「指示待ち人間」になる理由とは?背景と「自ら考え動く人材」に変える対策を紹介

「指示待ち人間」になる理由とは?背景と「自ら考え動く人材」に変える対策を紹介

「指示待ち人間」とは、上からの指示があるまで動かない人のことです。「“指示待ち人間”の部下にどう接すればいいのか?」と頭を抱える上司も多いものです。

 

昔から「指示待ち世代」や「指示待ち族」という言葉もあり、指示が無ければ動かないという人は一定数いました。

 

近年では、深刻化する人手不足や採用難の影響もあり、指示がなければ動かない人をいかに「自分で考え行動する人材」に変えていくのかに課題を抱える企業も増えてきています。

 

今回は、指示待ち人間が問題となる背景や組織に及ぼす悪影響、さらに、対処法までをご紹介します。

<目次>

指示待ち人間とは?

「指示待ち人間」とは、上からの指示があるまで動かない人のことです。

 

「指示待ち人間=やる気が無い」と思われがちな側面があり、「指示待ちではダメだ!」と指導する上司も多いでしょう。

 

ただし、指示待ち人間は、必ずしもやる気が無いというわけではありません。

 

中にはやる気が空回りしてしまっているタイプの人や、動きたくても不安や自信の無さから動けないというタイプの人など、様々なタイプが存在します。

 

どのタイプなのかを把握することなく、一律に厳しく指導して動かそうとするのは効果性も低いですし、トラブルのもとです。

 

場合によっては、過剰なストレスを与えてしまい、離職につながってしまうということになりかねません。

 

指示待ちの状態を改善するためには、それぞれのタイプに合ったサポートが必要になってきます。

指示待ち人間が問題となる背景と組織への悪影響

本章では、指示待ち人間が問題となっている背景、指示待ち人間は組織にどのような影響を与えるのかを確認しておきます。

自動化やAIの登場の影響

昔であれば手作業で時間のかかっていた事務作業も今や自動化され、短時間で処理できるようになりました。

 

たとえば、昭和の時代に電卓を片手に行われていた集計作業も、平成に入ってからは表計算ソフトがやるようになり、作業はぐんと効率化されているでしょう。

 

令和の時代になってからは、生成AIが登場・急速に普及し、会議で使うスライドなどのビジネス資料もあっという間に作れるようになってきています。

 

こうなってくると、人間は「言われた作業を指示通りにこなす」というだけでは、仕事のスピードや正確さといった点で機械やAIには勝てなくなっていきます。

 

このような変化の中で、ビジネスパーソンに求められる作業は、感情労働と高度な知識労働に二極化していっています。

 

指示されたことしかできないような人材は、AIに淘汰されてしまうリスクがあります。

忙しくて指示を出していられない上司

多くの仕事が機械化されるようになったことだけでなく、時代による組織変化もまた、指示待ち人間を生み出す背景の一つです。

 

昔であれば、上司は経営陣の意思決定を現場に伝えて、現場を動かすことが重要な役割でした。

 

しかし、IT化やグローバル化が進んでビジネスにスピード感が求められるようになってくると、中間管理職を極力排除して経営陣と現場を直接結びつける企業も増えてきました。いわゆるフラット化です。

 

組織がフラット化していくと、複数の部門にまたがり連携することも多くなり、上司が処理しなければならない業務の量もそれだけ多くなってしまいます。

 

そのような中で業務内容も高度化していくと、上司側も自分の仕事で手一杯の状態になってしまいます。

 

結果的に、上司も部下に対して丁寧に指示を出している余裕がなく、雑な指示しか出せない、もしくは、指示できずに部下を放置してしまうということになりかねません。

 

そうなってくると、部下の側も思うように動くことが難しくなっていき、指示待ち人間になりやすくなってしまいます。

 

また、組織がフラット化して、ビジネススピードが速くなっているということは、現場で意思決定が求められるということでもあります。

 

組織の決まりごとを粛々と実行するのではなく、現場で自ら考え自ら動くことが求められているという側面もあります。

 

