アルバイトができない学生たち【人を残すvol.83】

経営者向けメールマガジン「人を残す」fromJAIC

アルバイトができない学生たち

皆 様

 

いつも大変お世話になっております。

株式会社ジェイックの梶田です。

 

皆様は、社会人になる前にアルバイトはされていましたか?

どんなアルバイトでしたか?

 

私には、今年から大学生になった息子がいるのですが、

一人暮らしを始め、先日来アルバイトを探しています。

 

しかしコロナの影響でなかなか応募先が見つからず、

また、競争も激しく、学生には狭き門になっているようです。

 

総務省の労働力調査によると、学生アルバイトの雇用者数は、

直近の1年程度、前年同月比を大きく下回り、その下げ幅は

リーマンショックや東日本大震災後を上回っているそうです。

 

アルバイトの定番とも言える外食産業の打撃をみれば、

さもありなん、というところでしょうか。

 

私が、はじめて従事したアルバイトは…

 

「新聞配達」でした。

 

 

皆様は、「新聞奨学生」という制度はご存知ですか?

 

新聞社が大学や専門学校の学費を支援する代わりに、

学生は、新聞専売店に所属し、新聞配達に従事します。

 

専売店は、その学生の住まいと朝晩の食事を用意してくれて、

わずかですが毎月お給料も出してくれます。

 

これだけ聞くと、とても充実した制度のように聞こえますが…

 

毎朝3時過ぎに起きて、雨が降ろうと、雪が積もろうと、

バイクで200件近くの住宅に間違いなく新聞を配るのです。

 

そのまま、眠たい目をこすりながら、昼間は学校に行き、

授業が終わると、同世代の若者たちを尻目に専売店に戻り、

翌朝の広告の折り込みと夕刊の配達が待っています。

 

…これが精神的にも体力的にも、思った以上のキツさで、

始めた当初は、何度も辞めたいと思っていました。

 

しかし、大学受験に失敗し、

予備校に通う経済的な余裕のなかった私にとって、

この制度は空から垂れさがる蜘蛛の糸に思えたのです。

 

高校の先生は、その厳しさを予測してか、知っていたのか、

普通に浪人することを許してもらうように私の父を説得すると

申し出てもくれていましたが、、、

 

火を見るよりも明らかな結果を前に私の意思は決まっていました。

 

 

丸一日の休みは1月2日の完全休刊日だけ(当時は)で、

それ以外は毎日新聞を配り続けました。毎日です。

 

日曜は、学校もなく夕刊もないのですが、住人が在宅している

可能性が高いので、大抵、丸一日新聞代の集金に回っていました。

 

今思い出しても、よくやり切ったなぁと感慨深くもありますが、

2度とやりたいとは思えません(苦笑)。

 

 

私が配達を担当した区域に、広大な分譲マンションがありました。

全300戸程度で100戸近く配達があったと記憶しています。

 

その中で、毎月集金にお伺いすると、デパートで売っているような

贈答用の詰め合せお菓子をくださる奥様がいらっしゃました。

 

「いつも、新聞を届けてくれて本当にご苦労様です。

これ、みなさんで召し上がってください。」

 

何度訪れても不在の人がいたり、居留守を使われたり、

訪問そのものに文句をいわれることの多かった集金業務の中、

荒み切った心が洗われる、そんな貴重な経験でした。

 

専売店の親方に、後で聞いた話なのですが、

 

なんでも、そのお宅のご主人は新聞記者をされておられ、

出張が多く不在がちなそのご主人が、

 

「将来ある奨学生たちが頑張って‏くれているから、

自分の記事がいろんなお宅で読まれてる。

だから、すこしでも励ましてやってほしい。」

 

と言って、毎月、奥様に用意を言いつけておられたそうです。

 

自分自身の努力不足を悔やみ、自分の家庭環境を不遇と呪い、

誰ともつながりが持てず、誰からも褒められず、

 

社会の片隅に追いやられたような自己憐憫に囚われた私を、

陽の光の下に戻してくれるようなひとときでした。

 

それ以外にも、

 

共に働いた同じ受験生であり奨学生の仲間、

彼は、山口県から出てきて方言がかわいらしく愉快でした。

 

寒い日の配達から帰ってくると、いつも温かくて甘いココアを

用意して待っていてくれた専売店のおカミさん。

 

大学に受かり、最後の配達の日に、購読契約時の粗品である

シャンプーやタオルなどを、山ほど持たせてくれて、

 

「いつでも戻ってきていいからな!」と

 

“にかっ”と微笑んでくれた親方の笑顔は今でもよく覚えています。

 

苦しくて歯を食いしばった1年。

 

わずか1年でしたが、その経験は、それ以降、事あるごとに

自分を奮い立たせてくれる記憶となり糧になりました。

 

自己憐憫だらけの屈折した若者が、それなりの社会人となり、

今、こうして教育に関する仕事に従事できていることを思うと、

それらは、神様のくれたギフトのように思えます。

 

それは、私にしか持てない機会であり、経験となりました。

 

 

「マネジメントとは“機会と経験”である」

 

人間は平等ではありません。

社会だって決して公平であるとは言えません。

 

良いも悪いも様々な機会と経験に初めて直面するのが、

アルバイトという準社会であるように思います。

 

すべてが経験の賜物。

 

清濁併せ呑む器のようなものが作られる機会に、そして、

その後の社会人生活の助走となるような経験に、

私の息子も早く恵まれるといいな、と思います。

 

著者情報

梶田 貴俊

元株式会社ジェイック シニアマネージャー(現ジェイック契約パートナー)

梶田 貴俊

前職、通信機器ベンチャー商社勤務時代にリーマンショックを経験。代表取締役として、事業再生計画を推進し同社のV字回復を実現した。現在はジェイックの講師として研修事業を牽引している。

著書、登壇セミナー

『会社を潰さないためのSunday Management List ―中小企業のリーダーがやるべき日曜日のマネジメントリスト』

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