正しい部下の叱り方とは?叱り上手になるためのポイントとNG例を紹介

正しい部下の叱り方とは?叱り上手になるためのポイントとNG例を紹介

部下や新人、若手を成長させるうえで、叱ることは大切です。ただし、誤った叱り方をしていると、部下のモチベーションが下がったり、主体性が損なわれたりする場合もあります。正しい叱り方とは、一体どのようなものなのでしょうか。

 

記事では、まず間違った叱り方がどういうものかを確認したうえで、部下の成長につながる正しい叱り方のコツ、正しい叱り方の具体例をパターン別に解説します。

<目次>

叱ることを苦手にする上司や親が増えている

最近では、地域コミュニティの崩壊、教師による叱責の減少、パワハラ意識の浸透などで、そもそも「叱られた経験」が少ない世代が上司や親になることが多くなりました。叱られた経験が少ないからこそ、正しい叱り方がわからない人が増えているとも言い換えられます。

 

また、職場でハラスメント研修やハラスメントの通報制度などができたことで、叱ることに対してリスクを感じさせ、消極的になっている側面もあるでしょう。もちろんハラスメントは絶対にNGです。しかし、部下を成長するために叱ることは決してハラスメントではありません。

 

叱ることは、部下や子供の誤った思考や言動をただし、成長を促すための効果的な手段です。正しい叱り方を身に付け、叱ることを適切に活用して人材育成できるようになりましょう。

間違った叱り方9選

まずは、間違った叱り方の具体例と理由を紹介していきましょう。

 

 

大声や乱暴な言葉で叱る

大声や暴言で叱るのは、本来の「叱る」ではなく、自分の感情をぶつけているだけの「怒る」です。脅しや威嚇と同じであり、部下に恐怖心を与え萎縮させてしまいます。

 

大声や乱暴な言葉で怒鳴るようなことを続けていれば、信頼関係が壊れ、本音で話してもらえなくなるでしょう。場合によっては、パワハラととらえられることもあります。

 

 

大勢の前で叱る

たくさんの人がいる前で叱るというのは、職場だけでなく学校などでも行なわれていることがあります。人前で叱ることは、相手の心を傷つけるだけでなく、「人前で吊し上げられた」などの恥ずかしい想いから反発心や恨みを生むことにもつながります。

 

もちろん反発心や恨みが生じれば、本来の目的である「修正すべき言動の矯正」は達成されません。

 

 

他人と比較して叱る

「〇〇さんはできているのに君は……」のように、他人と比べて相対評価で叱ることは避けたほうがよいでしょう。比べる叱り方をしていると、人前で叱られる場合と同様に、相手は恥をかかされた感覚になり、叱った内容を受け入れにくくなります。

 

 

人格や価値観を叱る

叱る目的は相手の成長であり、好ましくない言動の修正とも言い換えられます。よって、叱るときには、あくまでも「行為」にフォーカスすることが大切です。相手の人格や価値観を否定するような叱り方は、相手の自己肯定感や尊厳を傷つけますし、明確なハラスメントでもあります。

 

 

抽象的な内容で叱る

抽象的かつ漠然とした指摘や叱り方もNGです。人によって基準が異なり、何を指しているのかよくわからない抽象的な叱責をしていると、部下は自分の判断で動けなくなり、指示待ち人間になってしまいます。叱る内容に具体性がなければ、叱られた側は何が問題かを認識できず、行為を修正できません。

 

 

否定ばかりして叱る

どのような相手であっても、叱るべき問題や悪いところとともに、褒められる良いところもあるはずです。ダメなところだけを並べて否定ばかりをしていると、相手の自己効力感や自己肯定感が失われてしまいます。したがって、「褒める」と「叱る」を適切な頻度で実施することも、大切なポイントになります。

 

 

決めつけて叱る

部下の考えや言い分を聞かず、一方的に決めつける叱り方もよくありません。上司は、ときに現場の状況を知らなかったり、誤認識していたりする場合もあります。上司が「自分は正しい」という前提で決めつけた叱り方を続けていると、信頼関係が崩れたり、部下が自ら考えて行動する主体性が育まれなくなったりするでしょう。

 

 

個人の成功体験や考えを押し付けて叱る

叱るときに以下のような成功体験を語るのは、自分と部下を比較して叱ることと同じです。

  • 「自分の新人時代はこうだったのに、一方であなたは……」
  • 「自分はこの方法で営業トップになったから、あなただって……」

 

