書籍『人を動かす』は、好ましい人間関係の構築や、人に影響を与えるコミュニケーションのノウハウを30の原則としてまとめた名著であり、デール・カーネギーの代表作として世界で1500万部を超えるベストセラーです。
1936年に出版されてから、既に80年以上が経過した現在でも、Amazonのベストセラーランキングに登場したり、さまざまな著名人から推薦されたりなど、時代を超えて数多くの人たちから支持されています。時代や文化を超える内容は、まさに“原則”といえるでしょう。
記事では、デール・カーネギー研修を提供する知見も踏まえて、書籍「人を動かす」の内容を分かりやすく紹介します。
<目次>
「人を動かす」の著者デール・カーネギーと書籍の概要
最初に「人を動かす」の著者デール・カーネギーと書籍「人を動かす」の概要を紹介します。
デール・カーネギーとは?
デール・カーネギーは、作家にして講演家、そしてマネジメントやリーダーシップの分野で名を知られる人物です。
彼が生まれたのは1888年、アメリカミズーリ州の貧しい農家でした。幼少期のカーネギーは、人前で話すことが好きで、学校の討論会などに積極的に参加する少年でした。
大学を卒業したカーネギーは、食料品や日用品を売り歩く営業の仕事を続けながら、ある時、少年時代からの夢であった俳優になるためニューヨークに移り住みました。残念ながら、彼は演劇や役者の分野では成功を収めることはできず、苦労の日々を重ねました。
カーネギーにとって転機となったのが、YMCAの社会人向け講座で「話し方教室」の講師を務めたことです。分かりやすく実践的だったカーネギーの授業は評判を博し、彼は自信と収入という2つの成果を手にし、天職を見出します。
その後、カーネギーは『人を動かす』や『道は開ける』などの本を出版すると共に、自身の研究所を設立して人材育成や企業・組織研修の分野で数々のトレーニングプログラムを世に送り出しました。
カーネギーの研究所は、今ではデール・カーネギー・アソシエーションとして世界100か国以上、累計900万を超える人々にカーネギーのリーダーシップ、コミュニケーション研修のプログラムを提供しています。
HRドクターを運営する研修会社ジェイックも、デール・カーネギー・アソシエーションと提携して、日本で正式にデール・カーネギーのトレーニングを提供しています。
デール・カーネギーについては以下の記事で解説しているので参考にしてください。
書籍『人を動かす』とは?
カーネギーは、講座を通じた磨き上げたカリキュラムや教材をもとに、書籍『人を動かす』を出版します。
『人を動かす』は人間関係やコミュニケーション能力の向上に関する名著として、世界で1500万部以上も売れたベストセラーとなっています(2023年時点)。
『人を動かす』は、「人を動かす3原則」「人に好かれる6原則」「人を説得する12原則」「人を変える9原則」という大きく4つの章、全部で30の原則がまとめられています。
各原則は、カーネギーが長年にわたって集めた実話や実践で磨き上げた事例を基にして、非常に分かりやすく、またすぐ行動に移せる実践的な内容となっています。
『人を動かす』は、コミュニケーションを通じて成果をあげることが求められるビジネスパーソンだけでなく、主婦や学生などあらゆる人にお勧めできる書籍です。
本書に書かれた原則を実践することで、私たちは良好な人間関係を築き、人に影響を与える技術を身に付けられるでしょう。
『人を動かす』の内容を知りたい人は、以下の記事で内容を要約しているので参考にしてください。
「人を動かす」30の原則をギュッと凝縮|9つのポイント
本章では、カーネギーの著書『人を動かす』に含まれる30原則を、ぎゅっと凝縮して9つのポイントとしてお伝えします。
人を動かすポイント①「批判・非難しない、苦情も言わない」
ポイントの1つ目は、相手を批判・非難せず、苦情も言わないということです。
最初に、それぞれの言葉の意味を確認しておきましょう。
- 批判とは、相手の言動や考え方に対して、改善や改正を求めること。
- 非難とは、相手の言動や考え方に対して、自分の感情や価値観をもとに、悪いと決めつけて責めること。
- 苦情とは、相手の言動や考え方に対して、自分の不満や不快感をもとに、文句を言うこと。
人は、他者から批判されたり非難されたりすれば、「自分を否定されている」と感じて、自分を守ろうとして反発するものです。
従って、批判や非難をしたり、苦言を呈したりして人を動かそうとしても、相手は自分を正当化しようとして反発し、こちらに敵意を持つだけで、協力的に行動してくれることはないでしょう。
