近年、企業経営で「パーパス経営」という言葉をよく耳にするようになりました。パーパス経営とは、「パーパス」を軸にして事業活動を行うことです。パーパスとは、企業の存在意義や社会において果たす役割を指すもので、ミッションとほぼ同じ概念です。
パーパス経営は、社会的価値と経済的価値の創出を同時に目指す経営モデルで、導入する企業も増えています。本記事では、パーパス経営をテーマに、特徴やメリット、また課題や成功させるためのポイントをお伝えします。
<目次>
- パーパス経営とは?
- パーパス経営が注目され始めた理由
- パーパス経営の特徴
- パーパス経営の5つのメリット
- パーパス経営を導入する上での課題・デメリット
- パーパス経営に取り組む際のポイント
- パーパス経営の企業事例
- まとめ
パーパス経営とは?
記事では最初に、パーパス経営とは何かを解説します。
パーパスは、英語で「目的」や「意図」を意味する単語です。パーパス経営という場合、企業が自社の存在意義や社会的使命を明確にし、それに基づいて経営戦略や組織文化を構築する事を指します。
パーパス経営において、企業は、単なる利益や売上の追求ではなく、より高いレベルの目標や価値観を掲げ、自分たちが何のために存在し、何を提供したいのかを明確に示すことが求められます。
なお、企業経営では、パーパスと関連して「ミッション」「ビジョン」「バリュー」と言った言葉もよく用いられますので、違いを確認しておきましょう。
パーパスとミッション・ビジョン・バリュー(MVV)の違い
パーパスと似た言葉として、「ミッション」や「ビジョン」があります。
パーパスとは、企業が何のために存在しているのか、社会に何を提供できるのかという存在意義に対する答えであり、Whyにあたるものです。
「ミッション」も、パーパスと同じように「自社が何のために存在するのか?」「企業として何を成し遂げるのか?」という使命、存在意義、目的を示すものとして使われるものであり、基本的には同じ概念と考えて良いでしょう。
ただし、パーパスやビジョンを最上位の存在目的として扱い、ミッションを「ミッションやビジョンを実現させるための中期方針(任務と意味合いのミッション)」と捉える考え方もあり、その場合、ミッションはwhyではなく、「10年程度の時間軸で何をするのか」というWhatにあたる位置づけとなります。
また、「ビジョン」は、パーパスやミッション実現を目指す中で、進むべき方向性とゴールを示すものです。パーパスやミッションは抽象的に表現されることが多いのに対し、ビジョンは「具体的に目に浮かぶように」表現されます。ビジョンを「どのような未来を実現するのか」「どこを目指すべきなのか」というWhereに当たるという捉え方もできます。
「バリュー」は、パーパス・ミッション・ビジョンを「どのように実現するのか」という具体的な行動指針や行動基準です。私たちは何を大切にする組織であるのか、守るべき規範は何かを示した、内部へのメッセージとなります。
バリューは、“企業として重視する価値観”や“企業として大切にする行動基準”としてメンバーが共通して持つべき規範を示していますので、パーパスやミッション・ビジョンとは少し性格が違うものになります。
パーパスとこれらの言葉との違いは、HRドクターの以下記事でも詳しく解説していますので、深く知りたい方は参考にしてみてください。
パーパス経営が注目され始めた理由
本章では、なぜ今の時代において、パーパスがとりわけ重要になるかを解説していきます。
SDGsとサステナビリティ経営への注目
近年、地球環境問題や人権問題への意識の高まりから、ひたすら利潤の追求ばかりをするような企業に対しては消費者や投資家から、厳しい目が向けられるようになってきています。
社会において企業が大きな存在感を持つようになった中で、企業の社会的責任(CSR)が求められるようになり、社会貢献を意識した活動に取り組む企業が増えました。
とりわけ事業規模が大きく社会的な影響も大きい企業は、「ノブレス・オブリージュ」と呼ばれる、地位が高ければそれに相応しい徳の高さも必要であるとの考え方も求められるようになってきています。
また、国連が定めた「持続可能な開発目標」であるSDGsへの対応も、避けて通るわけにはいきません。2015年に国連サミットでSDGsが採択されたことにより、持続可能な社会に向けて企業の役割はより大きなものとなりました。
