自律型組織とは、社内の権限を現場のチームやメンバーに分散し、それぞれが主体的に業務を進める組織形態を指します。
本記事では、自律型組織の概要や従来のピラミッド型組織との違い、注目される背景、また自律型組織の種類やメリット・デメリット、実現のポイントを紹介します。
<目次>
自律型組織とは?
自律型組織とは、社内の権限をそれぞれのチームやメンバーに分散し、各チームやメンバー主体的に業務を進められる組織形態を指す言葉です。
権限や責任を役職者に集中させず、上下関係もフラットで自律度・自由度が高いことが自律型組織の特徴です。
各メンバーがチームの行動指針を理解して、主体的に判断・行動することで、リーダーはマイクロマネジメントをする必要がなく、本人も「自分の裁量で仕事をしている」という自己決定感を得られます。
従来の階層型組織との違い
自律型組織と対比されるのが、いわゆるピラミッド型の階層組織です。その中でも自律型組織の対極にあるのが強力なトップダウン型の階層組織です。
意思決定の権限はピラミッドの上層部に集中し、下位の役職や社員はただ「実行するだけ」という状態です。
階層型組織は責任の所在が分かりやすく、ある意味ではダイナミックかつスピーディーな意思決定を下せる一方、現場の情報が上層部に上がらなかったり、上層部に意思決定しないと物事が決まらず環境変化に対応しづらかったりするなどのデメリットがあります。
また、階層型組織が固定化していくと、現場から下層の管理職、下層の管理職上層の役員層へ決済を仰いで「ハンコリレー」するような状態が起こり、ピラミッド型組織のデメリット面が顕著になる傾向があります。
自律型組織が注目される背景
最近、自律型組織が注目される背景としては主に下記の3つが挙げられます。
不確実性の高まり
近年、市場のニーズやトレンドが短期間で急速に変化するようになり、将来予測が立てづらくなりました。
こうした明確な答えのない状況で迅速に問題解決を図るには、それぞれの現場で、社員が目の前の状況を踏まえて、主体的に対応策を検討する必要があります。
上からの指示待ちではなく、社員一人ひとりが自律的に判断・行動できる組織へと変化することが求められるようになっているわけです。
産業のサービス化
製造業も含めて、工場などで作った製品を提供するだけという状態から、顧客に対して「利用体験」を提供することが求められる時代となっています。
その結果、多くの業種に、これまで以上に「サービス業」の要素が入り込むようになっています。
サービス業の特徴とも言えるのが、「現場で価値がつくられる」ことであり、それに伴い「現場で意思決定が求められる」場面が増えてきています。
先ほどは外部環境の変化に伴い現場での変化対応が求められていると紹介しましたが、産業のサービス化も現場での意思決定の必要性を高める要因となっています。
働き方や従業員の多様化
コロナ禍をきっかけにリモートワークが急速に普及したことも、自律型組織が注目される背景のひとつです。
同じオフィス空間内で働いていた頃は、相手の様子や表情を見て仕事の依頼や相談をしたりフォローしたりできましたが、リモートワークでは相手の状況が見えないので、「上司に管理されなくても自律的に動ける社員」が求められるようになっています。
また社会の変化に伴い、ダイバーシティの意識向上や働くことに対する価値観の多様化が進展。かつてのような同質性の高い組織で行われていた “あうん”の呼吸は通用しなくなりました。
こうした背景もあって、社員が元々ある規範に従うだけではなく、状況に応じて主体性を持って臨機応変に判断し、自律的に動くことが求められる時代となってきています。
自律型組織の種類
自律型組織を表現する言葉は、いくつかのタイプがあります。厳密な「種類」というわけではありませんが、「どんな特徴に重きを置いた自律型組織か?」という概念です。
アジャイル組織
アジャイル(Agile)は「俊敏な」「素早い」という意味を持つ単語で、主にソフトウェア開発の分野で「アジャイル開発」という概念で使われてきた言葉です。
ただ、近年のビジネスシーンでは、ソフトウェア開発に限らず、「状況の変化に対して素早く対応していくやり方」を表す言葉として用いられています。
アジャイル組織は、現場のチームや社員に一定の権限を与えることで迅速な意思決定や業務遂行を可能にするといったコンセプトは、自律型組織の概念と同じです。
その中で、アジャイル組織の特徴は「精緻な計画を作る」ことに重きを置かず、実行しながら改善していこうという考え方です。
計画に沿って進まないということで、それぞれの現場で意思決定することが求められますし、また、組織全体で明確な目標とビジョンを共有して意思決定の方向性をブラさないことが求められます。
ティール組織
ティール(Teal)は、英語で「鴨の羽色」を指す単語で、日本語でいうと青緑色という意味合いです。
ティール組織は、アメリカの大手コンサルティング企業で組織変革プロジェクトに携わったフレデリック・ラルー氏が提唱した自律分散型組織の概念となります。
