『7つの習慣』は、スティーブン・R・コヴィー博士によって書かれた書籍で、1989年に初版が発行されました。現在、全世界で4000万部、日本国内でも240万部の売上げを誇る大ベストセラーとしてなり、多くのビジネス雑誌でも、非常に影響力がある、役に立つビジネス書として取り上げられています。読んだことはなくても、名前を聞いたことのある人もたくさんいることでしょう。
7つの習慣の内容や効果については以下の記事で要約していますので、まだ読んでいないという方は参考にしていただければと思います。
筆者のコヴィー博士は、『7つの習慣』の内容を実践して人生を大きく変えたいというときに最初に意識すべきことがあると話しています。
それは、私たちの物の見方や考え方はパラダイムに縛られており、手にする結果を大きく変える、また望む結果を得るためには、パラダイムシフトが重要だということです。
記事では、『7つの習慣』の「パラダイムシフト」をテーマに、パラダイムとパラダイムシフトとは何か、そしてパラダイムシフトを通じて人生で得たい結果を得るために大切なことを解説します。
<目次>
パラダイムとパラダイムシフト
「パラダイム」と「パラダイムシフト」を理解することは、『7つの習慣』を実践するうえでの入り口です。
本章では最初に、パラダイムとは何か、また、パラダイムシフトとは何かを解説します。
パラダイムとは?
パラダイムとは、『7つの習慣』で私たちの物の見方や考え方、感じ方のことをさす言葉です。
私たちは、自分では物事をありのままに見ていると思いがちですが、実際には、自分のパラダイムを通じて物事を見て解釈しています。
パラダイムは私たちが無意識にかけている「メガネ」のようなものです。私たちは、自分のメガネを通じて世界を見ているのです。
パラダイムは人それぞれの人生経験に基づいて形成されるものであり、私たちは一人ひとり異なるパラダイムをもっています。
パラダイムが私たちの行動と結果を決める(See-Do-Getサイクル)
なぜパラダイムが重要なのかというと、パラダイムは私たちが取る行動を決め、手にする結果を決める力があるからです。私たちはパラダイムに従って、さまざまな選択を行なっています。
『7つの習慣』ではパラダイムの重要性を「See-Do-Getサイクル」という概念で解説しています。パラダイム=物事をどう見るか(See)が、私たちの行動(Do)を決め、行動によって私たちが得られる結果(Get)が決まります。そして、得た結果が再び私たちのパラダイムに影響に与えます。
つまり、パラダイム(See)が行動(Do)を決め、行動が結果(Get)を決めるからこそ、私たちにとって、“どのようなパラダイムを持つか?”は、自分が得る結果も決める極めて重要な存在なのです。
<See-Do-Getサイクル>
パラダイムは、いわば私たちが人生を歩むうえで拠り所にしている「地図」ともいえます。もし、地図が正しく描かれていなければどうなるでしょう。
地図が間違っていれば、どんなに頑張っても、得たい結果、望む人生に近づくことはできません。
小さい変化を目指すなら、行動を変えればよい しかし、飛躍的な変化を目指すなら、パラダイムを変えねばならない
スティーブン・R・コヴィー著 「7つの習慣」 より引用
コヴィー博士は、状況や結果を大きく変えたければ、態度や行動ではなく、パラダイムを変えなければならないと話しています。
パラダイムシフトとは?
パラダイムシフトとは、今までのパラダイムが一気に変化することをいいます。例えば2020年からのコロナ禍とコロナ禍にともなう緊急事態宣言の影響で、職場に行くのが当たり前だった働き方が、一気にテレワークに変わったという人も多いかと思います。
コロナ禍によって「働き方」という概念に起こった変化はパラダイムシフトそのものです。
パラダイムシフトはコロナ禍のように、私たちの手の届かないところで起こるだけではありません。パラダイムシフトは、一人ひとりの人生にさまざまなタイミングで訪れます。
パラダイムシフトの体験は、私たちの内面を変えるというとても大きな意味を持っています。
もう少し具体的にパラダイムシフトとは何かを理解するうえで、『7つの習慣』で紹介されているコヴィー博士自身が体験したパラダイムシフトのエピソードを紹介します。
ある日曜日の朝、ニューヨークの地下鉄で体験した小さなパラダイムシフトを、私は今も覚えている。
乗客は皆黙って座っていた。新聞を読む人、物思いにふける人、目を閉じて休んでいる人、車内は静かで平和そのものだった。
そこに突然、一人の男性が子どもたちを連れて乗り込んできた。
子供たちは大声で騒ぎだし、車内の平穏は一瞬にして破れた。男性は私の隣に座り、目を閉じていた。この状況にまったく気づいていないようだ。
