記事では、「組織」という概念の定義から組織論の成り立ち、歴史についてご紹介します。日本の企業での組織の構造を考察し、現在のトレンドである組織の概念「ティール組織」と従来型の組織を比較し、より良い組織づくりのために何ができるのかを確認しましょう。
<目次>
- そもそも組織とは何か?
- バーナードの組織論:組織の3要件
- 経営学や社会学から考える組織論
- 3種の組織構造
- 良い組織とは何か
- 良い組織にするためにすべきこと3つ
- これからの組織と言われる「ティール組織」
- ティール組織は実現可能なのか?
- 組織論について理解を深めてより良い組織にしよう
そもそも組織とは何か?
「組織」という言葉を簡単にまとめると、共通の目的を達成するために、個々人が協力して割り当てられた役割を果たしていく集団のことを指します。
組織と集団の違い
ところで、「組織」と「集団」はどのように異なるのでしょうか。
「共通の目的や目標のために人が集まって行動する」というのは、組織も集団も同じです。一方で、「集団」では個々人がバラバラに行動しますが、「組織」は分業や調整など「役割分担」をして行動するということが大きな違いです。
つまり、「集団」はただの人の集まりですが、「組織」は役割を持った人の集まりということです。組織に属する人には必ず役割があります。
「組織」は調整・分業してチームワークで行動するため、「集団」より効率的に作業することが可能です。その調整役としてマネージャーなどのまとめ役やリーダーが置かれ、ピラミッドのような役割分布になることが多いことも特徴です。
組織を考えるときには、「役割」が重要な要素となることを覚えておきましょう。
バーナードの組織論:組織の3要件
「そもそも組織とは何か?」を考える際は、バーナードの「組織の3要件」から考えるのがおすすめです。
バーナードの「組織の3要件」とは、アメリカの経営学者であるチェスター・バーナードが1938年に著作した「経営者の役割」において提唱したものです。この理論は組織論・経営学における歴史的名著とされ、多くの経営者に影響を与えてきました。
バーナードは、組織とは「意識的で、計画的で、目的を持つような人々相互間の協働」であり、「2人以上の人々の意識的に調整された活動や諸力のシステム」であると定義しました。その上で、組織が成立するための3つの条件として「共通の目標」、「協働の意欲」、「コミュニケーション」を挙げています。
組織に必要とされているこれらの要件は「組織の3要件」と呼ばれています。
ここからは、3つの要件について詳しく紹介します。
1:共通目的(組織目的)
バーナードの組織の3要件の1つ目は「共通目的」です。「組織目的」とも言われ、企業においては、企業理念や経営理念、ビジョンといったものが共通目的に当たります。
共通目的をわかりやすくまとめると、組織をまとめるための旗のようなもので、組織と従業員が共通で抱く物語とも言えるでしょう。共通目的がなければ、組織の方向性を定めることができません。もし共通目的がはっきりしていなければ、組織内で進む方向がバラバラになり、トラブルが発生するリスクとなります。
また、共通目的は社会に受け入れられるものであると同時に、市場でも有効であることが重要です。この状態をバーナードは「外部均衡」という言葉で表しました。
社会の倫理的に受け入れられない共通目的を掲げても、従業員や顧客、取引先の支持を得ることはできません。そして市場にとって有効な共通目的がなければ、企業は売上と利益を上げることができず、組織の存続も考えられないでしょう。
つまり、共通目的があることで、社会や市場から支持を受けて長く存続できる企業になると言えます。
2:協働意思(貢献意欲)
バーナードが提唱した組織の3要件の2つ目は、「協働意思」です。協働意思とは「貢献意欲」とも呼ばれています。
組織内で働く上で、各自が会社の役に立ちたい、お互いの役に立ちたいと思う気持ちが「協働意思」です。これがなければ、組織はただの群衆となってしまいます。従業員それぞれが、会社という組織に対して役に立ちたいという気持ちを持っていれば、より強い組織ができるでしょう。
