近年、VUCAの時代と言われたり、産業がサービス化したり、知識労働者が労働者の多くを占めるようになったりした中で、現場リーダーやメンバーひとりひとりの意識や姿勢、リーダーシップがより重要になっています。
このような環境下で求められているのは、自ら考えて行動に移せる率先力を持ったリーダー人材です。
記事では、ビジネスシーンで率先力が求められている背景や率先力がある人の特徴、率先力を養うための方法などを解説します。
組織の人材育成を考える参考になれば幸いです。
<目次>
率先力とは?
率先力とは、自ら考えて進んで行動し、全体を先導する力です。
ビジネス場面においては、「自らの責任で選択し、組織の先に立って物事を前に進めていく力」とも言え、組織のリーダーに求められる能力です。
率先力とは
「率」という漢字には、「人を導く」「人を引き連れる」という意味があり、「率先」とは、「人の先に立って行動すること」「自ら進んで積極的に行動すること」を意味します。
ビジネスにおける率先の基本ニュアンスは「自らの責任で意思決定して、物事を前に進めていく力」であり、経営者や管理職、チームリーダーなどに求められる素質だといえます。
ビジネスにおいて率先力を持った人材とは、「チームの生産性向上のために、率先してプロジェクトの管理に取り組む」「課題を自ら見つけ出し、周囲に問題提起したり解決に取り組んだりする」など、能動的、主体的な態度で組織を先導する人材です。
組織の中心であり、目標達成、組織の成長に貢献する極めて重要な存在であるといえるでしょう。
率先垂範とは?
「率先」という単語を聞くと、「率先垂範」という言葉を思い浮かべる人もいるかもしれません。
「垂範」とは人の手本になるという意味があり、従って、「率先垂範」とは、人の先に立って、模範になるような行動をすることです。
この四字熟語は、会社組織やチーム、コミュニティなど集団においてよく使われています。
使われることが多いのは、率先のところでコメントしたような課題解決やプロジェクトよりも、基本行動や姿勢などでしょう。
たとえば、
- 目標達成にこだわる姿勢
- 元気で笑顔の挨拶
- 相手に配慮したコミュニケーション
- 雑用を進んで片付ける
- ミッションやビジョン、バリューに沿った意思決定や行動
などです。
率先力のある人材が求められる背景
現代はVUCAの時代とも言われますが、組織を取り巻く外部環境が短期間で大きく変化していきます。
外部環境の変化はいつの時代も言われていることですが、サービスの産業化、知識労働が増えた中で、これまで以上に現場で意思決定・変化対応していくことが求められていることは間違いありません。
このような環境下で求められているのは、失敗を恐れず自ら考えて判断し、変化や顧客に柔軟に対応しながらチームを率先できるリーダーです。
もちろんリーダーだけでなく、メンバー一人ひとりの率先力も必要です。
もちろんメンバーが変化を率先していくことも大切ですし、リーダーに対するフォロワーシップの発揮も一種の率先力です。
フォロワーシップは受け身的な概念とも思われがちですが、そうではありません。
フォロワーシップはチームの成果を最大にするために、メンバーがリーダーに積極的に働きかける能動的な概念であり、リーダーシップの初歩ともなる要素です。
率先力・行動力がある人の特徴
率先力・行動力がある人は、主体性があり、明確な目標を持っています。
また、リスクも考えたうえで、失敗を恐れずに行動するチャレンジ精神も備わっており、たとえ失敗しても「なんとかなる」と前向きにとらえ、失敗から学ぼうとする姿勢があります。
率先力・行動力がある人の特徴を知ることで、ロールモデルとしても設定しやすくなりますので、率先力・行動力がある人の特徴を紹介します。
主体性がある
主体性とは、自分の意志に基づき、自らの責任のもとで選択・判断することです。
ビジネスにおける主体性は、上司の指示を待ったり上司の指示通りに動いたりするのではなく、自分で考えて行動し、結果に責任を負おうとする姿勢です。
主体性は、決められていない状態において何をするべきか模索し、行動する姿勢です。課題解決のための施策を考え、実行に移すことが主体性のある行動だといえるでしょう。
