キャリアのオープン化と人事の“本気の一歩”で、Z世代を“仲間”に|新人・若手育成で何をすべきか?Z世代の人材育成

更新:2024/07/17

作成:2024/07/13

人事の“本気の一歩”で、Z世代を“仲間”に 新人・若手育成で何をすべきか?

2024年3月14日、ジェイック主催のオンラインセミナー「新人・若手育成で何をすべきか?Z世代の人材育成」が開催されました。

 

企業のなかで年々存在感を増す、Z世代の若手社員たち。彼らから選ばれる企業になるために、そして採用後、彼らに貴重な戦力になってもらうために、人事部門はどう立ち回ったらよいのでしょうか。

 

日頃から人材育成や研修、採用関連のコンサルティングを行っている三社の代表者にご登壇いただき、さまざまな観点から議論を深めました。

 

*本記事では、Z世代の育成にフォーカスして、第一部:講演と第三部:パネルディスカッションの一部をお届けします。

登壇者
株式会社Momentor 代表取締役社長
坂井 風太 氏
元・DeNA人材育成責任者。子会社代表などを歴任後、マネジメント領域で起業。体系化されたマネジメント・人材育成理論が好評を博し、業界最大手企業から急成長スタートアップまで、80社を超える企業を支援。ビジネスメディアPIVOTにて、【Z世代がたった数年で会社を見切る理由】「いても無駄」と「言っても無駄」等の動画が累計150万回再生を突破。
登壇者
株式会社NEWONE 代表取締役社長
上林 周平 氏
大阪大学人間科学部卒業。2002年、株式会社シェイク入社。企業研修事業の立ち上げを実施し、商品開発責任者として新入社員〜管理職までの研修プログラム開発、新入社員〜経営層に対するファシリテーターや人事・組織面のコンサルティングを実施。2015年より、株式会社シェイク代表取締役に就任。2017年9月、これからの働き方をリードすることを目的に、エンゲージメントを高める支援を行う株式会社NEWONEを設立。
登壇者
株式会社Take Action 代表取締役社長
成田 靖也 氏
1984年生まれ。北海道出身。人材コンサルティング会社で、当時最年少で名古屋支社長に就任。ただ、採用会社の入社させて終わりの顧客目線ではない手法に疑問を持ち、採用・定着・活躍まで支援できる究極のカタチを求め、25歳でTake Actionを設立。離職低減やエンゲージメントに関する著書『人が辞めない会社の作り方』を出版。
ファシリテーター
株式会社ジェイック 執行役員
株式会社Kakedas 取締役
東宮 美樹氏
ジェイックにて、コミュニケーション改善や主体性発揮、エンゲージメント強化の研修を中心に活躍。自身の経験を踏まえた女性活躍やキャリア研修、イクボス育成などの研修も評価が高い。2023年にはキャリア面談プラットフォームを提供する株式会社Kakedas取締役に就任。

<目次>

Z世代の「不安型離職」「不満型離職」は起こるべくして起こっている

第一部は「Z世代がたった数年で会社を見切る理由 」と題し、独自のマネジメント・人材育成理論を提唱するMomentorの坂井風太氏から、Z世代が前提としている社会環境や、若手社員の離職が起きる原因をお話いただきました。

 

近年は経済環境や社会構造の変化に伴い、個人の価値観は大きく変化しています。その流れを受けて企業は「終(つい)の棲家」から「止まり木」となり、キャリア構築の根本が変化している状態です。しかしその一方で、人材育成・マネジメントはアップデートされていない、と坂井氏は言います。

 

坂井氏「これまでの人材育成は『背中を見て育て』『自分の時代はこうだった』など、上司・先輩の過去の成功・失敗経験、つまり『生存者バイアス』を元にした人材育成が行われていました。

 

そこには、持論はあっても理論はありません。それが『不安型離職』『不満型離職』という、2パターンの離職を生み出しています」

 

若手離職のメカニズム

 

若手の不安型離職と不満型離職は、それぞれ要因が異なります。

 

まず不安型離職は、「現在の職場で働き続けたら、自分のキャリア展望は安全だ」と感じられる「キャリア安全性」の欠如が要因です。

 

若手が上司や先輩の姿を見て「いずれ自分もこうなってしまうのか…」「これでは他の会社では通用しないだろう」と思ってしまうと、それは会社に居続けることへの恐怖やリスクとなります。

 

次に不満型離職は、上司や先輩の生存者バイアスから来る「自分が正しい」という勘違いが要因です。彼らが自分たちの経験を重要視して若手社員の話を聞かないと、心理的な距離感が生まれてしまいます。

 

キャリア安全性の欠如は、この会社に「いても無駄」、生存者バイアスから来る労働環境や人間関係の不和は、この会社(上司)に「言っても無駄」という思いを引き起こし、結果として若手社員の離職につながっています。

 

いても無駄言っても無駄

 

