OKRとは、Googleやメルカリなどが導入している組織の目標設定と管理手法です。近年では、目標設定の手段の一つとしてOKRに注目する企業が多くなっています。
OKRは、同じ目標管理の手法であるMBOとは異なり、評価制度とリンクさせないところに特徴があり、人事評価等よりもチームの方向性を一体化することに重きが置かれる手法になります。
記事では、まず、OKRの概要を確認したうえで、同じく目標設定・管理の手法となるMBOやKPIとの違い、OKRを導入するメリットなどを解説します。
また、後半ではOKRを運用する手順と、OKRを成功させるためのポイントを紹介します。
<目次>
OKRとは?
OKR(Objectives and Key Results)とは、アメリカのインテル社が開発した目標設定と管理のフレームワークです。
具体的には、「目標(Objectives)」と「主要な結果(Key Results)」の2つを設定したうえで、目標設定⇒進捗確認⇒評価という過程を通じて、目標達成に向けて進めていくものとなります。
OKRでは、まず、以下のように事業全体や部門で目標を決定します。
そのうえで、1つの目標(Objectives)に対して複数の主要な成果(Key Results)を設定することで、目標達成に向けて主体的に取り組むことが可能になるという仕組みです。
- 新製品Aを通じて◯◯業界トップシェアを3年以内に獲得し、◯◯分野のNo.1企業として、業界の誰もが知る存在になる
- 新製品Aの販売個数◯千万個
- 大手ECサイトのBとCで、年間販売ランキング1位を獲得
- 認知度調査で1位を獲得
- 新規顧客のリピート率◯%
- 2024年度の総売上高◯◯億円 など
OKRは、GoogleやFacebookのようなインターネット分野の著名企業が取り入れたことで普及しました。
OKRは、組織の方針やメンバーの方向性を一致団結させて、モチベーションや生産性を上げることに主眼が置かれた手法です。
たとえば、通常の目標設定の場合、目標は“売上3,000万円”などのように「定量的」にすることが一般的でしょう。
一方でOKRでの目標は、数値などで表すことのできない「定性的なもの」を目標にすることもあります。
また、OKRでは、達成率が60~70%ぐらいになるようなチャレンジングな目標、ミッションやビジョンに紐づく目標を設定することが一般的です。
達成できた場合にワクワクする、シンプルで頭に残りやすいものを設定することがポイントです。
OKRとMBOやKPIとの違い
OKRと似た目標管理の概念として、MBOやKPIなどがあります。この章では、OKとMBO・KPIにどのような違いがあるのか説明しましょう。
OKRとMBOの違い
MBO(Management by Objectives)は、OKRと非常に近しい概念です。
MBOは、ドラッカーが提唱したマネジメント手法の一つであり、「目標」設定によって、社員の主体性を引き出し、セルフマネジメントを促進する仕組みです。
MBOは、“組織のゴールに向けてメンバーの力を集約する”という働きも持っており、人事評価制度と連携させる形で多く活用されています。
OKRとMBOは、以下の点が同じです。
- 目標によるマネジメント
- 目標によって社員の主体性を引き出す
- 組織のゴールへと個人の力を集約する
ただし、OKRとMBOには、重点を置いているところに違いがあります。
- OKR:方向性の統一とモチベート
- MBO:役割分担と人事評価
MBOでは、組織の業績目標や事業計画など大きな目標から順番に小さな目標を策定していきます。
また、人事評価に利用するからこそ、難易度を統一し、100%達成を目指せる現実的な目標を設定することが一般的です。
一方でOKRの場合は、難易度が高い目標を設定する代わりに、達成率などを直接的に人事評価へと反映しない点が大きな特徴です。
OKRでは、評価制度とあえて紐づけないことで、目標がプレッシャーではなく、「このビジョンを実現したい!達成したらスゴイ!」というワクワクする気持ち、純粋なエネルギーにするという特徴があります。
OKRとKPIの違い
KPIは、「重要業績評価指標(Key Performance Indicator)」のことです。具体的には、最終ゴールに向けた途中プロセスを管理するための指標になります。
OKRも、目標設定と管理の手法ではあります。ただ、KPIはプロセス管理上の指標を指す言葉であるため、OKRとKPIは、そもそもの目的がまったく異なります。
OKRのKey Results(キーになる指標)が、最終目標(Objectives)に対するKPIであるという捉え方ができます。
