キャリア自律とは?必要性や企業が支援する背景、促進のポイントを紹介

更新:2024/11/19

作成:2024/02/20

古庄 拓

古庄 拓

株式会社ジェイック執行役員

キャリア自律とは?必要とされる背景、企業側のメリット、促進のポイントを紹介

キャリア自律とは、個々の労働者自らが主体となってキャリアビジョンを描き、実現に向けて継続的な学習や行動を継続していくことを指します。

 

終身雇用が崩壊した中で、雇用は流動化して転職は当たり前となっています。また、大手企業でも民事再生やM&Aが当たり前となった中で企業が従業員のキャリアを保証することも難しくなり、各個人が組織に依存しないキャリア形成が求められるようになっています。

 

企業にとっても、従業員のキャリア自律を支援することは、成果主義、そしてジョブ型人事の導入等とも裏表であり、エンゲージメント向上や優秀人材の定着・引き留めにも寄与します。そのため、最近は従業員のキャリア自律支援に取り組む企業が増加しています。

 

記事では「キャリア自律」の概要を解説すると共に、企業が支援するメリットや支援のポイントを紹介します。

 

<目次>

キャリア自律とは?

最近よく耳にするようになった「キャリア自律」とは、いつ、どのようにして生まれてきたのか、また、具体的にどのようなものなのかについて確認します。

 

キャリア自律とは?

キャリア自律とは、自らが主体となってキャリアビジョンを描き、実現に向けて継続的な学習や行動を継続していくことです。

 

「キャリア自律」という言葉は、最近HR業界では頻繁に聞かれる言葉となり、大手企業においては、この10年ほどで取り組んでいることが当たり前の取り組みともなっています。

 

「キャリア自律」の概念は、日本の多くの労働慣習が米国から取り入れられているのと同じように1990年代半ばの米国において生まれたとされます。

 

米国では、1980年代後半から1990年代初めにかけて、経済停滞とグローバル化に対応するために大量の人員削減が行われ、雇用の流動化や安定した長期雇用の崩壊が起こりました。長期雇用の崩壊は、従業員の組織コミットメントやロイヤリティ、モラルの低下を招きました。

 

こうした問題を受け、優秀人材の確保、従業員のモチベーションやコミットメントを確保するために、長期雇用の保障に代わるものとして、企業は社員にエンプロイアビリティ、つまり「雇用される能力」を高める機会を提供する必要性が提唱されるようになりました。

 

このように企業と労働者の関係性が変化する中で提唱された概念が「キャリア自律」です。この概念が、日本でも終身雇用の崩壊と雇用の流動化等が起こった中で、優秀人材の定着や従業員のエンゲージメント向上を目的に導入されているわけです。

 

「自律」と「自立」の違い

キャリア自律は、確固たる自分の意思を持ち、周囲や状況とうまく向き合いながら自己実現を目指していくという考え方です。

 

「自律」と似たような言葉に「自立」がありますが、キャリア自律で使われるのは「自律」です。自立は、他者に依存せずに一人でやっていける状態という意味であり、経済的自立、精神的自立といった形で使われます。

 

キャリアの場合、本来、キャリアは自分が作る、自分でしか作れないものであり、その意味では元から自立が前提だということもできます。ただし、同時にキャリアは組織や社会とのかかわりの中で築かれるものであり、自分一人で作れるものではないという捉え方もあるでしょう。

 

特に、これまでの日本では企業が従業員に終身雇用を保証する代わりに異動などの人事に対する強い力を持ち、ある種従業員のキャリアに対して主導権を握っていた状態です。その意味では、日本の労働者はキャリア形成を会社に「依存」してきた状態であり、「他律」されてきたキャリアを歩んできた傾向にあります。

 

そうした状態に対し、個人が主体的にキャリアを描き、作っていくという意味も込めて「キャリア自律」という言葉が使われています。

 

キャリア開発やキャリア形成との違い

キャリア自律と似たような言葉として「キャリア開発」や「キャリア形成」といった言葉もあります。

 

キャリア開発やキャリア形成は、誰が主導するかということに対するニュアンスはなく、キャリアアップやキャリア実現を目指して学習・成長するプロセスを指しています。従って、会社が従業員に対して提供するキャリア開発やキャリア形成もあれば、個人が資格取得や自己啓発に取り組むようなキャリア開発もあります。

 

一方で、キャリア自律は、キャリア開発やキャリア形成に対して、個人が主体性、リーダーシップを発揮するという点にウェイトが置かれています。

 

