コンピテンシーとは優れたパフォーマンスを生み出す社員に共通する行動特性を指します。年は、コンピテンシー採用やコンピテンシー評価などの形で「コンピテンシー」の概念を採用や人材育成、評価に導入する企業が増えてきています。
本記事では、コンピテンシーの基本的な意味や活用方法、導入のメリットや課題などを解説します。
<目次>
- コンピテンシーとは?
- コンピテンシーが生まれた背景
- コンピテンシーと類語、関連用語との違い
- コンピテンシーの5段階レベル
- コンピテンシーの活用シーン
- 組織にコンピテンシー概念を導入するメリット
- 組織にコンピテンシー概念を導入する課題・デメリット
- コンピテンシー導入の手順・ステップ
- コンピテンシーモデルを導入する時の注意点
- まとめ
コンピテンシーとは?
コンピテンシーとは優れたパフォーマンスを発揮する社員に共通する行動特性を指します。ハイパフォーマンスにつながるコンピテンシーを特定することで、人材育成や採用に生かすことができます。
コンピテンシーを活用するためには、職務や役割ごとに、パフォーマンスの高い社員の行動特性を特定するコンピテンシー分析を行って、自社(特定部署や職種)のコンピテンシーを明らかにします。「普段どのようなことを意識しているのか」「行動理由は何なのか」など思考特性もコンピテンシー分析の対象です。
なお、後述しますがコンピテンシーの考え方を採用や人材開発に導入して活用するためには、行動特性だけでなく、行動特性の裏側にある性格特性や動機も重要になります。
コンピテンシーが生まれた背景
コンピテンシーは1970年代にアメリカで生まれた概念です。ハーバード大学のマクレランド教授の研究によって次のことが明らかになりました。
- パフォーマンスと学歴・知能には、あまり相関がない。
- パフォーマンスの高い人は特有の行動をしており、特有の行動に結びつく性格や思考パターン、動機などの要素に共通した特徴がある。
マクレランド教授のこうした研究結果から、優れた成果を生み出す要素としてコンピテンシーの概念を適用できると考えられ、採用や人事評価、人材育成などの場で使われるようになりました。
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適性検査で重要なことは「自社で活躍する人財を見抜くこと」。ポテンシャル採用の場合には、過去の実績だけでは能力を測れませんので、「性格特性」や「価値観」など内面を見ることが重要です。
また、新卒でも経験者でも重要なことは...
コンピテンシーと類語、関連用語との違い
コンピテンシーと似たニュアンスを持つ類語、関連用語がいくつかあります。違いについて以下に解説します。
コンピテンシーとコア・コンピテンシー(コア・コンピタンス)の違いとは
コア・コンピテンシーは企業の核となる技術や能力を指し、他社にはマネできない独自の技術やビジネスプロセス、組織風土などが該当します。コンピテンシーは、個人を対象にした言葉なのに対し、コア・コンピテンシーは組織を対象にした言葉となります。
組織が社会や顧客に優れたサービスを提供して、競合に対して打ち勝てる要因がコア・コンピテンシーであり、組織内の個人が優れた成果を生み出すための力がコンピテンシーである、と理解すると良いでしょう。
コンピテンシー・モデルとは?