OKR・MBO・KPIの違いを表で整理すると、以下のようになります。
OKR | MBO | KPI | |
---|---|---|---|
目的 | ・組織の大きな目標達成に向けて、メンバーの力を引き出す ・人事評価とは直接的に紐づけない | ・組織の目標達成に向けて、チーム・個人の役割と目標を明確にして、メンバーの主体性を引き出す ・人事評価と直接的に連携される | ・組織の最終目標(KGI)を達成するためのプロセスとなる指標 |
目標 | ・ビジョンや定性目標、定量目標 ・達成することにワクワクする、モチベートされる目標 ・達成率60~70%ぐらいになるような難易度の高い目標 | ・定量目標 ・組織の業績目標や事業計画から分解した目標 ・運用によるが100%の達成を目指すことが通常 | ・最終目標(KGI)から逆算して設定される |
測定基準 | 定量的な指標 |
OKRを導入するメリット
企業の目標設定にOKRを導入・運用すると、以下の効果やメリットが得られます。
チャレンジングな目標に挑戦できる
OKRは人事評価と切り離されたフレームワークになるため、失敗を恐れず、大きな目標にも挑戦しやすいといえます。
一方で、MBOでは、目標の達成率を人事評価に活用することが多く、目標設定が保守的となり、チャレンジングになりづらい傾向があります。
OKRの場合は、達成できる可能性が60~70%程とチャレンジ性の高い目標を設定します。
そのため、新しいことにチャレンジする機会も増えますし、目標の達成可否に囚われず大胆に行動することができます。OKRがスタートアップやベンチャー企業で好まれる最大の理由です。
企業のミッションやビジョンに紐づけやすい
OKRは、ビジョンや定性目標と数値をリンクさせるため、ミッションやビジョン浸透にも効果があります。
メンバーのモチベーションを高め、向かう方向をそろえるためには、企業のミッションやビジョンを浸透させることが欠かせません。
しかし、優れたミッションやビジョンを作成していても、ミッションやビジョンが浸透しなければ“絵に描いた餅”で終わってしまいます。
その点、OKRは短期的な目標達成だけでなく、ミッションやビジョンの浸透にも効果を発揮するでしょう。
メンバーの意識が統一される
OKRを運用すると「定性的だが、ミッションやビジョンほど抽象的ではなく、想像しやすい」目標を全メンバーが共有している状態になります。
数か月~半年程度の短い時間軸で組織としてどこを目指すのか、何が優先なのかを明確なメッセージとして示すことで、メンバーの意識や方向性をそろえることにつながります。
OKRで統一した目標を掲げることには、組織全体のゴールと自分の仕事のつながりを明確にするとともに、チームや部門はもちろんのこと、組織全体の一体感を醸成することができる利点があります。
また、目標に数値だけではない定性的な表現を盛り込むこともできるため、ワクワク感が刺激されるメリットもあるでしょう。
社員のエンゲージメントが向上する
OKRは、以下のような社員のエンゲージメント向上にも役立ちます。
- 企業の一員であることへの誇り
- チームメンバーであることへの意識の高さ
- チームメンバーや企業への愛着 など
OKRがエンゲージメント向上につながる理由は、自分の仕事がどのような意味を持つのか、何につながるのか、といったことがObjectivesで示されるからです。
OKRでも“組織で達成する目標を分解していく”という論理は、MBOと同じです。
ただ、OKRのほうが全体の目標、ミッションやビジョンとのつながり、仕事の価値をより明確に示しやすい仕組みになっています。
また、ミッションやビジョンに近づくことが実感できる「Objectives」を全メンバーで共有することは、従業員のエンゲージメント向上につながる効果もあります。
OKRを運用する手順
OKRを効果的に運用するためには、正しい手順と成功ポイントを意識することが大切です。この章では、OKRの運用手順とポイントを詳しく解説しましょう。
目標(Objectives)の設定
OKRで大切なのは、野心的でワクワクする目標を設定することです。達成率を人事評価と直結させることが多いMBO(目標管理)では、基本的に目標は100%の達成を目指して設定します。
一方、OKRでは普通に進めたら60~70%程度の達成率になるような野心的な目標を設定します。
組織のミッションやビジョンとつながった野心的な目標を設定するからこそ、「達成したい」「目標を達成できたらうれしい」と思えるようなワクワクする状態を描けます。
野心的なObjectivesとKeyResultsの組み合わせが、メンバーのモチベーションやエンゲージメント向上につながるのです。
