激励する|デール・カーネギー『人を動かす』

激励する

私たちが人生を過ごす上では、多くの困難や障害が訪れるものです。

 

困難や障害というと大袈裟ですが、「つらい」「心が折れそう」といった経験は誰にでもあるでしょう。

 

そんな時、誰かからの応援や励まし、激励の言葉で大いに奮起したり、自分では越えられないと思っていた壁を超えたりできた経験がある方も多いのではないでしょうか。

「大いに元気づけて、やりさえすれば容易にやれると思い込ませ、そして、相手の能力をこちらは信じているのだと知らせてやるのだ。そうすれば相手は、自分の優秀さを示そうと懸命に頑張る。」
(デール・カーネギー『人を動かす』より引用)

リーダーシップや対人関係トレーニングの分野で世界的に知られるデール・カーネギーも「励ましの言葉ほど人を変え、奮い立たせるものはない」と話しています。

 

記事では、デール・カーネギーの書籍『人を動かす』に書かれている「激励する」の原則をテーマに、原則の詳細や実践のポイント、また、「激励する」の原則が含まれる「人を変える9原則」を紹介します。

<目次>

『人を動かす』とデール・カーネギー

最初に、デール・カーネギーと著書『人を動かす』について簡単に紹介します。

 

デール・カーネギーの生い立ち

書籍『人を動かす』の著者デール・カーネギーは、講演家、著作家、各種人材育成プログラムの開発者として、世界中で名を知られる人物です。

 

カーネギーが生まれたのは、1888年、アメリカ・ミズーリ州の農家でした。

 

子供時代から青年期にかけて、カーネギーは弁論術に強い関心を持ち、高校、大学ではディベート・クラブやスピーチコンテストで活躍しました。

 

大学を卒業後は、ネブラスカで販売職の仕事に従事し、蓄えた資金を元手に、ニューヨークへ渡って俳優を目指して奮起します。

 

残念ながら、カーネギーは俳優としては目立った成果を残すことはできませんでしたが、その後、縁あってYMCAが開催する夜間学校の講師の職に就くことになりました。

 

カーネギーは「話し方」のクラスを担当しますが、この講座は生徒たちの間で大評判となり、クラスはいつも満員の聴衆でいっぱいだったといいます。

 

カーネギーは、授業と並行して、自身の指導法を体系化・標準化することも進めていきました。その集大成が、次節で紹介する書籍『人を動かす』です。

書籍『人を動かす』とは?

カーネギーは、YMCAで、また、その後、独立したのちも、コミュニケーションやプレゼンテーションのトレーニングを提供するのと並行して自身の指導法の体系化・標準化を進めていきます。

 

その集大成として1937年に出版したのが書籍『人を動かす』です。

 

『人を動かす』は、初版から現在まで、累計で1,500万部の売上を記録し、あらゆる自己啓発本の原点として世界中で支持される普及の名書となっています。

 

カーネギーは、「経済的成功の15パーセントは専門的知識から生み出されるが、残りの85パーセントは考えを表現する能力、リーダーシップをとる能力、そして人々の熱意を引き出す能力によるものだ」と話しています。

 

『人を動かす』は、まさにリーダーシップを取り、人々の熱意を引き出して成功するための原則がまとめられた書籍であり、あらゆる人間関係にプラスの効果をもたらす基本がまとめられています。

 

私たちは、『人を動かす』を通じて、相手から好印象を得たり、自分の考えを受け入れてもらったり、相手の気分を損ねることなく期待通りに行動させたりといった人生の成功を大きく後押しする方法を自分のものにすることができるでしょう。

『人を動かす』については以下の記事で詳しく解説しているので参考にしてください。

 

人を変える9原則

書籍『人を動かす』は、「人を動かす3原則」「人に好かれる6原則」「人を説得する12原則」「人を変える9原則」の4パートから構成されており、全部で30の原則が紹介されています。

 

本記事のテーマである「激励する」は、「人を変える9原則」のひとつです。「人を変える9原則」では、相手との関係を損ねることなく、相手に自ら変わってもらうために重要な9つの原則が書かれています。

 

経営者や組織のリーダー、管理職などの人にとって、「人を変える9原則」の内容は大いに参考・活用することができるでしょう。

 

「激励する」の詳細に入る前に、本章では「人を変える9原則」の一覧を簡単に紹介します。

 

