国が提唱した働き方改革ですが、気が付けば “残業を減らす”という形ですっかり定着した感があります。もちろん過重労働を減らし、適切な勤怠管理をすることはとても大切です。ただ、働き方改革は“残業を減らす”ことだけではありません。
3つの柱を中心にさまざまな制度が施工されている働き方改革について国が推進している動きや企業の推進事例を知ることで、適切な対応を取り、自社の業績や生産性UPにうまくつなげていきましょう。記事では、働き方改革における“3つの柱”の基礎知識と具体的な取り組み例を紹介します。
<目次>
- 働き方改革 3つの柱とは ?
- 働き方改革の3つの柱が生まれた背景
- 企業が働き方改革の3つの柱に取り組むメリット
- “3つの柱①長時間労働是正”に向けた企業の取組例
- “3つの柱②正規・非正規間の格差解消”に向けた企業の取組例
- “3つの柱③多様で柔軟な働き方の実現”に向けた企業の取組例
- 企業が働き方改革 3つの柱に取り組む際の注意点
- 表面的な改善ではなく、生産性向上のための抜本的な組織改革を行なうことが重要
働き方改革 3つの柱とは ?
- 長時間労働の是正
- 正規・非正規間の格差解消
- 多様で柔軟な働き方の実現
上記が働き方改革における3つの柱です。それぞれ詳しく解説していきます。
長時間労働の是正
働き方改革といえば、真っ先に取り上げられる長時間労働の是正。働きすぎ防止のため長時間労働を見直し、労働者の健康を守り、ワーク・ライフ・バランスの実現を目指すために以下のような指標が設けられました。
- 残業時間の上限設置
- 年次有給休暇の取得義務付け
- 労働時間の適切な管理の義務付け
正規・非正規間の格差解消
働き方改革における2つ目の柱として打ち出されているのが、正規・非正規間の格差解消です。日本は正規雇用の社員を厚遇する傾向があり、行なっている業務にほぼ差異がないにも関わらず正規雇用と非正規雇用の間で年収に100万円以上の差があるケースもみられます。
格差解消によって、雇用形態に関わらない公正な待遇の確保を目指します。例えば以下のような対応が求められています。
- 不合理な待遇差をなくすための規定の整備
- 労働者に対する待遇に関する説明義務の強化
多様で柔軟な働き方の実現
労働者が個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を実現できることも重要です。そのために、時間給で勤務時間を決めるのではなく成果によって収入を得る働き方として、「高度プロフェッショナル制度」「フレックスタイム制」「成果報酬」など、柔軟な制度が認められつつあります。
また育児や介護のそれぞれの事情にあわせた多様で柔軟な働き方の実現が、女性や高齢者等を中心に労働参加率の増加や個々人の生産性の向上、イノベーションの促進につながると考えられています。
長時間労働の是正と雇用形態による給与格差の解消をきちんと対応したうえで、多様で柔軟な働き方の実現によって、生産性の向上などを目指していきましょう。
働き方改革の3つの柱が生まれた背景
まず大前提として、メンタルヘルスの増加や長時間労働や過労による自殺などの問題も生じたなかで勤務環境の整備が必須となっていること、また、多様な働き方が増えたからこそ非正規雇用者の待遇改善(格差是正)が必要となっていることなどがあります。
そして、少子高齢化による生産年齢人口が減少に歯止めが訊かない中で、国全体の労働生産性の向上が大きな課題となったこともひとつの背景です。生産年齢人口が減少するなかで経済成長を停滞させないためには、労働生産性の向上とともに労働参加率の増加も大きなテーマです。
これらを背景として、多様な働き方をする労働者が生き生きと働ける環境をつくる、その中で生産性を向上させるために、働き方改革が実施されてきています。
企業が働き方改革の3つの柱に取り組むメリット
- 社員の生産性向上
- 社員の定着率向上
- 採用活動に有利
働き方改革は、さまざまな規制強化や管理の義務付けなど、企業にとっては一見メリットがないようにも思えます。しかし、働き方改革をうまく取り込んでいくことで企業にとってのメリットを創出することも可能です。
なお、大前提として、働き方や勤怠管理に関する社会的な価値観が変わっている中で、働き方改革を実施しないことは、以下で紹介するメリットの逆、デメリットが生じることになりますので、くれぐれも注意が必要です。