成果指標(KeyResults)の設定
KeyResultsは、Objectivesの達成進捗を計測する指標、また、達成を実現するための道筋となります。KPIツリーの考え方を使って、Key Resultsを何にするのかを設定していきましょう。
ただし、OKRにおけるKey Resultsは通常のKPIのようにすべて四則演算できっちり分解して作る必要はありません。
Objectivesが定性的な表現を含むからこそ、Key Resultsも自由度を持たせて良いのです。
ただし、一つひとつのKeyResultsは、
- 客観的に評価できる
- 困難ではあるが不可能ではない
- 達成することがObjectivesの実現に貢献する
など、SMARTの法則を守って設定することが大切です。
ウィンセッションの実施
OKRにおけるウィンセッション(Win-session)とは、メンバーが自分の進捗や貢献を自慢して、お互いの貢献や成果を褒め合う会のことです。
ウィンセッションで重要となるのは、以下の事例のような小さな進捗でも必ず発表を行ない、ほかのメンバーは進捗の内容を褒めることになります。
- 営業職:新規のお客様から「信頼しているからね!」といわれた
- エンジニア:メインプログラムのコードを書き終えた
- 販売職:新規顧客のすべてをポイント会員にした など
ウィンセッションを定期開催することで、「自分たちは前に進んでいる」という実感を持てるようになります。
また、「できたこと」に着目して認め合うことで、「来週も頑張ろう!」というモチベーション維持が可能になるでしょう。
さらには、定期的なウィンセッションの存在が、ゴールでありモチベーションの源泉ともなるObjectivesを意識させる機会になります。
OKRの場合、難易度が高い目標を設定するからこそ、数値での進捗管理だけでなく、ウィンセッションで前に進んでいる手ごたえを共有することが大切です。
最終レビュー
OKRの目標設定は、1~3ヵ月周期が基本です。期間の最後には、各OKR結果の評価を行ない、達成度合いを確認する必要があります。
OKRの達成度が高すぎるまたは低すぎる場合には、別の目標への切り替えも検討しなければなりません。
達成度が高すぎる(目標設定が低すぎる)場合も、目標が達成されたとしても組織に変化は起こらず、OKRを設定する意味がなくなる可能性が高いでしょう。
OKRを成功させるポイント
OKRを成功させるには、適切な目標設定や人事評価と結びつけないこと、定期的な見直しなどがポイントとなります。この章では、各ポイントを詳しく解説します。
適切な目標を設定する
OKRでは、まず、3~5個の目標(Objective)を立てます。そして、それぞれの目標について指標(Key Results)を3個程度設定しましょう。
OKRでの目標設定ポイントは、到達できそうなレベルよりも少し上の目標を設定することになります。野心的な目標にすることで、チームの意欲や一体感が高めます。
OKRの目標設定では、「維持する」「継続する」など現状維持の表現は避けましょう。その代わりに、「○○を実現する」など到達や状態を表す表現にするとよいでしょう。
指標については、計測可能かつ目標達成に直接結びつくものを設定します。
たとえば、「顧客満足度を評価する」といった漠然としたものではなく、「○日までに顧客満足度を公表する」などのように行動の結果を指標にすることが大切になります。
人事評価と結びつけない
OKRは、実現可能なレベルよりも高いレベルにすることが大切です。
だからこそ、OKRを人事評価と結びつけた場合、目標達成しなかった状況をおそれて、レベルが低い目標を設定してしまう可能性が出てきます。
そのため、OKRは、人事評価と連動させないほうがよいでしょう。
人事評価と連動させる場合には、OKRの結果ではなくプロセスを評価対象にするなどの工夫が必要となります。
定期的に見直す
OKRは、定期的に見直しを行なうことも大切です。
OKRは評価制度とリンクしないからこそ、固定化・形骸化させないためにきちんと運用を続ける必要があります。
見直しは、四半期(3ヵ月)に1回のペースで行なうのが一般的です。ただ、チーム内のコミュニケーションや実行力によっては、もっと短いスパンで実施するケースもあります。
また、OKRの進捗確認は、週次で実施することが基本です。
さらには、週次の進捗確認に加えて、月1回ぐらいのペースで、「OKRのなかでも捨てるもの」「フォーカスするもの」など、優先順位付けの確認を行なうとよいでしょう。
週次で行なう優先順位付けの確認は、取り組むべきタスクの優先順位を明確にするとともに、目標の見直しを実施する必要があるかのチェックにもなりえます。
