知識労働・知識集約型の社会となるなかで、ハイパフォーマーを育成、確保する重要性が増しています。
記事ではハイパフォーマーが持つ特性や育成のポイント、離職の防ぎ方を解説します。
<目次>
- ハイパフォーマーとは?
- ハイパフォーマーが企業にもたらすメリット
- ハイパフォーマーに共通する特徴
- ハイパフォーマーの育成方法
- ハイパフォーマーの分析方法
- ハイパフォーマーを育成する上で注意すべきポイント
- ハイパフォーマーの離職を防ぐには
- まとめ
ハイパフォーマーとは?
ハイパフォーマーとは、「業務で高い成果を上げる人材」です。企業の業績向上に貢献するだけでなく、行動特性を分析することで次世代の人材育成や採用の効果性UPにもつながります。
いま注目されている背景
労働集約型の仕事は過去数十年で減少し続け、代わりに知識集約型のビジネスが増大しています。知識集約型ビジネスにおいては、一般的なパフォーマーとハイパフォーマーで、生産性に大きな差が生じます。
例えば、労働集約型の代表例である工場での労働を考えてみると、平均的な労働者とハイパフォーマーの間で、生産性は数倍しか違わないでしょう。一方、知識集約型の仕事であるエンジニアを例にとれば、生産性の違いは数十~数百倍にもなり得ます。
日本におけるホワイトカラーの生産性は、世界的に見ても低いとされているのが実情です。ハイパフォーマーの偶発的な登場を期待するのではなく、計画的に採用・育成することに対する企業の興味関心が高まっています。
ハイパフォーマーが企業にもたらすメリット
企業にハイパフォーマーがいると、どのようなメリットをもたらしてくれるのでしょうか。ハイパフォーマーの育成を考えるうえでは当たり前のことだと思いますが、企業が享受できる主なメリットを確認しておきます。
業績の向上
ハイパフォーマーはその字のごとく、“ハイパフォーマンス”を出し続ける人材です。高い業績や多くの成果を生み出し、組織全体の業績を牽引する存在になるでしょう。
いわゆるパレートの法則に当てはめると、『企業利益の8割は、2割のハイパフォーマーによってもたらされている』ということになります。ここまでの比率ではないにしても、これに近い状態は多くの組織であるのではないでしょうか。
当然、ハイパフォーマーをより多く確保・育成することが、組織の業績アップにつながり、ひいては事業計画や組織目標の達成に近づきます。
チーム力の底上げやモチベーションアップ
ハイパフォーマーが企業にもたらすメリットの一つに、チーム力の底上げを図れる点もあります。チーム内にハイパフォーマーがいれば、スキル共有などをとおして周囲の能力アップにつながるでしょう。
またハイパフォーマーの存在は、チーム内の意識やモチベーションにも好影響を与えます。ハイパフォーマーの行動や考え方に触れることで、周囲の意識が変わったり、やる気が高まったりしやすくなるでしょう。
ハイパフォーマー自身が大きな成果を生み出せるだけでなく、周囲に好影響を与える可能性がある点も、ハイパフォーマーが存在するメリットといえるのです。
人材育成の参考
ハイパフォーマーは実際に自社で成果を上げている人材です。ハイパフォーマーに共通する行動特性や性格特性を分析すれば、一般的な社員をハイパフォーマーに育て上げるヒントを得られます。
分析結果を研修や人材育成に生かすことで、次世代のハイパフォーマーを育成しやすくなるでしょう。コンピテンシーと同じで「ハイパフォーマーと同じ行動を理解して実行すれば誰でもハイパフォーマーに近づける」という考え方です。
ハイパフォーマーの分析結果は、採用現場でも活用できます。応募者の行動特性や性格特性をハイパフォーマーの分析結果と照らし合わせることで、自社で活躍できる人材なのかどうか判断する目安になります。
ハイパフォーマーに共通する特徴
ハイパオフォーマーの特性を考えるうえで大切なのは「自社の業務でハイパフォーマーである」ことです。当然、業務内容や仕事の特徴によって、ハイパフォーマーに求められる特性は変わっています。
ただ、そのなかでも、ある程度業種や職種を超えて共通することが多い要素もあります。基本的な特徴を知っておくことで、自社のハイパフォーマーを分析・育成する際に役立てられるでしょう。