“行動特性”全般を意味するコンピテンシーに対して職務や役割ごとにハイパフォーマーの行動特性を分析して、“該当業務で優れた成果を出すためのコンピテンシー一覧“としてまとめたものがコンピテンシー・モデルです。
コンピテンシー・モデルを作成して、そこに対して行動レベル等を設定して、評価項目や評価基準としてまとめることで、採用や人事評価、人材開発に活用できるようになります。
コンピテンシーとスキルの違い
スキルは社員一人ひとりが持つ、能力や技術を指します。コンピテンシーはスキルのような技術や能力ではなく、行動パターンを指します。
具体的なイメージでいうと、“業界や職種の専門知識“、”特定の資格“、”商談能力“などがスキルなのに対して、 “未知の仕事でも臆せずチャレンジする”、”連絡にすぐ対応するフットワークの軽さ”といった行動や意思決定パターンがコンピテンシーです。
スキルとは異なり、コンピテンシーはある意味では意識すれば誰でもできる行動です。しかし、それを習慣として無意識レベルで実施しているところにハイパフォーマーの秘密があります。コンピテンシーに適切なスキルが結びつくことで、圧倒的にハイパフォーマンスが生まれることになります。一方で、スキルが高くても必要なコンピテンシーが備わっていないと、なかなかハイパフォーマンスにはなりません。
コンピテンシーがパソコンやスマフォの性能(絶対的なスペックではなく「その業務に適したスペックか?)で、スキルがその上で動かすソフトやアプリといったイメージです。
だからこそ、組織の採用活動においては、その仕事で高い成果を上げるためのコンピテンシーを持った人を採用する、そして、能力開発によって一人ひとりのスキルを高めて、ハイパフォーマンスを発揮してもらえるようにするというのがコンピテンシー採用の考え方です。
コンピテンシーとポテンシャルとの違い
ポテンシャルとは、個人が持っている潜在能力、まだ開発されていないが将来的に開花する可能性を秘めた能力や資質を指します。一方で、コンピテンシーはここまで紹介している通り、行動特性や裏側の嗜好特性を指します。
とくにコンピテンシーは「ある仕事でハイパフォーマンスをあげるための行動特性」を指しますので、「個人が持っている可能性」を指すポテンシャルとは意味合いが異なる概念となります。
コンピテンシーとアビリティとの違い
アビリティとは、能力、技能、力量といった物事に対する能力全般を指します。スキルと近い意味に感じられるかもしれませんが、スキルは高度な特定技能のことを限定して指すことが多く、対してアビリティは特定技能から基礎的なポータブルスキルまで幅広く含む概念です。
アビリティは、ロールプレイングゲームなどでいう「このキャラクターがどんなHPやMP、また能力やスキルを持っているか」というステータス画面全般、特に強みとなってる部分を指すのに対して、それに対してコンピテンシーは「魔法使いとしてパフォーマンスするためには、“MP”と”思考力”にステータスを振る必要がある」といったイメージです。
コンピテンシーとケイパビリティとの違い
ケイパビリティとは、能力、才能、手腕、力量などを意味する英単語であり、ビジネスにおいては企業や組織が持っている組織的な能力や強みのことを言います。その意味で、ケイパビリティは「組織版のアビリティ」と表現しても近いイメージかもしれません。
「ある仕事でハイパフォーマンスをあげるための(個人の)行動特性」であるコンピテンシーとは、少し違う概念です。
ただ、「ハイパフォーマーを分析してそれを生み出しているスキルやコンピテンシーを抽出する」というコンピテンシー分析の流れと、「組織を分析して業績を生み出す根底となっている組織能力や強みを抽出する」というケイパビリティ分析の流れは、個人と組織の違いはありますが近いしい部分もあります。
コンピテンシーの5段階レベル
コンピテンシー評価では、各コンピテンシーに対する行動状況を5段階で評価します。行動のレベルごとに求められる具体的行動を解説します。レベルが高くなるほど、能動的な行動が取れることを意味します。
受動行動(レベル1)
レベル1の受動行動は文字通り、受け身の行動がメイン、つまり指示待ち状態です。上司からの指示が出るまで主体的に動きません。また言われたことだけをこなす、といった行動レベルです。
通常行動(レベル2)
レベル2の通常行動は、自身に与えられた業務をこなせる状態です。業務に対してミスをせず確実にこなしたい、という意識を持っていることが、レベル1との違いとなります。
ただし、まだ通常行動のレベルでは、あくまで当たられた業務を最低限の品質でこなすだけであり、意欲をもって取り組んだり、先回りして業務を進めたり、といったことはありません。
能動行動(レベル3)