社員の生産性向上
働き方改革の3本の柱に取り組むことで、社員がより活き活きとモチベーション高く働ける環境ができます。労働時間が短縮されることで限られた時間で成果を上げる必要がでてきます。
社員の集中力が増したり、工夫してイノベーションが生まれたりする効果も期待できますし、だらだらと時間をかけていた業務などの無駄にも目がいくようになるでしょう。企業側として、勤怠管理や残業制限と合わせて、“ムリムダムラの排除”などを推進していくことが大切です。
社員の定着率向上
働き方改革の3本の柱に取り組むことは、社員がより働きやすい労働環境を作ることに直結します。働きやすい職場づくりは、社員の定着率向上につながります。とくに今の若手社員は特に自分のライフスタイルを実現したい、ワークライフバランスを気にする傾向は強くなっており、働きやすい職場に魅力を感じる傾向にあります。
採用活動に有利
働き方改革の3本の柱に取り組むことは、採用活動にも有利に働きます。最近の傾向として、ワークライフバランス、休日日数などの待遇面、また、ライフステージが変化するなかで働き続けられるかを気にする学生や若手は増えています。働き方改革に熱心な企業であるというイメージは、人材を確保するうえで大きなメリットになります。
“3つの柱①長時間労働是正”に向けた企業の取組例
- 多様で柔軟な働き方の実現
- 労働時間の可視化と残業抑制
- 業務標準化の推進
実際に働き方改革にはどう取り組んでいけばいいでしょうか。3つの柱の1つ目、長時間労働是正に向けた企業の取組例を紹介します。
研修による社内の意識改革の促進、スキル強化
長時間労働が当たり前であったり、残業することが良いことだとされたりする企業風土がある場合には、働き方改革のための制度が実用的に機能しない可能性があります。そのため、制度改善と共に、社内で研修などを実施して、意識改革と共に、生産性向上や業務効率化などに取り組むことが大切です。
労働時間を減らすなかで生産性を維持するためには、当然、時間生産性、個人やチームの生産性を高める必要があります。研修は意識変革だけでなく、無駄の洗い出しや生産性を高める施策、業務効率化などの実務に繋げていきましょう。
労働時間の可視化と残業抑制
残業の事前申請や実施状況の徹底管理によって、労働時間を可視化することも時間外労働の削減につながります。管理職が必要な業務を適正な時間で実施するようにきめ細かく指導、管理することで、無駄な残業を抑制できます。
業務標準化の推進
業務の属人性が高いと、特定の人に業務が集中し、長時間労働につながる原因になります。業務を標準化することで、メンバーの多能工化、また、一時雇用やアウトソーシング、自動化の促進などにつなげていきましょう。
“3つの柱②正規・非正規間の格差解消”に向けた企業の取組例
- 雇用形態に関わらない同一の賃金制度の導入
- 福利厚生や手当の格差見直し
- 業務標準化の推進
3つの柱の2つ目、正規・非正規間の格差解消に向けた企業の取組例を紹介します。
雇用形態に関わらない同一の賃金制度の導入
非正規雇用の待遇改善で求められていることは、正規・非正規労働者間の待遇格差をなくし、同一の労働に対して雇用形態に関わらない同一の賃金制度を導入すること、いわゆる同一労働同一賃金の考え方です。
大企業では2020年4月から適用され、中小企業でも猶予期間がありますが、いずれは適用されると考えられます。同一労働同一賃金制に罰則はありませんが放置すると訴訟等のリスク要因になり得ます。
同一労働同一賃金への動きを機会として、正規社員がより付加価値の高い仕事をするようにする、自動化・アウトースできるものを切り出すなど、正規雇用の生産性向上に取り組んでいくことが大切です。
福利厚生や手当の格差見直し
人事・労務制度を、正社員だけでなく、非正規雇用労働者も含めた全労働者でとらえなおし、福利厚生や手当の見直しを行なうことも待遇格差解消として重要です。ただし、雇用形態による差がある場合、非正規雇用の待遇を正規雇用の待遇へと引き上げることは費用負担等も生じます。
職務内容を考慮しつつ、福利厚生や手当などの待遇格差の有無を慎重に検討して、計画的に取り組む必要があります。
“3つの柱③多様で柔軟な働き方の実現”に向けた企業の取組例
- ダイバーシティの推進
- 復職制度の整備