キャリア自律が注目されている背景

いま日本においてキャリア自律という概念が注目されている背景を見ていきましょう。

 

終身雇用制度の崩壊

キャリア自律という言葉が生まれた時の米国は大規模なリストラによる人員削減が推し進められ、安定した長期雇用は崩壊していきました。雇用環境が不安定化する中で、企業もこれまでの長期雇用の保証に代わるエンゲージメント施策を、個人も自らのキャリアを主体的に形成する必要が生まれたわけです。

 

日本においても昭和の時代は、終身雇用と年功序列が人事の前提となっており、新卒で入社した会社で定年まで過ごすケースが多かったものです。結果として、会社が従業員のキャリア形成の主導権、そして、異動等に対する強い人事権を持っていたわけです。

 

しかし、日本も当時の米国と同じく、大手企業も倒産やM&A、個人の視点では転職が当たり前の時代となりました。その中で、企業はキャリア自律を支援することでエンゲージメントを向上し、優秀人材を社内に引き留める。また、労働者も自分のキャリア形成を企業に依存するのではなく、自らのキャリアは自分で考え構築していく必要性が生じるようになりました。

 

成果主義とジョブ型の導入

終身雇用と年功序列が崩壊する中で成果主義が導入され、成果を出せるようにいかにスキルアップしていくのかは、個人にとって重要な課題となりました。最近では、仕事の専門分化が進んだことで、ジョブ型人事の導入も進んできています。

 

現在は、労働者が自らの能力・パフォーマンス向上に取り組まなければ、待遇の向上やキャリアの選択肢の拡大が望めない状態となっています。場合によっては、機械やAIに自分の仕事が奪われるリスクもあり、自身の待遇の維持・改善という意味でも、キャリア自律を真剣に捉える必要が出てきています。

 

変化の激しい時代を生き残るためには、主体的に変化に取り組んでいく必要があります。自分の価値観を大切にして、理想のキャリアを実現していくためには、主体的なキャリア形成、キャリア自律が欠かせません。

 

 

価値観の多様化と働き方の多様化

昭和の時代は、「社内で評価されて出世する」ことがキャリア形成の王道でした。今でもその選択肢は大きな存在ですが、一方で価値観も多様化しています。たとえば、社内での出征や待遇の向上よりもワークライフバランスを重視する若者も増えてきています。

 

組織内におけるキャリアも、地域やエリア限定社員、週休2日ではない働き方、マネジメント職とスペシャリストやプロフェッショナル職など、選択肢は多様化しており、出世して待遇を向上させる、いわゆるキャリアップだけがキャリアの選択肢ではなくなりました。

 

転職に加えて、テレワーク、副業、個人事業主、フリーランス等、働き方も多様化する中で、自分の望む働き方、生き方を考えることが非常に大切になってきています。周囲に流されてしまうことなく、自分らしい理想のキャリアを歩めるようにするためにも、キャリア自律を身につけておくことが大事になってきます。

 

シニア人材の処遇

医療技術の進歩に伴い人間の寿命も延び、今や「人生100年時代」と言われています。そのような中で、定年も延長され、第二の人生のキャリアをどう歩んでいくのかが、個人の重要課題となってきています。

 

一方で、企業がジョブ型人事を進める上で、年功序列型人事の中で高い待遇となっているシニア層に対して、リスキリング等を通じてパフォーマンスを向上してもらったり、もしくは処遇の低下等を受け入れてもらったりする必要が出てきます。

 

AIやDXといった最先端のテクノロジーにうまく対応できない人材を抱えてしまうことは、企業にとって生産性を向上させる上で足かせになってしまい、厳しい競争の中で生き残ることが難しくなってしまうという要因になりかねません。

 

終身雇用と年功序列が当たり前だった時代に入社し、キャリアを企業に委ねてきたシニア層に対しては、キャリア自律を促していくことで生産性の向上やイノベーションの創出につなげていくことが必要になってきます。

 

女性活躍とキャリア自律

女性の社会進出に対する意識の変化や少子化に伴い、女性人材にいかに活躍してもらうかも大きな経営課題になっています。女性活躍の推進は国策であり、各企業の経営においても重要なテーマです。

 

寿退社や出産に伴って退職することが当たり前だった時代から、今は産休・育休から復帰することが当たり前な時代にほぼ変わりました。結果として、女性採用の強化やプレイヤーとして女性が活躍することは普通のことになっています。

 