レベル3の能動行動は、明確な意図・目的を持ち、能動的に行動できる状態を指します。例えば部署で生成AIを活用するといった場合、自らすぐに生成AIに関する情報収集を行い、活用方法を調べたり、関連書籍を購入して学習する、といった行動を取るといったイメージです。
自らのスキルアップやパフォーマンス発揮のために主体的に、学習や情報収集を行うことが出来る状態がレベル3です。
創造行動(レベル4)
レベル4の創造行動では、社員は自ら工夫し、課題や問題解決のために行動し状況を変化・打破しようとします。社内でも新たなプロジェクトが始まった場合など、自主的に提案を行うなどします。
先ほどの例で言えば、生成AIの活用について自社業務ではどのように活用できそうか、といった提案を自主的に行う状態がレベル4です。単に自分の業務だけでなく、自分の外、組織や顧客、市場に目が向いてる状態です。
パラダイム転換行動(レベル5)
レベル5のパラダイム転換行動とは、既成概念にとらわれず独自性の高い新たな発想を打ち出し、周囲を巻き込みながらアイデアを実現していく状態です。
リーダーシップを発揮しながらアイデアを実現していくことで、小さな創意工夫や改善も含めて組織にイノベーションを起こし、周囲にプラスの影響を与えることができるレベルです。
コンピテンシーの活用シーン
- 採用
- 人事評価
- 人材育成
- 人材配置
組織におけるコンピテンシー概念は、大きく4つの分野で利用されます。
採用
コンピテンシーがまず利用されるのは採用シーンです。採用活動のゴールは、自社で定着し活躍してくれる人を採用することです。
コンピテンシーの考え方は、自社で活躍する人を見極めるために使えると考えられ、一時期採用面接にコンピテンシー面接を取り入れる企業や自治体が増えました。採用する際に、重要なのは、採用したい人物像・採用基準を明確にすること、かつ、面接内できちんと採用基準に合わせて見極めることです。
コンピテンシー・モデルをきちんと採用基準へと落とし込むと同時に、面接で成果を上げたエピソードや挫折を乗り越えたエピソードを深掘りして、業務での行動特性をヒアリングしましょう。
コンピテンシーを確認する質問事項を用意しておくことで、求職者のコンピテンシーが把握でき、本質を見極めやすくなります。
なお、コンピテンシー面接は、ビジネス経験がある人を対象としたキャリア面接ではある程度有効です。しかし、新卒採用のように、ビジネス経験がないポテンシャル採用をするうえでは実施の難易度が高いとされています。
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適性検査で重要なことは「自社で活躍する人財を見抜くこと」。ポテンシャル採用の場合には、過去の実績だけでは能力を測れませんので、「性格特性」や「価値観」など内面を見ることが重要です。
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人事評価
コンピテンシーは人事評価でも活用できます。コンピテンシー評価では、職務や役割ごとに、ハイパフォーマーの行動特性を洗い出し、コンピテンシー項目を設定します。評価の基準は、各コンピテンシー項目で、どこまでハイパフォーマーの基準に近づけたかどうかです。
一方で、コンピテンシーは定性的に表現される行動特性となるため、定量的にレベルを評価することが難しい側面があります。したがって、成果指標やKPIなどを用いた評価と組み合わせて、次の人材育成とも連携させた補助的な評価として活用されていることが多くなります。
人材育成
コンピテンシーは、人材育成にも活用されます。ハイパフォーマーの行動特性を示し、社員一人ひとりが自身とのギャップを認識し、改善すべく行動することで成長が促進されます。
コンピテンシーは“行動特性”という通り、具体的な行動をイメージしやすいため、模倣・実践しやすく、人材育成に有効だと考えられてきました。
ただし、行動の素になるのは、価値観や性格特性、動機であり、自分の性格特性に合わない行動を継続・定着させることは難しいという課題もあります。また、ハイパフォーマーの成功モデルが必ずしも一つとは限りません。
したがって、先端的な人材育成では、定量的な特性分析等を通じて複数のコンピテンシー・モデル(活躍モデル)を形成して、自分の強みや性格特性に合った活躍モデルを目指して成長を促すというやり方が導入されています。
人材配置
コンピテンシーは、組織内の人員配置や配属先の決定といった「人材配置」にも活用できます。
例えば、ある社員がコミュニケーション能力に優れている場合、対人営業や接客業務に配置することで、顧客満足度の向上が期待できます。あるいは、分析力に長けた社員であれば、データ分析の業務に配置することで、業務効率の向上も期待できるでしょう。また、新規事業立ち上げや海外展開といったプロジェクトの適役を検討する場合にも、各社員が持つコンピテンシーの情報が役立ちます。