結果として、コミュニケーションが困難になったり、関係が悪化したりすることもあるでしょう。つまり、人を動かすうえで、批判や非難、苦情は役に立たないのです。
この原則を実践するコツは、自分の感情を適切にマネジメントすることです。相手の言動にイライラしたり怒ったりすることはしょうがありません。
しかし、怒りに突き動かされて行動するのではなく、自分の感情を冷静に捉えて、「人を動かす」という目的に向けて適切な行動をとれるようになりましょう。
人を動かすポイント②「自尊心を傷つけない」
どんな人も「自分の価値や能力を認められたい」という欲求を持っており、自分を承認してくれる相手に深い信頼感を抱きます。逆に言えば、自分の価値や能力を否定する、自尊心を傷つけるような相手に対しては、人は防御体制を固めて反発するものです。
自尊心を傷つける行為にはどんなものがあるでしょうか。
例えば…
- 相手の誤りを手厳しく批判する
- 大勢の前で恥をかかせる
- 議論して相手を正面から論破する
などは相手の自尊心を傷つける行為です。
他にも、たとえば、あなたが上司に、自分の部下のミスを報告するとき、「彼はいつも仕事が遅くて、細かいミスも多いのです。もっとしっかりしてもらいたいですね。」と伝えたとします。そのような報告がされていることを部下が知れば、きっとあなたに対して不信感を持つに違いありません。
逆に「彼は普段は素晴らしい仕事をしてくれていますが、今回は残念ながらミスがありました。ですが、彼なら次はきっと改善できると思います」と報告したことを知れば、部下はあなたに対して好印象や信頼感を持つことでしょう。
相手の自尊心を傷つけないためには、相手の意見や感情を尊重することも必要です。相手が何かを話しているときに、「それは違うよ」と否定したり、「そんなこと言っても仕方ないよ」と軽視したりすると、相手は自分の話が聞かれていないと感じて不快になります。
その代わりに、「それはどういうことですか?」と質問したり、「それは大変だったでしょう」と共感したりするなどして、相手に自分の話が理解されていることを示しましょう。相手は自分の話が尊重されていると感じると、あなたに安心感や親近感を抱いてくれるものです。
人を動かすポイント③「重要感を満たす」
人と友好的な関係を作りたければ、相手の重要感を満たすことが肝心です。
相手の重要感を満たすには、
- 相手を誠実に率直にほめる
- 相手の意見や価値観を尊重する
- 相手に相談する
- 相手の話を聴く
- 自分の誤りを認める
といったやり方があります。
ビジネスシーンでの事例を考えてみましょう。あるマネージャーは、自分の部下がミスをしたり、モチベーションが低かったりすると、怒鳴ったり、責めたりしていました。しかし、彼はある日、カーネギーの『人を動かす』を読んで、自分の態度が間違っていることに気づきました。
マネージャーは関わり方を改め、心からの賛辞を示し、部下の重要感を満たすように心がけました。部下の小さな成功や努力を見逃さずに褒めたり、感謝したりすることを普段から徹底するようにしました。
部下は上司であるマネージャーからの評価や信頼を感じて、次第にやる気や自信を持ち始めました。そして、部下との関係は改善され、チームのパフォーマンスも向上させることができました。
自分が間違っていることに気づいたら、素直に謝ることも大切です。すぐ謝ることで、自分の非を認めないことで起こりがちな、言い訳や責任転嫁、反発や対立などの問題を回避できるでしょう。
また、素直な謝罪は相手に対する敬意を示す行為でもあり、相手の重要感を満たすことにつながります。
だからこそ、すぐに誤りを認めて誠実に謝罪することで、その後に提案する打開策などを受け入れてもらいやすくなるものです。
人を動かすポイント④「しゃべらせる」
相手の話に関心を示し、思う存分しゃべらせることは、相手を満足させるポイントです。これができている人は、次のような恩恵を得られるでしょう。
- 相手との共通点を見つけることで、会話を活性化させることができる。
- 相手のニーズや関心事を知ることができる。
- 相手に親しみや信頼を感じさせることで、関係性を深めることができる。
実際のビジネスでも、相手に思う存分喋らせることで、次のような成果が期待できるでしょう。
- 営業で提案する際に、商談相手の話に興味を持って聞くことで、相手の課題や目標を把握し、自社の商品やサービスに対する価値提案をすることができる。
- マネージャーが興味を持って部下の話を聞くことで、部下の悩みや希望を理解し、適切なアドバイスやサポートをすることができる。
- プレゼンターが聴衆の反応や質問に興味を示すことで、聴衆の反応や質問をキャッチし、自分の話に関連付けて回答することができる。