子どもたちは大声で言い争い、物を投げ、あげくに乗客の新聞まで奪いとるありさまだ。迷惑この上ない子どもたちの振る舞いに、男性は何もしようとしない。
私は苛立ちを抑えようにも抑えられなかった。自分の子どもたちの傍若無人ぶりを放っておき、親として何の責任も取ろうとしない彼の態度が信じられなかった。
他の乗客たちもイライラしているようだった。
私は精一杯穏やかに、「お子さんたちが皆さんの迷惑になっていますよ。少しおとなしくさせていただけませんか」と忠告した。
男性は目を開け、子どもたちの様子に初めて気づいたかのような表情を浮かべ、そして、言った。
「ああ、そうですね。どうにかしないといけませんね… 病院の帰りなんです。一時間ほど前、あの子たちの母親が亡くなって… これからどうしたらいいのか… あの子たちも動揺しているんでしょう…」
その瞬間の私の気持ちが、想像できるだろうか。
私のパラダイムは一瞬にして転換してしまった。突然、その状況を全く違う目で見ることができた。
違って見えたから違って考え、違って感じ、そして、違って行動した。今
までのいらいらした気持ちは一瞬にして消え去った。
自分のとっていた行動や態度を無理に抑える必要はなくなった。
私の心にその男性の痛みがいっぱいに広がり、同情や哀れみの感情が自然にあふれ出たのである。
スティーブン・R・コヴィー著 「7つの習慣」 より引用
先ほどのエピソードのコヴィー博士もやはり、最初は隣の席の男性を「子供が騒いでも注意しようとしない困った父親だ」というパラダイムで見ていました。
しかし、妻を亡くしたばかりだと聞いた瞬間に、「大切な人を失った深い悲しみの中にいる男性」というように、一気にパラダイムが変わることになりました。パラダイムが変わった前と後とでは、男性にかける言葉や接する態度がまったく違ったものになることでしょう。
コヴィー博士が体験したように、パラダイムシフトは、私たちのそれまでの物の見方や、自分や周囲の人への可能性を大きく拡げてくれるのです。
人は同じ物事に出会ったとしても、持っているパラダイムの違いによって異なる捉え方をします。
例えば、上司に「面倒な仕事を振ってくる」というパラダイムを持っている人は、上司の仕事に対して「どうしていつも自分にムチャ振りばかりするんだ!手を抜いている!」と感じるかもしれません。
しかし、じつは上司は「〇〇さんは成長の可能性がある!彼にはどんどん大きな仕事を任せていこう!結果の責任は自分が取るし、失敗したときにはすぐフォローできるようにしっかり準備しておこう」と考えているかもしれません。
この例でいえば、上司が部下のパラダイムを想像したり、部下が上司のパラダイムを知ったりしたとき、2人のパラダイムは大きく変わり、関係性も変わるかもしれません。
しかし、自分と違うパラダイムの存在を想像せず、自分のパラダイムに固執していれば、物事を正しく判断したり、相手とわかり合おうとしたりすることからどんどん遠ざかってしまうでしょう。
原則中心のパラダイム
See-Do-Getサイクルの解説で紹介したとおり、私たちの人生を大きく変えるためには、態度や行動ではなくパラダイムを変えることが大切です。
本章では、パラダイムシフトによって人生に良い変化を起こすために重要となる「原則中心のパラダイム」を紹介します。
パラダイムと原則
コヴィー博士は、「本当の成功を手にするためには、原則に沿ったパラダイムに変わることがカギを握る」と言っています。原則とは、万有引力のように動かすことも変えることもできない絶対の法則をいいます。
地球上で、私たちが引力の存在を知らないとしても、また、引力の存在を否定したとしても、引力は私たちに影響をおよぼします。原則も同じで、私たちが知っていても知らなくても、受け入れても否定しても、私たちに影響を与え支配します。
『7つの習慣』から、原則とは何かをイメージできる1つのエピソードを紹介します。
霧で視界が悪いある夜、船を進めている艦長がいました。すると、船の進行方向に光が見えてきました。艦長が衝突を避けるために光に向かって進路を変更するよう求めました。
しかし、相手からは拒絶されてしまい、逆に進路変更を要求されてしまいます。自分に進路の優先権があると確信する艦長は、「こちらはアメリカ海軍の戦艦だ!進路を変えろ!」と怒りを込めて返信しました。
すると、相手からは「こちらは灯台だ。そちらが進路を変えてくれ」と返信があったのです。
前方の光が灯台だったと知った艦長は慌てて船の進路を変えました。
(書籍『7つの習慣』内で紹介されるエピソードを少し表現の修正をして紹介しています)
灯台に向かって、進路を変えろ!衝突しないように移動しろ!といっても無理な話です。原則とは灯台のように、私たちが変えたり動かしたりすることのできない絶対の法則なのです。
人間社会における原則とは?