このように、組織の人材配置においても、コンピテンシーの活用は、社員の能力を最大限に引き出し、企業全体の生産性向上に繋がる可能性を持っています。
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組織にコンピテンシー概念を導入するメリット
本章では、組織にコンピテンシーを導入する上でのメリットを解説します。メリットの後で、デメリット・課題も確認しておきますので、参考にしてください。
組織にコンピテンシー概念を導入するメリットはおもに、以下の4つです。
- 社員に求める行動特性を明示できる
- 情意や能力評価がブレにくくなる
- 社員のパフォーマンス向上が期待できる
- 採用のマッチング精度を高められる
一方で、コンピテンシーの導入には、以下のような課題もあるため、メリットと課題を踏まえて導入を検討することが重要です。
- コンピテンシー・モデル作成に負荷がかかる
- 設定・運用の難易度が高い
- コンピテンシー・モデルだけでは限界がある
本章では、組織にコンピテンシーを導入する上でのメリットと課題について、それぞれ解説します。
メリット① 社員に求める行動特性を明示できる
コンピテンシーを導入する際には、前述したようにハイパフォーマー分析を通じて優れた成果を上げるためのコンピテンシーをまとめたコンピテンシー・モデルを作成します。コンピテンシー・モデルを社員に開示することで、組織は社員に求める行動特性を具体的に明示できます。
求められる行動特性が明確になれば、社員は自分の課題や取るべき行動が明確になり、自助努力やマネジメントもしやすくなります。
コンピテンシーを浸透させることで、職務や役割ごとの最適な行動特性が共通認識化し、人材育成への好影響や企業全体の生産性向上が期待できます。
メリット② 情意や能力評価がブレにくくなる
コンピテンシー項目に基づいて評価を行なうことで、情意や能力評価に評価者の主観が入りづらく、評価がブレにくくなります。そのため、公平性や納得感の高い評価ができるようになります。
情意や能力評価は、元から表現が定性的になりやすい項目群であり、さらに主観で評価してしまうと、評価者によるブレが生じやすい側面があります。それを成果に繋がることが分かっており、かつ、具体的な表現の行動特性、コンピテンシーにすると、情意評価や能力評価のズレが生じにくくなるでしょう。
メリット③ 社員のパフォーマンス向上が期待できる
あるべき姿が明示されることで、社員も自分が取るべき行動を具体的にイメージしやすくなります。上司とメンバーが発揮すべきコンピテンシーと達成度合いをすり合わせることで、マネジメントや人材育成のPDCAも回しやすくなります。これにより社員もモチベーションを維持したうえで、スキルを磨きやすくなるでしょう。
そして、社員一人ひとりが、コンピテンシーを意識して行動すれば、組織全体のパフォーマンス向上が期待できるでしょう。
メリット④採用のマッチング精度を高められる
コンピテンシーの概念を採用選考に取り入れることで、人材採用のマッチング精度を高めることができます。また、コンピテンシー採用のなかでも中核となる面接において応募者のコンピテンシーを見極めていくやり方をコンピテンシー面接といいます。
過去のエピソードや行動パターン、意思決定等を深掘りしていくなどして、求職者の行動特性を見極め、募集ポジションのコンピテンシーに合った人材かどうかを判断します。
コンピテンシー面接では、基本的に「過去に成果を上げた事例は何か。またその際にどういった工夫を行ったか」といった形で、過去の事実をヒアリングしていくことで、応募者のコンピテンシーを見極めます。こうした質問を多角的に行うことで、募集ポジションのコンピテンシーに合っているか、入社後に成果を出せる人材かどうかを見極めていきます。
コンピテンシー面接では、コンピテンシーモデルとの合致度が合否基準となるため、面接官の個人的な主観を排除し、客観的な判断がしやすくなるメリットもあります。一方で、社会人未経験の新卒やポテンシャル採用ではコンピテンシーの見極めが実施しにくい、キャリア採用になるとスキルや前職の実績などに面接官が引っ張られてしまうといった運用の難しさもあります。
最近では、面接だけでコンピテンシーを見極めるのではなく、コンピテンシーやその裏側にある性格特性・動機などを適性検査を使って判断しようとする取り組みも一般的になっています。
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適性検査で重要なことは「自社で活躍する人財を見抜くこと」。ポテンシャル採用の場合には、過去の実績だけでは能力を測れませんので、「性格特性」や「価値観」など内面を見ることが重要です。
また、新卒でも経験者でも重要なことは...