つまり、環境としては、より自走できる人間が求められているのに、実際には指示待ち人間が生まれやすくなっているという状況にあるわけです。

指示待ち人間が組織に与えるデメリット

指示待ち人間の中には、指示さえもらえれば動けるという人材もいます。この人たちは、上司が的確に指示を出すことさえできれば、成果を出すことができます。

 

しかしながら、先ほどもご紹介した通り、現代の上司にはそのような余裕が無いことも多いでしょう。

 

また、指示を出せない上司に代わって周囲の人がサポートに入るようなことになってしまえば、チームの生産性が下がってしまうということになりかねません。

 

また、指示待ち人間がチームの足を引っ張ってしまうことは、周囲がイラ立つ原因にもなってしまいます。職場の雰囲気は悪くなりますし、生産性は落ちていくでしょう。

 

AIが本格的に普及してくると、職場に指示待ち人間が生じることは、企業にとって競争力低下の大きなリスクの一つになりえます。

指示待ち人間の特徴や心理

指示待ち人間には、いくつかの共通した特徴や心理があります。指示待ち人間への接し方を考えるためにも、特徴や心理を知っておきましょう。

コミュニケーション能力が低い

周囲と連携し、チームとして成果を出していくために必要なのが、コミュニケーション能力です。

 

指示待ち人間になってしまう人の中には、コミュニケーション能力に問題を抱えている人が多くいます。

 

とくに多い課題が、周囲に対して無関心であり、相手の立場に立って考えることができていない点です。

 

周囲の人がやっていることや考えていることに注意を払わないため、状況把握や相手の心情を理解することが困難になります。

 

そのため、自分はどう対応すればいいのかという的確な判断ができないようになってしまいます。

 

また、相手の立場に立って考えるという能力にも問題があり、無意識的に自分の考えを周囲に押しつけてしまうような側面があります。

 

そのため、上司からの具体的な指示がない状態で動いてしまうと、勝手な判断で上司が「やって欲しい」と思っていることとは違った行動をしてしまうこともよくあります。

 

上司の期待とずれたことを繰り返して何度も注意を受けるうちに、注意されるのが嫌になってきてしまい、余計に指示待ちになっていってしまうのです。

 

仕事に取り掛かる前に上司に質問して認識のずれを無くすようにしておけば問題ないのですが、それがちゃんとできないという人も多くいます。

仕事の理解不足、能力不足

業務に対する知識不足により自分のやるべきことが判断できず、指示待ちになってしまうという人もいます。仕事で分からないことがあれば、上司や周囲の人に質問して教えてもらえば問題ありません。

 

しかしながら、指示待ち人間になってしまう人は、自分から積極的に聞きにいくということが苦手、できていない人が多いものです。

 

質問しないことによって仕事への理解が不足し、必要な判断を自分ではできなくなっていきます。

 

また、十分な経験を積めておらず、能力不足といったケースもあります。そういった仕事の理解不足や能力不足も、動けない原因の一つになっています。

やる気や主体性の無さ

指示待ち人間の中には、指示されれば真面目に仕事をする人がいる一方で、そもそもやる気が無いというタイプの人もいます。そういった人は、他者依存的で最低限のことしかやりたがりません。

 

背景には、業務の意味や目的・全体像をちゃんと理解できていない、仕事に動機付けされていない、過去に何度も失敗してきて学習性無力感の状態に陥ってしまっているといったことがあるでしょう。

失敗への恐怖

失敗への恐怖心から積極的に動けなくなってしまい、結果として指示待ち人間になってしまうというタイプの人もいます。

 

そういった人たちの多くは、過去に自分から進んでチャレンジしたことが少なく、自力で成功をつかみ取ったという体験が不足しています。

 

そのため、自分に自信が持てず、新しいことにチャレンジすることに漠然とした不安を抱きがちです。

 

また、決断を他人任せにしてきたため、自身は決断力が無いというパターンもあります。

 

「失敗してそこから立ち直った」という経験もほとんどないため、メンタル的にも弱くなってしまう傾向があります。

 

こういった自信や決断力の無さ、メンタルの弱さが背景にあり、失敗を過度に怖がって指示待ちになってしまうのです。とくに今の若手世代に多い傾向があります。

指示待ち人間を生んでしまう環境、上司、組織

指示待ち人間になってしまうのは、本人だけの問題だけでなく、本人を取り巻く環境や上司、組織にも問題がある場合があります。具体的にどのようなものかを見ていきましょう。