反対に、自分の仕事だけはこなすものの貢献意欲に乏しいメンバーが多いと、組織全体のモチベーションが下がってしまいます。
3:意思疎通(コミュニケーション)
バーナードが提唱した組織の3要件の3つ目は、「意思疎通」です。「コミュニケーション」とも呼ばれています。
組織内には、多数のメンバーがいて、そのメンバーを束ねるリーダーが存在します。複数の人が存在する以上、適切な意思疎通が行われていないと組織は回りません。意思疎通が適切に行われなければ、業務は円滑に進まず、トラブルも多発するでしょう。
そのため、組織ではメンバー同士や、リーダーとの間での円滑なコミュニケーションが必要不可欠と言えます。
また、社員が会社を辞める理由として「職場の人間関係」が多く挙げられます。これは、意思疎通がうまくいっていないことが原因で発生していることがほとんどでしょう。
組織が継続して存続し続けるためには、意思疎通が大きな要素となります。
経営学や社会学から考える組織論
ここで、組織論とは何かについてご紹介します。
組織論は、社会における組織を捉えるために古くから論じられてきました。現代においては20世紀以降、国家や軍隊の巨大化を背景に、組織運営の理論の必要性が高まり、社会学の分野で活発に議論されるようになりました。また、国家や企業にも関わるため、政治学や経済学においても重要なトピックとなっています。
最近では、「企業」を研究する経営学の分野において、実用的なビジネスの知識として語られることも多くなりました。企業の経営者は、強い組織を作るために「組織論」の知見を必要とします。また、人事部門では、組織論を活用して人材の育成や体制構築などを行います。
マネジメント層にとっても、組織論はチームビルディングのために不可欠な知見となっています。
経営学における組織論
昨今の組織論のメインフィールドとなっている経営学とは、そもそもどのような学問なのでしょうか。
「経営学」とは、主に企業の経営管理について研究する学問です。企業が持っている人材・資金・情報などの経営リソースをいかに効果的に配分・活用してビジネスを推進するかを考えています。
管理論としての経営学という学問領域が確立されたのは、フランスの実業家ジュール・アンリ・ファヨールによって提唱された「管理過程論」が起源とされています。ファヨールは1925年に出版された「産業ならびに一般の管理」で14の管理原則を提唱しました。これは、企業における管理の重要性を体系的に説明したとして、いまでも受け継がれています。
ファヨールとほぼ同じ時代に、アメリカのフレデリック・テイラーは科学的管理法を提唱しました。科学的管理法は経営工学(Industrial Engineering)の基礎となっています。
そして、経営学における組織論ですが、「個人の動機づけ」を研究するのか、「組織体の構造」を研究するのかによって大きく2つに分けられます。
個人の動機づけを研究する組織論は「ミクロ組織論」と呼ばれます。ミクロ組織論の分析対象は個人および小さな集団です。個人の個性や態度、集団におけるメンバーの相互作用などを論じる学問となっており、心理学とも関わりがあります。
一方で、組織体の構造を研究する組織論は「マクロ組織論」と呼ばれます。マクロ組織論の研究者は、組織の構造・変化・ネットワークを研究対象としています。
先述したバーナードによる「組織の3要件」は、双方の分野で議論の土台として用いられています。そのため、バーナードの著作は古典的名著でありながら、現在でも組織論の入門書として用いられていると言えます。
社会科学における組織論
経営学における組織論と社会科学における組織論はどのように異なるのでしょうか。社会科学では、経営学における組織論のように「企業」という特定された組織ではなく、より大きな枠で「組織」について考えます。
社会科学における組織論での重要な考え方として、公式組織と非公式組織の区分があります。以下で詳しく見ていきましょう。
公式組織
公式組織とは、一般的に使われる「組織」という言葉の意味合いに近いものです。一定の目的を達成するために意識的、人為的に形成された組織のことを指します。先述したバーナードは、公式組織を「意識的に調整された人間の活動や諸力の体系」と定義しています。