目標を見直す際には、失敗などを責めるのではなく、どうしたら目標達成できるかを話し合うことが重要でしょう。
OKRを個人目標に当てはまる場合のポイント
OKRを個人レベルに細分化する場合、個人の役割や責任領域をチーム全体のOKRから逆算して考えることが大切です。OKRの目的は、組織全体で目指すチャレンジングな目標を共有し、全てのメンバーが同じ方向を向いて仕事に取り組むことです。
従って、場合によっては個人が設定するOKRのObjectivesは組織全体のものから変えないこともひとつのやり方です。複数ある組織のOKRから、個人や小チームの主な責任領域となるところを切り出すようなイマージです。
また、OKRを完全に個人目標に細分化することには注意が必要です。前述の通り、OKRの本質はチーム全体の方向性を定め、みなが同じ方向を向いて協働することです。完全に個々の目標設定にまで落とし込んでしまうと、その強力な連携効果は失われてしまいます。
おすすめのイメージは組織全体のOKRを小さなグループに切り分ける、落とし込むような形です。そうすることで、達成するための具体的な行動計画をグループごとに作成し、それぞれの役割が明確になるでしょう。
なお、個人レベルでOKRを設定する場合には評価との連動のさせ方も要注意です。個人レベルまでOKRを落とし込むと、Key Resultsの達成率を評価と連動させたくなります。これをやると、MBOと近い感覚になり、100%達成できる目標を設定してしまいがちです。
OKRが持つ「チャレンジングな目標に向けてパフォーマンスを引き出す」という魅力を潰してしまうことになりますので、注意が必要です。
意味ない?OKRでよくみられる失敗例
OKRは上手く設定することで組織のパフォーマンスを向上させられますが、設定や運用に失敗してしまうと、意味ないものになってしまいます。よくあるOKRの失敗パターンを3つ紹介します。
①:OKRで設定する指標が多すぎる
ObjectivesやKey Resultsをあまりに多く設定してしまうと、結局メンバーの意識が集中せず、成果に悪影響をおよぼす可能性があります。とくに組織全体のOKRを設定する時に、メンバーの共通ゴール、共通目標となるものを考えて、ぐっと数は絞り込みます。
組織全体のOKRは主要なものだけに限定しましょう。所属メンバーがObjectivesやKer Resultの内容や現状をそらで言えるぐらいの個数がよいでしょう。そうすることによりチームの方向性が定まり、メンバーも集中して業務に取り組めます。
②:OKRがチームメンバーに浸透していない
OKRの内容がチームメンバーに十分に理解されていない、受け入れられていない状況では、目標を達成することは難しいでしょう。
上層部だけでなく、一般メンバーも目標設定に積極的に参加することでより浸透しやすくなり、主体性も高まります。定期的なミーティングを通して、意識を高めたり進捗状況を共有したりすることをおすすめします。
また、OKRは野心的な目標をかかげるものです。しかし、その野心、挑戦的な設定が上層部だけの意識とになり、一般社員が「こんな目標どうせ達成できないよ」と思ってしまうと、OKRの価値はありません。
人事評価に直結する目標管理とは明確に違うものとして発信し、達成することで何が起こるのか、そのワクワク感を共有することが大切です。
③:OKRが長期間変わっていない
OKRは、その時その時の社会や企業内の状況によって変えていくべきです。あるいは半年に一回、3か月に一回など、定期的に見直すことも大切です。
古いOKRに固執することは、チャンスを逃すことにもつながり、チームや企業の成長を妨げてしまう恐れがあります。
また、OKRは100%達成することが難しいレベルで設定するものです。しかし、たとえば数年にわたって、達成できない同じ目標を掲げ続けると、徐々にマンネリ感が生じたり停滞感が出てきます。定期的にOKRを見直すことも大切です。
まとめ
OKRとは、野心的でワクワクするビジョン・目標(Objectives)と目標を達成するための主要な指標(KeyResults)を設定することで、メンバーのモチベーションを高め、動きの方向性をそろえるものです。OKRを導入すると、以下のメリットが得られます。
- チャレンジングな目標に挑戦できる
- 企業のミッションやビジョンが浸透する
- メンバーの意識が統一される
- 社員のエンゲージメントが向上する
OKRを用いた目標設定を効果的にするには、以下のポイントを押さえることが大切です。
- 適切な目標の設定
- 人事評価と結びつけない
- 定期的に見直す
OKRとMBOの違いなどに興味がある人は、以下のページも参考にしてください。