1.まずほめる

「人に注意や指摘をする必要があるときは、まず相手を褒めてから本題を切り出すべし」という原則です。

 

とにかく相手の優れた部分、秀でた長所をしっかりと褒めて相手の気分を良くしてあげてから、その後に直すべき部分に触れることで、相手はあなたの話を素直に聞き入れ、さらに良くなるために変わろうと思ってくれるでしょう。

2.遠まわしに注意を与える

いきなり間違いを指摘されると、私たちは自分のプライドを傷つけられたと感じるものです。

 

したがって、もし相手の間違いをストレートに指摘すれば、相手の機嫌を損ね、反発心を生み出すことになってしまいます。

 

だからこそ、ストレートな指摘は相手が「動きたくなる」「変わりたくなる」ことには往々にして役立たないのです。

 

相手の気分を損ねずに注意を伝えるためには、遠回しでオブラートに包んだ表現にしたり、相手自身に自ら気づかせる伝え方にしたりすることがおすすめです(ストレートに注意することがすべてNGというわけではありません)。

 

3.自分の過ちを話す

前述の通り、人は「自分が誤っていた」とはあまり認めたくないものです。

 

だからこそ、たとえ相手の成長を願って、忠告や助言をしたとしても、聞き入れてもらえない状況は意外と起きてしまうものです。

 

助言や忠告を素直に聞いてもらうには、「自分も過去に過ちや失敗をしたのだ」と伝えることが有効です。

 

こちらが自分の過ち、過去の失敗を開示することで、相手も自分の間違いを素直に受け入れやすくなるでしょう。

4.命令をしない

ほとんどの人は、頭ごなしに命令されると思わずカチンときて反発心を抱いてしまうものです。

 

子供の頃、親から「遊んでいないで宿題しなさい!」と言われて「今やろうと思っていたのに!」と反論した、やる気が落ちたなどの経験を思い出した人もいるかもしれません。

 

指示されることへの反発心は、心理学的には心理的リアクタンスと呼ばれ、人が持つ自然な心の動きです。

 

したがって、指示や要望がある場合は、一方的に命令することは避けたほうが賢明です。

 

命令する代わりに「どうしたらいいと思う?」あるいは「こんなやり方もあるけどどうだろう?」というように、質問の形にして伝えましょう。

 

質問することで、相手は「自分自身で決めた!」という感覚になり、こちらの期待する行動を起こしやすくなります。

 

5.顔をつぶさない

人は多かれ少なかれ自尊心を持っています。相手を人前で叱ったり、恥をかかせたりすることは、相手の顔を丸つぶしにして、自尊心を傷つける行為です。

 

そうなれば、たとえ叱責する内容が事実で的を得ていたとしても、相手は自尊心を傷つけたあなたに対して反発心を抱くでしょう。

 

したがって、相手の顔をつぶさないように配慮することは、人を気持ちよく動かす上でとても大事なことです。

 

遠回しに伝える、1対1で伝える、相手の顔が立つようにするといったことが有効でしょう。

6.わずかなことでもほめる

他者からほめられることで、私達の自己重要感は満たされ、自分の可能性を信じて行動できるようになります。

 

大きく成長して欲しい相手がいるならば、どんなわずかな事でも惜しみなく積極的に褒め続けることが重要です。

 

ほめるというのは基準を妥協するということではなく、相手の取り組む熱意、努力、成長した箇所、そういった点を見つけ、しっかりと認めるということです。

 

7.期待をかける

他者から期待をかけられれば、人は誰でも期待に応えようと努力するものです。

 

期待をかけることは、相手を信頼しているというメッセージであり、相手を望ましい方向に導いていく上でも非常に大切な行為です。

 

期待をかけている旨を伝えることで、相手を奮起させられることでしょう。

8.激励する

人は誰かから承認されることで、自信をもって行動できるようになります。今時点で才能があるかないかなど、誰にもわかりません。

 

激励し大いに元気づけて、相手に「自分はやればできるのだ」と思ってもらうことが、人を見違えるように成長させる上で大切な考え方になります。

 

「激励する」の詳細は、次章で詳しく解説します。

 

9.喜んで協力させる

ほとんどの人は、自尊心を満たしてもらうこと望んでおり、それを満足させてくれそうなら、たいていのことに嬉々として応じるものです。

 

したがって、他者から協力を引き出すためには、相手の自尊心を満たしてあげる行為が効果を発揮します。

 

客観的に見れば子供だましに見える勲章や大袈裟な肩書など、人の自尊心を満たせるものは意外と多くあるものです。

 

相手が喜びそうな肩書や演出を工夫してアプローチしてみましょう。

「激励する」の詳細と実践のポイント

本章では、「激励する」の詳細と、実際の人間関係の中で活用するためのポイントを詳しく解説します。

 

「激励する」の原則を活用できる場面とは?