明確なビジョンや目標がある
率先して行動できる人は、明確なビジョンや目標を持っていることが多いでしょう。ゴールが明確だからこそ、行動の選択基準が生まれ、軌道修正しながら達成までの道を進むことができます。
また、ゴールに対して価値を感じているからこそ、課題やハードルを乗り越えて前に進もうとするのです。
仕事やビジネスの具体的なビジョンや目標も大切ですし、自分はどんな人間になりたいのか、これから何をしたいのかという人生のミッションやビジョンを明らかにすることも、率先力を生み出すことにつながります。
達成欲や責任感がある
達成欲と責任感は異なるもののようですが、どちらも掲げた目標・与えられた仕事をやり遂げるという動機につながるものです。
心理学では「達成動機」ともいわれている達成欲を持っている人は、チャレンジ精神が旺盛で、ハードワークを得意としています。
これに、役割を果たすという責任感が加わることで、目標に向かって進む力や速度が向上します。達成欲と責任感は、両輪の関係にあるのです。
リスクを見積もれる
ビジネスにおいて率先して行動することは、ときにリスクを伴います。
何も考えずにリスクを取ってしまう人もいますが、高いレベルで率先力を持った人は、きちんとリスクを見積もったうえで、リスクを取る決断をしていきます。
率先力のある人は、たとえリスクがあったとしても、それが許容範囲であれば、しっかりとチャレンジする覚悟があります。
率先力がある人は、当然ながら失敗も数多くしていきますが、失敗を周囲や状況のせいにせず、振り返って自分の成長に活かしています。
ポジティブ
率先力を発揮する上では、ポジティブさも必要です。ポジティブといっても単に楽観的なわけではありません。
真の意味でポジティブな人とは、リスクもきちんと見積もったうえで、「自分なら出来る」「やればなんとかなる」という、自己効力感が高い人、そして、失敗しても悲観することなく、「また頑張ろう」と前向きに再スタートができる人です。
率先力・行動力がない人の特徴
前章では率先力・行動力がある人の特徴をみてきましたが、逆に率先力・行動力がない人はどんな特徴があるでしょうか。
率先力・行動力がない人は、主体性や目標がなく常に受け身で、何か問題がおきたときは、原因を他人や環境に見出そうとします。
また、明確なビジョンやゴールを持たず、失敗を恐れて行動に踏み出せない傾向があります。率先力・行動力がない人の特徴を知れば、人材育成に役立てることができるでしょう。
他責志向
主体性の逆は他責です。他責とは、選択の責任や結果を、環境や状況、他人に委ねることです。
他責志向の人は受け身な態度であり、仕事においても指示がなければ動くことができません。また、物事がうまくいかない原因を、他人や状況のせいにして言い訳します。
他責志向の人は、チームや組織に問題が起こると自分の保身だけを考え、他のメンバーに責任を負わせたり、環境のせいにして責任から逃れようとしたりします。
このような人はリーダーに向いていません。率先力や率先垂範とは対極にある姿勢といえます。
目標やビジョンが不明瞭
目標やビジョンが不明瞭であることも、率先力の欠如につながります。
目標が明確でなければ向かう先が分からないため、必然的に行動力が落ちますし、課題やハードルを乗り越えようとする意欲も低くなります。
このような人は、ただ漠然と日々を過ごすことに慣れてしまい、目標を達成する楽しみや、達成したときの充実感を忘れています。仕事に対しても受動的かつ消極的で、惰性的に動きがちです。
現状に満足している
目標やビジョンが不明瞭だと、現状に満足して、このままの状態を維持する思考に陥りがちです。
現状に「とても満足」しているわけではないですが、明確なゴールが無いからこそ、率先して動くことのリスクや手間が重く感じられるのです。
先に述べたように、目標やビジョンが不明瞭だと、現状と目標の間に埋めるべき「ギャップ」がなくなるため、多少の不満はあっても現状に満足してしまいます。
正解を探そうとする
学校の穴埋めやテストの選択問題のように「正解」を探そうとしてしまう人も率先力を発揮できません。