なお、下記の特徴は「人をマネジメントして明確な目標を追いかける」タイプの業務で、ある程度共通する要素であると、とらえていただけるとよいでしょう。
達成動機が強い
多くのハイパフォーマーに共通する特徴の一つに、達成動機が強い点が挙げられます。目標達成に対するこだわりが強く、成果から逆算して計画し行動するのです。
目標達成に強いこだわりを持つため、取り組むべき作業の優先順位を決める能力にも優れています。何から着手すれば目標が達成されるのかを考え、時間を最大限に活用して目標の達成を目指します。
能力や努力が充分であっても、必ず成果を出せるとは限りません。非常にシンプルな話ですが、成果を出すためには、「成果を出す」意識を強く持つことが重要です。
行動力がある
何かを成し遂げるためには、方法やプロセスを考えるだけでなく、実際に行動しなければなりません。行動こそが成果を上げる最大の要因である点を、ハイパフォーマーはきちんと理解しています。
目標達成に向けて行動を起こしても、失敗に終わるケースもあるでしょう。しかし失敗は成功までのプロセスととらえ、落ち込まずに次の行動・挑戦を繰り返していくのも、ハイパフォーマーに共通する特徴です。
ほかの社員が諦めてしまうような壁にぶつかったとしても、ハイパフォーマーは簡単には諦めません。達成動機の強さが、行動し続ける姿勢の原動力になっているのです。
ポジティブ
多くのハイパフォーマーは、前向きに仕事をしています。常にポジティブな意識で仕事に臨んでいるため、ミスにくじけたり他人を責めたりする傾向はほとんどありません。
前向きな姿勢は周囲にも好影響を与え、チームや組織全体が底上げされる流れを生み出しています。取引先や顧客からも好印象を抱かれやすいでしょう。
ハイパフォーマーは単に楽観的なわけではなく、しっかりと目標や計画を立てたうえで前向きに行動します。そして、「目標に向けて動くうえでポジティブな姿勢が大事だ」と知っているからそう振る舞ってるという感覚です。
ポジティブさは自分の可能性に関しても同様で、「自分はまだ成長できる」という成長に向けたマインドを持っており、自分の成長を信じて能力を伸ばすことに前向きな点も特徴です。
同僚や部下に信頼されている
周囲の協力を得やすいのも、ハイパフォーマーが持つ大きな特徴です。同僚や部下に信頼されており、周囲のサポートを得ながら目標達成に向けて力強く進んでいけます。
会話がうまかったり、人当たりが良かったりする表面的な部分だけで、周囲から信頼されているわけではありません。多くのハイパフォーマーは、人格的な側面で周囲からの信頼を得ています。
目標に向けてブレずに、成果に向けて失敗を恐れずに行動し続ける姿勢、言行が常に一致しブレがない点などが、周囲から信頼される要因です。
セルフマネジメントがうまい
ハイパフォーマーだからといって、高い集中力をいつまでも維持できるわけではありません。成果を出し続けている人でも、能力を発揮できない状況に陥るケースはあります。人間ですので体調の浮き沈みもあります。
しかし、多くのハイパフォーマーは、自分の能力をしっかりと発揮できる状態を自分で作るためのセルフマネジメントに気を配っています。
仕事とプライベート、集中とリラックスなど、オン・オフのじょうずな切り替えが重要です。また、適切な睡眠や休憩、ストレスの処理といった心身のメンテナンスをしっかりと行ない、仕事に集中したり高いパフォーマンスを発揮したりできる状態を自ら作り上げます。
ハイパフォーマーの育成方法
自社でハイパフォーマーを育成できれば、組織の業績アップや組織目標の達成につながりやすくなるでしょう。本章ではハイパフォーマーの育成方法と育成時のポイントを解説します。
ハイパフォーマーを定義・選定する
ハイパフォーマーを育成するためには、最初に『ハイパフォーマーとは何か』を定義しなければなりません。前述した特徴はあくまでも一般的なものであり、詳細な素養は組織によって異なります。
ある組織で優れた業績を上げられるハイパフォーマーが、別の組織でも同じ結果を出せるとは限りません。あくまでも自社の各組織における定義が必要です。