一方で、産休・育休等のライフイベントに伴って一定のブランクが生じたり、価値観の変化が生じたりする中で、女性管理職の登用をどう促進するのかは、まだ課題に直面している企業も多い状況です。人手不足が深刻化する中で、女性人材をいかに活用できるようにするのかは、各企業にとって生き残りを左右する重要な課題です。

 

そういった背景もあり、女性にキャリアアップやキャリア形成を主体的に考えてもらうという視点からキャリア自律の動きが促進されている側面もあります。

 

キャリア自律とエンゲージメント

仕事が機械やIT、AIによって自動化され代替されていく中で、人間は高度な専門性やコミュニケーション力、感情を扱うことが求められています。こうした高度な知識労働や感情労働をするうえでは、仕事へのモチベーションやエンゲージメントがパフォーマンスにより大きな影響を与えます。

 

キャリア自律は、今の仕事への意味づけにつながるものでもあります。エンゲージメントやモチベーションの向上につながることから、知識労働が中心の企業ほど、従業員のキャリア自律を促進する傾向にあります。

 

労働者にとってキャリア自律の意味

個人にとってキャリア自律は、時代の流れの中でキャリア構築を会社には委ねられない、自分のキャリアを自分で作らなければならなくなったという責任が増える側面があります。

 

一方で、転職や副業、テレワーク、成果主義やジョブ型などの働き方の多様化、また、価値観の多様化を認める社会になったことで選択肢が豊富になり、主体的にキャリア構築に取り組むことで望む人生を実現できる可能性が高まったというプラス面もあります。

 

自分のキャリアを自分で作らなければならないという責任が増す側面と、望む人生を実現できる可能性が高まったというポジティブな側面の両方を自覚して、キャリア自律に取り組むことが大切です。

 

企業が従業員のキャリア自律を支援するメリット

キャリア自律の主体は労働者個人ですが、従業員のキャリア自律を支援する取り組みは企業にもメリットがあるものです。具体的にどのようなメリットがあるのかを紹介します。

 

若手人材や優秀層の定着・引き留め

「キャリア自律を促進してしまうと、辞められるのでは?」と感じてしまう経営陣も多いものですが、実際にはむしろ定着率は高まります。

 

とくに今の若い人は、終身雇用制度が崩壊した後に育ち入社した世代であり、キャリア形成に関しては強い危機感を持っています。そして、その結果として、自分のキャリアに対して漠然とした不安感を抱きやすいものです。

 

何もキャリア自律の支援を行わないままだと、「このままで大丈夫だろうか?」と不安になってしまい、何とか不安を解消しようとして転職してしまうことも起こりやすくなっています。

 

従業員のキャリア自律を支援することで、漠然とした不安が解消され、また、成長実感や仕事のやりがいが生まれます。また、キャリア形成に意欲的な優秀層に対しても、組織内でキャリア自律を支援できる体制を整えることで、「今いる会社では、自分がやりたいことができない」と離職してしまうことを防げます。

 

 

組織コミットメントの向上

キャリア自律の促進について離職への懸念だけでなく「自ら自己実現ばかりを追求しようとすると、組織に対するコミットメントが低くなってしまうのではないか?」という不安を抱く方もいらっしゃいます。

 

実際にキャリア自律が組織コミットメントにどのような影響を与えるのかについては、研究調査が行われています。結果によると、キャリア自律している社員は、高いキャリア充実感と組織のために貢献しようという「情緒的コミットメント」を有することが明らかになっています。キャリア自律は、組織コミットメントに対してプラスの影響を及ぼすのです。

 

社員のキャリア自律は、社員一人ひとりのキャリア形成を促進するだけでなく、組織への貢献意欲を高めることにつながり、組織にとってのメリットも大きいとされています。

 

(参考:堀内泰利、岡田昌毅、『産業・組織心理学研究』、2009年、第23巻、第1号、15-28、「キャリア自律が組織コミットメントに与える影響」)

 

エンゲージメントや生産性の向上

キャリア自律が実現すると、自己理解が深まって自分の価値観が明確になり、自分の強みを発揮したり、仕事に意味づけしたりできるようになります。自分の価値観にそって自らの強みを発揮できるようになれば、仕事に対する充実感も高まっていき、エンゲージメントも高まっていきます。

 

キャリア自律は組織コミットメントにプラスの影響を与えるという調査結果からもわかる通り、キャリア自律が向上すると組織に貢献しようという意欲が高まり、人材の定着率も高まります。

 

そうなれば、個人のパフォーマンスの向上につながるだけでなく、組織全体としても生産性が向上し、イノベーションの創出にもつなげられるようになってきます。

 