例えば、代表取締役・役員・部長・課長というような、組織図と職位によって表される企業の制度は公式組織です。また、官僚制によって構築されている官公庁も公式組織となります。
非公式組織
非公式組織とは、個人的なつながりで自然に発生する組織のことを指します。
例えば、会社の中で趣味が同じ人や同じスポーツを愛好する人などが、公式組織の関係とは別に集まることがありますが、この集まりを非公式組織と呼びます。
一般的に、非公式組織には公式組織を補完する役割があると言われます。最近の企業の組織論の中では、非公式組織には公式組織では実現できない風通しの良さがあり、組織強化に役立つと考えられています。
また、縦割りの組織体系や上下関係に縛られない対話の場としても、非公式組織が注目されています。コロナ禍の影響でリモートワークが増え、会社の部署でのつながりが希薄になっています。そのため、非公式組織でのつながりを公式組織に活用する動きが模索されています。
3種の組織構造
現代における組織の代表例として挙げられる企業ですが、すべて同じ組織構造をしているわけではありません。
この章では、企業の代表的な組織構造である、事業部組織、機能別組織、マトリクス組織の3種類についてご紹介します。
1:事業部別組織
事業部制組織とは、本社の下に事業ごとに編成された組織(事業部)がぶら下がる形で編成された組織構造のことです。
野村総合研究所によると、日本では1933年に松下電器産業で採用したのが最初とされています。現在では多くの企業で事業部制組織が導入されており、特にメーカー系企業では、製品のジャンルごとに事業部を設ける傾向が多く見られます。
事業部制の特徴として、事業部ごとに「生産」「購買」「営業」「マーケティング」といった事業の遂行に必要な機能を有している点が挙げられます。
各事業部が自己完結的に事業活動を行うことができるため、事業の状況に応じて迅速な意思決定を行えるのがメリットです。また、責任の所在が明確になり、事業部間での競争が期待できるという側面もあります。
一方で、事業部ごとに縦割りになってしまうため、会社としての一体感を持ちづらくなり、事業部間の情報遮断が起きて、協働がしにくくなるというデメリットもあるでしょう。
また、事業部間での経営リソースの奪い合いが起きてしまう可能性もあります。さらに、各事業部内で部分最適のみが重視され、会社としての全体最適がおろそかになるというリスクも挙げられます。
出典:NRI ナレッジ・インサイト 用語解説 事業部制 |株式会社野村総合研究所
2:機能別組織
機能別組織とは、製造、販売、調達、経理、総務など、担当する機能ごとに分かれた組織です。機能別組織では、同じ仕事を担当するスタッフが一つの組織内に集結するため、各担当者の持つ知識やスキルが共有されやすいというメリットがあります。また、業務範囲が細分化されることで、従業員の専門性や業務の能率を高めることができます。
機能別組織のデメリットとしては、会社全体で取り組むべき経営課題には対応しにくいことが挙げられます。また、組織の権限や責任が限定されており、専門的な見方に偏りやすくなります。
そのため、会社全体の利益を追い求めるよりも、自らの部門だけの利益を追い求めるようになり、組織・部門間でのコンフリクトが起きやすくなります。さらに、幅広い視点から判断を下すことのできるマネジメント人材が育ちにくいという点も弊害となり得ます。
上記のような要因を鑑みると、機能別組織はスピードよりも効率や生産性を高めることに重点を置いている企業に適していると言えるかも知れません。
3:マトリクス組織
マトリクス組織とは、機能別組織と事業部制組織のメリットを組み合わせた組織構造です。職能別、プロジェクト別、製品別など複数の軸で構成され、1人の社員が複数のミッションに取り組む組織のことを指します。
多くの場合、一つの軸に職能部門(設計・開発・調達・物流など)が職能軸として設定され、もう一方の軸に製品やプロジェクトなどの軸が設定されます。それぞれの部門の人が各製品やプロジェクトで役割を果たします。
例えば、設計部門のAさんはX製品の開発プロジェクトのメンバーとしてX製品の設計に従事、また調達部門のBさんはYプロジェクトのメンバーでもあり、Zプロジェクトの調達業務を担当する、という形になります。