企業としての責任を果たすためにも、何のために事業を行うのかを明確にすることが重要になってきています。
ミレニアル世代・Z世代の台頭
いまの若者層は、生まれたころから地球環境問題や人権問題が身近であり、学校教育でもこれらの問題が取り上げられ、環境や人権問題に対する意識も昭和世代に比べて高くなっています。また、エシカル消費を好む傾向にもあると言われています。
ミレニアル世代は、1980年代〜1990年代半ばに生まれ、2000年以降に成人を迎えた世代のことをいいます。Z世代は、1996年以降に生まれた世代です。どちらも、これからの企業活動、消費活動の中心となる世代です。
そんなミレニアル世代やZ世代は、消費や企業選びにおいて環境や人権への配慮を重視する傾向があるとされています。自社のサービスを選んでもらうのみならず、働く職場として選んでもらうためにも、これらの世代から共感を得ることはとても重要です。
このようなミレニアル世代、Z世代に対して、企業としての姿勢を明確に示すためにも、パーパス経営を実践することが有効になっています。
VUCA時代の到来
現代は、VUCA時代とも呼ばれる変化の激しい時代です。企業を取り巻くビジネス環境の変化も激しく、未来予測が困難な状況といえます。
企業は、その中で成長を続けていかなくてはなりません。その時に企業経営の軸となるのがパーパスです。「何のために自分たちは存在しているのか?」という存在意義を明確にすることで、社員のベクトルを合わせることが出来るようになります。
また、パーパスを明確にすることで消費者に対しても企業の姿勢を示すことができ、製品・サービスを選んでもらうことにもつながるでしょう。特に、先に紹介したミレニアル世代やZ世代からは企業の姿勢、企業の価値観を明確にした方が、支持を得やすくなる傾向があります。
ESG投資の広がり
ESG投資の広がりも、パーパス経営に影響を与えている要因の一つです。ESGは以下の頭文字の略です。
- Environment(環境)
- Social(社会)
- Governance(企業統治)
従来、投資家は企業の財務情報に基づいて投資先を決める傾向にありましたが、近年は財務情報に加えて、社会問題の解決に力を入れている企業への投資をする傾向も生じてきています。利益追求を重視した企業が、環境問題や労働問題で不祥事を起こすケースが多く発生したためです。
環境や社会の課題解決に取り組む企業であるかどうか、といったことが投資家が投資先を決める判断基準になってきています。企業の経営にとっては投資家の資金は欠かせません。そのため、投資家がESGを意識するのであれば、企業もESGを意識した経営を行っていく必要があります。
パーパス経営の特徴
前章では、パーパス経営の概要を簡単にお伝えしました。パーパス経営は従来の組織経営と比べて、具体的にどのような特徴があるでしょうか。パーパス経営の主な特徴を4つ解説します。
パーパス経営は、社会課題の解決を目指すものである
パーパス経営の特徴の1つ目は、社会課題の解決を目的とすることです。パーパス経営では、自社がどのような価値を社会に提供できるかを明確にし、パーパス実現を軸として事業を展開します。
環境問題や貧困問題、健康問題といった社会が抱える様々な課題に対して、自社の製品やサービスでどう貢献できるかを考え、その実現を目指すということが強く謳われます。
パーパス経営は、強い顧客志向である
パーパス経営の特徴の2つ目は、強い顧客志向であることです。
パーパス経営では、自社が提供する価値が顧客にとって本当に必要かどうかを常に検証し、顧客のニーズやフィードバックに応えることを重視します。顧客と直接対話したり、顧客満足度やロイヤルティを経営目標に掲げたりするといった強い顧客志向に基づく経営が行われます。
パーパス経営は、トップダウンだけでなくボトムアップでも作られる
特徴の3つ目は、パーパス経営は、トップダウンだけでなくボトムアップでも作られることです。
パーパス経営では、組織全体でパーパスを共有し、パーパスに基づいて行動することが重要です。具体的には、例えば、パーパス策定時には社員やステークホルダーから意見やフィードバックを集めたり、パーパス浸透時には社員やチームごとにパーパスに沿った目標や行動計画を立てたりするなどの取り組みが実施されることも多いでしょう。
