VUCAともいわれる現在、ビジネス分野では経験則や成功事例が通用しづらくなっています。こうした新しい時代の経営環境で企業に求められるのは、チームを作り上げ、また、プロジェクトや現場をけん引して変化を生み出していくリーダーの存在です。
一方で、働き方改革やテレワークの推進などにより、リーダーシップを発揮する難易度は増しています。本記事では、リーダーシップ養成を得意とする研修会社の知見を踏まえて、リーダーシップの定義やリーダーに必要な要素、リーダーシップを高める方法を解説します。
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<目次>
リーダーシップとは?
リーダーシップとは、ゴールを設定して、ゴールに向けて周囲をけん引する機能です。
「行き先を決めて、目指す方向へ舵を切って船を進めていく船長」をイメージしてもらうとわかりやすいでしょう。チームをまとめ、組織の目標を達成していくうえで、リーダーシップは不可欠な存在です。
そして、リーダーシップを発揮する人が「リーダー」です。リーダーは、管理職やマネージャーなどメンバーを持つ人とは限りません。リーダーシップにおける最も小さな、かつ基本となる影響対象は「自分自身」です(セルフリーダーシップ)。
イメージとしては、セルフリーダーシップをしっかりと確立して、影響力を周囲の人にも及ぼせるようになり、業務に必要な権限も与えられたのが管理職ということになります。
組織内のすべての人がリーダーシップを身に付けることが理想であり、その第一歩は「自分」を対象としたセルフリーダーシップから始まります。
リーダーシップとPM理論
リーダーシップに関しては組織論や経営学の分野で長らく研究が行われています。その中でも、リーダーが取るべき行動に着目したPM理論は、「リーダーシップとは何か?」を理解するうえで基礎的な考え方といえます。
PM理論では、リーダーシップを「目標達成機能(Perfomance機能)」と「集団維持機能(Maintenance機能)」という2つの軸で説明しています。
前者の目標達成機能(P機能)とは、目標に向かってメンバーに指示を出すなど、組織の成果や生産性につながるリーダーの行動です。そして、後者の集団維持機能(M機能)とは、チームワークやチーム内の信頼関係を強化・維持していくリーダーの行動をさします。
PM理論では、どちらの行動だけが優れていれば良いのではなく、P機能とM機能の双方が高い状態を理想的なリーダーシップとしています。
つまり、目標達成に向けた推進力や決断力と、個々が能力を発揮して成長するための心理的安全性や信頼関係を築くヒューマンスキル、双方を発揮することがリーダーとして必要だということです。
リーダーシップが重要視される背景
近年、社会の変化は激しくなり、企業が置かれている環境も日々変わり続けています。
変動性・不確実性・複雑性・曖昧性の英語の頭文字を取ってVUCA(ブーカ)の時代ともいわれていますが、企業はこのような状況に素早く対応していくことが求められています。
こうした変化対応に対応していくためには、トップダウンですべて意思決定するのではなく、権限移譲を進め、現場のリーダーがリーダーシップを発揮して柔軟かつ迅速に意思決定することが必要です。
つまり、変化が加速する中でより多くの人がリーダーシップを発揮することが求められているわけです。これに対応するため、新人や若手も対象としてリーダーシップ育成に注力する企業が増えています。
リーダーシップとマネジメントの違い
リーダーシップと同じような意味合いで用いられている言葉に、「マネジメント」があります。リーダーシップとマネジメントについてはさまざまな定義もありますが、HRドクターを運営する研修会社ジェイックでは、経営学者ドラッカーの考え方なども参考に下記のように考えています。
- リーダーシップ : ゴールを決めて、ゴールに向けてメンバーを鼓舞する力
- マネジメント : 人やモノなどの資源を最適に活用して、ゴールにたどり着く力
リーダーシップとマネジメントは、重視する点が以下のように違うともいえます。
- リーダーシップ : どんなゴール(Where)を目指すのか? それは何のため(Why)か?
- マネジメント : ゴールに向けて、何(What)を、いつ(When)、どのように(How)するのか?