人材育成の領域は、会社に限定しなければ殆どの人が育成される側/する側を経験してきており自分なりの考えを語ることができるため、マネジメント基盤が整いにくい、と坂井氏。原因を分解すると、以下の3つに行き着きます。

 

坂井氏「人材育成のマネジメント基盤が整わないのは、①俯瞰する理論・機会の不在、②生存者バイアスの横行、③センスという暗黙知の横行、が主な原因です。

 

人材育成に関して俯瞰する機会がなければ体系的な理論は作れません。また、持論=生存者バイアスを疑うことは、自分のやり方をアンラーニングする必要性に繋がってしまいますので、人はやりたがりません。

 

そして、人材育成のセンスがある人がいても、そのやり方が暗黙知になっていると組織に伝播しません」

 

こうした原因が掛け合わさって、人材育成の難しさにつながり、若手離職として顕在化している現状を把握した上で、具体的な施策を講じる必要があります。

総じて優秀、しかし「キャリアへの不安」が大きいZ世代

第三部のパネルディスカッションでは「Z世代の人材育成 新人・若手育成で何をすべきか」をテーマに、日頃からさまざまな企業研修に対応しているNEWONEの上林周平氏と、採用やエンゲージメント向上に手腕を発揮するTake Actionの成田靖也氏、そしてファシリテーターのジェイック東宮で議論を交わしました。

 

最初の話題は「最近のZ世代の評判」について。総じて上がったのは「とても優秀」という声です。その上で気になる点や、Z世代ならではの特徴について言及がありました。

 

上林氏「プレゼンやグループ討議などは、ベテラン社員よりも上手ではないでしょうか。その一方で、心理的安全性への誤解を背景に、『叱りにくい』『ハラスメント扱いされるのが怖くて、踏み込みにくい』という話も聞きます。近年は不満型退職ではなく不安型退職が散見されるということで、Z世代が抱くキャリアへの不安をどうフォローしていくかが、企業の課題となっています」

 

成田氏「就職活動で企業の志望理由を聞くシーンは多いと思いますが、従来の『御社の理念に共感したから』という回答よりも、『自分の価値観と御社の理念が共通しているから』『御社に入れば、自分が関心のある社会課題を解決できそうだから』など、自分の理念や考えを主体とした回答が増えています。

 

学生のころからキャリアのことを考えているし、頭が良いなぁ、と。これを踏まえて、採用時には企業の理念を伝えるだけでなく、応募者の価値観や理念と自社の理念をつなげていく必要があると思います」

“仲間”の若手社員に向け、キャリアプランのオープン化や人事の“本気の一歩”を

Z世代の人材育成・研修を担当していて感じることは何でしょうか。

 

上林氏「これまで以上にオンボーディングが重要視されていると感じます。従来は会社に優位性があったので『社員を受け入れる』という印象でしたが、現在は会社と社員の関係は対応になっており『会社の乗組員として入ってもらう』というイメージです。

 

その中で必要なのは相互理解だと思います。当社ではオンボーディングの効果検証を実施しているのですが、結果を見ると、若手社員と上司でオンボーディングに関する評価が異なっていることがあります。上司が『オンボーディングは順調だ』と思っていても、若手社員はそう思っていないかもしれません。

 

オンボーディングがうまくいくと、若手社員の仕事に対する成長実感や貢献実感が高まりますし、上司や周囲の先輩は若手社員を戦力だと見るようになります。こうした前向きな変化が起こせたらいいですよね。

 

キャリア展望も非常に大事だと思います。入社して少し時間が経ったときに『この会社にいて大丈夫そうだな』と感じられることが、早期離職を防ぎ、定着を促進します。その観点でいうと、育成体系やキャリアマップ、スキルマップなどを言語化してオープンにする企業がとても増えました」

 

4つのグルーピング

 

この話に、東宮は「若手社員と上司とで感じ方が違う話が印象的。また、ここ数年でキャリアをテーマとした新人研修も増えたように思います」と応え、若手のキャリアに関する不安や悩みに上司が適切に答えられないと、それが退職の決め手になってしまうケースも共有しました。

 

こうした現場の話を受け、成田氏は人事部門の対応についてこう提案します。

 

成田氏「人事部門として、わかりやすい施策を武器として持っておくとよいでしょう。例えば、ジョブローテーション、抜擢人事、1on1などです。

 

現場のリーダーのスキルや素養を高めようというだけで若手社員の成長を促すのは難しい側面もあるので、上司に依存しない、ある程度の環境を会社側が整えていく必要があります。

 

私はエンゲージメント施策の悩みによく対応しますが、人事担当者から『社員にアンケートをとってもあまり答えてくれない。

 

でも私たちが直接聞きに行くと、実はこれがやりたいですという回答が出てくる』と聞くことがあります。人事担当者が現場に足を運べば結果が変わるかもしれないので、人事担当者の“本気の一歩”が必要ではないでしょうか」

