【上司・人事向け】部下の目標設定と評価面談へのプロセスや注意点を解説

【上司・人事向け】部下の目標設定と評価面談 プロセスや注意点を解説

部下のモチベーションを把握し、高めていくためには、目標設定と評価面談が大切です。ただし、目標設定を部下に任せっきりにしたり、上司が成果を主観的に評価したりするようでは目標設定や面談の意味がなく、部下の成長にもつながりません。

 

部下にどのように目標設定をさせて、またどうすれば結果を正しく評価できるのでしょうか。

 

本記事では、人事評価を行なう立場にある管理職や人事担当者に向けて、部下の目標設定と評価面談へのプロセスや注意点を解説します。

<目次>

組織における目標設定の手順(MBOの流れ)

MBOのブロック

 

組織における目標設定として、最もよく導入されているのが、MBOの考え方です。始めにMBOの概略および、MBOを実施する際の流れを解説します。

 

①組織や部門目標(事業計画、上位目標)を設定する

MBO(Management By Objectives)とは、個人の目標を組織の目標とリンクさせ、目標の達成度などによって人事評価を定める目標管理制度です。MBOでは、四半期や半期、通期など、定めた期間ごとに目標設定と達成状況の評価を行ないます。

 

MBOを導入して目標設定する際は、組織の理念・ビジョン→組織の目標・計画→部門の目標・計画→個人の目標・計画という流れで連動させることで、組織と個人のベクトルを合わせていきます。MBOを機能させるためには、各個人の目標を設定する前に、組織目標や部門目標が適切に設定されていなければなりません。

 

上位目標が設定されていないまま各個人が自由に前年対比などで目標設定しても、組織の目標と整合性が付きません。だからこそ、MBOなどを導入して、組織と個人の目標のベクトルを合わせ、個人の目標達成が組織の目標達成につながるようにするのです。

 

また、個人毎の目標設定を通じて達成へのモチベーションも維持したり、各個人の組織への貢献度を適切に評価したりするといったこともできるようになります。

 

②SMARTの法則にしたがってチームや個人の目標を設定する

目標設定は、SMARTの法則に則っていることが大原則です。SMARTとは、質の高い目標を設定するためのフレームワークです。

 

以下の5つの頭文字をとったもので、SMARTの原則に従って目標設定することで、第三者から見ても具体的かつ理解しやすく、達成すべきことも明確な目標を設定できます。

Specific:具体的(何を達成するか具体的な表現でわかりやすい)
Measurable:計測可能(誰が見ても○×が明確につけられる、進捗を定量的に把握できる)
Achievable:達成可能(現実的に達成できる、チャレンジできる範囲である)
Related:関連性(実現したい目的や上位目標とつながっている)
Time-bound:期限付き(いつまでに達成するのか、納期が明確になっている)

 

③目標達成に必要な施策を落とし込む

目標が設定できたら、達成するための施策を立案し、具体的な行動計画に落とし込んでいきます。

 

SMARTの「A(達成可能)」を実現するためには、目標設定と実行施策の立案を並行して動かすことも大事です。達成するための具体的な施策が思い浮かばない目標は達成可能とは言い難いことが多いでしょう。

 

目標設定と並行して、具体的な方針や施策、行動を洗い出し、達成のための実施計画を立てることで、計画の目標が現実的に達成可能かを、客観的な目で評価しやすくなるでしょう。

 

実行施策のアイデア出しには、マンダラチャートの活用もおススメです。

 

マンダラチャート

 

マンダラチャートとは、マス目状のフレームの中心に目標を記載し、目標から連想される取り組みテーマや具体的な行動、アイデアを周囲のマス目に書き込んでいく手法です。マスを用意することで、一定量のアイデアをリストアップすることができ、数多くの施策や今まで気付いていなかったアイデアの創出も行なえます。

 

また、行動計画の立案と進捗管理には、目標達成に向けた進捗を定量的に評価し、改善できる「KPIツリー」というフレームワークが有効です。KPIツリーでは、以下の流れで最終目標(個人のKGI)を、中間指標となる(KPI)や行動指標(KAI)に分解し、進捗や達成を定量的に測定していきます。

 

 

 

④評価者と被評価者(上司と部下)による目標設定面談を実施する

目標設定面談では、上司と部下間で目標設定や実行施策をすり合わせます。設定段階から部下をしっかりと巻き込んで、目標への納得感や決定への参画感を醸成することが、行動計画の実行や目標達成には不可欠です。部下の意見をうまく引き出したり、提案を反映したりしながら、詳細を詰めていきましょう。

