コミュニティに特化したオウンドプラットフォームを開発・提供するオシロ。これまで、アーティストやクリエイター、ブランド企業、メディア、国のプロジェクトなどを含む、300以上のコミュニティを創出しています。
美術館のような明るく開放的なオフィスの中、社員がいかにクリエイティビティを高めて業務に取り組めているか、働きやすさのための環境づくりについて、代表取締役社長 杉山 博一様に伺いました。
会社名:オシロ株式会社様
設立:2017年1月23日
従業員:30名(2024年9月時点)
アーティストやクリエイターが創作活動を続けられ、コアファンと直接つながり、「お金」と「エール」を継続的に生みだすコミュニティ専用オウンドプラットフォーム「OSIRO」を開発する。さらに「OSIRO」を活用したコミュニティの企画、制作、運用、管理を行い、クリエイターや企業ブランドなどのサブスク型ファンコミュニティ構築を支援する事業を展開。主宰者とメンバー、メンバー同士の縦と横の関係を豊かにするコミュニティ活性化の支援を行う。
<目次>
- Q.杉山様の開業に至るまでの経緯について教えてください
- Q.それが貴社の「日本を芸術文化大国にする」というミッションにつながっているのですね。そこからどのような経緯で「OSIRO」の開発に至ったのでしょうか?
- Q.アーティストやクリエイターをリスペクトする姿勢が共感を呼び、事業の成長にもつながったということですね。
- Q.どのように人材を採用し、組織を醸成してきたのでしょうか?
- Q.そのような組織をつくるコアバリューなどはあるのでしょうか?
- Q.福利厚生でいえば、ほかにも他社にない制度があるようですが?
- Q.ほかに、エンゲージメントを向上させるためにどんな工夫をしていますか?
- Q.自社システムが結果的にエンゲージにもつながっていたのですね?
- Q.今後の目標についてお聞かせください
Q.杉山様の開業に至るまでの経緯について教えてください
杉山様:引き籠もりから一転、美大でデザインを専攻し、24歳で世界一周の旅に出ました。帰国してからは、自分の特性上、会社勤めは難しいことと、絵を描きたいという衝動を正直に、アーティストとしての道を歩み始めました。
それだけでは食べていけないので、デザイナーとして友人・知人の仕事を手伝い、日銭を稼ぐような生活をしていました。
ただ、30歳になったことを機に自分に才能がないことを自覚し、アーティストとしての活動には終止符を打ちました。一方で、デザイナーとして国際的なデザイン賞を獲得したこともあり、フリーランスとしてその道一本でやっていこうと決心したんです。
もともと世界一周でみてきた歴史的に残る文化遺産から、「やるならこの世に何か足跡を残せるものを作りたい」と考え、アーティストやクリエイターとして活動していました。
しかし、32歳になったころ『ビジョナリー・カンパニー』(ジェームズ・C・コリンズ、ジェリー・I・ポラス共著)に感銘を受け、歴史に残るサービス、会社をつくってみたいと思うようになりました。
そのようなタイミングで、ある人物と出会います。その方は外資系の証券会社でトップセールスとして活躍し、MBA取得のために米国に渡り最新の金融サービスを学んで帰国したばかりのときに知り合いました。
意気投合して共同で創業した会社が、私の初めての起業であり、経営者の第一歩です。その事業は当時日本にはなかった IFA(※)を業界に先駆けて始め、私自身は経営が軌道に乗ったころに退任しましたが、現在ではIFA分野のリーディングカンパニーとなり、2024年には上場を果たしています。
※IFA(Independent Financial Advisor)…既存の金融機関からは独立した事業体系、経営方針を持ち、中立的な立場から顧客に金融のアドバイスをおこなう職種・業態のこと
その後は経営課題をクリエイティブで支援する、現在でいう「デザインコンサル」を手がけていました。そのころオシロの共同創業者にもなる四角大輔氏と知り合います。当時、四角氏はミリオンセラーを連発していた音楽プロデューサーを引退し、ニュージーランドへと移住する直前でした。
私は四角氏のクリエイティブパートナーとして独立後の仕事を手伝いつつ、ニュージーランド愛に触れる毎日で(笑)。その圧倒的な偏愛ぶりに、私もすっかりニュージーランドに魅了されてしまったんです。それからというもの、私自身も日本とニュージーランドを行き来する日々が始まりました。
正直、その時は本気でニュージーランドに移住しようと考えていました。現地での生活の居心地がよかったこともあります。
しかし、日本とニュージーランドを行き来している日々のなかで、徐々に後ろ髪を引かれるような思いが胸の内を占めるようになっていることに気づきました。それは、日本の未来への想いでした。アジア周辺国の勢いは感じられているのに、日本には技術はあるものの停滞感から脱しきれていない。
一方で欧州は経済から芸術に舵を切り、しっかりとプレゼンスを保っています。私は日本が今後も技術で発展してほしいと思いつつも、欧州のように芸術文化でプレゼンスを保てる国となれば、新たな活路が見いだせるのではと漠然と考えていました。
そんな想いを行動に移すきっかけは、思いもよらないタイミングで起こりました。いつもと同じように、ニュージーランドへと向かおうとした時、飛行機に乗れなくなるという事件が起きるのです。
このとき「おまえは日本を芸術文化大国にしなさい」という言葉が、まるで天から降ってきたように頭から離れなくなりました。断れなかったこの事象を、私は「天命」を授かったと思っています。これまで霧がかかったようにぼやけていた視界が鮮明になり、自身の「天命」を果たすこと以外は頭から消し飛んでしまうほどでした。
そうして、当時考えていたニュージーランドへの移住よりも、日本に留まり天命を全うすることに決めたんです。
Q.それが貴社の「日本を芸術文化大国にする」というミッションにつながっているのですね。そこからどのような経緯で「OSIRO」の開発に至ったのでしょうか?