この組織体制では1人の担当者が、事業別組織と機能別組織の両者の機能を求められます。各部門のリーダーと製品・プロジェクトのリーダーが配置され、2人のリーダーから命令を受けることになります。
マトリクス組織のメリットは、部署の垣根を越えて業務を行うことで、業務が円滑に進むことです。社員にとってはプロジェクトの全体像が見えるようになり、視野が広がり能力をさらに発揮することが可能になります。
また、部門間の交流の機会が生まれ、社員同士が切磋琢磨できるという人材育成効果も期待されます。
ただし、マトリクス組織では部門のリーダーとプロジェクトのリーダー、2つの指揮命令系統が存在します。そのため、命令系統間の調整や対立が発生してしまうと、結果的に意思決定や戦略実行が遅くなることもあり得ます。
また、各自が複数の役割を果たしつつプロジェクトの推進も行うため、メンバーに高い自律性とバランス感覚が求められます。
事業部制組織と機能別組織の「いいとこどり」のようなマトリクス組織ですが、このような条件を満たすことが必要になることを覚えておきましょう。
良い組織とは何か
ここまでの内容から、バーナードの「組織の3要件」を満たし続けて、共通目的に向けて結果を出し続けるのが良い組織と言えます。良い組織とは、存続し続けられる組織であることが大前提です。
そして、外部に価値を提供でき、メンバーが心地よく働ける組織であることが重要と言えるでしょう。
良い組織にするためにすべきこと3つ
では、良い組織を作り上げていくためには、どのようなことをすればいいのでしょうか。ここからは、良い組織を作るためにするべきこと3つをご紹介します。
経営理念・ビジョンを共有する
より良い組織を作り上げるためにするべきことの1つ目は、経営理念や企業理念、ビジョンの共有です。これは、冒頭で触れた組織の3要件の「共通目的」に当たります。
企業としての目標や目的が共有されることで、社員の方向性を定め、目標達成に向けた自発的な社員の行動を促すことができます。また、管理職は、判断の拠り所を得ることで、スピーディーに判断ができるようになるでしょう。
そのため、確かなビジョンを持ち、そのビジョンをわかりやすい言葉でメンバーに共有することが、組織にとって大きな強みとなります。
人事評価制度を構築する
良い組織を作るために欠かせないことの2つ目は、人事評価制度の導入です。組織の3要件の1つである「貢献意欲」は、組織のメンバーが会社や他のメンバーの役に立とうとする意欲です。その意欲を持ってもらうためには、まずはその組織で「何が貢献とみなされるか」を明確にする必要があります。
また、貢献度は正しく測定され、公正に評価される必要があります。貢献に対して公正な評価をし、リターンを与えることによって、従業員は貢献し続けようという継続意欲を保つことができます。
教育制度を確立させる
3つ目は、教育制度を確立させることです。外部に価値を提供し続け、存続できる良い組織のためには、組織のメンバーのレベルを高めることが重要です。そのためには、教育制度の確立が不可欠となります。
各自の所属している部署や任されている職務によって、業務上必要なスキルや知識の教育や、役職が上がった際の労務管理や人材育成、経営層への報告など業務の責任・範囲を含めた教育などです。
さらに、トップマネジメントとミドルマネジメントでは意思決定のレベルが異なるため、様々なフェーズに合わせた教育を行うことも必要です。そのため、多くの企業でスキルを学ぶための書籍代を補助したり、資格取得支援を行ったりなどの教育制度が用意されています。
特に、グローバル企業では英語学習支援に力を入れています。例えば、ソフトバンクはTOEICで900点以上を取った社員に対し、100万円の報奨金を支給する制度を発表して話題になりました。また、大和ハウス工業はTOEICの点数に応じて報奨金を支給しています。
ユニクロや楽天など大企業で社内公用語を英語にするのが流行したのも、こういった社員のレベルを上げようという教育の取り組みの一環と言えるでしょう。