リーダーシップとマネジメントは上記のように異なる概念ですが、現実のビジネス現場におけるリーダーは、リーダーシップとマネジメントの両方を発揮することが求められます。次章でビジネスにおけるリーダーが果たすべき5つの機能を解説します。
リーダーが果たすべき5つの機能
ここでは、リーダーが果たすべき5つの機能を紹介します。ここでのリーダーは、リーダーシップとマネジメント、双方の機能を併せ持つような存在です。
目標設定
リーダーの主な役割の1つが、チームやプロジェクトの目標設定です。ゴールを決めるという意思決定は、リーダーシップを発揮すべきポイントです。
なお、良い目標設定をするためにはSMARTの原則を押さえることが大切です。具体的、測定可能、達成可能、上位目標との関連性、達成期日の5つを押さえて設定しましょう。
計画立案
設定した目標を達成するために必要なプロセスや業務を洗い出し、スケジュールを組むことも、リーダーが果たすべき機能です。これは主にリーダーシップよりもマネジメント領域の機能といえるでしょう。
計画立案の際に重要になってくるのは、自分たちの保有リソース(工数や能力、予算)、また必要リソースをきちんと考えて、論理的にプロセスを組んでいくことです。ロジカルシンキングの能力が大切になってきます。
組織化
目標設定・計画立案が済んだら、実際の進行に向けて、プロジェクトメンバーを集めたり、既存メンバーにタスクを割り振ったりしていきます。
単に人が集まった「集団」ではなく、協働して目標達成を目指す「チーム」を作ることが重要です。ヒューマンスキルやチームビルディングの能力が求められるポイントであり、リーダーシップとマネジメント、両方が重なってくるところです。
進捗管理
目標達成に向けたプロセスで、リーダーは進捗状況の把握や管理、また必要に応じて業務の効率化や生じたトラブルの問題解決、また、計画と現実の間に生じるギャップ解消などをリードする必要があります。
ここは主にマネジメントの領域であり、計画立案と同様にロジカルシンキングが有効に生きる部分です。
動機付け
リーダーは、目標設定から計画立案、組織化、進行管理の各プロセスで、動機づけを意識する必要があります。当然、自分自身に対するリーダーシップを発揮して自分自身を動機づけることが求められますし、周囲のメンバーを動機づけることも必要です。
リーダーは他のメンバーがモチベーションを上げられるよう気を配り、コミュニケーションする必要があります。その一環として、リーダー自らが率先して動く「先導」も大切です。
リーダーに必要な能力と姿勢
前章では、リーダーが果たすべき役割を解説しましたが、リーダーとしての役割を果たすためにはどんな能力や姿勢が必要になるでしょうか。
主体性
リーダーに求められる能力・姿勢の筆頭が主体性です。リーダーは、起きていることを自分事として捉えて、積極的・自主的に動く主体性が求められます。主体性は言い換えればオーナーシップであり、同時に意思決定の習慣でもあります。
課題発見能力
リーダーには問題解決能力が求められるとよく言いますが、じつは問題解決の前に大切なのが、課題発見能力です。成果をあげるリーダーになるためには、課題を設定し、解決する力が必要です。
課題とは、目標と現状のギャップです。課題を見つけるためには、データや現状を分析したり先を読んだりすることが必要です。そのためには、ロジカルシンキング(論理的思考力)も求められます。また、そもそものゴールや理想がなければ課題は生まれません。その意味では目標設定する、ビジョンを描く力も大切です。
課題解決能力
適切な課題を設定したうえで、その問題・課題を解決する能力も必要です。課題解決するうえでは、現状を整理して問題が生じている要因を分析する力、解決に向けて仮説や施策を考える力、そして、描いた施策を現実に落とし込んで実行する力などが含まれます。
責任感
リーダーは意思決定を担う立場だからこそ、高い責任感が求められます。責任とは、結果を引き受ける覚悟であり、意思決定する能力でもあります。自分が主体的に意思決定するからこそ、結果に対する責任が生じるのです。
コミュニケーションスキル
仕事の大半は、誰かと協力して成果をあげるものです。とくに知識労働が増えている現在、周囲と信頼関係を築き、建設的なコミュニケーションをすることは、従来以上に重要です。
とくにリーダーは、メンバーの動機付け、計画の共有、施策等に対する議論のファシリテーション、メンバーに対するフィードバックなど、高いコミュニケーション能力とヒューマンスキルが求められます。
部下を育成する力
管理職という意味でのリーダーには、人材を育てる育成力も求められます。部下のモチベーションを下げないよう、時には厳しく注意し、時には寛容な心で受け止める必要があります。