組織にコンピテンシー概念を導入する課題・デメリット
次に組織にコンピテンシーを導入する上での課題やデメリットについて解説します。
課題① コンピテンシー・モデル作成に負荷がかかる
コンピテンシー・モデルは職務や役割ごとに異なるため、各部署と連携したり、アンケート調査を実施したりして、策定する必要があります。成果を上げているモデルとなる社員を選定し、特性を抽出し指標を定めるのは容易ではありません。
コンピテンシー・モデルを適切に作るためには、知見やノウハウが必要となり、社内だけで作ることが難しい場合が大半です。したがって、コンピテンシー・モデルの作成自体に工数や費用がかかります。
課題② 設定・運用の難易度が高い
コンピテンシー・モデルは、成果主義やプロセス(KPI)評価等と比べると、設定と運用の難易度が比較的高くなりがちです。
汎用的に利用しようと思うと抽象度が高くなりすぎ、評価や育成に使いづらくなります。また、理想を求め過ぎると現実との乖離が大きくなり、形骸化してしまう可能性があります。
したがって、コンピテンシー評価等の運用にあたっては社内の状況と運用結果を見ながら、見直しやこまめな修正も必要となります。
課題③ コンピテンシー・モデルだけでは限界がある
行動を生み出すのは、内的な性格特性・価値観・動機などです。したがって、人が本来持っている特性と異なる行動特性を身に付けることは、非常に難易度が高くなります。
たとえば、“せっかち”という性格特性を持った人に、“入念に準備する”という行動特性を身に付けさせることはかなり困難です。
コンピテンシー・モデルの考え方は極端に書くと、「一定の行動をするように、枠に当てはめて人材を育成する」という考え方です。
メリットもありますが、上記のように異なる性格特性や動機を持った人間に同じ行動を強制することは難しい、また、そもそもコンピテンシー・モデルが一つに特定できない場合もある、という注意箇所があります。
課題③ コンピテンシー・モデルだけでは限界がある
コンピテンシー評価の考え方は、非常に分かりやすく、うまく運用できれば、社員一人ひとりの生産性アップや能力開発、業績の向上に繋がります。「成果を出すための行動特性」を持った人材を採用して能力開発をすれば、成果に繋がりますので、採用基準としても活用できます。
一方で、コンピテンシー評価の限界も存在しています。
行動を生み出すのは、内的な性格特性・価値観・動機などです。したがって、人が本来持っている特性と異なる行動特性を身に付けることは、非常に難易度が高くなります。
たとえば、“せっかち”という性格特性を持った人に、“入念に準備する”という行動特性を身に付けさせることはかなり困難であり、その場その場では矯正できても、無意識のレベルで習慣化させることは難しいわけです。つまり、「性格特性に合わない行動を実践させる」ことは無理があり、効果的な育成にならないということです。
コンピテンシー・モデルの考え方を極端に表現すると、「一定の行動をするように、枠に当てはめて人材を育成する」という考え方です。
メリットもありますが、上記のように異なる性格特性や動機を持った人間に同じ行動を強制することは難しい、また、そもそもコンピテンシー・モデルが一つに特定できない場合もある、といった難しさもあります。
これも少し極端な事例ですが、同じ営業部のハイパフォーマーでも、天性の人たらしで顧客と関係を築いて受注・深耕していくタイプもいれば、緻密な準備と提案で顧客から信頼されるタイプもいるといった形です。
これを踏まえて、最近はある程度組織規模が大きくなると、コンピテンシー分析をする際にも一つのモデルに集約するのではなく、クラスター分析等を実施して、性格特性に応じた複数のコンピテンシーモデルを作成するケースが増えています。
コンピテンシー導入の手順・ステップ
コンピテンシー評価を組織に導入する際の手順・ステップとしては以下の4点です。以下に紹介します。
- ハイパフォーマーへのヒアリングと分析
- コンピテンシー評価項目の設定
- 社員へのヒアリングとコンピテンシーモデルの改善