また、ビジネスマインドを磨くために、有名な経営者を招いて講演・セミナーを行う企業も増えています。意思疎通を円滑にするための社員交流の場となるワークショップなども、教育の一環となります。
教育には、組織の3要件の1つである「共通目的」をメンバーに浸透させるという意義もあります。社員研修で経営理念やビジョンを共有することで、組織のメンバーは自身が所属する企業に対する理解が深められます。
他には、社内で用いられる共通言語、いわゆる社内用語の共有にも教育は有効です。多くの企業で、社内で用いられている専門用語が社内のポータルサイトで検索できるようになっているなど、社内用語の浸透は帰属意識を向上させ、結束を高める効果があるでしょう。
これからの組織と言われる「ティール組織」
ここからはフレデリック・ラルー氏によって提唱された「ティール組織」の内容についてご紹介します。
2018年、フレデリック・ラルー氏の著書「Reinventing Organizations」の邦訳版である「ティール組織」が出版され話題となりました。組織論・経営論の最新のトレンドである「ティール組織」は、従来の組織モデルとは何が異なるのでしょうか。また、なぜ今話題となっているのか、その背景を探ってみましょう。
従来の「達成型組織」の特徴と弊害
日本企業においてよく見られる従来の組織構造に、「達成型組織」があります。達成型組織は、ヒエラルキー型のピラミッド構造をベースとしつつオンラインでつながるグループや、複数の部門にまたがるチームなどを持つ構造です。
メンバーは、成果を上げることによって評価されるため、変化する環境や激しい競争の中から、革新的なアイデアや提案を生み出していきます。しかし、競争をし続け、成果を上げ続けることが求められる性質上、過重労働になりやすく、メンバーの疲弊につながりやすいというリスクもあります。
このような従来の組織のあり方は、働き方改革・働き方の多様性の時代にはフィットしません。この点も「ティール型組織」が注目される背景となっています。
生存本能に訴えかけて人を動かす
達成型組織には、「自分たちが懸命にやらないと組織が存続できない」という恐怖心を煽り、構成員を突き動かしているという特徴があります。
この生存本能に訴えかけるマネジメントは、油断したら死んでしまうという緊張感をもたらします。また、組織の仲間が競争相手となり、追い落とすべき敵になってしまうという弊害があります。
肩書や上下関係
達成型組織のもう1つの大きな特徴は、ピラミッド型の組織図に代表されるような役職や上下関係です。上下関係が明確な達成型組織では、指揮命令がしやすい、責任の管理がしやすいなどの利点が挙げられます。また、上司に情報が集約されるため、意思決定が迅速になるという利点もあります。
しかし、上下関係にはデメリットもあります。
例えば、転職者の退職理由には、「上司・経営者の仕事の仕方が気に入らなかった」「先輩・後輩とうまくいかなかった」といった職場の上下関係に関する回答が多く挙げられています。上下関係がメンバーのストレス要因となることには注意が必要です。
また、部下が組織のためではなく、上司のために仕事をするようになるリスクもあります。これは、「上司に頑張っている姿を見せること」が求められていると錯覚してしまうためです。
その結果、不要な残業や頑張る姿の演出など、成果に結びつかない頑張りも増え、本来の目的から遠のいてしまいます。
本来の自分と組織での自分の分断
達成型組織の弊害として、本来の自分と組織での自分との乖離・分断が起きやすいという点があります。なぜなら、社員は上司からは評価される立場であるため、意識・無意識問わず「期待されている役割」を演じてしまうからです。
また、その場の空気を読んで、不利になるような自分は見せないようにします。こうして自分の一部分しか見せず、本来の自分の能力や個性に蓋をしてしまいます。
ティール組織の特徴
ティール組織では、経営者や上司が社員の業務を指示・管理することはありません。組織がビラミッド型の構造をしておらず、全員がフラットに協力し合うというのがティール組織の特徴です。
従来の組織構造とは全く異なり、イメージするのが難しいティール組織ですが、これから述べる3つのポイントに着目してみると、組織の未来を示唆する面白い理論であることがわかるでしょう。
