内省とは、振り返り手法の一種で、自らの行動・体験から気づきを得て、マインドやスキルの成長につなげていく手法です。
本記事では、まず、内省の概要と効果、方法などを確認します。確認したうえで、記事の後半では、内省する際の注意点と、ビジネスでの内省の活用方法を紹介しますので、参考になれば幸いです。
<目次>
内省の意味
内省とは、自らの行動・体験などを振り返り、経験から得た気付きをマインドやスキルの成長につなげていくことです。
具体的には、業務から離れて事実やデータに基づき、また自分の内面と向き合いながら、自分の行動・経験を振り返ります。
内省は、英語では「reflection」と呼ばれ、HR分野などでは日本語に翻訳せず、「リフレクション」とそのまま呼ぶことも多くあります。
英単語のリフレクション(reflection)という単語は「反射」という意味があります。
内省では、リフレクションという英単語が意味するように、“鏡に光景が反射する”、“水面に風景が反射する”のように、自分の行動・経験を“客観的にありのまま振り返ること”がポイントになります。
内省がもたらす効果
内省には、個人の自己成長と組織の人材育成の両方で、効果・メリットがあります。
・学ぶ力が向上する
たとえば、社内でいくら研修を実施しても、思うように人材育成や成果改善が進まないことがあります。
研修などにロールプレイングを取り入れたとしても、あくまで研修での学びは知識やスキルの習得に留まります。
人材の成長や成果には結びつけるには、実際に現場で知識やスキルを活かせることが大切です。
そして、学んだ知識・スキルを現場で活かせるようにするには、実践して振り返って改善する、身に付けることが大切です。
リフレクションによる学びは、コルブの経験学習モデルと共通する点が多々あります。
- ステップ1:具体的経験(業務や活動のなかで具体的な経験をする)
- ステップ2:省察的観察(経験した内容を自分の中で多面的に振り返る)
- ステップ3:抽象的概念化(経験に共通点を見つけ出し概念化させる)
- ステップ4:能動的実験(得られた概念が正しいかを他のケースで試してみる)
内省は、ステップ2の「省察的観察」にあたるものです。
たとえば、Aさんが、研修で何らかの技術を学んだと仮定します。
Aさんが技術を現場で実践して、振り返りを行なうことで、「自分は工程Bのやり方を間違っていた」や「先輩Cさんと同じ工夫をすれば良い」などの気付きや悟りから、次回以降はうまくやる方法・失敗しない方法へとつなげやすくなります。
経験⇒内省⇒概念化⇒⇒実験(経験)を繰り返すことで、研修で学んだ技術や知識が、自分のものとして身についていくでしょう。
経験などの好循環は、研修での学びだけに留まるものではなく、日常の体験や経験すべてが成長につながっていきます。
・良い結果の再現性が高くなる
たとえば、Aさんが「いままで苦手だった工程Aを初めてうまく作業できた」と仮定します。
作業できたとき、きちんと「なぜ今日はうまくいったのか?」と内省することで、うまくいかなかった昨日とうまくいった今日の違いや、無意識にやってみた施策などが見えてきます。
「なぜうまくいったか?」を振り返ることで再現性が生まれ、明日以降の成功率をアップさせることができます。当然のことながら、失敗経験を内省すれば、同じ失敗も繰り返しにくくなります。
・セルフリーダーシップが向上する
ビジネスのなかで大事なことは、自分自身にリーダーシップを発揮することです。自分自身に発揮するリーダーシップを、セルフリーダーシップと呼びます。
セルフリーダーシップにおいて、ひとつ大事なことが意思決定です。
内省を通じて「なぜうまくいかなかったのか?」「なぜうまくいったか」を考え、失敗パターンや成功しやすい方法を見いだせるようになると、正解がわからないビジネスシーンでも、自信を持って意思決定できるようになるでしょう。
内省と反省の違い
「反省」のもともとの意味は、自分の行動や発言を振り返って、何らかの有用な知見を得たり、何らかの評価を下したりすることです。知見自体は、内省(リフレクション)と同じです。
ただし、一般的に反省という言葉は、「自分の失敗を認めて改めるための振り返り」として、“失敗”に限定して使われることが多くなっています。
また、「反省した」「反省しなさい」などの使われ方から、反省という言葉には“責任を感じる”といったニュアンスを強く感じるかもしれません。
内省は、本来の反省と同じく、“責任”などからは距離を置き、客観的に振り返ることです。また、内省の対象は、失敗も成功も同じように含められます。
内省の方法
内省は、客観的な振り返りです。
