当事者意識とは、課題や問題に対して「自分が解決・行動する」という意識です。当事者意識の低さには心理学的な要因も関係しており、なぜ当事者意識を持てないのかを理解することで、当事者意識を高めるための適切な対策をとれるようになります。
本記事では、心理学を踏まえて当事者意識が低い原因や高め方を解説します。メンバーや従業員の当事者意識が低いことにお悩みの方は参考にしてください。
なお、本記事で取り上げる当事者意識は、「アドラー心理学」の課題の分離(人間関係のトラブルにおいて、自分の課題なのか相手の課題なのか、切り分けて考えること)における当事者意識とは異なる考え方です。ご了承ください。
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<目次>
当事者意識とは?
当事者意識とは、目の前にある課題や問題などに対し「自分が解決・行動する」という意識です。物事を他人事にせず、自分も関係者であるという自覚を持って仕事に臨む姿勢は、多くの企業が求めているものでしょう。
なお、当事者意識と同じ概念に「オーナーシップ」があります。オーナーシップとは、自分が属する組織や課題などに対して当事者意識を持って臨む姿勢や関係性のことです。詳しくは以下の記事をご覧ください。
当事者意識やオーナーシップに関する有名な実験に、ハーバード大学の社会心理学者エレン・J・ランガー氏が行なった実験があります。自己決定が当事者意識の向上に寄与することを証明した実験で、以下のような内容と結果になっています。
実験では参加者を2つのグループに分けたうえで、一方にはランダムな宝くじの抽選番号を与え、もう一方には自分で抽選番号を書くよう指示しました。
指示したあと、抽選前に「あなたの宝くじを買い戻したい。いくらなら譲ってもらえますか?」と尋ねると、自分で抽選番号を書いたグループのほうが宝くじに高い値段を付けたたのです。
実験結果は「コントロールの錯覚」と呼ばれ、人は自己決定した物事に対しては強いコミットメントを示す傾向があることを明らかにしました。
本実験からは、自己決定が当事者意識の向上に大きく寄与することがわかります。
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7つの習慣の内容や効果については以下の記事で要約しています。
当事者意識が高いことのメリット
組織メンバーの当事者意識が高いことで得られるメリットには、以下の3つが挙げられます。
・リーダーの育成
・メンバー同士による相乗効果の発生
・意思決定や実行スピードの向上
・責任感や達成意欲の向上
以下で詳しく確認しましょう。
主体性を持った行動の実現
当事者意識が高ければ、他人のせいにしたり、他人任せにしたりといった態度や行動は生じません。「これは自分の仕事である」という意識から、一人ひとりが主体性や責任感を持って行動するようになり、仕事の質は高まるでしょう。
一人ひとりの仕事の質が高まれば、当然、組織の目標達成度や顧客満足度の向上にもつながります。
リーダーの育成
組織のリーダーやマネージャーは、自分の責任領域に対して当事者意識を持てる人材であるべきです。
さらに理想的なリーダーのあり方を考えれば「自分の責任領域を超えて当事者意識を持てる人材」といえるでしょう。
組織内で起こるすべてのことに対して当事者意識を持つ姿勢が、俗にいう「経営者意識」です。
実務能力の成長と同時に当事者意識の対象範囲が広がっていくことが、リーダー候補の育成成功だと言うこともできるでしょう。
メンバー同士の相乗効果の発生
当事者意識の高いメンバーが増えれば、他人と積極的に関わりながら課題を解決しようとするため、社内コミュニケーションが活性化します。メンバー同士の相乗効果が発揮される機会も必然的に増えるでしょう。
互いに連携・協力して役割分担したり、新たなアイデアを生み出したりすることで、個人の力を足した以上のパフォーマンスを発揮でき、組織の生産性向上に直結します。
意思決定や実行スピードの向上
経営陣や一部のメンバーを除き当事者意識が低い社員が多い組織は、全体的に計画性がなくのんびり仕事しています。こうした組織では、誰かの指示や意思決定待ちとなり、なるべく現状維持で仕事を進めようとします。
一方で、当事者意識が高い社員が多い組織は、その逆です。誰もが自分たちの目標を達成する、より良くするために計画を組み、改善策を考え、スピーディーに行動していきます。目標達成や課題解決への意欲が高いからこそ、積極的なコミュニケーションも行なわれます。意思決定も迅速です。