組織の存在目的の重視
始めに着目するポイントは、「組織の存在目的」を重視することです。組織の存続を目的とするのではなく、組織の存在目的のためにビジネスをするという考え方です。
例えば、パタゴニアは「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む。」と明言しています。環境に優しいやり方で利益を上げる、ビジネスで利益を上げて環境保護活動に寄付をするという会社はたくさんあります。
しかし、パタゴニアはビジネス自体ではなく、環境を守ることが目的になっています。組織の存在目的のわかりやすい実例と言えるでしょう。
ティール組織のメンバーは、組織の存在目的に貢献するために行動します。従来型の達成型組織では、組織の存続が目的になりがちですが、ティール組織は存在目的・共通目的が原動力となります。
自主経営
ティール型組織では、「自主経営」つまり「セルフマネジメント」も重要な要素となります。達成型組織では上司が意思決定と指示を行いますが、ティール型組織では1人1人が自分の判断で行動します。アイデアを思いついた人はまずそれを自分で行ってみて、それに対する助言やフィードバックを集めていきます。
その過程でアイデアに参画する人が増え、またアドバイスを受けるということを繰り返し、優秀なアイデアに経営資源が集まることになります。
自分のすべてを組織に持ち込む
ティール組織では、個人のありのままを尊重し受け入れることを重視します。そのため、先述した本来の自分と組織での自分の分断は起こりにくくなります。これは、Googleが社内で実証したことで話題になった「心理的安全性の確保」にもつながる観点です。心理的安全性が確保されている組織の中では、自分の考えや気持ちを誰に対してでも安心して発言できます。
このように、メンバーが自分のすべてを組織に持ち込むことができる組織では、アイデアとイノベーションが生まれやすくなり、本来のスキルと能力のすべてを発揮することができます。
ティール組織は実現可能なのか?
ティール組織を実現するには社員1人1人の高い自律性が求められます。また、社員が「自分のやりたいこと」とその結果を把握し、チームの仲間と共有する仕組みも必要です。
そして、上下関係のないフラットな組織にするためには、経営情報がリアルタイムで社員1人1人に知らされる必要があります。経営情報が透明化されていなければ、各自が自律的に動くことはできません。
ティール型組織には、社員間での濃密なコミュニケーションによる強固な信頼関係が必要です。そのため、社員の人数が多くなればなるほど、ティール組織の実現は難しくなります。その点から見れば、大企業で導入することは容易ではないでしょう。
ティール組織は歴史が浅いため、体系化された明確なモデルや豊富な成功事例の蓄積がありません。そのため、各組織にあったルールや方法、最適解を探りながら組織を形成していくことになります。
このことから、ティール型組織は、すぐにこの形に変更しようとすることよりも、概念をヒントとして議論を深める材料として有効であると言えるでしょう。
ティール組織と現状の組織を比較することは、組織変革のきっかけになります。また、1つの戦略論として「ティール組織」を捉えることで、組織の抱える問題点をあぶりだし、改善策を考えるきっかけにもなるでしょう。
例えば、ティール組織では特定の人に権力・権限が集中しないため、対話を重視したコミュニケーションが必要になります。相手に自ら思考させ、決断を促すコミュニケーションをとれているか、を考えるきっかけとしてティール組織の概念は有効です。
このように、部分的にティール組織の手法を取り入れることは実現可能です。
組織論について理解を深めてより良い組織にしよう
この記事では、組織論の成り立ちや歴史、現在の組織論のトレンドについてご紹介しました。
一言で「組織論」といっても多くの理論があり、理想とされる組織の形も様々です。メカニズムや理論をツールとして用い、自らの組織に照らし合わせて考えることで、気付きが生まれます。
組織論について理解を深めながら、より良い組織を作っていきましょう。