杉山様:そうですね、当初は海外のITサービスの日本法人代表として日本市場参入の経験もあったので、日本を芸術文化大国にするために、なにか良いサービスが海外にあればそれを日本に持ってくればいいと考えていました。
そこで色々と探してみたところ、応援するアーティストへ個人が送金するサービスや、反対に特定のジャンルや作品が好きなファンがつながり、熱狂的に語り合って盛り上がっているコミュニティサービスもありました。
しかし、私自身が30歳でアーティストに終止符を打ち、その後はクリエイターとして活動していた原体験から実感しているのですが、「お金」も「エール」も両方がないと、活動を継続していくことは難しいのです。
お金をもらうだけでは虚しく、エールだけでは食べてはいけません。その両方が揃わなければ、自分自身も味わった「創作の孤独」から、アーティストやクリエイターを救うことができないと感じていました。
そこで「『お金』と『エール』の両方が得られるサービスがないのなら、自分で作ろう」と決心しました。もちろんプラットフォーム作りは容易ではありませんでした。
しかし、四角氏と日本初のクリエイターエージェンシーであるコルク株式会社の代表・佐渡島庸平氏が共同創業者として参画してくれたことで、着実にクリエイター愛のあるプロダクト開発を進化させていくことができました。
2015年末に「OSIRO」のベータ版をリリースし、第1号として四角大輔氏のコミュニティをスタートしたのを皮切りに、自分の周りのアーティストやクリエイターにサービスを提供し、実際にOSIROを使ってもらいながらブラッシュアップを重ねていきました。
その後口コミから徐々に導入していただく方が増え、プラットフォーム開発には莫大に資金が必要だと気が付き、会社を設立したというのが、オシロ創業の経緯となっています。
Q.アーティストやクリエイターをリスペクトする姿勢が共感を呼び、事業の成長にもつながったということですね。
杉山様:前述した通り、当社は「日本を芸術文化大国にする」というミッションのもと、コミュニティを通してアーティストやクリエイターに「お金」と「エール」の両方を提供できる仕組みづくりを事業としています。
そうすることで、日本に豊かな芸術文化が醸成されていくことにより、アーティストやクリエイターが表現活動を続けていける世界、よりリスペクトされる社会をつくっていきたいという想いがあります。
そのようなオシロの姿勢が多方面にご共感していただけたため、ありがたいことに「OSIRO」をご導入いただくだけでなく、芸術文化に携わる方や実業で成功された方からのご援助もいただくことができました。
そうした共感の輪は、社内でも広がっていきました。最初こそ輪の中心は創業メンバーだけでしたが、その輪は社員が増えるたびに確実に広がっています。当社の創業メンバーは元アーティスト&デザイナーであった私、そして音楽プロデューサーであった四角氏、そして出版業界出身で現在もクリエイター・作家の活動を支援する佐渡島氏です。
いずれもアーティストやクリエイターに対する想いがとても強く、同時に当事者でもあります。現在、「OSIRO」は企業のブランドとファンをつなげるコミュニティ、さらには従業員エンゲージメントを高めることを目的とした社内コミュニティとしてご活用いただくことも増えてきました。
しかし、アーティストやクリエイターへのリスペクトは、当社のDNAであり、今後もそれが変わることはありません。
Q.どのように人材を採用し、組織を醸成してきたのでしょうか?