周りで起こっている事柄への興味・関心も高まり、部署間連携も強化されます。そして、新しいアイデアなども生まれやすくなるのが一般的です。意思決定に主体的に関わるからこそ、決まったことがきちんと実行され、組織の実行力も高くなります。
責任感や達成意欲の向上
当事者意識のあるメンバーが多い組織では、先輩や上司の背中を見て、新人の責任感や達成意欲も向上しやすくなります。また、当事者意識を高める文化が生まれやすいのも大きな特徴です。
HR業界の雄であるリクルートのカルチャーを示すものとして「圧倒的な当事者意識」という有名な言葉があります。リクルートでは、新人や若手でも入社半年ぐらい経つと、上司や先輩に質問や相談した際「で、あなたはどうしたいの?」という逆質問が投げかけられるといわれています。
この質問は、「自分で考える」「自分の意見を持つ」という当事者意識の基本を育むものです。
結果として、疑問や問題が生じたときに「とりあえず上司に相談する」「上司の指示を待つ」「上司の指示を鵜呑みにする」のではなく、まずは自分なりに考えて、自分の意見や結論を持って報連相する習慣が育まれます。
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当事者意識が高い人の特徴
当事者意識が高い人には、以下のような特徴があります。
責任感がある
当事者意識が高い人は、任せられた仕事や自分の人生に対して主体的であり、責任感があります。この「責任感」は、結果を引き受けるという意識だけではなく、自分は影響を与えられるという自己効力感からくるものです。
また、業務フローなどの課題に対しても「誰かが解決するだろう」「どうにかなるだろう」といった他責や楽観的な姿勢ではなく、自分事として早期の解決を図ろうとします。強い責任感を持ち、チームが良い方向に進むために積極的に意見するのが特徴です。
計画的である
当事者意識が高い人は、与えられた仕事や役割を果たすために、目標や行動指針、ミニゴールを設定し、計画的かつ確実に仕事をこなしていこうとする姿勢があります。
実行レベルは、持っているスキルによって高低があるでしょう。しかし、当事者意識が高い人は、定期的な振り返りをとおして、要領の悪さやスケジュールの遅れなどがあれば、積極的に改善策を考えようとします。
達成意欲が強い
当事者意識が高い人は、企業の仕事や役割だけでなく、自己成長やプライベートにおける以下のような人生の側面でも強い達成意欲があります。
・ 資格試験
・ キャリアアップ
・ 資産形成 など
コロナ禍などの厳しい状況下では、集客できない・売上が下がるなどの要因で、多くのメンバーのモチベーションが下がりがちです。一方で、当事者意識の高いメンバーが多い組織では、目の前の目標や課題を確実にクリアする達成意欲があるため、組織の苦境も良い形で乗り切れるようになります。
結果的に、当事者意識が高いメンバーは周りから信頼されますし、高い成果をあげていきます。
当事者意識が低い人の特徴
当事者意識が低い人には、以下のような特徴があります。
受け身で他人任せである
当事者意識が低い人は、「自分がやらなくても、誰かがやってくれるだろう」という考え方です。同時に「誰かから言われたらやろう」と考えています。
つまり、自分の仕事ではないということであり、それは、他人任せ・他責の姿勢になります。リーダーなどから仕事を任されても、「指示されたからやっている」というスタンスです。そのため、責任感や積極性がありません。
行きあたりばったりである
当事者意識が低い人は、仕事に対して他人事です。そのため、「どうしたら確実に目標達成できるか?」「失敗しないための工夫はなにか?」などを考えることはありません。仕事は行きあたりばったりになりがちです。
失敗の理由を振り返り、自ら改善することもないため、何度も同じミスを繰り返したりします。成功に対しても、「どうやれば再現できるか?」を振り返ることがないので、1回だけの偶然で終わってしまう傾向があります。
自己主張がない
当事者意識が低い人は、チーム内で「AよりBのほうがいいのではないか?」「その方法はあまりよくないのでは?」といった提案や主張をすることもありません。
基本的には余計なことをいわずに黙っていて、消極的な反対をしたり、誰かが決めたことに従ったりするスタンスです。従うときにも、あくまで「誰かが決めたことだから従う」だけであり、決めた責任を自分のものとはしていません。