- コンピテンシーモデルと企業の方向性を合わせる
ハイパフォーマーへのヒアリングと分析
コンピテンシー評価を行なうためには、まず高い成果を上げている社員を特定します。そして、ヒアリングを行ない、一般レベルの成果を上げている社員、成果を上げていない社員との違いを洗い出し、成果に繋がっている行動特性を洗い出していく必要があります。
ハイパフォーマーへのヒアリングは複数名に行うことがポイントです。一人だけにヒアリングを行いそれを評価項目とすると、偏りが生じる可能性があるためです。複数のハイパフォーマーに共通する行動特性を見極めていきましょう。
「社員特定と分析」は、コンピテンシー評価において非常に重要なポイントです。そのため、管理職や同僚、部下等にもヒアリングを行ない、さまざまな情報を集めるようにしましょう。
事業内容や企業の方向性に沿って、理想的な人物像の行動特性や思考特性をリストアップしていくことも一つのやり方です。
また、定性的なヒアリングだけでは限界があるため、ハイパフォーマー、ミドルパフォーマー、ローパフォーマーへの適性検査を実施して、その結果を定量的に分析して、定性的なヒアリングとあわせて分析することで精度をあげることが一般的です。
コンピテンシー評価項目の設定
ヒアリング内容を元に、ハイパフォーマーに共通する行動特性から評価項目を作成します。
洗い出した行動特性から評価項目を作成し、評価として使える形にしていきます。この、評価として使える形になったものが「コンピテンシーモデル」です。
評価項目を作成する際は「コンピテンシー・ディクショナリー」や「WHOグローバル・コンピテンシー・モデル」を参考にすることで設定しやすくなります。
コンピテンシー・ディクショナリーやWHOグローバル・コンピテンシー・モデル等は、ビジネスにおけるコンピテンシーを網羅的に分類したものです。ヒアリング結果を基に、自社ではどのコンピテンシーが成果に繋がるのかを照らし合わせることで、効率的にコンピテンシーモデルを作成できます。
例えば、以下はコンピテンシーの研究機関であるスペンサー&スペンサーが考案した「コンピテンシー・ディクショナリー」です。コンピテンシーが包括的な形(6領域・20項目)に分類されているため、「自社で成果を上げるためのコンピテンシーを整理して、自社なりに表現する」等が容易に行なえます。
コンピテンシーの領域 | コンピテンシーの項目 |
達成行動 | 達成志向 |
秩序・品質・正確性への関心 | |
イニシアチブ | |
情報収集 | |
援助・対人支援 | 対人理解 |
顧客支援志向 | |
インパクト・対人影響力 | インパクト・影響力 |
組織感覚 | |
関係構築 | |
管理領域 | 他者育成 |
指導 | |
チームワークと協力 | |
チームリーダーシップ | |
知的領域 | 分析的志向 |
概念的志向 | |
技術的・専門職的・管理的専門性 | |
個人の効果制 | 自己管理 |
自信 | |
柔軟性 | |
組織コミットメント |
社員へのヒアリングとコンピテンシーモデルの改善
コンピテンシーモデルができたら、作成したモデルを踏まえて社員へのインタビュー・ヒアリングを行います。本格的に運用する前に、検証を行うことが重要です。作成したコンピテンシーモデルが、実際に成果に繋がるものになっているかという検証です。
評価や採用基準に関するモデルを作ったときに大切なのは「予測的妥当性」という考え方です。これは、「作成したモデルで評価が高い人物は、実際に仕事で成果を上げている人物と一致するか?」を示す指標です。
モデルでの評価と実際のパフォーマンスや成果を照らし合わせて、8割を超える程度の納得感があれば、十分な予測的妥当性だといえるでしょう。
コンピテンシーモデルと企業の方向性を合わせる
コンピテンシーモデルが固まったら、最後に企業の方向性と一致していることを確認します。
作成したコンピテンシーモデルと、ミッションやビジョン、バリューが一致していないと、コンピテンシーモデルを導入することで、組織の方向性や社風に悪影響を及ぼす恐れもあります。