また、作成後の経営でも、最も顧客に近い現場社員の声や意見を吸い上げて、サービス改善や事業開発に活かすことが多いでしょう。
パーパスは、経営戦略や組織文化に反映される
パーパス経営の特徴の4つ目は、パーパスが経営戦略や組織文化に反映されることです。パーパス経営では、パーパスは単なるスローガンやお題目ではなく、経営の軸として扱われます。
パーパスに基づいて、パーパスに沿った事業や活動の強化に経営資源を集中する、逆に、パーパスに沿わない事業や活動は見直しや廃止を検討する、また、パーパスに基づいた価値観や行動基準を定める、などの取り組みが経営戦略の一環として行われます。
パーパス経営の5つのメリット
パーパス経営を導入する企業が増えていますが、パーパス経営のメリットは何でしょうか。 本章ではパーパス経営のメリットを5つ紹介します。
従業員のモチベーションやエンゲージメントが高まる
パーパス経営によるメリットの1つ目は、従業員のモチベーションやエンゲージメントが高まることです。
パーパス経営では、自社が社会にどのような価値を提供するかを明確にし、定めた「提供価値」を判断の軸として仕事をします。例えば、環境問題や貧困問題など、自分が関心を持つ社会課題に対して、社員達は自分の仕事を通じてどう貢献できるかを考えます。
パーパス経営においては、従業員は自分の仕事に意味や価値を感じやすく、仕事への意欲や満足度も高まることでしょう。「何のために働くか?」が明確になれば働きがいが生まれ、従業員のエンゲージメントを高めることができます。
また、パーパス経営では、組織全体でパーパスを共有し、パーパスに基づいて行動することを重視します。パーパスが共有目的や共有価値となります。そのため、従業員は自分が所属する組織やチームに対する帰属感や誇りを持ちやすくなるでしょう。パーパスを明確にし、そこに従業員一人ひとりがどう貢献していくのかを考えられるようになることで組織としての一体感も生まれ、生産性も高まります。
イノベーションや競争力が向上する
メリットの2つ目は、イノベーションや競争力の向上にもつながることです。
パーパス経営では、企業が社会に対してどのような価値を提供するかを明確に掲げた上で、描いたビジョンを実現するためにイノベーションや変革を推進することが求められます。パーパスに基づいて、新商品や新サービスの開発や改善を行ったり、新しい市場や顧客層を開拓したりします。これにより、自社の製品やサービスの品質や価値の向上が生まれます。
また、パーパス経営では、自社のパーパスと一致するパーパスを持つ企業・組織との連携にも有効です。自社の強みや弱みを分析し、自社にない資源や技術を持つ企業や組織と提携したり、共通の目標に向かって協力したりします。こうした取り組みも、自社の競争力を高めることに貢献するでしょう。
ステークホルダーからの信頼や支持の獲得につながる
パーパス経営のメリット3つ目は、ステークホルダーからの信頼や支持につながることです。
前述の通り、近年は投資の判断基準として環境、社会、ガバナンスに着目する「ESG投資」の概念も生まれています。パーパス経営では、例えば、自社の製品やサービスが環境や生活向上などに与える影響を分析し、改善策を実施したり、CSR活動や社会貢献活動を行ったりします。
投資家サイドから見た時、環境や社会に配慮し、適切な企業統治が行われていることは、長期的に見て安定した資産運用が期待できることを意味します。それに加え、投資家の中でも気候変動などの環境問題への意識が高まっています。このような背景があり、パーパスを掲げて環境や社会に配慮し、企業としての統制がとれていることをアピールできれば、ステークホルダーからの支持も得やすいことが期待できます。
他にも、顧客と直接対話したり、共創や協働の機会を設けたりするといった、顧客や社会と積極的に関係性を築くための取り組みもあるでしょう。こうした活動が、顧客や社会から自社の存在意義や価値観を理解され、消費者はもちろん、取引先や株主などからの信頼や支持の獲得へとつながります。
こうしたステークホルダーからの支持を多く得られれば、企業価値やイメージが向上し、商品やサービスの売上増加につながることが期待できます。