昭和の時代は権威による指揮命令型のマネジメントが通用しましたが、令和の時代はマネジメントする上でも、人材育成する上でも、対話を通じてフィードバックや動機付けを行い、強みを活かすマネジメントが求められます。
リーダーシップの種類
組織がパフォーマンスを発揮するうえで非常に重要となるリーダーシップは長年研究されてきました。その結果として、現在、主流となっているのは、「リーダーシップの発揮方法は決して1つではない。状況や個性に応じて、いくつかの適したリーダーシップがある」という考え方です。
本章では、リーダーシップの種類として世界的ベストセラー『EQ こころの知能指数』の著者としても知られる、心理学者ダニエル・ゴールマン氏が提唱する6つのリーダーシップ種類を紹介します。
他にもいくつかの分類方法がありますが、ゴールドマン氏のリーダーシップ種類を押さえれば概ね理解できます。
1.ビジョン型リーダーシップ
ビジョン型リーダーシップは、組織の理想像やビジョンを掲げ、メンバーを導いていくリーダーシップです。ビジョン型のリーダーが示すのは目標やビジョンであり、目標達成までの道筋はメンバーの自主性に委ねます。メンバーの自立や主体性を生かし育むうえでは、非常に効果的なリーダーシップです。
2.コーチ型リーダーシップ
コーチ型リーダーシップは、メンバーの可能性を引き出し、各自の強みが最大限に発揮されることを重視するリーダーシップスタイルです。コーチ型という名称の通り、コーチ型のリーダーはメンバーに“コーチ”として向き合い、各自の気質や強みに基づいて目標を達成できるように支援します。
コーチ型リーダーのチームでは、メンバーは自身の強みを最大限に発揮して活き活きと働くことができるでしょう。ただし、メンバーが増えてチームが大きくなると、コーチ型リーダーシップはリーダーの負担が増え、個別のフォローが行き届かなくなる懸念もあります。
3.関係重視型リーダーシップ
関係重視型リーダーシップは、メンバーと同じ目線に立ち、強い信頼関係を持ったチーム作りを重視するリーダーシップです。
チーム内の人間関係や信頼関係が、チームのパフォーマンスに対して大きな影響力があることはご存じの通りです。関係重視型のチームは、うまくいけばメンバーが強い絆と信頼関係で結ばれ、お互い協力し合いながら高いモチベーションで仕事に取り組むことができるでしょう。
一方で、関係重視型のリーダーが判断を誤ると、仕事の成果や結果よりもメンバーの感情や信頼関係を優先してしまいがちです。そのため、痛みや対立を避けて、本質的な課題解決やチームの目標達成から遠ざかってしまうリスクもあります。
4.民主型リーダーシップ
民主型リーダーシップは、チームの意思決定にメンバーの意見を取り入れ、チームの合意を得ながら仕事を進めていくスタイルです。
民主型のリーダーは、常日頃からメンバーから意見やアイデアを求めます。そのため、メンバーに自分で考える習慣が生まれる点、チームの意思決定で皆が納得しやすい点、リーダーが判断する材料がたくさん集まる点などがメリットです。
一方で、関係重視型リーダーシップと同じように、リーダーが「チーム内の合意形成」にこだわり過ぎると、デメリットが生じがちです。
例えば、いつまでも結論が出ない、総論賛成・各論反対が起きる、痛みを伴うテーマに関する意思決定ができない、アクションに遅れが生じやすいといった点がデメリットです。
5.ペースセッター型リーダーシップ
ベースセッター型リーダーシップでは、リーダー自身が自ら高い基準を示し、メンバーにも同じ基準を求めるスタイルです。実力が重視される職場や短期間で高い成果が求められる状況で効果を発揮します。
一方で、リーダーとメンバーの間で能力や意識のギャップが大きい場合、メンバーがついていけず、なかなかリーダーの期待通りの成果は出ません。
また、能力ギャップが大きくなった結果、リーダーが一人で何でも進めてしまうと、メンバーが成長する機会が失われてしまったり、モチベーションが下がってしまったりする点もリスクです。
6.指示命令型リーダーシップ
指示命令型リーダーシップでは、リーダーが事細かく指示をして、メンバーは指示に従って仕事を進めていくスタイルです。ペースセッター型リーダーシップをさらに推し進めて、基準による裁量ではなく、細かく指示を出すようになったイメージです。
指示命令型リーダーシップでは、ほとんどの意思決定をリーダー一人が行い、メンバーにはリーダーの指示に従うことが最優先で求められます。そのため、さまざまなリーダーシップの中で短期間における業務効率は最も高いとされています。
一方、指示命令型リーダーシップでは、メンバーが自ら考えて行動することは求められないため、主体性の醸成や強みを発揮するなどは期待できません。し中長期にわたって指示命令型リーダーシップを続けると、受け身的なメンバーを作り出し、またメンバーの成長を停滞するリスクもあります。