「人を変える9原則」の8つ目である、「激励する」の原則ですが、実際にどんな場面で活用できるでしょうか。

 

上司から部下・メンバーに指導やフィードバックする場面などは活用の典型例です。

 

相手にやる気を起こさせて、奮起させる、相手の中に行動するモチベーションが湧いてくるようにする。

 

人を動機づける、勇気づける場面でこそ、「激励する」の原則は真価を発揮します。

 

「人の扱いがうまい」「やる気を起こさせるのがうまい」と評判のリーダーやマネージャーは、やり方や伝え方こそ様々ですが、ほぼ例外なく何かしらの形で、激励のメッセージを伝えているものです。

 

職場に人材育成で評判のリーダーやマネージャーがいれば、そういった人が部下・メンバーとどのように関わっているか、観察したり話を聞きにいったりすると良いでしょう。

なぜ激励することが、人材育成に大切なのか?

なぜ激励の声掛けが人材育成に効果を発揮するのでしょうか。理由を端的に言うと、「人の才能や能力が開花するきっかけは、往々にして誰かの激励にある」からです。

 

プロスポーツ選手やオリンピックの金メダリスト、著名な研究結果を残した研究者などの話を聞くと、子供の頃に恩師や憧れの人からかけられた言葉がきっかけで、その道を歩んだというケースが数多くあります。

 

記事をご覧になっている方の中にも、「学校の先生やお世話になった上司の言葉がキャリアを選択するきっかけになった」という人もいるかもしれません。

 

有名な例としては、数々の発明を残したトーマス・エジソンがいます。

 

発明王として名の知られるエジソンですが、幼少期のエジソンは、学校の勉強についていけず、小学校を途中で退学するような子供でした。

 

しかし、母親だけは、あり余る好奇心を持ったエジソンのことを信じてあきらめずに褒め続けてくれました。

 

エジソンの母親は、「なんでもやってみなければわからないのだから」と激励の言葉をかけ続けて、エジソンの好きな科学の実験をとことんやらせてあげたそうです。

 

こうしたかけがえのない母の褒め言葉のおかげで、エジソンは自分の可能性を信じて発明の道を進み、発明王として歴史に名を残すことができたのです。

このように励ましの言葉は、人の人生を左右する大きな力があります。

 

職場の人材育成においても同様です。

 

成果をなかなか出せずにいる社員がいたら、「何とかして本人に成果を出してほしい」「成果を出せるように成長してほしい」とうのは人材育成に関わる方に共通する願いでしょう。

 

私たちの才能や能力は、何がきっかけで開花するのか誰にもわかりません。

 

加えて、私たちの強みや才能というものは、得てして当たり前過ぎて、そのことに自分自身では気づかないことが少なくありません。

 

だからこそ、普段の行動や振る舞いに対して、周囲の人から激励や誉め言葉を口にして伝えることが、相手の可能性や才能を開花させるうえでも大きな役割を持っているのです。

「激励する」原則を実践するポイント

カーネギーの『人を動かす』原則はいずれも、適切なやり方で取り組めば、誰でも身に付けることができるものです。

 

カーネギーの原則を自分のものにするためには、普段の人間関係、これまでのコミュニケーションを見直し、さらに一歩踏み込んだ関わり方をトライアンドエラーしながら実践することが大切です。

 

人は一人ひとり異なる価値観や考え方を持っています。まだ実践しなれない時には、いつもと違うアプローチが裏目に出ることもあるでしょうし、そのことを不安に思う方もいるかもしれません。

 

しかし、「激励する」の原則の実践、すなわち人を励ますという事に関して言えば、効果が出ないことはあっても、裏目に出ることはほぼないでしょう。

 