消費者や取引先からの信頼関係につながる
パーパスを掲げることで、企業が社会に対してどのような価値を提供しようとしているのかが消費者や取引先にも伝わりやすくなります。
企業としての大義を明確にすることで、機能的な価値や品質だけの評価ではなく、パーパスへの共感が生まれ、ブランドやファンづくりに繋がります。
一貫性があり迅速な意思決定ができる
状況が目まぐるしく変わる不確実な時代にあっては、経営には迅速な意思決定が必要です。
また、昔のように上層部だけが意思決定するのではなく、現場レベルでもどんどん変化や顧客に対応して意思決定することが求められています。
そんな中で、パーパスやミッション・ビジョン・バリュー等の浸透により組織として進むべき方向、判断基準が定まると、現場レベルでも意思決定のスピードを速めることができます。
しっかりした判断基準を共有することで、権限移譲も進めやすくなりますし、周囲の変化に振り回されることなく、判断に一貫性を持たせることができるようになるでしょう。
パーパス経営を導入する上での課題・デメリット
前章ではパーパス経営のメリットを紹介しました。しかし、パーパス経営には、メリットだけではなく課題もあります。本章では、パーパス経営を導入する上で陥りやすい課題を解説します。
パーパスの浸透や実行は簡単ではない
パーパス経営の課題の1つ目は、パーパスの浸透や実行が難しいことです。パーパス経営は前述の通り、ミッション経営などと本質的には同じことです。
パーパス経営では、パーパスを組織全体で共有し、パーパスに基づいて行動することが重要です。
実現するには、社員やステークホルダーから意見やフィードバックを集めたり、パーパス浸透時には社員やチームごとにパーパスに沿った目標や行動計画を立てたりするといったことが必要となります。
しかし、パーパス浸透のプロセスは時間やコストを要しますし、実行に難儀する部分が多くあります。ミッションの浸透などに苦労している会社が多いのと同じことです。
パーパスウォッシュに陥りやすい
課題の2つ目は、パーパスウォッシュに陥りやすいことです。
パーパスウォッシュとは、「一見パーパス経営を行っているように見えて、実際には社会的な貢献や価値を提供できていない状態」を指す言葉です。
例えば、パーパスステートメントを作成したが、それに沿った事業や活動に取り組めていなかったり、パーパスとは関係のない事業や活動に多くの資源を割いたりしている等が挙げられます。
企業がパーパスウォッシュに陥ると、社会やステークホルダーからの信頼や支持を失うだけでなく、従業員のエンゲージメント低下や離職も生じてきます。
パーパスを掲げることで、従業員の期待が膨らんだり、仕事にやりがいを感じたりするからこそ、「できていない」「やれていない」ことを感じた時の意欲低下や失望も大きなものとなりがちです。
パーパスと利益を両立することが難しい
課題の3つ目は、パーパスと利益の両立が難しいことです。パーパス経営は社会的な貢献を目指すものですが、同時に、組織や事業を維持拡大する上で利益は不可欠なものです。
経営学者であるドラッカーは、「たとえ、天使が経営したとしても、組織にとって利益は必要である」と言っています。
パーパス経営では、社会問題の解決と自社の利益の両立が求められます。しかし、パーパスと利益を両立することは決して簡単ではありません。
例えば、社会貢献に重点を置きすぎると、利益が減少し事業継続が困難になるかもしれません。逆に、利益追求に重点を置きすぎると、パーパスと乖離し信用失墜の危険性も生じるでしょう。
パーパス経営に本気で取り組むことは、パーパスの追求と利益の確保を、2つを両立するという「アンドの精神」を持って、高いハードルに挑戦することでもあるのです。
パーパス経営に取り組む際のポイント
前章では、パーパス経営を導入する上でのハードルをお伝えしました。ハードルも踏まえた上で、本章では、パーパス経営を成功させるために大切なポイントを解説します。
パーパス浸透・実行のポイント
前章でお伝えした課題「パーパスの浸透や実行に難儀しやすい」を解決するためには、以下に挙げたようなポイントを参考にしてパーパスの浸透や実行に取り組むことが重要です。
①パーパスを可視化する:
パーパスは見える形で表現することで、組織全体に伝えやすくなります。