内省でいうと客観的とは、起こった事柄や自分の言動といった意味での「客観的な事実」というほかに、自分の内面で起こったこと(主観的なとらえ方や信条)などで「第三者的に客観視する(メタ認知)」という意味も含まれます。
本章では、内省する際の流れ・ポイントを紹介しましょう。
客観的に事実や行動、意思決定を振り返る
たとえば、「チーム会議で、メンバーとの意見が合わず、つい感情的になってしまった」という出来事があったと仮定します。出来事を振り返るには、まず客観的な事実を確認しましょう。
- 出来事に関わっていたのは誰か? ⇒ 自分、Aリーダー、メンバーB~F
- どのような状況だったのか? ⇒ 売上が伸び悩んでいるため、販売手法の変更を検討する会議だった
- 相違があった「意見」とは具体的に何? ⇒ 自分は現状維持を希望、その他メンバーは競合と同じ手法を提案
- 感情的になった結果、どうしたのか? ⇒ 自分の意見が通らないことに不機嫌になり、途中退席してしまった
- いまのチーム会議は、どうなったのか? ⇒ 会議は途中で中断、来週にまた行なわれる予定
上記の事例には、若干の感情面なども含んでいますが、内省する場合、まずは上記のように誰が見ても同じようにとらえられる事実や言動を振り返って整理しましょう。
主観的に事実や行動、意思決定を振り返る
次に、上記の出来事に対して、自分のなかでどうとらえたり、どのような感情がしょうじたりしたのかを振り返りましょう。自分の内面を客観的にとらえることはメタ認知などとも呼ばれます。
- なぜ感情的になったのか? ⇒ 意見の相違から孤立しているような気持ちになった、新しい販売手法を覚えたくない気持ちがあった
- 現状維持を希望する理由は何なのか? ⇒ 長年守ってきたやり方が壊れるのが耐え難かった、競合と同じ方法で良い成果が出るとは思えなかった
- 途中退席したことをどう思うか? ⇒ 大人げないと思う
上記のような物事のとらえ方や感情の動きは自分の内面で起こったことであり、第三者が見てわかるものではありません。
内省では、客観的な事実と並んで、内面で起こったことを冷静に振り返ってみることが大切です。
内面で起こったことを冷静に振り返ってみると、物事の渦中にいるときには気づけなかった自分の価値観、物事のとらえ方、見えていなかった感情などを発見できるでしょう。
「もしもう1回やるなら?」という視点で考える
上記の客観的・主観的な振り返りの結果を踏まえて、「もしもう1回やるなら?」という視点で、変えたい言動や継続する思考を見出していきましょう。
- もしもう一回やるなら、自分の意見がどのような内心からきているか、自分の利害に基づいていないかを確認してから発言したほうがよかった
- どういう姿勢で会議に臨むべきか?⇒まず他メンバーの話に耳を傾ける、目標達成に向けてベストな意思決定をする
- 自分の意見をメンバーに伝えるにはどうすべきか?⇒普段から良好な関係を築いておく、現状の方法のメリットや新しい手法の問題点などを論理的に説明する
内省する際の注意点
内省による自己成長などの効果を最大化するには、以下のポイントを大切にする必要があります。
完璧を目指さない
内省で大事なことは、継続と習慣化です。
内省した時、現状の課題を「すぐに100%改善する」のは難しい場合もあるでしょう。
たとえば、先述のとおり「会議中に感情的になってしまう」などの問題に対して、いきなり感情を完璧にコントロールすることなどできません。
内省で見つけた課題に対して「完璧じゃないとダメだ!」と思ってしまうと、精神的にどんどんつらくなってしまいます。
たとえば、「先週は感情的に発言してしまうことが4回もあったが、今週は2回に減った」ととらえて、自分が少しずつでも成長しているポイントなどを見出すことが大切です。
広く柔軟な視野を持つ
内省に欠かせない客観性を高めるには、広く柔軟な視野を持つことが大切です。そこで必要となるのは、メタ認知能力を高めることになります。
メタ認知能力を高めるには、自分の物事のとらえ方や感情が動くパターンを知る、自分の内面で起こっていることを俯瞰してみてみるといったことが有効です。
広く柔軟な視野を持つと、相手の“パラダイム(物の見方・考え方)”で物事を想像することも可能になります。
自分を責めない
たとえば、仕事でなかなか成果がでない・失敗ばかり…というときに内省をすると、「なぜうまくいかないのか?」にフォーカスしがちになります。
人によっては「自分はいまの仕事に向けていないのかも?」などのネガティブ思考になることもあるでしょう。場合によっては、「すべて自分のせいだ」という思考になってしまう可能性もあります。
自責思考でとらえて、自分の姿勢や行動を変えていくことは、成長するうえでとても大切です。