まずは自社におけるハイパフォーマーを特定しましょう。ハイパフォーマーを選定する際は、ゼネラル・エレクトリック(GE)が開発した『9ブロック(ナインマトリックスとも)』が参考になります。
『現在のパフォーマンス(業績貢献など)』と『未来の成長期待(組織風土や価値観への共鳴度、将来の期待値)』の両方が高いレベルにある人をハイパフォーマーと、とらえるとよいでしょう。
ハイパフォーマーを分析する
自社の各組織におけるハイパフォーマーを定義・選定したら、次にハイパフォーマーの経験や仕事内容から行動を分析し、共通する行動特性を把握します。
具体的な行動・スキル・コンピテンシーだけでなく、その行動を支えている特性や動機など、内面を形成している能力や意欲に対する分析が重要です。特性や動機の分析には適性検査などを使うことも有効です。
なお、分析する際には、ハイパフォーマーだけではなく、ローパフォーマー・ミドルパフォーマーとも比較しながら分析を行ないましょう。ハイパフォーマンスに影響する要因を、より緻密に分析できます。
育成や採用に反映する
ハイパフォーマーを育成する場合は社内研修を実施しましょう。分析データを基に特性・行動・スキルなどを洗い出し、効果的に習得できる研修を考える必要があります。
なお、ハイパフォーマーのパターンは一つとは限りません。社内に複数のハイパフォーマーのパターンが存在する場合もあるため、分析時には注意が必要です。
ハイパフォーマンスを支えるのは表面的なスキルだけでなく、内面的な特性であるケースも多いものです。中長期的にはハイパフォーマンス分析の結果を採用へと反映していくことも大切です。
ハイパフォーマーの分析方法
ハイパフォーマーを構成する主な要素は『行動特性』『価値観や特性』『スキルや知識』です。それぞれの分析方法を紹介します。
行動特性
行動特性とは、繰り返し見られる行動のパターンです。行動特性はハイパフォーマー自身も意識していない部分が多く、ヒアリングだけでは正しく分析できないこともあります。
行動の傾向を分析する際は、ハイパフォーマーの行動を観察し、行動特性を構成する要因を探し出す必要があります。行動傾向の一覧表的なものはインターネット上にありますので、それを使って本人、また周囲の人などのアンケート調査的に回答してもらうこともおすすめです。
行動特性を誰もが実践可能なレベルにまで落とし込んだものが『行動レベル』です。社員を育成する際は行動レベルの改善を意識させ、ハイパフォーマーの行動レベルを日々の行動に反映させる必要があります。
性格特性や動機
行動の裏側にあるのは、じつは内面的な性格特性や動機です。行動特性は、「こういう結果を出すには、こういう行動をすればいい」という話です。しかし、もう一段深掘りすると、「こういう行動をするのは、こういう性格特性や動機があるからだ」ということになります。
したがって、その人が持つ性格特性や動機に合わない行動をさせようとすると非常に効率が悪い、定着しにくいことになります。例えば、「せっかち」な性格特性を持つ人に「じっくり検討して行動する」という行動を強制しようとすることはかなり困難なのです。
自社のハイパフォーマーが持つ価値観や特性を分析することで、より深いレベルでハイパフォーマーの育成を実施したり、採用に活用したりすることができます。性格特性や動機は、主観的な判断で見抜くことは困難ですので、特性検査などを利用することがおすすめです。
スキルや知識
ハイパフォーマーの分析では、どのようなスキルや知識を持っているのかも必要です。保有資格や業務経験などをデータ化すれば、ハイパフォーマーの共通点を見つけられるかもしれません。ただし、本当に重要なのは表面的な知識やスキルだけではありません。
実際には『ポータブルスキル』がハイパフォーマンスの源泉になっているケースも多いため、注意して分析しましょう。ポータブルスキルとは、業務遂行能力・対人関係能力・問題解決能力など汎用的に活用できるスキルです。
ポータブルスキルは鍛えることができますので、自社のハイパフォーマーに共通するポータブルスキルを特定できると人材育成に繋げられます。また、仕事によっては地頭や論理性などが重要である場合もあります。地頭や論理性は能力検査を使えば比較的容易に定量化できますので、ぜひ分析してください。