ティール組織の考え方の特徴は「上司や部下が存在しない」、つまりヒエラルキーがないフラットな点です。
自律型組織は、もともとピラミッド型組織と比べると、階層が少ない概念ですが、その究極形がティール組織です。
フレデリック・ラルー氏は、組織の進化過程を5段階に分ける考え方を提唱しました。
- 第1段階:圧倒的な支配者がトップに立つ「衝動型(Red/赤)」
- 第2段階:トップダウンの階層的構造を持つ「順応型(Amber/琥珀)」
- 第3段階:目標達成を第一に考える合理的な「達成型(Orange/橙)」
- 第4段階:メンバーが主体的に行動できる「多元型(Green/緑)」
- 第5段階:個人が意思決定できるフラットな組織である「進化型(Teal/青緑)」
です。各段階を「色」で表現しており、第5段階をティール(青緑)と表現しました。
ティール組織は、管理職が存在せず、各個人に決定権などを完全に渡していく組織概念ですので、社員個々のセルフマネジメント力や判断力、同時に組織全体のつながりが非常に重要となります。
ホラクラシー組織
ホラクラシー(Holacracy)はホロン(それ自体で全体としての性質を持つが、より大きな全体の部分になっているもの)同士の結びつきによる構造という意味を持つ 単語holarchy (ホラーキー)と、ガバナンス方法を示す設尾辞-cracyを組み合わせた造語です。
役職や階層による支配的な上下関係がないフラットな構造という点ではティール組織の一形態ですが、「ホラクラシー憲法」と呼ばれる厳密な組織運営ルールに基づいて従業員が行動し意思決定を各自で行う点が、明確なルールを持たないティール組織とは異なります。
一言で云うなら、「管理はないがルールはある」のがホラクラシー組織です。
ホラクラシー組織では、リーダーシップは個人ではなく役割(ロール)ごとに割り当てられます。
リーダーが負う責任は仕事の内容に応じて、あるいはチームが新しい役割を作り定義するのに応じて移り変わります。
ティール組織を究極の自律型組織だとすると、ホモクラシー組織は、組織のルールと役割を設定することで、多少組織運営をしやすくした概念と言えるかもしれません。
自律型組織のメリット
自律型組織には次のようなメリットがあります。
個人の裁量が大きいため個性を活かせる
自律型組織は、階層型組織とは違って個人に権限が与えられ、ヒエラルキーによる支配や同調圧力などがないため、各メンバーはそれぞれの個性や才能、スキルを遺憾なく事業に反映できます。
例えば、自律型組織で新たな事業を進めていく過程では、自身がこの事業で売上をアップできると考えるなら、周囲に相談する必要はなく自己判断で実行できます。
自分の強みや能力を事業に即反映できるため、上手くいけば事業の意思決定や効率がぐっと高まります。
また現場で意思決定されることで、現場との距離が遠い経営層からは出なかった柔軟な発想が生まれやすくなるのもメリットです。
意思決定スピードが速い
施策の開始や変更が生じる場合も、上層部からの承認を得る必要がなく、現場で意思決定ができるため、組織としての意思決定スピードが早くなります。
それにより市場の変化に素早く対応できるため、ビジネスチャンスを広げやすくなるでしょう。
労働意欲が向上する
自律型組織に所属する人は自己決定感を感じられるため、労働意欲や組織への貢献意識が増します。
「信頼のもとに任された」「自分で決めたからには結果を出したい」といったモチベーションが喚起されやすく、責任感や主体性を持った動きを期待できます。
言われたことをただこなすだけの働き方はなくなり、オーナーシップが高まるでしょう。
自律型組織のデメリット
個人の主体性に委ねることで様々なメリットを生む自律型組織ですが、組織によってはデメリットが生じる、成立するのに必要な条件もあるため、事前に確認しておく必要があります。
個々の能力が必要
自律型組織は社員に任せる裁量が多くなるため、個々の能力が担保されていることが必要です。
意思決定を任せて自律的に仕事を進めてもらうということは、意思決定を任せられる判断力や思考力、実務能力が求められることになります。
例えば新入社員に業務の意思決定をすべて任せたら、仕事はうまくいかないでしょう。自律型組織を実現するためには、前提として社員には一定以上の能力が求められることになります。
組織へのエンゲージメント
自律型組織には現場を管理する上司がいません。上司が「管理する」ことが良いかどうかはさておき、管理が一定の歯止めになるのも事実です。
権限を任され自由に仕事をしていいということは、裏返せばダラダラとさぼることも可能です。
つまり、自律型組織を成立させるには、社員のセルフマネジメント能力とともに、仕事へのエンゲージメント、働く意欲が必要となるわけです。
原動力となるものは、組織のミッションやビジョン、仕事の意味づけ、報酬制度など、さまざまな要素がありますが、それぞれの社員が持つ仕事へのエンゲージメントが高くなければ、自律型組織は成立しません。