自社のミッションやビジョン、バリューと一致していない、親和性が低いと考えられるコンピテンシー項目があった場合には、慎重な検討が必要です。ズレがあるということは、成果をあげるための行動とバリューで提供する行動が違うということです。その状態でコンピテンシーモデルを導入すれば社風を乱しますし、一方で、バリューを浸透させると成果を阻害する要因になり得るということです。
作成したコンピテンシーモデルと企業のバリューが一致していることは、組織にコンピテンシー概念を導入して成果を出すために重要な要素です。
コンピテンシーモデルを導入する
コンピテンシーモデルと企業の方向性のすり合わせが完了したら導入・運用となりますが、導入後も定期的に検証・改善していくことが大切です。
企業を取り巻く環境、事業状況やメイン顧客の変化、組織編成や業務内容が変化すると、成果をあげるためのコンピテンシーも変化します。作成したコンピテンシーが的外れなものとならないように、「コンピテンシー評価が高い人が入パフォーマーになっているか?その傾向に変化がないか?」は運用内でチェックしておきたいところです。
コンピテンシーモデルを導入する時の注意点
コンピテンシーモデルを導入する際の注意点を3つ紹介します。導入をスムーズに進めていくためにも、注意すべき点を事前に理解しておくことが大切です。
- 導入の目的を明確にする
- 導入完了まで時間が必要
- 振り返り・改善を継続して行う
以下にそれぞれ解説します。
導入の目的を明確にする
コンピテンシーモデルを導入する場合、最初に導入の目的を定義しておくことが必要不可欠です。コンピテンシーモデルの導入・運用にはそれなりの労力が生じます。
何のために導入するのかによって、作成するモデルの数や対象、求められる精度なども変わっていきます。まずは、ある程度限定した対象で導入をトライアルしていくことがおすすめです。
導入完了まで時間が必要
前述の通り、コンピテンシーモデルを作成し、導入が完了するまでには工数とコストが必要となります。
コンピテンシー導入の手順・ステップでも紹介しましたが、
- ハイパフォーマーへのヒアリングと分析
- コンピテンシー評価項目の設定
- 社員へのヒアリングとコンピテンシーモデルの改善
- コンピテンシーモデルと企業のバリューのすり合わせ
といった手順を進めていく必要があります。
とくにコンピテンシーモデルの作成と検証は専門性も必要であり、外部への依頼費用も生じるでしょう。また、人材育成に反映して成果をあげていくとなると、2~3年程度の時間軸で考える必要があります。
振り返り・改善を継続して行う
コンピテンシーモデルは導入して終わりではありません。導入したコンピテンシーモデルが組織にとって適切なものになっているか、成果・成長に貢献しているかを定期的に振り返り、必要に応じて改善していくことが大切です。
現在は、企業を取り巻くビジネス環境に急激な変化が起こる時代です。環境が変化すれば、戦略や組織も変化し、成果を得るためのコンピテンシーも変わっていくでしょう。その時々の状況に合わせて、どのような人材が企業において成果を出しているか、ハイパフォーマーなのかを見極め、評価項目を見直していくことが欠かせません。
まとめ
コンピテンシーとは、組織内のハイパフォーマーに共通する行動特性のことです。
たとえば、コンピテンシーを人事評価に導入することで、求められる行動が明確になり、社員のパフォーマンス向上が期待できたりするメリットがあります。また、採用に活用することで、活躍する人材を見極めることが容易になります。
一方で、コンピテンシー評価は運用の難易度が高く、運用負荷も重い側面があります。また、利用する上での限界もありますので、自社の状況に合わせてうまく導入を検討するとよいでしょう。
最近では、コンピテンシーモデルの作成から検査までを一括して実施できる新世代の適性検査なども誕生していますので、採用や育成等にコンピテンシーモデルを導入したい場合にはぜひ検討してみてください。