強力な指示命令型リーダーシップが有効なのは、災害などの危機的状況から緊急に脱する、リーダーの強い統制の下でトラブルに対応するなどの状況だといえます。
リーダーシップを高める3つの方法
リーダーシップは、もとから備わる資質が必要なものではありません。いかなるリーダーであっても、最初から完璧なリーダーシップがあったわけではありません。
リーダーシップは、日々の習慣とトレーニングの継続によって身に付け、高めていくことができます。本章では今日からでも実践できるリーダーシップを高めるための3つの方法を紹介します。
1.普段から自分の判断軸を明確にする
前章で、リーダーに求められる要素として「決断力」をお伝えしました。決断力を身に付けるためには、普段から自分の判断軸を明確にして、意識的に決断することがポイントです。
「ここぞ」というときに重要な決断に躊躇してしまうのはなぜでしょうか。それは、決断するための判断軸や信念を自分の中に持っていないからです。
確固たる判断軸がないと、つい「正解」を探してしまい、「もっと情報を集めないと決められない」「どちらも案も一長一短あるし、リスクもある…」となってなかなか重要な決断に踏み切ることはできません。
自分の判断軸を持つためのコツは、普段の些細なことでも論拠や軸を意識して意思決定する習慣を持つことです。
例えば、小さなことでは「ランチを何にするか?」「帰りの電車をどのルートにするか?」など普段無意識に考えていることでも、論拠や軸を明確にして選択する習慣を持ちましょう。繰り返していくうちに、少しずつ自分の判断軸が明確になっていきます。
2.周囲から信頼を得る言動を取る
リーダーにとって周囲やメンバーとの信頼関係は不可欠です。どんなに良いビジョンや有効な方策を示したとしても、誰もついてこないようではリーダーシップを発揮することはできません。
メンバーから信頼を得るための言動を2つお伝えします。1つ目は言行一致させることです。リーダーに求められる要素「誠実さ」の中で、言行一致の大切さについては紹介しました。ぜひ「言ったことはやる」を心掛けましょう。
2つ目は、相手の話を聴くことです。相手によっては、話が要領を得ないこともあるかもしれませんが、その際も最後まで話を聴くことが大切です。
そして、相手の話を聴くということは、相手が何に困っているか、何をしてほしいかを知るということです。わからないときには、相手が求めていること、自分ができることは何かを尋ねることが大切です。
3.優れたリーダーの事例から学ぶ
リーダーシップのスタイルは、リーダーによってさまざまです。記事では、ダニエル・ゴールマンによる6タイプのリーダーシップを紹介しましたが、どんなリーダーシップが適切かは、リーダーの特性やチームの状況によっても変わってきます。
自分に適したリーダーシップ、状況に適したリーダーシップを身に付けるためには、優れたリーダーの事例から学ぶことが大切です。
社内で、評価の高い人、毎月表彰されて成果を上げている人がいるのであれば、普段の習慣や「重要な意思決定をするときに何を重視しているか?」といったことを直接聞いてみることをおすすめします。
また、幸運なことに「上司のリーダーシップが学ぶべきものがある」と感じるなら、その言動や思考をよく観察しましょう。
他にも、書籍を通じて松下幸之助やスティーブ・ジョブズといった古今東西の著名なリーダー、経営者などから学ぶのも良いでしょう。
また、ドラッカーの『経営者の条件』、スティーブン・R・コヴィーの『7つの習慣』、デール・カーネギーの『人を動かす』、ケン・ブランチャードの『1分間リーダーシップ』などもリーダーシップを学ぶうえで非常に参考となる書籍です。
さまざまなリーダー達をロールモデルにして、リーダーシップの原則や王道を学びながら、自分にあったリーダーシップのあり方を見つけていきましょう。
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管理職以外にも求められるリーダーシップ
記事では、リーダーシップの概要と種類、リーダーに求められる要素、そして、リーダーシップを高めるための方法をお伝えしました。
リーダーシップは組織が将来にわたって成長・発展していくうえで不可欠な能力です。リーダーシップのあり方として、絶対的な正解といえるものはありません。
しかし、どのようなスタイルであっても、チームや組織が目指すビジョンを思い描き、目標やゴールを明確にして、強い信念を持って試行錯誤しながら取り組み続けることが、リーダーシップを発揮する基本です。
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