自然界における万有引力の法則と同じように、私たちが生きる人間社会にも原則が存在します。具体的にどのような原則があるでしょうか。例えば「誠実さ」や「公平さ」があります。
コヴィー博士は他にも、「正直」「奉仕」「貢献」「忍耐」「励まし」などを原則として挙げています。
原則中心のパラダイムに変わることが成功への一番の近道
先ほど紹介したいくつかの原則を眺めてみると、原則は、私たちの内面に元から備わっている人間性や人格的なものであることに気付きます。
原則はずっと昔から現在に至るまで、人生を生きる指針として人を導いてきた価値観や根本の考え方です。
したがって、原則中心のパラダイムを生きるというのは、人格や人間性を磨き向上させていくということに他なりません。
結果を得たいと思ったとき、私たちは表面的なテクニックやスキルを身に付けようとしがちです。もちろんスキルやテクニックは有効ですし、望む結果に向けて行動を変えることは大切です。
しかし、人格や人間性が伴わないスキルやテクニックで相手の信頼を得ようとしても、上辺だけのものや一時的な結果となるでしょう。
また、パラダイムを変えないまま行動を変えようとしても長続きしないかもしれません。
原則とはいわば、私たちが望む結果にたどり着くための羅針盤です。私たちの頭の中の地図(パラダイム)が正しい道(原則)に近付けば近付くほど、得たい結果、望む人生を歩むことができるようになります。
人格を磨き、パラダイムを原則中心に変えることは、方法や態度、行動を変えるよりも遥かに大きな影響を私たちの人生におよぼすことになります。
原則中心へとパラダイムシフトするための方法
原則中心のパラダイムへと変わることは、私たちの人生に数限りない恩恵をもたらしてくれます。しかし、どのようにすれば私たちは原則中心のパラダイムを身に付けられるのでしょうか。
もっと言うと、原則中心のパラダイムに変わるためには、日々どのようなことを実践すればよいのでしょうか?
その答えこそが、書籍『7つの習慣』です。『7つの習慣』に紹介されている習慣7つは、すべて原則に基づくパラダイムを身に付けるための習慣です。
『7つの習慣』は、単に良い習慣を順番に書いたものではありません。
- 根底となる3つの基礎原則
- 自立を実現する第1、第2、第3の習慣
- 相互協力を実現する第4、第5、第6の習慣
- 自己研鑽を行なう第7の習慣
という体系だった作りになっています。
『7つの習慣』をしっかりと読み込み、一つひとつ実践していきましょう。
気が付けば、自分のパラダイムは大きく変わり、望む結果を手にすることに近付いているでしょう。
HRドクターを運営する株式会社ジェイックは、法人を対象とした企業研修の事業を行なっています。世界中で書籍『7つの習慣』をもとにした企業研修を提供しているフランクリン・コヴィー社の日本法人、フランクリン・コビー・ジャパン株式会社と連携して、
- 中堅中小企業向けの「7つの習慣®」研修
- 就活生向けの「7つの習慣®」研修
- 映像で学ぶプログラム
などを提供しています。
「7つの習慣®」の理解を一気に深めて実践していきたいという方は、こういった研修プログラムを利用いただくことも非常に有効です。
「7つの習慣®」研修は、理解を深める動画や解説のほかに、さまざまなワークや受講生同士の演習を通じて、自分のパラダイムに気付いたり、パラダイムが変わったりする機会が詰まったプログラムです。
まとめ
記事では、『7つの習慣』のパラダイムシフトをテーマに、パラダイムとパラダイムシフトとは何か、そして、原則中心のパラダイムについて解説しました。
私たちの物の見方や捉え方であるパラダイムは、私たちが取る行動、そして、私たちが得る結果を大きく左右します。書籍『7つの習慣』では、パラダイムの重要性を「See-Do-Getサイクル」という概念を通じて理解することができます。
パラダイムは私たちの行動の源になるからこそ、誤ったパラダイムの基でどれだけ努力しても望む結果は手に入りません。
現状を大きく変えて望む結果を手に入れるためには、持っているパラダイムを変えることが大切です。『7つの習慣』では、パラダイムを変えることをパラダイムシフトと呼びます。
『7つの習慣』の実践を通じて、原則中心のパラダイムを身に付けることで、望む結果を手に入れることに近付きます。
原則中心のパラダイムを身に付けるためには、自分の在り方を見直し、日々の行動を振り返りながら人格を磨き続けていくことが不可欠です。今回の記事がパラダイムシフトが生まれるきっかけになればうれしく思います。
株式会社ジェイックでは、7つの習慣を習得する研修を実施しています。フランクリン・コヴィー・ジャパン株式会社と正式契約しており、認定資格を取得した講師が研修を行います。ご興味のある方はぜひ以下のページよりお問い合わせください。