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当事者意識低下に伴う危険な兆候とは
当事者意識の低下は、組織の実行力やパフォーマンス低下につながります。当事者意識が低い人には特徴があり、その特徴を見抜いて対策をすることが重要となります。
ここでは、当事者意識の低下に伴う危険な兆候の特徴をご紹介します。
受け身・指示待ち
当事者意識の低い人の特徴として、受け身や指示待ちといった態度がまず挙げられます。
受け身や指示待ちは、「自分がやらなくても他の誰かがやってくれる」「誰かに言われたらやろう」という気持ちから生じます。
自分の仕事だという意識が低いため、行動や意思決定を他人任せや人のせいにしてしまっており、仕事の効率が下がってしまう可能性があります。
責任感がない
受け身の姿勢からも分かるように、当事者意識の低い人は仕事を「自分のやるべき仕事」だと捉える気持ちが低いのが特徴です。
「成果を上げるには?」「ミスをしないためには?」などと考えることが殆どなく、仕事の取り組みもその場しのぎで行います。
仮に目標達成しても、意図して生み出した成果ではないため再現性は低く、逆に、ミスをした場合は改善することがないので、同じミスをくり返すことが多くあります。
自分の仕事以外に関心を持たない
当事者意識の低い人は、仕事に関する責任感が低いため自分に与えられた仕事以外、関心を持たない傾向があります。
仕事に関しても指示されてから動くスタンスなので、それ以上の行動を取ることがありません。
従って、困っている同僚を助ける、何かの改善を提案する、懸念点を指摘する等、組織の目標達成のために自発的な行動を取ることは望めません。
当事者意識を持てない7つの原因や心理
当事者意識の低さには心理学的な要因が強く関係しています。当事者意識を持てない原因や心理を知ることで、当事者意識を高めるための適切な対策が見えてきます。
以下で、当事者意識を持てない7つの原因や心理を理解しましょう。
仕事における目的や目標が不明瞭
1つ目は、「何のための仕事なのか?」「顧客にどのような貢献をするのか?」「どのような目標・数字を追うのか?」など、仕事の目的や目標が曖昧になっているケースです。
メンバーはなんとなく目の前の仕事をこなしており、より多くのことを進んでやろうとはしない状態に陥ります。
目的や目標に価値を感じていない
2つ目は、自分がしている仕事に意義や価値を感じられていないケースです。
組織としては目的や目標がしっかりと定められており、個人に対しても目標が設定されていたとします。
しかし、設定された目標が本人にとって「企業や上司から与えられたもの」「上から落ちてきたもの」という認識になってしまうと当事者意識は生まれません。
当事者意識を持てるようにするためには、価値がある、社会に貢献している、達成することで収入が増える、成長できる、キャリアが広がるなど、仕事や目標を達成することに対する個人的な意味付けが必要です。
仕事で主体性を発揮する余地がない(自己決定権)
3つ目は、当事者意識を持とうとしても、主体性を発揮できる組織環境が整っていないケースです。冒頭で紹介した心理実験のとおり、自己決定権がないと当事者意識は生まれにくくなります。
極端なトップダウン型で自己決定権がなかったり、自由な提言や行動が許されなかったりする組織では、メンバーは主体性を発揮できず当事者意識は生まれません。
自己効力感がない
4つ目は「自己効力感」がないケースです。自己効力感とは、自分の能力への自信の度合いのことで「自分はこれをやれる」という感覚を指します。
自己効力感は過去の成功体験の積み重ねで強化されます。自己効力感が低いと「自分にできるはずがない」「どうせ失敗する」と思ってしまいます。
ネガティブに考える状態では主体的な行動を起こせず、当事者意識も生まれません。仮に当事者意識が生まれたとしても、「できるはずがないけれど、やらなくてはならない」と過度のプレッシャー要因になる恐れがあります。
楽をしたいという心理
5つ目は、楽をしたい、すなわち「なるべく仕事を増やしたくないから黙っておこう」などという心理があるケースです。
なお、楽をしたいという心理自体は、誰もがある程度持つものではあります。楽をしたい心理を上回る仕事や目標への意味付け、責任感、達成意識などが存在することで、当事者意識は高まります。