 

ときには、上司から「達成するための方法」を示して達成可能であることを示したり、目標達成によって部下が得られる能力やキャリア機会などに触れて目標に意味づけしたりしていくことも大事です。

 

目標や行動計画の修正

面談でのフィードバックや調整を踏まえ、上司と部下間で目標設定に合意します。目標や行動計画の設定が甘いと、目標管理の精度も落ちてしまいます。SMARTに即した目標や合理的な実行施策が設定されているかどうか、組織のベクトルともズレがないかを、上司の目でも丁寧に確認しましょう。

 

質の高い目標が設定できたからといっても、「目標設定後は部下に任せきり」は良くありません。実行してみると、なかなか計画どおりにはいかないこともあるものです。

 

定例会議で進捗確認をしたり、部下との面談を行なったりして、必要であれば修正も行ないましょう。修正の際も目標設定と同様に、本人を主体に再設定を行ない、納得感や参画感を醸成していくのが大切です。

評価面談へのプロセス

面談風景

 

MBOにおける面談には、大きく「目標設定面談」「進捗面談」「評価面談」という3つのプロセスがあります。最後の評価面談をスムーズに行なうためには、手前の2つを適切に実施することが大切です。個々のポイントを見ていきましょう。

 

目標設定面談のポイント

繰り返しになりますが、目標設定面談において重視すべきは本人の納得感です。本人が設定した目標に納得していなければ、評価面談はうまくいきようがありません。トップダウン式の目標や上司から一方的に与えられた目標では、納得感は生まれづらいものです。

 

面談では、

  1. 組織としての合理性(組織にとって目標の必要性や重要性、前年対比等での妥当性等)
  2. 個人にとっての意味付け(身に付くスキルやキャリアパスにおける位置付け、達成した際に得られる評価等)

の両面から、しっかりと話し合いましょう。

 

納得感を生むうえでは、意味付けに加えて、目標の実現可能性も重要です。ただし、難易度が低すぎると、本人の成長につながらないほか、組織の目標達成も遠ざかってしまうでしょう。

 

努力すれば達成できる範囲のチャレンジングな目標に納得して取り組んでもらうためには、実行施策も含めてすり合わせておき、実現可能性と道筋を明確にしておくことが大事です。

 

進捗面談

目標設定後に、達成へのプロセスをフォローするための面談です。個別の面談でも、定例会議のなかで個々の進捗を確認していくやり方でもかまいません。

 

達成率を高め、部下に評価に納得感を持ってもらうためには、評価者である上司が普段から行動計画の進捗状況を把握し、適宜フォローしていくことが大事です。結果だけを見てネガティブな評価を下されても、部下は到底納得できないでしょう。

 

「達成に向けて上司がきちんとサポートしてくれた」という実感が持てれば、部下のほうでも下された評価を受け入れやすくなります。上司としても、進捗状況を把握していれば、ネガティブな評価を伝える際にも、未達に終わった原因や今後に向けた改善点を具体的に指摘できます。

 

評価面談

評価面談は、目標の設定期間が終わったあとに、結果を踏まえて、人事評価をすり合わせるための面談です。人事評価が決まったあとに実施するケースと人事評価が決まる前に実施するケースの2通りがありますが、ポイントは共通しています。実施する際のポイントを、次章以降で解説します。

評価面談の実施方法

評価面談は、次の4つのステップに沿って進めていきましょう。

 

被評価者の自己評価をヒアリング

まずは、設定した目標に対する客観的な結果、達成度を確認します。そのうえで、被評価者の成果や自己評価をヒアリングしましょう。先に評価を伝えるのではなく、まずは部下の考えを聞くことが大切です。

 

自己評価に対するフィードバック

評価者は、客観的な事実や実績に基づいて、被評価者への評価をフィードバックします。フィードバックするポイントがいくつもある場合は、最初にポジティブなフィードバックを伝えるのがコツです。ポジティブなフィードバックを聞いたあとであれば、ネガティブなフィードバックも受け入れてもらいやすくなります。

 

評価結果だけでなく、評価の根拠や理由をきちんとフィードバックすることが必要です。ネガティブな評価におけるフィードバックは特に重要です。低評価の理由についてお茶を濁してしまうと、部下は納得感を持てませんし、改善の方向性も見えてきません。

 

評価のすり合わせ

被評価者と評価者の評価にギャップがある場合は、すり合わせを行ないます。大事なのは、被評価者に納得してもらうことです。双方向で話し合い、評価が適正であるとお互いが納得できる状態を目指しましょう。