杉山様:基本的にはエンジニアと、コミュニティを設計して立ち上げサポートをしていくコミュニティ・プロデューサーの2つの職種を軸としていますが、最近では今後の成長を視野に入れて広報やマーケティング、バックオフィスの採用も強化しています。
また、オシロの採用でユニークな点は、コミュニティがきっかけとなり入社してくれた社員がいるところです。「OSIRO」では非常に多様でユニークなコミュニティが多数生まれており、私も関心のある分野のコミュニティにいくつか入っています。
そんなコミュニティ内での活動で友だちとなり、共に楽しんでいるうちにコミュニティの魅力を知り、オシロのミッションに共感してくれたことで入社した社員もいます。
これも当社における採用の一つの形であり、リファラルというよりも「仲間が仲間を呼ぶ」といった感覚を持っていますね。
もちろん採用事業で妥協するつもりはまったくなく、リーダーやメンバー関係なく非常に多彩なバックグラウンドを持った、優秀な社員が集まっていると自負しています。社員各自がプロジェクトや目標に向かって、責任をもって行動できる組織になっています。
Q.そのような組織をつくるコアバリューなどはあるのでしょうか?
杉山様:当社には以下6つのコアバリューがあります。
- 「BE ORGANIC」(健康に気遣いパフォーマンスを最大化しよう)
- 「TOUCH THE ART」(アートに触れて心の栄養を取る)
- 「DIALOGUE BASE」(相手が話しやすい環境をつくりスムーズに議論を進める)
- 「CREATOR RESPECT」(クリエイターやオシロをつくるみんなをリスペクト)
- 「GRI GRIT」(一つひとつ粘り強くやり抜き完全燃焼する)
- 「+TASRISE」(期待を超えるアクションを+足してサプライズを届ける)
コアバリューはもともと「TOUCH THE ART」「BE ORGANIC」の2つだけでした。
「TOUCH THE ART」は先述した「CREATOR RESPECT」の原型となるものです。自分たちで芸術文化大国を目指す以上、まずは自分自身が芸術文化に触れるべきと示唆したものとなります。そのため社員に「芸術文化に触れたいが、費用が足りない」という思いはさせないように、毎月3万円まで補助を行うことにしました。こうして、心の栄養補給を目的としたコアバリューが生まれました。
一方で、「BE ORGANIC」には、社員には何より健康であってほしいという願いが込められています。特に食習慣は大切で、ビタミンが豊富な無農薬野菜を食べてほしいと思っています。
しかし、私がそう思っても結局は安価な野菜を選んでしまいます。それならば、会社で野菜を購入して直接配布すれば、みんなが食べてくれるのではないかと考え、毎週月曜日に八百屋さんから直送された無農薬野菜を配布しています。
私にとって社員は家族です。家族には身体と心の両方に栄養補給してもらいたいと思っています。純粋に「社員は家族」という想いから、2つのコアバリューは始まったのです。
Q.福利厚生でいえば、ほかにも他社にない制度があるようですが?
杉山様:給与は額面というよりその内訳にあたる種類の多さに特徴があります。
先ほどの「BE ORGANIC」における野菜給や「TOUCH THE ART」における芸術給のほか、年に一度自身のパフォーマンス向上や健康増進に役立つものの購入に10万円を補助する「パフォーマンス給」や会社から徒歩2km圏内に居住している場合に2万円を補助する「徒歩給」など、たくさんの種類があります。
繰り返しになりますが、当社はミッションである「日本を芸術文化大国にする」を掲げ、非常に重視しています。社員も全員がミッションに共感し、その実現のために懸命に働いてくれています。
私ができることは、彼らがパフォーマンスを最大化し、自身の目指すものに粘り強くやり抜き、一つひとつのアクションに完全燃焼できるほど情熱的に取り組める環境をつくることです。そのことを突き詰めて考えているうちに、自然とこのような福利厚生制度となりました。
「すごい投資をされていますね」とよく言われますが、私にとってはごく当たり前のことで、「人に投資している」とか「コスト」というような感覚すらありません。
Q.ほかに、エンゲージメントを向上させるためにどんな工夫をしていますか?