 

キャリア自律を支援する上で生じやすい課題

長い歴史を持ち、終身雇用制度や年功序列の人事制度の中で成長してきた企業が、従業員のキャリア自律を支援しようとした時、いくつかの課題が生じがちです。ここではどのような課題があるか、また課題にどのように対応していけばいいのかを紹介します。

 

キャリア自律に対して消極的な社員への対応

キャリア自律が必要だといっても、全ての社員が前向きに応じてくれるわけではありません。

 

とりわけ、入社当初は終身雇用が当たり前だったシニア層は「今さらそんなことを言われても・・・」と戸惑ってしまうこともあります。定年まで残された時間も少なく、体力や記憶力の衰えにより、新たな知識やスキルの習得に対して積極的な気持ちになりにくく、変化に対応しづらい側面もあります。

 

大きな時代の変化を迎えているということは、今まで考えられなかった領域において成果を上げるための機会でもあります。企業としては、シニア層に対してもリスキリングの必要性を認識してもらい、今まで培ってきた知識や経験と、新しい知識や経験を組み合わせてイノベーションにつなげていきたいという狙いもあります。

 

今まで企業内で培われてきた知識やノウハウを若い世代に伝承するためには、時代に合ったコミュニケーションスキルを身につけるということも大事になってきます。企業の競争力が失われてしまうということのないようにするためにも、シニア層のキャリア自律は重要になります。

 

シニア層に対して、今までのキャリアの棚卸や自分の強みの発見をできるように後押しし、自分の人生のゴールを描きながら組織に対して残り時間でどう貢献していくのかを考えられるようにすることが大切です。

 

 

 

シニア層と並んでキャリア自律に対して消極的になりやすいのが、女性社員です。女性社員はインポスター症候群やロールモデルの不在といった問題が生じがちであり、これらにうまく対処することが必要になってきます。

 

自分を過小評価してしまうインポスター症候群に対しては、自分の強みを認識し、それをうまく活かせていけるようなサポートをすることが必要です。

 

また、ロールモデルの不在の問題に対してはお手本となる人をそのまま真似するのではなく、様々な人の優れたところや反面教師としたいところも参考にするという「パーツモデル」という考え方で対処することが有効です。

 

 

 

自分のやりたいことが分からない人への対応

消極的というわけではないものの、自分の価値観や強みが不明瞭であり、どうしたら良いか分からないケースも出てきます。

 

そうなってくると、言われたことは真面目にこなすが、自分からは積極的に動かないという状態になりがちになります。いわゆる「ぶら下がり社員」の状態にもなりやすくなります。ぶら下がり社員は、ミドル・シニア層で多く見られ、出世競争から弾かれてしまい、働く意欲を失ってしまっているという人も多いものです。

 

そのような人に対しては、自らの強みを認識できるようにし、強みを発揮できるように人材育成制度や社内公募などを整え、「やればできる」という前向きな気持ちを持てるように後押しすることが必要です。

 

価値観や強みが不明瞭な人に、古典的なキャリア形成のフレームワーク、Want-Can-Mustを描いてもらおうとしても上手くいかないことが多いでしょう。強みの棚卸しなどから始めるキャリア研修がお勧めです。

 

 

組織内でキャリア自律できる制度作り

組織内でのキャリア自律を支援するうえで必要になってくるのが人事制度の整備です。

 

自分の価値観や強みが明確になり、いざキャリア自律しようとなった時に組織内に活躍の場がないと、「この会社では、自分のやりたいことができない」と人材が外部に流出していってしまうという事態にもなりかねません。

 

そうしたケースを防ぐためにも、社内公募制度や異動希望制度といったものを整え、組織として個人のやりたいという希望に応えられる体制を整えておくというのは大事です。社内を一種の転職「市場」とすることで、組織内でキャリア自律ができるようにしておくことが有効です。

 

キャリア自律を促すポイント

従業員のキャリア自律を促す、キャリアオーナーシップを身につけてもらうためには、どういった点を意識すればよいかを解説します。

 

キャリア自律の考え方を浸透させる

キャリア自律を促すためには、まずキャリア自律の考え方をきちんと浸透させることが重要です。キャリア自律を高めるためには、キャリアに対する捉え方を理解する、自分の価値観や強みを認識し自らの理想とするキャリアを描くといったことが入り口となります。

 

これまで紹介したように、キャリアは自分で作っていく必要があり、また、新しいことを学んだり、副業やボランティアをしたりといったことによって体験を積むなどの選択肢があるということも理解してもらう必要があります。