文字での表現だけでなく、例えば、キービジュアルやロゴマーク、ポスターやビデオなどのメディアを活用することで、パーパスを視覚的に分かりやすく伝えることができます。また、社内のWEBサイトやSNSなどで、パーパスに関する情報や事例を共有することも有効です。
②パーパス目標や成果を具体的な形で示す:
パーパスを具体的な行動や目標に落とし込むことで、組織としての実現可能性が高まります。
例えば、KPI(重要業績評価指標)やOKR(目標達成度管理)などのフレームワークを活用して、パーパスに沿った数値目標や行動計画を設定することも効果的です。また、組織・個人目標の成果発表会やベストプラクティスの表彰といったイベントを通じて、パーパスの具体例や達成度を分かりやすく腹落ちさせられるでしょう。
パーパス浸透・実行のポイントは、企業文化やミッション・ビジョン浸透のやり方が参考になります。
パーパスウォッシュに陥らないためのポイント
前章でお伝えした課題「パーパスウォッシュに陥りやすい」にならないためには、以下のようなポイントが重要になるでしょう。
●壮大で崇高なものになりがちなパーパスを実務と紐づける
1つ目のアプローチは、パーパスを実務と紐づけることです。パーパスは、企業の存在意義や使命ですので、どうしても壮大で崇高、また抽象的なものになりがちです。
だからこそ、「自分の仕事」がどのようにパーパスと結びついているのか、どのように社会の課題を解決しているのか?を具体的に考えてもらうことが大切です。
例えば、味の素は「食と健康の問題解決」というパーパスを掲げています。これは自社のビジネスである食品製造と直結しており、社会的な価値も持っています。パーパスを経営理念の中核と位置づけ、全社員が自分の目標とパーパスを結びつけて業務に取り組めるよう指針を設けています。
このように、「壮大で崇高なものになりがちなパーパスを実務と紐づける」ことで、パーパスウォッシュに陥るリスクを大きく減らせるでしょう。クレドと日常を結び付けているリッツ・カールトンの取り組みなども参考になるでしょう。
●経営陣の使う言葉や意思決定への反映
パーパスウォッシュを回避するための2つ目のアプローチは、経営陣の使う言葉や意思決定にパーパスを反映するということです。
従業員は、経営陣の言葉や意思決定が、パーパスや会社のミッション・バリューに沿ったものかを敏感に見ています。
だからこそ、経営陣こそが、パーパスに沿った行動や意思決定を率先して行い、その理由や背景を従業員や社会に伝えるアクションが不可欠です。
経営陣は、自社のパーパスを体現し、浸透させるシンボルとなる必要があります。経営陣の行動の積み重ねこそが、形だけのパーパスウォッシュに陥らないための根幹です。
パーパスと利益の両立を実現するためのポイント
パーパスと利益を両立させるためには、以下のようなポイントが重要になるでしょう。
●経営の地力を徹底して高める
パーパスと利益の両立を実現する1つ目のアプローチは、経営の地力を徹底して高めることです。
至極当たり前の話で恐縮ですが、「正しく利益を生み出す」ためには、やはり実力や優れた仕組みが必要です。
ブランドや差別化できる技術力、人材力、オペレーションなど、経営の地力を高めることによって、企業は自分たちの得意とする領域で優れた商品やサービスを提供できます。
そして、それらが社会にも価値があるものであれば、より多くの人々からも選ばれ、支持されることになります。
●アンドの精神を社内に徹底させる。
パーパス経営の考え方について、共感する人は多いかもしれません。しかし、いざ実行するとなると、やはり腰が引けるところも出てきます。
「やはり利益とパーパスを両立するというのは難しいのではないか…」「経営はそんなにきれいごとではない…」 もちろん間違っているわけではありません。
瞬間的には難しい判断を迫られることもあるでしょう。
しかし、「社会貢献か利益か?」という二者択一の考え方に陥ってしまっていると、パーパス経営の実現からは遠ざかってしまいます。
だからこそ、パーパス経営の実現には、「社会貢献か利益か?」ではなく「社会貢献も利益も!」という”アンドの精神”を社内に徹底させることが不可欠になるのです。
アンドの精神を組織に浸透させることも、決して簡単なことではありません。ただ、挑戦する価値は大いにあります。