杉山様:当社ではチャットツールのSlackで業務に関するやり取りを行っているほか、自社ツールの「OSIRO」を使ったコミュニケーションも取っています。
そこでの目的は、もちろんお客様に提供しているシステムを自社で活用し、機能や効果を実感することもありますが、同時にビジネスの場で不足しがちな「感情共有」を社員同士でしていくことにあります。
つまり、効率性だけを追求した情報共有だけではなく、より上質なコミュニケーションを重視しているのです。
具体的には、先ほどお話しした芸術給は、社員は毎月1回どのようなアートに触れたかの感想を「OSIRO」上のブログに書くことがルールになっています。文章量については特に決まりはありませんが、自分が好きな分野やアーティストに触れた体験が綴られるので、どこに心が震えたのかなど、緻密で深い内容が書かれています。
すると、そこに共感する社員も一定数いて、日々のコミュニケーションがさらに活発になっていく。そんな社員の様子を見ると芸術給のためだけでなく、本心で楽しんでやっていることがわかります。
さらにいえば、変な話だと思われるかもしれませんが、当社では「日報で盛り上がる」という不思議な現象が日々起こっています。これも運用を「OSIRO」でやっているためであり、日々の日報を単に業務報告などの情報共有だけではなく感情共有もできるからであると考えています。
「OSIRO」では日報を書く意義を「振り返り」と「オープンマインド」であると定義しています。淡々と上司だけに連絡事項を記載するのではなく、日々自身の業務やアクションを内省し、それを全社員に向けて発信しリアクションがあることで、より客観的な視点から自身を振り返ることができます。
ときには雑談に脱線していくこともありますが、それがむしろ社内コミュニケーションの活性化を生み出しているともいえます。
そのため、現在では社内エンゲージメントの向上やコミュニケーションの活性化にお悩みの企業様から、「OSIRO」の仕組みを社内コミュニケーションに取り入れたいという話をいただくことが多くなってきています。
Q.自社システムが結果的にエンゲージにもつながっていたのですね?
杉山様:システムは作っている人たちの声や関係が反映されると思います。「人と人が仲良くなる」を開発思想としているシステムを、仲が悪く会話ができない組織が作れるとは思いません。
そのため、社内コミュニケーションとして「OSIRO」を利用するだけではなく、リアルな場でもエンゲージメントを向上させる工夫をしています。例えば、オシロでは月曜日の朝の10分間を雑談タイムとしており、雑談を交えてから業務が始まります。雑談自体が日々の業務に組み込まれており、それ以外の時間にも自然に発生しています。
かつては「雑談している暇があったら手を動かせ」という風潮が多くの企業にありましたが、ご存知の通り、心理的安全性のない組織ではコミュニケーションに躊躇を生み、問題が潜在化しやすい傾向にあります。
オープンマインドで気軽に話ができるカルチャーがあるからこそ、組織としての課題が可視化しやすくなり、改善のサイクルを迅速に回せるようになります。
ちなみに先ほど述べた日報では、ミスをしてしまったことや失注してしまったことのほか、私への苦言が書かれることもあります。心苦しく思うこともありますが、社員からの切実な声が経営者である私自身に届くのはとてもありがたいです。
これはVUCAと呼ばれる現代で会社を経営している方々には同意してもらえることだと思いますが、経営者としては問題が発覚するまでの期間が遅くなることで、改善の機会を逸してしまうことのほうがはるかに恐ろしいことです。
私たち自身がそういう組織であるからこそ、同じサービスを使って社内コミュニティを豊かにしたいという企業様からのお問い合わせが増えているのでしょう。
ほかにも「OSIRO」の機能面でいうと、吹き出しチャットという感情を表す機能があります。これまでスタンプを使うことで感情は表現できても、テキストは固定されていました。
そこでチャットツールでは吹き出しを選んで自分で伝えたいことを入力できるようにし、感情と伝えたいことの両方において「良いとこ取り」ができるようになりました。この機能があることで感情がより表現しやすくなり、効率ではなく感情の高質化に重きを置いたプロダクトになっています。
Q.今後の目標についてお聞かせください
杉山様:10年以内に必ず、世界を変えたサービスとして存在していたいです。日本だけじゃなく海外にいらっしゃる日本の芸術や文化のファン同士が仲良くなれる場を創出していたいとも考えています。
そうすれば、創作活動・表現活動しているクリエイターは、1日でも多く活動を続けられるでしょう。
そのためにも「OSIRO」だけではなく、「城下町」というサービスを構想しています。世界80億人のうち、1/10の8億人が日本文化のファンであるという仮説のもと、彼らの居場所、日本贔屓な方々向けのコミュニティを実現させていきたいですね。
加えて、さらに多くの企業様で「OSIRO」を導入し、社内コミュニティのため有効に活用していただきたいですね。どこの企業でも社員同士はもっと仲良くなれるはずですし、職場の人間関係の質を上げることは今後何より重要となるでしょう。
では、どうやって仲良くなれるか。その会社の風土や文化によってきっかけは違うと思いますが、「OSIRO」を通じて職場の人間関係が育めれば、業績アップにもつながると考えています。ぜひこれからも、そのお手伝いをさせてもらえればと思います。