ハイパフォーマーを育成する上で注意すべきポイント
ハイパフォーマーを育てる場合に気を付けるべきポイントを紹介します。ローパフォーマーのいない組織を目指すこと、また、ハイパフォーマーが傲慢になるリスクなどを押さえておきましょう。
ローパフォーマーを減らす
組織にはハイパフォーマー以外に、ミドルパフォーマーとローパフォーマーが存在します。組織開発に取り組むうえでは、ハイパフォーマーの育成に力を入れるだけでなく、ローパフォーマーを減らす努力も必要です。
ローパフォーマーは組織の足を引っ張る存在であり、ローパフォーマーがいると、ハイパフォーマーはローパフォーマーのフォローに追われるケースも多くなります。ハイパフォーマーに最大限の能力を発揮してもらいたいなら、ローパフォーマーのいない組織が理想なのです。
採用・配置・育成・評価などの全プロセスを通じて、できるだけローパフォーマーが少ない状態を目指すことが、組織全体のパフォーマンスの引き上げにつながります。
傲慢になるリスク
ハイパフォーマーは周囲より高い成果を上げられるため、傲慢な態度を取るようになるケースがあります。他者の意見を聞き入れなかったり否定したりするのが代表例です。
ハイパフォーマーが傲慢な態度を取らないようにするためには、育成の早期から人格形成の教育を施す必要があります。
また、ハイパフォーマーに傲慢さが見られる場合には、早めに本人に自覚させ軌道修正しなければなりません。問題が深刻化する前に、行動や思考の改善を図りましょう。
ハイパフォーマーの離職を防ぐには
ハイパフォーマーの離職は、組織にとって大きな痛手です。優秀な人材を失わないように、ハイパフォーマーの離職を防ぐための対策を講じておきましょう。
評価制度を見直す
ハイパフォーマーが離職する原因として、まず評価制度に対する不満が挙げられます。業績アップに貢献しているにもかかわらず、納得のいく評価を得られなければ、正当な評価を受けられる会社への転職を考えるケースは多いでしょう。
ハイパフォーマーの離職を防ぐためには、評価制度の見直しが大切です。適切な評価や報酬で報いるような制度を構築しましょう。納得感を与えられる評価制度を確立できれば、ハイパフォーマーのモチベーション維持にもつながります。
成長機会を提供する
ハイパフォーマーの離職防止対策を考えるにあたり、評価制度を見直すだけでは不充分です。『仕事の報酬は仕事』という言葉もあるように、ハイパフォーマーには次の成長ステージを提供するという施策も重要です。
高い成長意欲を持つハイパフォーマーは「この環境では成長が頭打ちになってしまう」と感じると離職してしまいかねません。チームや部門で高い成果を出しているハイパフォーマーは、管理職や部門長は自チーム・部門の業績のために囲い込みたくなるものです。
しかし、部門に囲い込んでいると、逆に成長機会を失って離職につながることもあります。ハイパフォーマーに関しては、人事と経営陣が部門横断で、育成・配置を考えていくことが大切です。
定期的にヒアリングなどを行ないフォローする
評価制度を見直したり、成長機会を提供したりしても、ハイパフォーマーの離職を完全に防ぐのは不可能です。実際にはさまざまな離職原因が考えられるため、離職リスクの発生を早い段階で察知する必要があります。
定期的に面接やアンケートを行ない、現状に不満や悩みがないかチェックしましょう。退職防止に向けて効果的な対策を実施できる可能性があります。
業務量とパフォーマンスの関係性が変化していないか、定期的に確かめるのも一つの方法です。小さな変化にもいち早く気付けるように上司や部門長も注意を払う必要があるでしょう。
まとめ
業務において高い成果を上げるハイパフォーマーは、組織の業績を牽引する存在です。ハイパフォーマーがいれば、チーム力の底上げやモチベーションアップを図れるうえ、人材育成もしやすくなります。
ハイパフォーマーにはある程度の共通要素もありますが、大切なことは自社のハイパフォーマーを定義・分析することです。正しい分析方法や育成方法を理解し、次世代のハイパフォーマーを計画的に採用・育成できるようにしましょう。