 

キャリア自律の考え方を浸透させ、自分のキャリアについて考え始めるきっかけになるのがキャリア研修です。まずはキャリア研修できっかけを作り、それから継続的なフォローをすることでキャリア自律を高めていけるようにサポートしていきます。

 

 

キャリア面談を通じて自分事に落とし込んでもらう

キャリア研修を通じてキャリア自律の意識が芽生えた次に、それを自分事に落とし込んでいけるようにします。

 

一人ひとりの意識を変えていくためには、キャリア面談や1on1の実施が大切になります。対話を通じて自分と向き合い、キャリア形成に対して感じる感情や自分の価値観を言語化し、整理していきます。

 

しかしながら、中には自分の気持ちを言語化するのが苦手だという方も多いものです。また、社内でキャリアについては話しにくいという人もいるでしょう。そのような場合には、外部のキャリアコンサルタントにサポートしてもらう方法もお勧めです。

 

キャリア研修でキャリア自律の考え方を学んだところから、自分ごとにして自分が作りたいキャリアを言語化する、そして、実現するための行動を考えることがキャリア面談のゴールになります。

 

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自らの「強み」を認識させる

先ほど取り上げたキャリア自律が組織コミットメントに与える影響について調べた調査では、仕事におけるセルフイメージである職業的自己概念の明確さが、キャリア自律にとって重要であることが明らかにされています。

 

自分にはどのような才能があるのか、また才能をどのようにして活かしていくのかという「強み」について知ることで、自己肯定感が高まり、組織に対して積極的に貢献していけるようになります。

 

自分の持つ才能に気づいていないために「どうせ自分なんて…」と自分を卑下してしまったり、「自分は何をすればいいのかわからない」と方向性に迷ってしまったりという状態から抜け出せるようにするためにも、自らの「強み」を認識できるようにすることは重要です。

 

とくに日本においては、課題克服型の教育が強いこともあり、弱みや課題は認識していても、強みについてきちんと考えたことがない人も多いものです。

 

自分にはどのような強みがあり、どのように貢献していける人材なのかという職業的自己概念が明確になることで、自分の進むべき方向がわかるようになり、主体的に行動できるようになります。

 

キャリア自律促進のためには、社員の職業的自己概念を高め、自分の能力・スキルの強み・弱みを把握し、主体的にキャリア開発に取り組めるように支援していくことが重要です。

 

視野を広げる体験の機会を提供する

多くの従業員を抱える組織になると、仕事は細分化されていきます。仕事が細分化されることで専門性が高まる一方で、全体が見えず、仕事が単調になりがちな側面も生じます。そうなると、目の前の仕事のことで頭がいっぱいになりがちです。また、自分が所属する部署以外のことはよく分からずに、視野も狭くなりがちになります。

 

自分が今いる職場や直属の上司のことしか知らず、何か問題が生じてしまうと「今の会社ではダメだ」と転職してしまいやすくなります。そうして転職しても、前と同じような環境のところに行き着いてしまい、同じような問題が起きてまた転職をするということの繰り返しになりかねません。

 

そのようなことにならないようにするためにも、自分の隠れた可能性や強みに気づけるように、副業やボランティア、外部との交流など、視野を広げる機会を持てるようにすることも重要です。

 

様々な体験をすることで刺激を受け、興味や意欲がわいてくるようになり、キャリア自律を高められるようになります。

 

キャリア形成の機会を提供する

キャリア自律の実現とエンゲージメント向上を両立させるには、社内でキャリア形成の機会を提供できるようにすることも大事です。

 

キャリア形成の意思が明確になった人やチャレンジしたいことが見えてきた人に対しては、社内にキャリア形成に向けた挑戦や学習の機会を整備する必要があります。資格の取得支援やカフェテリア型の学習機会、社内公募や異動希望制度などがこれにあたります。

 

とりわけ、今の若い世代は、早期のキャリア形成に対する意識が高いものです。成長実感や挑戦実感が得られないと、「このままではダメだ」と漠然とした不安に駆られて安易な転職を選び、他社に流れていってしまうことにもなりかねません。

 

若手人材や優秀層の離職を防げるようにするためにも、キャリア形成の機会を提供することは大事になってきます。

 

 

ミッション・ビジョン・バリューを浸透させる

キャリア自律がエンゲージメントの向上につながるようにするには、すでにご紹介したキャリア形成の機会と合わせて、ミッション・ビジョン・バリューを浸透させていくことも大切です。

