間
現在と未来の時間はすべての人・企業に平等に与えられるものであり、限られた時間のなかで「どのような仕事を行えるか」が重要です。
この意味で、時間は非常に価値のある貴重な経営資源であり、「時間という経営資源をどこに配分するのか?」は経営を左右するものです。
また、時間を経営資源としてとらえると、例えば先行者優位という概念も理解しやすくなるでしょう。
また、ソフトバンクの成長を支えたタイムマシン経営、さらには、M&A等を通じて“お金で時間を買う”といった概念も、時間を経営資源として捉えることで生まれてくる考え方ともいえるでしょう。
経営資源の重要性
経営資源はビジネスを維持・発展させるうえで必要不可欠なものです。肌感として経営資源の重要性はよく分かると思いますが、ここでは、経営資源の重要性を2つの視点で説明します。
- コア・コンピタンスや競争力につながる
- 経営に余裕がでる
コア・コンピタンスや競争力につながる
自社でしか製造できない製品、顧客に評価されるブランド、優れたオペレーションノウハウなどの経営資源は企業の競争力につながります。
このように他社が容易に真似できず自社の競争力を生み出す経営資源をコア・コンピタンスと呼びます。コア・コンピタンスを持つことは、企業の成長や収益の安定や向上につながります。
経営に余裕が出る
経営資源を豊富に保有していれば、経営に余裕が生まれます。
そして、顧客やメンバーへの還元、新たな経営資源への投資、中長期的な施策などを実行することが、さらなる経営資源の強化につながります。
経営資源の配分を考えるうえで役立つフレームワーク3選
経営において、中長期的には経営資源をいかに強化するか?が重要ですが、短期的には人的工数や資金といった経営資源をどう配分するかが重要です。
ここでは経営資源の配分を考える上では、有名な考え方やフレームワークを3つ紹介します。
- 選択と集中
- VRIO分析
- PPM分析
選択と集中
選択と集中は、特定の分野に経営資源を集中させることを意味します。
自社の得意・不得意を見極め、得意分野に経営資源を集中させて、不得意分野の経営資源の削減や撤退を行ないます。
なお、相対的な弱者ほど、ランチェスター戦略でいう弱者の戦略、自社の強みを活かして資源を集中させることが大切になります。
なお、選択と集中で有名な事例が、GEを立て直したカリスマ経営者ジェック・ウェルチがとったNo.1戦略です。
ジャック・ウェルチは巨大コングロマリットGEの立て直しに際して、「分野No1かNo2の事業でなければ、再建か売却、さもなければ閉鎖する」という戦略を取りました。
非常にシンプルな選択と集中の事例です。
PPM分析
PPM分析は事業の選択と集中を考えるうえでよく使われる考え方で、「Product Portfolio Management(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)」の略です。
世界的な戦略コンサルティング会社ボストン・コンサルティング・グループが1970年代に提唱したもので、自社の事業を“市場の成長性”と“市場の占有率(シェア)”という2つの軸で、以下4つの象限に分類する考え方です。
- 成長性:高 × 市場シェア:大 ⇒ 「花形」
- 成長性:低 × 市場シェア:大 ⇒ 「金のなる木」
- 成長性:高 × 市場シェア:小 ⇒ 「問題児」
- 成長性:低 × 市場シェア:小 ⇒ 「負け犬」
「花形」は市場の成長性が高く、自社のシェアも大きい事業です。企業の成長を支える事業となり、経営資源を最大限投入する、つまり集中することが大切です。
シェアを維持しながら、しっかりと成長する市場の波にのっていくことが重要になります。
「金のなる木」は市場の成長性は低いが、自社のシェアが大きい事業です。大きな成長は見込めませんが、安定して利益を生み出してくれる存在であるはずです。
金のなる木には、投資する経営資源は最低限に抑え、生み出された資金を花形や問題児に回して成長させることが大切といわれます。
「問題児」は市場の成長性は高いですが、自社のシェアが小さい事業です。自社の市場シェアを大きくできれば花形に成長する可能性があります。
ただし、成長させるためには投資が必要なうえに、成功するとも限りません。将来性や勝ち筋の見極めが必要です。
最後の「負け犬」は市場の成長性も低く、自社のシェアも小さい事業です。負け犬の事業は「継続させるか?撤退するのか?」の検討が必要といえるでしょう。
成長が望めない事業であれば、撤退して他の事業に経営資源をまわしたほうが賢明です。
先ほど紹介したジャック・ウェルチのNo.1戦略は、このPPM分析の考え方を基にした選択と集中であるともいえるでしょう。
VRIO分析
VRIO分析は、経営資源に競争優位性があるか?コア・コンピタンスとして十分か?を分析するフレームワークです。以下4つの観点から経営資源を分析します。
- Value=価値
- Rarity=希少性
- Imitability=模倣可能性
- Organization=組織
まずValueは「どれだけの付加価値を生み出せるのか」です。端的にいうと「顧客にとって意味のある違いを生み出す経営資源であるか?」ということです。
顧客にとって意味ある違いを生み出すものでなければ、競争力やコア・コンピタンスにはつながりません。
次にRarityとは希少性のことです。希少性が高ければ、市場や顧客から評価される、選ばれることにつながります。
極端な例ですが、ある製品を100社が作っていれば、99社の競合がいて、選ばれる確率は1%です。
しかし、その製品を自社しか作れないとすれば、その製品が必要な顧客は必ず自社を選ぶことになるわけです。
Imitabilityには、その経営資源が容易に模倣されないか?ということです。
模倣を困難にする要因(模倣可能性を下げる)要因には、特許やブラックボックス化、企業独自の歴史的要因などがあります。
また、ストーリーとしての競争戦略の考え方、企業の組織風土や分野、スキル、ブランド、知的財産なども容易に模倣することは困難です。
模倣可能性が低い経営資源であれば、競合優位性を長期間維持することが期待できます。
一方で、たとえば、新規性の高い商品やサービスなどはすぐに模倣されてしまい、競争力を失ってしまうことも有り得ます。
最後に、Organizationとは組織のことです。価値や希少性があり模倣可能性が低い経営資源があったとしても、それを活用できる組織体制が整っていないと強みを活かした経営ができません。
つまり、その経営資源を十分に生かすことができているか、出来る体制があるかということです。
経営資源をどう強化して分配するかが成長を決める
企業経営において、様々な経営資源をどう活用するかが成長を握ります。古くからあげられる「ヒト・モノ・カネ」、そして「情報」という4つは最も重要な経営資源です。
また、他にも、知的財産、組織、ブランド、ビジネスモデル・事業戦略、スキル、時間なども経営資源といえます。
これらの経営資源を中長期的にはどのように調達・強化・構築していくのか、そして、短期的には人的工数や資金(カネ)、設備の稼働などをどこに分配するのか、その選択と集中が大切です。
ときに立ち止まって、記事で紹介した分類やフレームワークなども参考に、経営資源の整理・分配を考えてみることが大切です。