ビジネスでは、絶対に間違いない、100パーセント完璧な答えは得てして見つかりません。正解が分からないなかで選択して、選択したもので結果を残そうと努力することが大切です。
もちろん、正しい意思決定は大切です。
ただ正解を探し過ぎる、また、間違うことを恐れすぎると、情報収集に奔走したり選択肢の粗探しに陥ったりしてしまい、選結果的に前に進めなくなってしまいます。
このような人は、完璧主義の秀才タイプに多いかもしれません。
優先順位がつけられない
優先順位を付けられない人も率先力を発揮できません。時間は有限です。とくにビジネスにおいては働き方改革が実施されてきた中で、「長時間労働で解決する」という選択肢はあり得ません。
優先順位を付けて行動できないと、全てのことをやろうとして、結果的に何もできなくなってしまいます。やるべき行動の優先付けができていない状態では、行動に移すスピードも遅くなるでしょう。
優先順位が決められない思考は、先ほどの正解を探す志向にもつながります。優先順位を付けられないからこそ、すべてを満足させる正解を探そうとしてしまうのです。
現実世界において、物事を実行するリソースは限られています。最大限の利益を得るためには、しっかりと優先順位をつけて効果的に動くことが求められます。
マイナス思考で失敗を恐れる
最近の若手世代は、子供のころからの教育環境の中で失敗する経験が少なく、またSNSでの炎上などを見てきたことから、「失敗すること」へのリスクを過大視する傾向にあります。
また、過去に大きな失敗や恥をかいた経験がある人は、失敗を過剰に恐れる傾向にある場合もあるでしょう。
ビジネスにおいて失敗を回避する姿勢は大切ですが、失敗したときのリスクを過剰にとらえてしまったり、「どうせ上手くいかない」といった思考で考えてしまったりすると、なかなか行動を起こすことはできません。
安全動機が高い
安全動機は、人が持つ動機の一つです。この動機が高い人は「リスクがない状態」を目指す傾向にあります。
安全動機が高い人は、ビジネスの能力が低いわけではありません。リスクの洗い出しをさせたり、確実に進めたい仕事を任せたりするには心強いタイプです。
しかし、あまりに安全動機が高いと慎重になりすぎて、チャンスが目の前にあっても、なかなか一歩を踏み出すことができません。
少しでも失敗する可能性があると行動に移せないので、成功から遠ざかってしまうのです。
率先力・行動力がある人材を育てるには
ここまで率先力・行動力がある人の特徴を見てきましたが、どのようにすれば率先力・行動力がある人材を育てることができるでしょう。
率先力・行動力がある人材を育てるには、主体性の概念を理解させ、習慣にすることが大切です。
また、能動的に問題解決へ進んで取り組もうとする当事者意識を高めたり、自分で行動を決めていく自己決定権を与えたりすることも有効です。
また、このようなスキルを身に付けるためにも、心理的安全性を確保した環境で、失敗経験を積ませることが大切です。
主体性の考え方を教え定着させる
「主体的」を、なんとなく積極的に行動する、自発的に行動することだと誤解している人も多くいます。主体性とは、自らの意思で「選択する」という概念です。
私たち人間には、自覚、想像力、良心、自由意志という4つの力が備わっており、だからこそ自らの意思で、望む成果に向けて選択することができます。
そして、自らの意思で選択するからこそ、そこに責任が生じるのです。
こうした主体性の概念、また、主体性を発揮するために自分が影響を与えることができる「影響の輪」に集中するといった考え方を理解させ、浸透させると率先力向上の土台となります。
当事者意識を高める
当事者意識とは、「組織の問題を自らの問題としてとらえ、問題発見や問題解決のために、自律的かつ本気で知恵を出し、行動しようとする意識」のことです。
当事者意識を身に付ければ、指示がなくても自分で考え行動できるようになるため、結果として率先力が高まります。
ビジネスにおいて、メンバーの当事者意識を高めるためには、ミッションやビジョン、ゴールを共に作ったり共有したりし、組織の問題を解決する一員であることを自覚することが大切です。