 

評価が完全に一致することは難しくても、少なくとも上司から「何故このような評価か?」という理由を相手にしっかりと伝えることを怠ってはいけません。伝える際に、客観的な事実や定量的な数値などを示して伝えると、説得力が増します。

 

課題の共有や解決策の提示

最後に、被評価者の抱える課題や解決策などをフィードバックし、次回の目標設定と目標達成に備えていきます。目標を達成できた場合には、「再現するためにはどうしたらいいか」「さらに高い成果を上げるために、どう成長していけばいいのか」を話し合います。

 

未達に終わった場合には、「なぜ達成できなかったのか」を振り返り、次回の達成につながる前向きなアドバイスを送りましょう。個々の成長に向けたステップをきちんとフォローすることが、部下との信頼関係の構築や今後のモチベーションの維持につながります。

評価面談を実施するときの注意点

評価面談を実施する際には、以下の3点に注意することが大切です。

 

評価者と被評価者は事前準備を徹底する

限られた時間を有効活用するには、事前準備が不可欠です。被評価者には実績と自己評価や根拠の準備を依頼。また、評価者も評価結果や理由、伝えるべきフィードバック内容を整理しておきましょう。

 

ネガティブな評価やフィードバックを伝える際には、特に準備が肝心です。仕事の結果は、必ずしも本人の努力だけによるものとは限りません。組織や部署の戦略や方針の変更、チーム部下の協力体制などが、個人の目標達成に影響するといったことも起こり得ます。

 

結果を適切に評価するためには、普段から部下の仕事ぶりを周囲の環境も含めて、しっかりチェックしておかなければなりません。また、結果に対する評価の根拠やプロセスに対して高く評価できる点、改善点などをきちんとフィードバックできるように準備しておく必要があります。

 

評価者は傾聴のスキルを十分に高めておく

評価面談は、評価者が一方的に話す場ではありません。また、部下のなかには、目上の上司に遠慮して、言いたいことを我慢してしまうタイプの人もいます。評価者には、被評価者から本音を引き出すスキルが求められます。

 

被評価者の正直な言葉や感情をきちんと引き出しておかなければ、自己評価と評価とのギャップに気付けません。本音を引き出すには、スキルだけでなく、普段から信頼関係を構築しておくことも大事です。

 

面談の環境にも配慮する

評価面談は、被評価者への評価や今後の目標を話す場です。ワークライフバランスの希望など、ときには個人のプライベートに踏み込んだ会話になる場合もあることでしょう。

 

評価面談には、目的にふさわしい環境というものがあります。執務スペースから離れた場所にある静かな会議室など、周囲の目を気にせずに話し合える環境を用意するのが基本です。

まとめ

MBOなどの目標管理制度を導入することで、組織と個人の目標をリンクさせ、また、適切な人事評価も実施しやすくなります。目標設定と評価面談は、MBOの運用において欠かせないものです。

 

目標設定のおもなポイントは以下のとおりです。

 

  • ・個人の目標設定の前に、組織や部門目標の目標を設定する
  • ・目標設定は、SMARTの法則に即して設定する
  • ・目標設定と並行して達成に向けた具体的な施策や行動を検討する
  • ・目標の設定や達成を上司がしっかりと支援する

評価面談では、以下のような点がポイントになります。
 

  • ・評価者は傾聴の姿勢を持ち、被評価者の自己評価も確認する
  • ・お互いが納得できるように、すり合わせを行なう
  • ・次回に向けた課題の共有や改善策の提示まで行なう

目標設定と評価面談のプロセスを丁寧に行なうことで、個人と組織の目標達成力は高まっていきます。本記事の内容を参考に実践していってください。

著者情報

近藤 浩充

株式会社ジェイック|取締役 兼 常務執行役員

近藤 浩充

大学卒業後、情報システム系の会社を経て入社。
IT戦略事業、全社経営戦略、教育事業、採用・就職支援事業の責任者を経て現職。企業の採用・育成課題を知る立場から、当社の企業向け教育研修を監修するほか、一般企業、金融機関、経営者クラブなどで、若手から管理職層までの社員育成の手法やキャリア形成等についての講演を行っている。
昨今では管理職のリーダーシップやコミュニケーションスキルをテーマに、雑誌『プレジデント』(2023年)、J-CASTニュース(2024年)、ほか人事メディアからの取材も多数実績あり。

著書、登壇セミナー

・社長の右腕 ~上場企業 現役ナンバー2の告白~
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