ただし、「すべて自分のせいだ」と自分を責めて思考を止めてしまうと、姿勢や行動の変化にはつながりません。
内省のなかでは改善や課題だけでなく、「うまくできたこと」「いまのでOKなこと」も振り返るのがおすすめです。
たとえば、「いまの発言は会議に刺激を与えた」などの良いことも挙げられると、「自分はちゃんとやれている」と思えるようになります。そう思えることを、仕事効力感(自己効力感)と呼びます。
内省では、課題解決や良い成果の再現性を高めることも大事ですが、仕事効力感を高め自信を持つことも重要です。日誌などを使って振り返りや内省する際にも同様です。
ビジネスにおける内省の活用方法
内省の技術は、企業の人材育成や組織開発においても役立つものです。本章では、企業の人材育成やビジネスシーンにおける内省の活用方法を紹介しましょう。
経験学習の質を高める
冒頭でも紹介した通り、Off-JTの座学研修の内容や、OJTで先輩社員が教えた技術や知識を身に付けてもらうためには、実務の中で実践して振り返るという経験学習のサイクルをつくることが大切です。
重要となるのは、仕事のなかで“内省できる仕組み”です。
たとえば、仕事のあと、日誌・日報を毎日書いてもらったり、週1回や月1回の1on1や発表会などを実施したりすることも効果的な手法です。
また、新入社員の場合、最初の集合研修の数ヵ月後にフォローアップ研修を行ない、「研修で習ったことを現場で実践できたか?」などの振り返りを行なってもよいでしょう。
研修したあとに実践する、実践したあとにきちんと振り返る、実践と振り返りの2つをきちんと実現できれば、研修の効果性もぐっと高まります。
日常業務や体験を成長につなげる
内省を習慣化すると、日常業務における成果や小さな課題、ネガティブな体験など、すべてが成長につながる要素になってきます。
- 担当顧客のAさんが苦手だ
- 入力業務が時間通りに進まず、いつも残業になってしまう
- B工程のやり方を活用し、C工程の課題も解決できないだろうか など
研修だけに依存せず、社員が業務を通じてどんどん学び成長する組織風土は、強力な競争力となるでしょう。
改善を重ね生産性を上げる
経験⇒内省⇒概念化⇒実験を一巡したからといって、すぐに課題が解決したり、法則・悟りを得られたりするわけではありません。
しかし、いきなり課題解決できなくても、PDCAを回し続け、仕事のやり方や考え方などを少しずつ改善していくことは非常に重要です。
近年では、“イノベーション”という言葉が注目されていますが、トヨタ自動車を世界トップの自動車メーカーに押し上げた考え方“トヨタ式”の一つとして有名なのは“KAIZEN(改善)”になります。
社内に内省の文化を導入することは、絶え間なく改善し続ける文化の形成にもつながります。
主体的に行動できる人材を増やす
効果・メリットのところでも少し触れましたが、各メンバーが内省をするようになると、成功・失敗要因や課題が「なぜそうなったのか?」と振り返り、法則性を見出し、更なる改善・向上に向けて実験を繰り返す“セルフリーダーシップの高い人材”が増えてきます。
セルフリーダーシップの高いメンバーが多いチームでは、リーダーが明確な指示をしなくても、各自が主体的に課題を見つけ改善するサイクルを回せるようになるでしょう。
最近は、“VUCAの時代”ともいわれるとおり、市場環境や顧客ニーズも変わりやすくなっています。
また、“産業のサービス化”ともいわれるとおり、たとえば、製造業などにおいても従来のように“物”単体を売るのではなく、“物を利用する体験”“利用を通じて生まれる価値”を提案するサービス業的な感覚が求められるようになりました。
経営層や上司がビジネスにおけるすべての正解を知っているわけではなくなり、また、成功につながる指示を事細かに出すこともできなくなっています。
指示できないような状況下でビジネスを成功させるためには、主体的に思考・行動できる人材を増やすことが大切になってきます。
まとめ
内省とは、行動・体験などを振り返り、スキル・マインドの成長につなげていくことです。
内省には、学ぶ力が向上する、良い結果の再現性が高くなる、セルフリーダーシップが向上するなどの効果・メリットがあります。
内省するときには、事実・行動・意思決定に対して、客観的な事実と主観的な事実(自分の内面で起こったこと)の両面から振り返ることがポイントです。
また、内省をする際には、以下の点は注意するとよいでしょう。
- 完璧を目指さない
- 広い柔軟な視野を持つ
- 自分を責めない
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