また、自分の仕事の意義や影響を理解してもらうことも当事者意識を引き出すことにつながります。また、次に紹介する自己決定権も当事者意識を高める上で大切です。
自己決定権を与える
人間には、もともと「自らの目標や行動を自分で決めたい」という意思が備わっています。
しかし決定の自由を奪われると、無意識に反発したりモチベーションが下がったりし、途端にやる気を失ってしまいます(心理学ではこの反発を心理的リアクタンスと呼びます)
多くの人が、人に決められた目標や方針よりも、自分で目標や方針を決めた方が一生懸命になれるのも同じ原理です。
だからこそ、率先力のある人材を育てるうえでは、この心の働きを意識し、自己決定権を与えることが大切です。
もちろん権限委譲するうえでは、意思決定基準の共有や相手の成長、意欲などの状況を見ながら進めることが大切です。
ただ、自己決定権を渡すことが率先力の醸成につながることはマネジメントする上では忘れてはならない考え方です。
目標と現実のギャップを明確にする
率先力のある人材を育てるには、自分の目指すべき姿を明白にすることも大切です。目標が明確になったら、次に目標と現実のギャップを意識させます。
人間には達成意欲があり、目標と現実のギャップを埋めようとする心の働きがあります。
この心の動きを有効に活用して率先力のがある人間を育てるためには、①たどり着きたいと本気で思える目標である、そして、②目標の現実のギャップを埋める手段が認識できているという2点が大切です。
相手と共に、目標を考えて、ギャップを埋める手段を明確にする。その上で、相手に自己決定権を渡していく。これができると、自然と自走して、率先力を発揮してくれるでしょう。
挑戦させる経験を積ませる
先に述べたように、失敗を恐れすぎる人は率先力がない傾向にあります。
失敗を恐れずに前進できる人材に育てるには、失敗を振り返って内面化することが成功につながると理解してもらうこと、どんどん挑戦させることが大切です。
挑戦して失敗する経験を積むことで、一回の失敗ですべてが終わるわけではないことを学習できます。
また、失敗したときに次の解決策を考えて動き出す力も身に付きます。失敗に対する免疫を付けることで挑戦することに抵抗感もなくなり、何事にも率先して動けるようになるでしょう。
自己効力感を高める
自己効力感とは、「自分には何かをやれる力がある」「目標達成のための能力を持っている」という感覚です。
自己効力感が高まると、「自分ならできる」「うまくやれる」という感覚が生まれ、何事にも前向きに取り組むことができるようになります。
自己効力感を高めるためには成功体験が大切です。といっても大きな成功を積むだけが成功体験ではなく、日常の中で成功体験や自己成長を振り返ることが大切です。
また、自分との約束を守るという点で、自己の成長や仕事の成果などにつながる行動を習慣化することも自己効力感を高める上で有効です。
安心して失敗できる環境をつくる
先に述べたように、挑戦して失敗経験を積むことは、前向きな挑戦姿勢の形成に役立ちます。
従って、どんどん挑戦させることが大切ですが、その際に大事なのは、きちんと心理的安全性を確保することです。
心理的安全性とは、不安や心配を抱くことなく、発言や行動ができる環境や関係性のことです。
心理的安全性が確保されている環境下では、挑戦へのハードルが低くなりますし、早期に失敗を周囲に相談することなども可能になります。
まとめ
ビジネスにおける率先力とは、「自らの責任で意思決定して、物事を前に進めていく力」です。
VUCAの時代ともいわれる外部環境に変化や不透明さ、また、産業のサービス化や知識労働が当たり前となる中で、リーダーはもちろん、メンバー一人ひとりにも率先力が求められています。
率先力・行動力がある人材を育てるには、主体性の概念を教え身に付けさせるとともに、挑戦や失敗経験を積ませること、また、自己効力感を高めることが大切です。
心理的安全性が確保された、安心して失敗できる環境で、どんどん挑戦させることで次世代リーダーを育成していきましょう。