 

個人と組織との間でミッション・ビジョン・バリューを共有することで進んでいく方向をそろえるようにし、個人が組織の中で仕事にやりがいを感じながらキャリアを積み重ねていけるようにします。

 

高い抽象度で仕事の意味づけを提供することで、「やりたいことはあるが、今の組織では十分にできない」と外部に人材が流れていってしまうのを防ぐことにもつながります。

 

定期的にキャリアを考える機会をつくる

キャリア形成は短期的にできるものではなく、3年・5年・10年といった単位で構築するものです。

 

1年に1回健康診断をするように、半年から1年に1回、立ち止まって自分のキャリアを考える機会、キャリア面談の機会等を作ることが大切です。

 

定期的に過去の経験を振り返る中で意識したいのが、キャリアの発達を方向づける「キャリア・アンカー」と呼ばれるものです。キャリア・アンカーとは、キャリアを選択するうえで他に譲ることのできない価値観や欲求を指します。

 

仕事に対する知識や経験が浅いと、自分にはどんな価値観や欲求があるのかをつかみづらいものです。そのため、定期的に仕事での体験を振り返り、感情を言語化するようにしていくことで、自分のキャリアの方向性というものが浮かび上がるようになるでしょう。

 

キャリア自律の促進に役立つサービス

キャリア自律を促していくためには、個別の継続したフォローが大事になってきます。HRドクターを運営するジェイックグループでは、以下のようなサービスを提供しています。

 

キャリア相談プラットフォームKakedas(カケダス)

キャリア自律を促すためには、定期的に自分のキャリアについて考える機会を持つことが大切です。

 

一方で、社内の上司が1on1で対応しようとなると、上司の時間や負荷、技量として厳しい部分も出てきます。また、上司は評価者としての一面も持っているため、部下からするとキャリアに関する相談は、本音を言いづらいケースも多々あります。

 

そこでお勧めなのが外部のキャリアコンサルタントを活用することです。

 

HRドクターを運営するジェイックでは、キャリア相談プラットフォームのKakedas(カケダス)を提供しています。

 

Kakedasでは、登録されたキャリアコンサルタントの中からAIによって相性の良い相手が選び出され、相談者は10人の候補者の中から自分が気に入った国家資格キャリアコンサルタントを選びキャリア相談をすることができます。

 

外部のキャリアコンサルタントが面談を担当することで、多忙な上司の負担を減らすことができます。また部下の側も、1年に1回のキャリア面談を受けることで、定期的に考える機会が得られます。

 

キャリアコンサルタントには守秘義務があり、相談者は仕事への不満など言いづらいことも話すことができ、メンタル面でのサポートにもなります。安心して本音で話すことで、自己理解を深めることができます。

 

また、面談で得られた本音は、本人を特定されない形でレポートとして上司や組織にフィードバックされ、キャリア自律の促進に向けた有効な施策につなげていくということも可能です。

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キャリア研修と個別フォローを掛け合わせた「キャリア自律支援プログラム」

キャリア自律を促すためには、自らの強みを認識し、それをうまく発揮していけるようにサポートしていくことが有効です。

 

先ほどのKakedasに、強み診断ツールであるストレングス・ファインダー®を活用したキャリア研修を組み合わせたのが「キャリア自律支援プログラム」です。

 

キャリア自律支援プログラムでは、まずストレングス・ファインダー®を活用した研修により自分の強みについて理解し、それをどう活用していけばいいのかを学びます。

 

続いてKakedasでキャリアコンサルタントによる面談を受けながら自分の感情を言語化していくことで、具体的な行動計画に落とし込めるようにします。その後、職場での実践やKakedasでの振り返りの面談を通して、強みの発揮をサポートしていきます。

 

キャリア自律支援プログラムを活用することで、強みの認識から行動変容までを一貫してサポートすることが可能になります。

 

著者情報

古庄 拓

株式会社ジェイック執行役員

古庄 拓

WEB業界・経営コンサルティング業界の採用支援からキャリアを開始。その後、マーケティング、自社採用、経営企画、社員研修の商品企画、採用後のオンボーディング支援、大学キャリアセンターとの連携、リーダー研修事業、新卒採用事業など、複数のサービスや事業の立上げを担当し、現在に至る。専門は新卒および中途採用、マーケティング、学習理論

著書、登壇セミナー

・Inside Sales Conference「オンライン時代に売上を伸ばす。新規開拓を加速する体制づくり」など

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