これは先ほどの「他人と比べる」にも通じる部分です。相対的な比較で叱った場合、相手は納得感をもって受け入れづらくなります。さらに上記のような叱り方は単に他人と比べられる以上に、上司の自慢話を聞いているような感覚であり、相手にとっては不快です。

 

自分と比べるなら、成功体験などではなく、むしろ同じような失敗体験を開示することで、相手は叱責を受け入れやすくなるでしょう。

 

 

長時間にわたって叱る

30分や1時間と長く叱り続けても、効果が得られにくいことがわかっています。得られにくい理由は、叱られている側が次第に疲れてきて、何を改善すればいいのかわからなくなるからです。

 

また、長時間叱り続けていると、叱っている側の怒りが増幅する「怒りのエスカレーション」という現象が起こります。怒りのエスカレーションが生じた場合、本来叱っていた問題とは異なる過去の指摘などを始めてしまったり、「叱る」ではなく感情的な「怒る」になってしまったりする可能性が高まります。

 

叱るときは、要点をさっと叱って短時間で終わりにしましょう。

部下の成長につながる正しい叱り方のコツ

「叱る」ことで部下の成長を促すには、以下のポイントを意識しましょう。

 

 

叱る際に意識すべき4大要素

批判的なフィードバックを通して改善や成長を促すには、以下の4要素を盛り込んだ叱り方を心がけるのがおススメです。

 

  • 叱るべき事実:工場での作業手順がおかしい、テレアポの件数が少ない、遅刻が多い

 

  • 叱る理由:ケガや失敗をする可能性が高いから、著しく数字が低いから、信用を失うから

 

  • 事実への主観:自分は危ない手順だと思う、期待していただけに残念だ、心配している

 

  • 解決策を提示させる:どうしたら改善できると思う? 何が足りないのかな?

 

4大要素を意識して叱ることで、叱っている内容が部下の心にしっかり届きやすくなります。

 

 

叱る場所やタイミングを考える

間違った叱り方をする上司の多くは、自分の想いや意見を伝えることに重きを置きがちです。しかし、部下を叱る本来の目的は、問題を改善してもらい、成長を促すことにあります。よって、叱るときには、相手のプライドを傷つけず、こちらの主張に耳を傾けてもらえる場所やタイミングを意識することも大切です。

 

なお、叱ることをフィードバックと考えれば、問題が起きている「瞬間」に伝えることが理想です。ただし、部下本人が忙しそうであったり、受け入れる余裕がなかったりする場合には、「いま大丈夫?」や「今の作業が終わったらちょっといいかな?」と声がけするなどの配慮も必要です。

 

 

期待していることを最初に伝える

パナソニックの創業者として著名な松下幸之助は、よく部下を叱ったとされています。松下幸之助が部下を叱った理由は、部下に大きな期待を寄せて成長してほしいと願っていたからです。

 

叱るときに、「期待」を伝えることは、上司と部下の信頼関係を維持するうえでも大切です。「この上司は自分に期待してくれている、信じられている」ということが理解できていれば、叱られたあとに萎縮したり、主体性やチャレンジ精神が損なわれたりすることはないでしょう。

 

 

叱る理由や望ましい行動を明確に示す

先ほどの4要素にも重なりますが「なぜ叱るのか?」「どういう行動を取ってほしかったか?」を明確にすることで、叱られる側に納得感が生まれます。また、叱る理由を具体的に伝えることで、例えば上司の認識が間違っていた場合などにも部下から実際の状況説明などができるようになるでしょう。

 

なお、繰り返しになりますが、叱る対象は「行動」や「言動」であり、相手の人格や価値観などを叱ってはいけません。

 

 

感情的にならない

ネガティブな指摘やフィードバックを通して、部下に改善や成長を促すことが「叱る」です。上司が感情的になると「叱る」ではなく、「怒る」になってしまいます。

 

感情のエネルギーをぶつけられた部下は、驚きや恐れによって上司の話に集中できなくなります。「自分が何を求められているか?」を理解できなければ、指摘内容の改善もできません。

 

また、感情をぶつけられると、上司に対して苦手意識を感じてしまい、信頼関係も壊れてしまう可能性が高いでしょう。

 

部下の失敗や悪習慣にネガティブの感情が噴出しがちな方は、怒りの感情をコントロールするアンガーマネジメントを学ぶこともおススメです。


適切な叱り方をより詳しく学びたいときには、以下のページも参考にしてみてください。

【パターン別】正しい叱り方の具体例

正しい叱り方の具体例を、部下のパターン別に紹介していきましょう。

 

 