逆にエンゲージメントがばらばらな状態で自律型組織を形だけ導入すると、意欲があって積極的に行動する社員と、意欲がなく何事にも消極的な社員とで、はっきりと二分されてしまうことになるでしょう。
情報の一元化が困難
従来の階層型組織では意思決定を役職の高い社員が行うため、情報も自然と意思決定権者のもとに集まっていきます。
上層部がきちんとマネジメントすれば、集まった情報を組織内に共有していくことも比較的容易です。
しかし、自律型組織の意思決定は基本的にそれぞれの個人やチーム単位で行われることになります。
現場のそれぞれでされた意思決定な数となり、全体に意思決定やそれに付随した情報も伝わりにくくなります。
また、業務の属人化も起こりやすく、「この情報はあの人しか知らない」ということも起こりやすくなります。
自律型組織を成立させるには、各メンバーが情報やノウハウ共有の重要性を認識して、それぞれが積極的に発信していくこと、同時に情報共有ツールなどを使って、社内の情報にアクセスできる仕組みを作って運用していくことが必要となるでしょう。
自律型組織を実現させるためのポイント
自律型組織を実現させるには、下記の4つのポイントを強く意識する必要があります。
ミッションやビジョンの共有・浸透
自律型組織で意思決定の軸になるのは自社のミッションやビジョン、バリューなどです。
エンゲージメントの観点と並んで、意思決定の軸をそろえるという意味でも、ミッションやビジョンなどを全てのメンバーに共有・浸透させることが重要です。
組織全体の目指す方向性が明確であれば、意思決定の際に軸がブレることもなくなり、個々の裁量を大きくしても迷走しなくなるでしょう。
また「意思決定の基準が分からない」といった現場の悩みも減らせるため、業務に集中しやすくなります。
OKR(=Objectives and Key Results)の活用
自律型組織における目標管理として、OKR(=Objectives and Key Results)の活用は有効です。
OKRは実現したい状態を言語化したObjectives(定性目標)と、目標を実現するための数値的な定量目標であるKR(key results:主要な結果)を設定して、個人や小チームと組織全体のゴールをリンクさせる方法です。
同じ目標管理制度であるMBOと比べると、OKRは「達成したい!」と思えるような短期ビジョンを全員で共有する点が特徴です。
この特徴は、自律型組織に協力や協働関係、情報共有などをもたらす要素となるでしょう。
意識的な情報発信とオープンネス
自律型組織の成立条件として、情報共有の必要性は前述した通りです。自律型組織で欠けがちな情報共有不足を解消するため、意識的に情報を発信する、また、情報をオープンにすることが大切です。
「正しい判断は正しい情報に立脚する」とも言われます。情報がオープンにされていない中で、正しい判断を下すのは不可能です。
各部署から情報を発信すると共に、各部署の取り組みや進捗、経営者の考えなどに誰もがアクセスできる状態であることが望ましいでしょう。
現場の意思決定を支えるための情報を積極的にオープン化し、共有する姿勢が大切です。
社員同士のコミュニケーションを活発にするチャットツールや情報共有を促進する各種ITツールの活用も不可欠でしょう。
働きがいがある職場環境を整備する
自律型組織は社員のモチベーションによって事業のパフォーマンスが左右されます。
これは自律型組織に限った話ではありませんが、自律型組織の場合、「管理」がない分、社員のエンゲージメントやモチベーションが、パフォーマンスにダイレクトに影響します。
従って、自律型組織で高いパフォーマンスを維持するには、メンバーが働きやすい、そして働きがいがある職場環境を整えることが重要となります。
「働きやすい」という点では、たとえば、社員同士が気軽にコミュニケーションが取れる職場環境や、時間と場所にとらわれない働き方の実現など、社員目線で働きやすい職場環境を整えましょう。
アンケートなどでメンバーの声を聞くことも有効です。
また、「働きがい」という点では、自分が仕事をした意味が分かるように「顧客の声」や社内のサンクスカードなどの仕組みを整備したり、表彰制度などを整えたりすることも有効でしょう。
ミッションやビジョンの浸透なども働きがいにつながります。
最前線の現場に権限を与えるからこそ、現場のパフォーマンスを高めるための取り組みは非常に重要となります。
まとめ
現場に権限を委譲する自律型組織は、意思決定の速さや変化対応力の向上、また、業務効率化や労働意欲の向上につながります。
一方で、自律型組織が成立し、高いパフォーマンスを発揮するには、社員の判断能力や思考能力、また、仕事へのエンゲージメントなどが必要となります。
従って、自律型組織は、いきなり全ての組織に導入できる組織モデルとはいえないでしょう。
しかし、時代や社会環境が大きく変化する、また、雇用に関する価値観も変化している中で、自律型組織の魅力である「変化対応力」や「自己決定感」などを、組織にどう取り入れていくかは喫緊のテーマといえるでしょう。