ご自身の事を思い出してもらうと分かると思いますが、誰かから本気で励ましの言葉をかけられて、嫌な気持になったことがあるという経験がある人は殆どいないはずです。

 

「激励する」行為は、人間関係に何のリスクもマイナスも基本的には生まないのです。

 

それでいて、相手の才能を開花させる、モチベーションを上げる効果も期待できるのですから、むしろ機会を見つけて(機会がなくても)積極的に激励の言葉をかけないともったいない、と言えるくらいです。

 

このように、何のコストも不要でマイナスにもならないのが「激励する」という行為です。

もし、私たちの実践を阻むものがあるとしたら、今まで関わり方でいきなり励ましの言葉をかけることの「いきなり感」、あるいは職場の中で自分ひとりの激励が悪目立ちする「気まずさ」にあるかもしれません。

 

こうした自分自身の中にある「気恥ずかしさ」を克服することが、「激励する」原則を実践するポイントともいえます。

 

最初のうちは抵抗感や気まずさを感じても、気にせず実践することを習慣にしていくことが大切です。激励された相手の表情を見ているうちに、積極的に激励することが習慣になっていくことでしょう。

 

自分自身が起点となって、職場全体で激励する声掛けを当たり前の風土にしていくぐらいの気構えをもつと良いかもしれません。

 

職場全体に激励しあう風土ができれば、働くメンバーのモチベーションは上がり、新しい強みや才能に気づく機会が生まれます。

 

これほど投資対効果の高い取り組みは中々ありません。

 

なお、「激励する」がマイナスの効果を生む数少ないケースが、普段はまったく人をほめないのに、何かを引き受けさせよう、やらせようという時にだけ「君なら必ずできるよ」「ぜひ君にこれをやり切ってもらって次のステージに進んで欲しいんだ」と、“心にもない激励を、相手を動かすためにやる” 場合です。

 

この激励だけは、相手に感銘を与えないどころか、簡単に見透かされ、反発心を生むものとなってしまうでしょう。

 

こんなことにならないためにも、普段から相手を激励する、本気で期待する、期待を伝える、といったことを習慣にしていきましょう!

まとめ

記事では、書籍『人を動かす』に書かれている「人を変える9原則」の1つ「激励する」をテーマにお伝えしました。

 

私たちに眠っている能力や才能がいつどんなタイミングで開花するのかは誰にもわかりません。

 

そして、誰かの激励の言葉が、才能が目覚めるきっかけになることは少なからずあるものです。

 

人を励ますことは、決して難しいものではなく、普段の人間関係の中で習慣にしていくことができます。

 

ぜひこの機会に、家庭生活や職場の人間関係の中で、励ましの言葉を積極的にかけていただければと思います。

 

「人を褒めるのはちょっと苦手で…」「うちの管理職たちは部下を褒めないんだよな…」とお困りの人は、HRドクターを運営する研修会社ジェイックでは、米国デールカーネギー・アソシエイツ社と提携して、日本中でデール・カーネギー研修を提供しています。

 

「管理職のマネジメント力を高めたい」「営業職の営業力をあげたい」とお考えの人は、以下のデールカーネギー研修、セミナーの情報を参照してください。

著者情報

近藤 浩充

株式会社ジェイック|取締役 兼 常務執行役員

近藤 浩充

大学卒業後、情報システム系の会社を経て入社。
IT戦略事業、全社経営戦略、教育事業、採用・就職支援事業の責任者を経て現職。企業の採用・育成課題を知る立場から、当社の企業向け教育研修を監修するほか、一般企業、金融機関、経営者クラブなどで、若手から管理職層までの社員育成の手法やキャリア形成等についての講演を行っている。
昨今では管理職のリーダーシップやコミュニケーションスキルをテーマに、雑誌『プレジデント』(2023年)、J-CASTニュース(2024年)、ほか人事メディアからの取材も多数実績あり。

著書、登壇セミナー

・社長の右腕 ~上場企業 現役ナンバー2の告白~
・今だからできる!若手採用と組織活性化のヒント
・withコロナ時代における新しい採用力・定着率向上の秘訣
・オンライン研修の「今と未来」、社員育成への上手な取り入れ方
・社長が知っておくべき、業績達成する目標管理と人事評価
・社長の右腕 ~ナンバー2の上司マネジメント / 部下マネジメント~
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・社長の右腕 10の職掌 など

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