従業員が就業規則の違反を繰り返したり、著しい能力不足や職務怠慢で自身の役割を担えなかったりする場合、企業は降格処分をすることができます。
従業員にとって降格処分は、給与がダウンしたり名誉を失ったりすることです。結果としてモチベーションダウンや大きな不満につながることもあるでしょう。
また、降格処分は労働契約や法律に基づく企業の権利である一方で、内容が社会通念から見て明らかにおかしいものであったり、当該従業員にとって納得がいかなかったりするときに、訴訟を起こされたりする可能性もあります。
したがって、企業が降格処分を実施するには、処分の種類や労基法に照らし合わせた基本を押さえて、従業員をきちんと納得させられるプロセスを踏んで実施する必要があります。
記事では、降格処分の概要と流れを確認します。
確認したうえで、多くの企業から相談を受けることが多い「降格処分と同時に賃金を引き下げることは可能か?」という質問の答えと、降格が違法と判断されやすいケースと注意点も紹介します。
<目次>
降格処分とは?
降格処分とは、職務上の資格または役職を現状より下位に下げることです。場合によっては、職務上の資格・役職のほかに、部署などの配置や給与などの待遇が変わることもあるでしょう。
降格処分には、以下の種類とパターンがあります。
職位の引き下げ
職位の引き下げとは、以下のようにいまの役職や役割から、降職・解任をすることです。
- 部長から次長にする
- 課長から課長補佐にする
- プロジェクトマネージャーから解任する など
職能等級の引き下げ
職能等級とは、従業員を能力・役割・職務などによって区分化・序列化し、権限や責任、待遇の根拠とするものです。
等級制度を導入している企業では、以下のような職能等級の降格・降級が行なわれる場合があります。
- 管理職の5等級から4等級に降級
- 一般職の2等級から1等級に降級
なお、等級制度を導入する企業の多くは、等級と職位、賃金制度を連動させています。
よって、たとえば、「管理職の5等級から4等級に降級」になった場合、降級に連動して職位がたとえば「課長から課長補佐に降職」となり、給与も下がるようなケースが多いです。
降格処分のパターン
降格処分には、降格理由によって「懲戒処分による降格」と「人事権行使による降格」の2種類があります。
懲戒処分による降格とは、「従業員が果たすべき規律や義務の違反に対して、使用者が加える制裁罰」という趣旨での降格です。
たとえば、「何度も指導しているにも関わらず、他の従業員へのパワーハラスメントを続けている。懲戒処分として次長を解任する」といったケースが該当します。
一方で「人事権行使による降格」は、労働契約に基づき、企業がもともと持っている権利として従業員を降格させることです。
たとえば、「能力不足や職務怠慢でプロジェクトがまったく回らず、指導をしても改善しないため、課長の役職は不適任。来月から課長補佐に降格させる」といったケースが該当します。
降格処分をする際の流れ
降格処分は、「懲戒処分による降格」と「人事権行使による降格」のどちらであれ、企業側の判断で一方的に行なえるものではありません。
企業が行なった降格処分に合理性がなく、社会通念から見ても不当なものである場合、無効にするための訴訟などが起こされる可能性もあるでしょう。
また、SNSなどに書き込まれて炎上するようなこともあるかもしれません。
よって、従業員を降格処分にする際は、以下の適正な流れで手続きを進める必要があります。
1.降格理由に該当する事実・根拠の確認
まず、降格理由に該当する以下のような事実を確認します。
- 部下へのパワーハラスメントを繰り返している
- 遅刻や無断欠勤を繰り返すことで、業務に支障をきたしている
- 課長としての役割を担えるだけの能力がなく、部署のマネジメントが行なえていない など
懲戒処分による降格をさせるには、根拠(就業規則の懲戒規定など)も必要です。根拠には、企業と従業員の労働契約も関係してきます。
2.当該社員への注意・指導
当該社員に注意をするとともに、弁明の機会を与えます。弁明の機会を与えたかどうかは、降格の相当性の判断でも重視されるポイントです。
たとえば、「子どもの急な体調不良が増えて、遅刻の回数が多くなっている」などの弁明があった場合、そもそも、現状の働き方が合っているのかなどの検討や調整が必要になるでしょう。