全社員がアンドの精神を体現できれば、瞬間瞬間を切り取ると両立できないことがあっても、長い目でみれば、確実に両立に近づいていくでしょう。
パーパス経営の企業事例
記事の最後では、パーパス経営を掲げている企業の事例を3つ紹介します。
ソニー
ソニーは、エレクトロニクスやエンタテインメントなど多様な事業を展開するグローバル企業です。
バラバラになって方向性を見失いがちな組織を一つにまとめ、結束力を高めるためにパーパスを活用しているのがソニーのケースです。
ソニーでは「ソニーグループらしさとは何か?」を探求し、2019年1月に、「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」をパーパスとして掲げました。
同社は、パーパスを社内外に発信し、社員やステークホルダーに共感してもらうために、ポスターやビデオなどのビジュアルコンテンツを作成するといった取り組みも行っています。
一時期、業績に苦戦していたソニーですが、パーパス経営が功を奏した側面もあるのか、コロナ禍においてもパーパスを軸に社員が団結し、在宅での消費者のストレス解消という社会貢献のもと、予定通りにゲームの販売、映画の公開を行うことで、2020年には最高収益を達成しました。
パタゴニア
パタゴニアはアウトドアウェアなどを製造・販売するメーカーです。パタゴニアのパーパスは、「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む」です。
このパーパスに基づいて、パタゴニアは環境保護や気候変動対策に積極的に取り組んでいます。
パタゴニアはパーパス経営の先進事例として知られ、例えば、全売上の1%を地球のために寄付したり、リサイクル素材やオーガニックコットンなど環境負荷が少ない素材を使用したり、修理や再利用を促進したりするなどの活動を通じて、地球に優しいビジネスモデルを実現しています。
このような取り組みによって、従業員からだけでなく求職者からも共感が得られ、組織全体がパーパスのもとに一つにまとまって進むということができています。
また、消費者からも共感が得られ、「パタゴニア信者」と呼ばれるほどのリピート客が生まれるなど、ファン獲得にもパーパスが大いに役立っています。
ネスレ
ネスレは食品・飲料の世界的な大手企業です。ネスレのパーパスは、「食の持つ力で、現在そしてこれからの世代のすべての人々の生活の質を高めていきます」です。パーパスを自社のビジネスにうまく結びつけている事例といえます。
日本ではコーヒーやキットカットでよく知られるネスレは、このパーパスを軸に据えて、健康や栄養、環境や社会に配慮した製品やサービスを提供しています。このパーパスのもと、「個人と家族・コミュニティ・地球」の3つの分野において社会貢献することを目標に、ビジネスを展開しています。
具体的には、
- 個人と家族のために、忙しくても自宅で手軽に素材にこだわったスムージーを飲む機会を提供
- コミュニティのための、沖縄で初となる大規模な国産コーヒー豆栽培を目指す産学連携の「沖縄コーヒープロジェクト」の取り組み
- 地球のために、主力製品のパッケージを紙化
他の活動としては、持続可能な農業や包装に取り組んだり、地域社会や農家と協力したり、食品ロスや廃棄物の削減に努めたりといった活動が挙げられます。
優れた商品開発やマーケティング力とパーパス経営を両立させることで、ネスレはビジネス成果にも繋がる高いブランド力を確立しています。形だけで空回りしてしまいやすいパーパスを自社のビジネスとうまく結びつけている事例として参考になるものです。
まとめ
記事では、パーパス経営という経営手法をテーマに、その定義やメリット、企業事例を紹介しました。
パーパス経営は、社会的な目的や価値を経営の中心に据えることで、企業の競争力や持続性を高めることを目指す経営手法です。
多くの企業から注目を集めているテーマであり、取り組み方次第で社会的な責任や貢献を重視する消費者や従業員のニーズに応えることもできるようになるでしょう。
しかし、パーパス経営は、パーパスの浸透と実行、パーパスウォッシュの回避、パーパスと利益の両立といったハードルがあります。本記事がパーパス経営の取り組むうえで何か参考になれば幸いです。