指示待ち人間を生みやすい教育と成長環境

まずは指示待ち人間を生みやすい教育と成長環境についてです。指示待ち人間になってしまう人は、子供の頃から自分で選択してチャレンジする機会が少なかったケースが多く見られます。

 

子供に失敗させたくないという親のもとで育ち、何度も失敗を繰り返しながらも成功体験をつかみ取るという経験があまりなかったため、積極性が身につかなかったということがあります。

 

また、「他人に迷惑をかけてはだめ」と過度に言われて育つと、積極的な行動を控える傾向となることもあります。なぜなら、他人に迷惑をかけない最善の方法は、「何もしないこと」だからです。

 

さらに、自発的に行動しても「勝手なことをしてはだめ」「こんなことをして!」と何度も注意を受けていると、「(上の存在から)何か指示があるまで行動してはいけないんだ」と思い込むようにもなってきます。

 

このように積極的に行動することに対して制約の多い環境で育ってしまうと、指示待ち人間になりやすくなります。

部下を指示待ち人間にしてしまう上司

指示待ち人間が生まれる理由として、上司の側に問題があるケースもあります。

 

上司の部下に対する接し方に問題があり、心理的安全性が低下してしまっているような場合です。

 

問題ある接し方としては、

  • 完璧主義であり、自身だけでなく部下に対しても完璧さを要求する
  • 高圧的で部下が委縮してしまう
  • 自分の意見を部下に押しつけてしまう
  • ダメ出しをし過ぎてしまう

といったことが挙げられます。

 

この他にも、仕事を任せられない上司も、部下を指示待ち人間にしてしまいます。

 

「部下に任せるより、自分でやった方が早いから」と部下に任せずにいると、部下の側は自分の方から言っても仕事を任せてもらえないと感じるようになり、指示があるまで動かないようになっていきます。

 

また、失敗を過剰に叱るような風土も、指示待ち人間を生み出します。

 

人に迷惑をかけないようにするのと同じように、叱られないようにすることもまた、何もしないということが最善の策になってしまうからです。

 

いずれも上司の行動や失敗を注意することには一定の正当な理由もあります。ただ、「やり過ぎる」と部下を指示待ち人間にしてしまうのです。

組織が抱える問題

指示待ち人間が多くなってしまっている組織もあります。

 

そのような組織が持っている問題点としては、

  • 人事評価の基準が曖昧
  • 企業理念が浸透していない
  • チャレンジに対して消極的
  • 心理的安全性が低い

といった傾向が挙げられます。

 

まず人事評価の基準は明確なものにし、何をどのように努力すれば評価されるのかが分かりやすいものである必要があります。

 

そうしなければ、部下の側はどう行動すれば評価されるのかが分からず、積極的に動くのが難しくなるでしょう。

 

また、企業理念や事業計画が浸透していなければ、どういった行動・判断をすることが正しいかを部下は判断できず、結果的に上司の指示を仰ぐまでは行動しない、判断しないといった状態になっていきます。

 

さらに、組織全体がチャレンジすることに対して消極的であれば、組織全体が指示待ちの状態になり、トップの掛け声が無ければ誰も動かないという状態にもなりかねません。

 

組織の心理的安全性については、上司の叱責と同じで、失敗することに対して不寛容な組織になってしまうと、失敗時の責任追及を恐れて、積極的に動く人はいなくなってしまいます。

指示待ち人間への対処法

指示待ち人間に対処するためには、指示待ちになっている原因を把握し、それに合ったサポートをすることが重要です。

 

また、指示待ちの状態になっている本人にアプローチするだけでなく、上司や組織の側にも問題がないかチェックしたほうが良いでしょう。

指示待ちのタイプと原因を把握する

これまで紹介してきたように、指示待ち人間といっても、タイプや原因は様々です。本人に問題があるように見えても、実は上司や組織の側に問題があるということもあり得ます。

 