また、「〇〇のやり方がわからず、部署のマネジメントがうまくできない」などの訴えがあった場合、課長などの役職から降格させる前に、教育の機会を与える必要もあるでしょう。
本章のステップで大切なことは、問題行動や能力不足などを抱えた従業員の話に耳を傾け、改善を促す努力を行なうことです。
3.改善や反応の確認
降格理由に該当する事実が、注意や指導で改善されたかを確認します。
指導をするときには、以下のように「改善された」といえるだけの明確な要件や期限などを定めて、双方が確認内容に納得できるようにしたほうがよいでしょう。
- 無断欠勤をなくす。急な体調不良のときには、回復後すぐ勤務先に連絡を入れる。
- パワハラの訴えをゼロにする(3ヵ月後の社内アンケート結果で確認)。
- 研修を受けて〇〇のスキルを身に付け、3ヵ月後に〇〇を使ったマネジメントができているかの確認をする。 など
4.懲戒処分か人事権による降格かの決定
懲戒処分の場合、就業規則に基づく根拠が必要となります。なお、懲戒の場合は「処分」であるため、意味合いや本人に与える影響は大きくなるものです。
よって、一般的には、人事権行使による降格が選択されることが多くなっています。
5.降格の告知
正式な辞令を出す前に、当該従業員に通知をします。処分内容を口頭で伝えるとともに、弁明の機会を与えたほうが、降格に納得してもらいやすくなるでしょう。
降格処分と同時に賃金を引き下げることは可能か?
降格処分のタイミングで賃金引き下げをすることは可能です。ただし、人事権濫用と判断されるケースもあるため注意が必要です。
賃金引き下げは、労働者への現実的な不利益があるため、より慎重になる必要があるでしょう。
なお、労働基準法の第91条では、「就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合において、その減給は、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない」と定められています。
したがって、降格処分にともなう賃金引き下げをする場合、定められた給与テーブルに則ったものであることが大前提になります。
降格が違法と判断されやすいケースと注意点
降格処分に違法性がある場合、当該従業員から訴訟などを起こされる可能性が出てきます。本章では、違法と判断されやすい降格処分のケースと注意ポイントを解説しましょう。
就業規則に規定のない事由での降格
懲戒処分として降格させる場合、懲戒処分の該当事由と、懲戒処分の種類として降格があることを就業規則に定めたうえで、就業規則を周知させておく必要があります。
一方で人事権の行使による降格は、事業主の裁量的判断で行なえます。したがって、就業規則上の根拠は不要です。
職位の引き下げ幅が大きい降格
「部長⇒一般社員」のような降格処分は、職位の引き下げ幅が大きいとみなされやすいです。一般的には、2段階以上の極端な降格の場合、違法、相当性がないと判断されやすくなります。
社会通念上の妥当性を欠く降格
社会通念上の妥当性・相当性とは、従業員の行動や状況に対して相当な処分であるかどうかです。
「一般的な感覚として、降格の原因となる事由に対して処分内容のバランスがとれているか?」ということになります。
たとえば、以下のような降格処分の場合、社会通念上で相当せず、人事権の濫用であると判断されやすくなるでしょう。
- 勤務中に私語や職場離脱が多いこと等を理由とする、課長から主任への降格
- 重要書類の紛失等を理由とする、病院の婦長から平看護婦への降格
- 退職勧奨を発端とする、部長から係長への降格 など
まとめ
降格処分には、「職位の引き下げ」と「職能等級の引き下げ」の2種類があり、また、以下のどちらのパターンになるかによって、注意すべきポイントも変わってきます。
- 懲戒処分による降格
- 人事権行使による降格
降格処分の基本的な流れは、以下のとおりです。
- 1.降格理由に該当する事実・根拠の確認
- 2.該当社員への注意・指導
- 3.改善や反応の確認
- 4.懲戒処分か人事権による降格かの決定
- 5.降格の告知
なお、降格処分と同時に賃金を大きく引き下げるような場合、人事権の濫用とより判断されやすくなるため、注意が必要です。
また、以下のケースに該当するときも違法と判断されやすいため、記事のポイントを確認しながら慎重に手続きを進める必要があるでしょう。
- 就業規則に規定のない事由での降格
- 職位の引き下げ幅があまりに大きい降格
- 社会通念上妥当性を欠く降格