損したくないという心理
6つ目は、損したくない、すなわち「当事者意識を発揮して自分から動いた結果、責任をとらされたり、評価を下げられたりするのは嫌だ」という心理があるケースです。
自分のチームや組織内が「当事者意識を持つことはリスクにならない」と思える環境でなければなりません。
例えば「発言すると上から睨まれる」「言い出した人が損をする」「上司や組織からのサポートは得られない」といった環境では、当事者意識を発揮することは損することになります。
当事者意識を発揮した人を評価して、挑戦をサポートする。そして、失敗を許容できる組織風土をつくりましょう。
他人がなんとかしてくれるという心理
7つ目は、他人がなんとかしてくれる、すなわち「上司や同僚、経営者が問題を解決してくれるだろう」という心理があるケースです。
企業の危機や市場環境の変化に対しても関心がなく、上層部が対処すべき問題として認識しています。問題を自分事として受け入れられないこと自体、当事者意識の欠如からくる心理です。
当事者意識の高め方
当事者意識を持てない原因や心理を踏まえ、自分自身、または従業員やメンバーの当事者意識を高める方法をそれぞれ解説します。
自身の当事者意識の高め方
自分自身の当事者意識を高める方法として、以下の点を意識するとよいでしょう。
●対象に取り組む意味付けをする(目的・目標の4観点)
取り組む仕事や課題に、個人として意味付けされなければ当事者意識は高まりません。目的・目標の4観点は、「自分/他者」「有形/無形」という2つの軸、4つのマトリックスを活用して、目標への意味付けを行なうメソッドです。
●どうすればできるのか?という思考を心がける
「どうすればできるか?」と可能性や選択肢を拡げる質問を自分に投げかける習慣を持つことで主体性を発揮するための行動のアイデアに目を向けやすくなります。
●影響の輪に集中する
著名なビジネス書籍『7つの習慣』で取り上げられている「影響の輪」と「関心の輪」という概念を意識する方法です。自分自身が影響をおよぼせる「影響の輪」に集中する習慣を身に付けることで、自らの主体性を強化できます。
「影響の輪」と「関心の輪」の詳細は以下の記事をご覧ください。
後輩やメンバーの当事者意識の高め方
後輩やメンバーの当事者意識を高めるには、以下の点を意識するとよいでしょう。
●価値あるビジョン、具体的で明確な目標・役割を設定する
当事者意識の醸成には、自分の仕事に意味があると確信できることが必要です。組織のミッションやビジョンを浸透させ、ミッションやビジョンに基づく目標や、組織に必要とされていると感じられる役割を設定しましょう。メンバーは仕事や組織へのエンゲージメントが高まるはずです。
●個人にとっての意味付けをする
目標を設定する際は、組織にとっての意味、合理性ではなく、メンバー個人にとっての意味付けが大切です。1on1などの対話を通じて、目標や仕事に対する個人的な意味付けを行なうサポートをしていきましょう。
●指示するときには必ず理由を説明する
「なぜ指示された仕事をする必要があるのか?」という疑問を抱いたままでは行動する気にはなりません。何かを指示する際は、取り組む理由や意図、目的を説明し、相手に納得してもらうことが重要です。
●自己決定権や裁量を与える
自己決定権のない仕事に対して、当事者意識を持つことは困難です。「当事者意識とは?」の章で解説したとおり、人は自己決定した物事に対してはコミットメントを強める傾向があるとわかっています。いきなりすべての裁量を与えるのはリスクがあるかもしれませんが、特に当事者意識を発揮する意欲のある社員に対しては、積極的に決定権や裁量を与えていくべきでしょう。
●適切に褒めることで自己肯定感や自己効力感を高める
自己肯定感が低ければ、他人の目や反応が気になったり、「どうせやっても失敗する」という感覚になったりして、主体的な行動は起こしにくくなります。メンバーを適切かつ積極的に褒めて、メンバーの自己肯定感や自己効力感を高めることも当事者意識を向上させるうえで重要です。
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まとめ
チームや組織が成長するうえで、メンバーの当事者意識は重要なポイントです。当事者意識が高ければ、主体性を持った行動が増え、メンバー同士による相乗効果や次世代のリーダー育成への効果も期待できます。
本記事の内容を参考に、当事者意識の向上に取り組んでみてはいかがでしょうか。