相手の話に興味を持って聞くことは、ビジネスシーンで人を動かすための有効な方法です。相手の話に興味を持って聞くためには、以下のようなポイントに注意しましょう。
- 相手の目を見て、うなずきや笑顔などの身振りや表情で相槌を打つ。
- 相手の話に中断せず、最後まで聞く。
- 相手の話に関連する質問や感想を返す。
- 相手の名前や話した内容を覚えておく。
人を動かすポイント⑤「名前を呼ぶ」
相手の名前を覚えて、頻繁に呼ぶことは、相手に親しみや尊敬を感じさせ、信頼関係を高める効果があります。
なぜなら、自分の名前というものは、誰にとっても最も慣れ親しんだかけがえの無い言葉であり、大事にしているものだからです。名前を呼ぶことで、相手に「自分の存在を認めてもらえた」という特別感や好感を与えることもできるでしょう。
例えば、得意先で先方担当者の名前を覚えて呼ぶことはとても大切です。沢山の人と会う仕事であれば、お客様の名前を覚えていることで、他の営業職と差別化することにもなりますし、お客様に「自分はこの企業の重要顧客として認識されている」といった感覚を持たせることも期待できるでしょう。
また、上司や部下、同僚など職場の人間関係においても、名前を呼ぶことは有効です。上司が部下の名前を呼ぶことで、部下は自分の仕事が評価されている、上司に気にかけてもらっていると感じたりします。
逆に、部下が上司の名前を呼ぶことで、上司は部下に対する信頼や尊敬を感じたり、部下に対する責任感を持ったりするかもしれません。
同僚同士が名前を呼ぶことで、チームワークやコミュニケーションがスムーズになったり、仲間意識や協力意識が高まったりという効果もあるでしょう。
相手の名前を覚えて、頻繁に呼ぶことは、相手との心の距離を縮める効果てきめんの方法です。相手の名前を覚える方法は色々ありますが、一番簡単なやり方は、会話中に何度も相手の名前を呼んで繰り返し覚えることです。相手の名前を呼びかけながら話すことで、相手にも自分を強く印象付けることにもなります。
人を動かすポイント⑥「笑顔で接する」
笑顔で接することは、次にあげるように、たくさんのメリットがあります。
- 相手との距離感や壁を縮めることができる
- 相手の気分やテンションを上げることができる
- 相手に対する好意や信頼を伝えることができる
- 相手に対する感謝や尊敬を表現することができる
- 相手に対し、自分は味方だと印象付けられる
例えば、あなたが新人として入社する、あるいは新しい支店に赴任するというケースを考えてみましょう。最初に自己紹介や挨拶をすることになると思いますが、この時は、相手の目を見て笑顔で名前や所属などを伝えましょう。
また、仕事の指示やアドバイスを受ける際には、相手の話に耳を傾けて笑顔で返事や質問をしましょう。そして、仕事の成果や報告をするときには、相手の評価やフィードバックに笑顔で感謝を伝えることを心がけましょう。
人を動かす上では、相手に「この人は自分の味方である」と認識してもらうことが必要です。そのために有効なのが笑顔であり、穏やかな口調、物腰柔らかな話し方です。
無表情な顔つきや感情的な物言い、ぶっきらぼうな口調で接してしまえば、相手はガードを固め、あなたの意見や説得を疑い深い目で吟味するようになるでしょう。こうなってしまえば、相手を説得することはおろか以降の関係性も難しくなってしまいます。
だからこそ、会話自体の雰囲気を穏やかなものとし、相手に心を開いてもらうことが大切です。
人を動かすポイント⑦「相手の立場で考える」
人を動かすためには、相手には何が見えているのか、どう感じているか、何を求めているか、何に興味があるか、何に喜ぶかを考えることが大切です。
相手の立場で考えることは、上述したような「批判や非難をしない」というポイントの実践につながります。また、相手の立場で考えることで、相手の興味関心を惹き、相手が喜んで協力してくれるようなコミュニケーションやアプローチの手がかりも発見できるでしょう。
例えば、ビジネス場面で言えば、次のようなケースが考えられるでしょう。ある営業担当者は、ふだん営業先で、自社の商品やサービスの特徴やメリットを懇切丁寧に説明することを心がけていました。
しかし、本人の頑張りに反して、なかなか成約できませんでした。そこで彼女は、先方の担当者の立場に身を置き、どうすれば相手が気持ちよく動いてくれるか?に焦点を当てて考えることにしました。
具体的には、訪問先の業界や会社の状況や課題を調べて、また、先方担当者の困りごとに耳を傾けるといったことをしていきました。
先方の担当者は、自社のことをよく理解してくれている彼女の提案に、徐々に興味や関心を持つようになり、最終的には購入を決めました。彼女は相手の立場をよく理解することで、営業成果につなげられたのです。