同じミスを何度も繰り返す部下への叱り方

上司:「最近、〇〇という同じミスを繰り返しているね。ミスしていてはプロジェクトの進捗が遅れるし、お客様からの信頼も失ってしまうよ。Aさんはミスが多いタイプではないし、どうしたかと少し心配でもあるんだ。」

 

部下A:「すみません。先月から作業量が1.2倍に増えていたので、集中力などが低下してしまっていたのかもしれません。」

 

上司:「そうか。お客様からの信頼もあるし、ミスは最小限にしたいが、どうすれば改善できそうかな?もちろん、私も支援できることはしていくから。」

 

部下A:「納品前に使うチェックシートを作成します。チェックシートは、プロジェクトの部下全員に共有します。」

 

上司:「わかった。Aさんには期待をしているから、頑張ってね。困ったことがあったらいつでも相談して。」

 

 

遅刻をよくする部下に対しての叱り方

上司:「ここ3ヵ月で5回も遅刻をしているね。5回のうち2回は、K社とS社の商談に遅刻しているじゃないか。こうした姿勢で契約を逃したら大変だ。あまりに遅刻の頻度が多いから、僕はかなり驚いているよ。Bさんは商談のスキルは十分にあるんだから、こういうつまらないところで損するともったいないぞ。」

 

部下B:「すみません。展示会の準備で、最近ずっと残業が続いていまして。朝起きられなくなっているかもしれません。」

 

上司:「そうか。どのような事情があっても、遅刻はみんなの信用を失うからいけない。どうすれば改善できるかな。何か協力できることはあるかな。」

 

部下B:「営業事務のSさんの手が空いているようなので、次からは、パンフレットの印刷などの簡単な作業をお願いします。あと、仕事の優先度を見直して、早めに帰れるようにつとめます。」

 

上司:「わかった。展示会でのプレゼンテーションも期待しているから、頑張ってね。」

 

 

ノルマに対する意識が低い部下への叱り方

上司:「この半年で1ヵ月しかノルマ達成できていないね。Cくんには期待しているのだが、部内でもワースト1が続いているから心配になってね。」

 

部下C:「すみません。頑張っているつもりではあるのですが、なかなかうまくいきません。」

 

上司:「そうか。Cくん自身も苦しいと思うのだが、どうすればいいだろうね。」

 

部下C:「どうすればいいか……。そうですね、成績トップのY先輩の営業に同行してみようかな。」

 

上司:「いいね。客先の行く途中の車内で、ノルマ達成のコツなどを質問してみてもいいかもね。頑張って。」

「叱り方」に関してよくある質問

Q.叱り方のコツは?

叱り方のコツは下記4つです。

 

    • 叱るべき

    • 事実
    • 理由
    • 事実への主観を述べる
    • 解決策の提示

上記4つを意識することで、部下の心に届きやすくなります。

 

 

Q.何度言っても聞かない部下には?

「ミスをしている内容を叱る」のではなく、「繰り返しミスをすること」に対して叱ることがポイントです。
ミスを繰り返す部下の叱り方

 

 

Q.「なぜ?」は叱るときに使わない方が良い?

「なぜ?」を使うタイミングや頻度に気を付けて使いましょう。4つの叱り方のコツに合わせて「なぜミスが起こったのか?」「次はどう対応していくか?」を組み合わせることがおススメです。

 

 

まとめ

正しい部下の叱り方を身に付けるには、まず、自分が間違った叱り方をしていないかをチェックして直しましょう。

  • 大声や乱暴な言葉で叱る
  • 大勢の前で叱る
  • 他人と比較して叱る
  • 人格や価値観を叱る
  • 抽象的な内容で叱る
  • 否定ばかりして叱る
  • 決めつけて叱る
  • 個人の成功体験や考えを押し付けて叱る
  • 長時間にわたって叱る

 

叱ることを通して部下の成長を促すには、以下のコツを実践することが大切です。

・叱る際に「事実・理由・主観・解決策」という4大要素を意識する

・相手が受け止められる場所やタイミングを考える

・相手に期待していることを最初に伝える

・叱る理由や望ましい行動を明確に示す

・感情的にならない

 

叱り方のスキルを向上したいときには、以下の資料もダウンロードしてみてください。

 

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著者情報

宮本 靖之

株式会社ジェイック シニアマネージャー

宮本 靖之

大手生命保険会社にて、営業スタッフの採用・教育担当、営業拠点長職に従事。ジェイック入社後、研修講師として、新入社員から管理職層に至るまで幅広い階層の研修に登壇している。また、大学での就活生の就職対策講座も担当。

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