自社の“苦手分野”を突き止め、外部ツール・サービスを賢く利用

若手社員の育成や研修を社内で完結させようとしても、人員確保や技術面で限界があるかもしれません。そこで活用できるのが外部のツールやサービスです。

 

上林氏「人材研修の領域では、立教大学の中原淳教授が提唱する『トランジションサポートモデル』が効果的ではないかといわれています。研修を適切なタイミングで短期間・高頻度で行うもので、リモート環境の整備によって非常に実施しやすくなりました。

 

入社後1〜2年経った人が研修のタイミングで立ち止まり、経験学習によって内省し、新しい持論を作っていく。そこで初めて成長実感や貢献実感が湧く社員もいます」

 

成田氏「各企業や人事部門には得意なことや不得意なことがあるはずです。まずはそれを理解し、苦手なことは外に出ししたほうがよいかもしれません。例えば、社員の理解が薄いのであれば、他社の力を借りてサーベイや面談を実施するなどです。

 

何より大事なのは、人事部門が『この負を今こそ解決したいんだ』という強い思いを持って行動すること。仮に効果が薄かったとしても、それはとても前向きな一歩だと思います」

 

東宮からは「研修だけでなく1on1やキャリア面談も外部委託できる」と言及がありました。人事が強い意志を持って集中することが大事だからこそ、その中で外部ツール・サービスを有効に利用するとよいでしょう。

失敗を受け入れるカルチャーの醸成と、前向きなフィードバックスキルの獲得

ここからはセミナー参加者からの質問に回答していきます。まずは「『失敗したくない』『間違ったことをしたくない』という若手社員をどうすればよいのか?」というものです。

 

成田氏「『間違ってもよい』と感じられるような、失敗が受け入れられるカルチャー、心理的安全性のある環境が必要だと思います」

 

上林氏「私もカルチャーが本質だと思うので、会社としての心理的安全性を高めていくべきです。また、前提として『失敗したくない』という思いをそのまま受け入れる姿勢も重要でしょう。そこに問題意識を持たない、ということですね。

 

ただし『失敗の内容は何でもよい』とすると、いわゆる“ゆるい職場”になってしまいます。ポイントは、失敗に付随して成長実感を得られているかどうかだと思います。

 

ある若手社員からは『自社ではほとんど何も言ってくれなかったけれど、出向先では厳しいことも伝えてもらえてよかった』という声もあります。その人への期待を込めて『次はこうするとよいのでは?』などと、前向きに伝えてはどうでしょうか」

 

上林氏「フィードバック方法としては、“But(しかし)”ではなく、“And more(さらに)”が有効です。マネジメントはこうした伝え方のスキルを上げていくとよいと思います」

 

続いて「若手の当事者意識や内発的な動機を醸成するためには、地道に関わるしかないのでしょうか?」という質問もありました

 

上林氏「内発的動機は自己決定感によって作られます。よって“自分で決めている感”を設計しては。何らかの体験後にポジティブな感情を湧かせることも大事です。

 

例えば、社内での1on1の後に若手社員がポジティブな感情を抱いているかを確認してはどうでしょうか」

 

大事なポイント

 

成田氏「相手が大事にしているポイントを掴んだ上で、ねぎらったり承認したりするのがよいと思います。自分の部下は何を大切にしているのか、逆にまったく響かないものは何か、知るところから始めましょう」

施策を浸透させるため、人事部門の立ち位置を見直して

続いての質問は、「人事部門がメンターとして支援しているものの、現場での対応に乖離があり、異動希望が出てしまうなどの問題が発生。どうすればよいでしょうか?」という根の深い内容です。

 

上林氏「管理職の生存者バイアスが邪魔をしているので、管理者を変革するしかないと思います。人は簡単には変われないので、時間をかけてアプローチする、もしくは変える必要があることを問題提起しては」

 

成田氏「人事部門の立ち位置が低い企業だと、どんな施策も現場まで届かない可能性があります。経営層に働きかけるなどして、人事の立ち位置を変える必要もあるかもしれません。

 

経営層に人事の働きを認めてもらえないなら、まずは小さな施策を成功させて、影響力を少しずつ広めてはどうでしょうか」

 

最後に「新入社員研修では、社会人としてのマナーなどをどこまで教えればよいのでしょうか?」という質問が。

 

上林氏「新人研修では、表面的なことではなく物事の“根幹”を伝えるとよいかもしれません。例えば『お金をもらうということは、どういう意味があるのか』などです。Z世代の若者は頭がよいので、表面的なことは理解できるはず」

 

成田氏「最低限のルールを伝えるのがよいと思います。自社の“当たり前”を明文化し、最低限守るべきルールを設定して、社員間のズレをなくしてはどうでしょうか」

 

Z世代の若手社員に選ばれ、彼らが社内で活躍するような企業となるためのヒントとなれば幸いです。登壇・参加された皆様、ありがとうございました。

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