別の事例では、あるプレゼンターが、自分のアイデアや計画を聞いてもらうために、多くの資料やデータを用意して発表していました。プレゼンは非常に論理的で、根拠となる資料やデータもふんだんに盛り込まれていましたが、興味を持ってくれる聴衆はあまりいませんでした。
彼は聞き手の立場に身を置いて考えてみました。聞き手はどんな問題や目標を抱えているのか、どんな情報や答えを求めているかを考えて、聞き手の要望に応えるように発表内容や方法を工夫しました。
また、聞き手の関心や好奇心を引くようにストーリーやエピソードを交えたり、問いかけたりしました。結果として、聞き手は彼の発表に注目や理解を示し、承認や支持してくれるようになりました。
相手の立場で考えることで、相手に強い欲求を起こさせるヒントが得られます。ビジネスシーンだけでなく、日常生活や子育てなどあらゆる人間関係に役立つ原則です。
人を動かすポイント⑧「思いつかせる」
人を動かすためのポイントのひとつは、自分の考えや提案を押し付けず、相手に自ら考えさせるということです。
人は自分の行動を自分で決めたいという本能を持っています。だからこそ、あなたの考えを受け入れたり、あなたの指示を実行したりすることには本能的な抵抗感が生じます。
しかし、自分で思いついたアイデアであれば、素晴らしいものだと思えますし、実行に際しても一生懸命になるものです。
だからこそ、人を動かしたい、主体性を持って行動させたいなら、相手の意見や感想を聞いたり、質問やヒントを与えたりして、相手が自分で答えや解決策を見つけるように促したり誘導したりすることが大切です。
相手に自ら考えさせることには、以下のようなメリットがあります。
- 相手の能力や自信を引き出すことができる
- 相手の主体性や責任感を高めることができる
- 相手の納得感や満足感を高めることができる
例えば、マネージャーとして部下に仕事を任せるときのことを考えてみましょう。まず、部下に目標や期限などの必要条件を明確に伝えます。
次に、部下に仕事の進め方や方法などを自分で考えて計画してもらいます。そして、部下の計画に対してフィードバックやアドバイスを与えるのです。
部下は、自分自身で仕事の進め方や具体的な方法を考えることで、上司にあれこれ言われてやる時に比べてやる気になるでしょう。それだけでなく、あなたが自分のことを信頼してくれていると感じてモチベーションを高めるかもしれません。
そして、自分で考えた計画で成果を出せば、達成感や自信を得て、ますます主体性を発達するようになるでしょう。
人を動かすポイント⑨「心を刺激する」
人を動かすための方法として、相手の心を刺激することもノウハウのひとつです。たとえば、挑戦心や競争心、倫理観や大儀、そして、自己効力感などを刺激することは、人を動かすうえでとても有効に働くことがあります。
あるマネージャーは、部下のモチベーションを高めるために、挑戦や競争心を刺激するような関わり方を心がけました。部下それぞれの強みや目標を踏まえ、適性や興味に合わせて仕事を割り振りました。
また、部下の成果や努力を評価し、次のステップや目標を提示しました。部下は自分の能力や可能性を示そうと奮起し、期待を上回るパフォーマンスを発揮するようになりました。
別のケースでは、とある営業担当者は、顧客の購買意欲を高めるために、次のようなアプローチを試みました。
顧客の成功事例や市場動向を紹介し、自分の商品やサービスが顧客の業界シェアや知名度の向上に貢献できる可能性があることを伝えたのです。競合との競争心が刺激された顧客は、購入に踏み切りました。
人間は上記のような挑戦心や競争心、自己効力感の他にも、倫理観や大義にも心が揺さぶられます。相手を正しく高潔な人物であるとして扱い、かつ明言することで、「高潔である」という自己イメージを裏切らないような行為を引き出すことが出来ます。
まとめ
本記事では、書籍『人を動かす』の概要と、人を動かすための30の原則を9つのポイントにまとめて紹介しました。
『人を動かす』に書かれた内容は、周囲の人々からの信頼を得たり、協力や支援を引き出したり、プラスの影響を与えたり、といったことを実現するためのまさに原則といえるものです。
私たちは、これらの原則を実践することで、人間関係の改善やコミュニケーション能力の向上を期待できるでしょう。
HRドクターを運営する研修会社ジェイックでは、デール・カーネギー・アソシエーションと連携して、日本で正式に「人を動かす」デール・カーネギー研修を提供しています。
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