どこに問題があるのか、どんなタイプなのかということをしっかりと見極め、原因に応じて適切に対処していくことが重要です。

本人への研修

本人に問題があるような場合は、自覚を促す、コミュニケーション能力を身につけさせるような研修も有効です。

 

相手が何を求めているのかを把握できるようになれば、どう行動すればいいのかも明確になります。

 

また、業務の目的を理解し、周囲とうまくWin-Winの関係を構築できるようにすることで、自発性や協調性も養われます。そうすることで、臨機応変に動く力が身についていきます。

上司の意識を変える

昔であれば、上司の役目は、部下に仕事を割り当て、ちゃんと指示した通りに進んでいるかどうかをチェックすることでした。いわば、管理することがメインの「コントローラー」です。

 

しかし、今の時代にはデジタル化も進み、勤怠管理から仕事の進捗管理まで、全てパソコンの画面上でできるようになってきています。

 

これからの時代、上司に求められるのは、必要なアドバイスを与えて部下を導く「メンター」や、部下の力を引き出す「コーチ」になることです。

 

上司自身が一方的に指示を与えるだけだったり、簡単な仕事しか任せられなかったりといった状態では、部下の側は指示待ち人間から脱却するのが難しくなります。

 

部下を変えていくためには、上司自身の意識改革も重要になってきます。

業務配置の変更

本人への研修や上司の意識改革を行っても、上手くいかないケースというのもあります。

 

そのような場合に原因として考えられるのが、本人と業務内容とのミスマッチです。やはり人によって能力の得意・不得意、また、価値観と業務内容が合う・合わないということは存在します。

 

これまで紹介してきた内容を踏まえても改善しない場合には、業務配置を変更することも選択肢の一つです。

人事制度や職場環境の改善

組織全体としても、人事制度や職場環境の改善を通して、指示待ち人間に対処していくことが重要です。

 

評価基準を明確にすることで、どのような行動が評価につながるのかをわかりやすくし、行動を促せるようにします。

 

また、それに加え、貢献や成果を正当に評価する成果主義を導入することも大切です。

 

正当な評価が無ければ努力するだけ無駄だという気持ちになってしまい、言われたことしかやらない状態になっていってしまいます。

 

職場の心理的安全性を高め、自発的に動きやすい環境を構築することも重要になってきます。上司に質問しやすい環境や、積極的なチャレンジを後押しする環境を整えることが重要になってくるでしょう。

指示待ち人間にさせないためのトレーニング

指示待ち人間を「自ら考え動ける」人材に変えていくことは、深刻な人手不足や、本格化するAI時代に対処するためには重要なことです。

 

HRドクターを運営する研修会社ジェイックでは、自ら考え動く人材になるのをサポートするものとして、以下でご紹介するような研修サービスを提供しております。

本人向けトレーニング

本人向けのトレーニングとして紹介するのが、「7つの習慣®」研修です。「7つの習慣®」研修では、主体性の概念を学び、また、周囲と良好な信頼関係を築けるようにしていきます。

 

「7つの習慣®」研修では、「自分の人生をどう生きるか?」という個人にとって最大の関心事から入ることで、「人生の中にある仕事で責任をどう果たすか?それによって人生をどうしたいか?」という視点で個人の主体性や仕事へのエンゲージメントを引き出していきます。

管理職向けトレーニング

思うように部下を動かせていないと感じる管理職にお勧めなのがデール・カーネギー「人を動かす」研修です。

 

デール・カーネギーの著書である『人を動かす』は、国内でも1,000万部を突破するベストセラーで、多くの経営者やリーダーに読み継がれています。

 

本研修では、デール・カーネギー・アソシエーションと正式にパートナー契約を結んで提供するもので、デール・カーネギー式のトレーニングで人間関係の原則を学ぶことで部下との関係がうまくいくようになり、メンバー自らが考えて動くようになります。

著者情報

宮本 靖之

株式会社ジェイック シニアマネージャー

宮本 靖之

大手生命保険会社にて、営業スタッフの採用・教育担当、営業拠点長職に従事。ジェイック入社後、研修講師として、新入社員から管理職層に至るまで幅広い階層の研修に登壇している。また、大学での就活生の就職対策講座も担当。

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