- 時短勤務やフレックス制の導入・運用
3つの柱の3つ目、多様で柔軟な働き方の実現に向けた企業の取組例を紹介します。
ダイバーシティの推進
多様な価値観や背景をもつ人材を尊重し、活躍の場を提供するダイバーシティの推進は、多様で柔軟な働き方の実現につながります。ダイバーシティを推進することは、労働者にとって働きやすい職場づくりにつながります。
ダイバーシティの推進を単なる義務として捉えるのではなく、多様な価値観によるイノベーションや意思決定精度の向上、眠っていた優秀人材の採用などにつなげる意思が大切です。多様な価値観を受け入れて相乗効果につなげる考え方の研修、採用ターゲットの拡張等を通じて、自社にとってのプラスへとつなげましょう。
復職制度の整備
産休育休やリカレント教育等によって、離職した社員が復職できる制度を整備することで、社員一人ひとりが自身の状況に合わせた柔軟な働き方を選択できるようにするのが復職制度の整備です。
復職制度を整備するうえでは、自社の業務をよく理解した社員に長く定着してもらう、優秀な社員を引き留めたりアルムニ採用に繋げたりする視点が大切です。
時短勤務やフレックス制の導入・運用
時短勤務やフレックス制の導入も、社員が自身の状況に合わせた柔軟は働き方を選択できるようになる上で有効な取り組みです。介護や育児等の事情を抱えている社員が継続して働けるような環境をつくることで、優秀人材の引き留め、また、社外にいる優秀人材の確保へとつなげましょう。
企業が働き方改革 3つの柱に取り組む際の注意点
- 経費や人件費のコスト負担増加
- 残業代削減による社員のモチベーション低下
- サービス残業の増加
働き方改革の3つの柱に取り組む際、取り組み方を誤ると企業にデメリットやリスクがもたらされたり、単なる費用負担だけで終わってしまったりしますので、注意が必要です。
経費や人件費のコスト負担増加
働き方改革の3つの柱に取り組むうえでは、社内制度の見直しなどが必要です。また、生産性向上のためにITツールなどを導入するケースも多く、改革にともなう諸経費のコスト負担が大きくなる可能性があります。
正規・非正規労働者間での格差解消にあたっても、非正規労働者に支払っていた人件費が改革以前に比べ高騰し、人件費の負担が大きくなる可能性があります。
ここ自体は改革に対応するためにやむを得ない部分があります。ただし、前述の通り、これを単なる費用負担の増加で終わらせるのではなく、改革のための投資として従来にはない業務の効率化や生産性向上につなげることが大切です。
残業代削減による社員のモチベーション低下
長時間労働を是正する中で社員に支払っていた残業代が削減されます。これまで残業代による所得を得ていた社員は給料が減少するため、モチベーションが下がる可能性があります。
生産性向上によって、残業を圧縮して同じ成果が出たときにきちんと報いれる仕組みを検討するなどの移行措置を検討することも大切です。
サービス残業の増加
残業時間に上限ができても、対応できずに業務量が減らなければ、残業時間として計上されないサービス残業が横行する可能性があります。サービス残業は当然違法なものであり、発覚した場合には行政罰や費用発生に加えて、風評被害やブランド棄損も発生します。
そのため、きちんとした勤怠管理に加えて、生産性向上のための抜本的な業務プロセス改善が必要です。サービス残業に目をつぶってしまうことは、上述の通り、リスクを抱えることになりますので、くれぐれも注意が必要です。
表面的な改善ではなく、生産性向上のための抜本的な組織改革を行なうことが重要
長時間労働の是正というイメージだけで捉えられがちな働き方改革ですが、以下3つの柱が打ち出されています。
- 長時間労働の是正
- 正規・非正規間の格差解消
- 多様で柔軟な働き方の実現
企業が働き方改革の3つの柱に取り組むことは、経費や人件費のコスト増加などにつながる側面があります。しかし、働き方に関する社会の価値観が変わった中で、働き方改革3つの柱にきちんと取り組むことが必須です。
だからこそ、単なる費用負担の増加に終わらせるのではなく、これを機会として、社員の生産性向上や定着率向上、採用活動でのメリットなどにつなげていきましょう。国を挙げて推進している流れや各種補助金などもうまく活用して、社内制度や業務プロセスの見直し、業務効率化など、生産性向上のための改革を行なっていきましょう。