サイバーエージェント常務執行役員CHO 曽山哲人氏から学ぶ Vol.2

更新:2024/01/06

作成:2023/12/27

リーダーシップのリスキリングサムネ_SA曽山氏v2

「リスキリング」というキーワードが出る度に、”IT”が接頭語として付いてきます。リスキリングは、ITだけに注目すべきなのでしょうか?「組織」の根幹にある「人間の力」を引き出すスキル、すなわちリーダーシップも、令和に合わせてリスキリングする必要があります。

 

前回に引き続き、真のリーダーシップを引き出すための具体例を、株式会社サイバーエージェント常務執行役員CHO曽山哲人氏に語って頂きました。
*本レポートは2023年7月26日開催したセミナーを基に作成したものです。予めご了承ください。

曽山 哲人氏
株式会社サイバーエージェント 常務執行役員CHO
上智大学文学部英文学科卒。高校時代はダンス甲子園で全国3位。1998年に株式会社伊勢丹に入社し、紳士服の販売とECサイト立ち上げに従事。1999年に当時社員数20名程度だった株式会社サイバーエージェントに入社。インターネット広告事業部門の営業統括を経て、2005年人事本部長に就任。現在は常務執行役員CHOとして人事全般を統括。キャリアアップ系YouTuber「ソヤマン」としてSNSで情報発信しているほか、「若手育成の教科書」「クリエイティブ人事」「強みを活かす」などの著作がある。

本記事は、全2部構成でお送りします。Vol.1は下記よりどうぞ。

<目次>

マネジメントの役割とは?

マネジメントが果たすべき役割とは何でしょうか?

 

これ、実は、サイバーエージェントの代表である藤田晋(すすむ)が、設立から4年後に初めて行ったマネージャー合宿で問いかけた問いなのです。(当時マネージャーは20人いて、私もその1人でした)

 

藤田晋はその時、「マネジメントの役割は、組織の成果を出すことである」と述べたのです。

 

マネジメントの役割

 

例えば、どんなに仲が良いチームでも成果が全然出ていなければ、評価できませんね。あくまで成果を出すことが1番にないとダメなのです。

 

次に、やり方はなんでも良いということです。褒めること、モチベーションを上げること、育成すること、これら全て大事なことですが、それでも結果が出ないマネージャーはサイバーエージェントではダメなのです。

 

褒めることも育成することも全てが大切なことですが、それらはあくまで手段であり、目的は「成果を出すこと」であるということを私たちは共通言語として持っています。褒めるタイプのマネージャーもいれば、少し怖いタイプのマネージャーもいますが、それはどちらでも良いのです。

 

重要なポイントは、長続きすることです。次々に人が抜けていってしまうと、結局、組織の成果が出ません。組織の成果を出すこと、そのために少々怖がらせる必要があるのか、褒める必要があるのか、それはどちらでも良いというのが我々のマネジメントスタイルです。

 

しかし、長続きできなければ成果は出ないので評価はできません。

 

そこで改めて考えてみると、永続性や長続きのためには、感情のマネジメントが重要になってきます。嫌な環境にずっといるということはありません。よほど成果が出ていて、給与が大幅に上がるような状況ならば、金銭報酬で引き留めることも可能でしょう。

 

しかし他に、もっと良い環境、ワクワクできる場所があるとしたら、仮に同じ金銭報酬ならば移ってしまいます。そのため、感情のマネジメントは必須であると考えています。

 

それでは、サイバーエージェントがどのようなマネジメントの変遷を辿ったのかを見てみましょう。

 

サイバーエージェントのマネジメントの変遷

SAの変遷

 

最初の頃、2000年頃は、完全な成果主義でした。隣の人とは時々ご飯に行ったり、飲みに行ったりする程度で、基本的には個人の成果を重視するスタイルでした。その結果、縦割り的な組織構造が強くなり、成果を出す人は出すが、出せない人は去っていくという状態でした。

 

このような失敗をもとに、「実力主義型終身雇用制度」に変えることにしました。

 

実力主義で優秀な人は抜擢する、どんどんチャンスを与える、環境を提供する。一方で終身雇用、「価値観が合う人を採用し、大切にする」という考えを2003年に明確にしました。

 

2003年というと、成果主義に関してさまざまな議論がされていた時期です。しかし、我々は単純な成果主義は合わないと考え、長期雇用の会社を作ることを明確に決めました。そして、長く会社を支えてくれる人を大切にしようと宣言しました。

 

そして現在では、「チームサイバーエージェント」という言葉もあるほど、チームプレーをとても大事にしています。チームプレーができない人は採用しない方針を採っています。

 

※ちなみに、「チームサイバーエージェント」という言葉については、私たちのミッションステートメントに明記されています。まず、「21世紀を代表する会社を創る」という私たちの会社のビジョンがあり、その次に以下のようなミッションステートメントがあります。

  • 若手の台頭を喜ぶ組織で、年功序列は禁止
  • 長期にわたって働き続けられる環境を実現
  • チームサイバーエージェントの意識を忘れない …等

元々は組織が縦割りで、個人主義が強く、「本当にサイバーエージェントは個人商店だ」と言われてきました。そしてその個人商店を脱却するために何をすべきか、本当にわかっていませんでした。

 

しかし、「チームプレーを重視する」「チームで進む」という言葉を定め、チームプレーする人を表彰したり評価したりすることから、変化を遂げることができたのです。

 

皆さまの会社が今どのフェーズにあるのかはわかりませんが、必ず変えることができます。それでは、リーダーの育成に関する具体的な取り組みについてお話ししていきたいと思います。

 

サイバーエージェントにおけるリーダー育成の取り組み

最も人を育てる方法は何でしょうか?

 

任せること、チャレンジさせること、権限委譲すること、褒めること、ストレッチした目標を設定すること、決断の経験をさせること、場数を踏ませること……。

 

これら全てが正解ですが、私から1つ加えさせていただきたいのは「抜擢」です。「抜擢」とは、ただ単に「肩書きを与える」ことではありません。

 

正確には、「期待をかけること、そしてそれを任せること」の2ステップです。(※少なくともここではそう定義させてください)

 

例えば、私が営業のマネージャーで、5人の部下がいるとします。部下は1年目の新入社員や中途社員で、まだほとんどスキルがありません。その人を、何に抜擢できるでしょうか?普通は難しいと考えますね。しかし、「期待をかけて任せる」という考えにおいては、例えば以下のようなことができます。

「今、この営業部は、クライアントの情報や社会情勢に常に目を配らなければならない。そういう商品を扱っている。そこで新人の山田太郎さんには一つの仕事をお願いしたい。新聞を読んで、我々のチームに活用できそうな記事をクリッピングして、メールやチャットで発信してくれるかな。そうすれば、僕たち営業メンバーも営業成績が上がり、チーム全体としても非常に役立つ。新聞の情報収集責任者!これを是非、あなたならできる。お願いできるかな。」

 

このように、期待をかけて任せるということが「抜擢」の本質です。皆さまの部下が何人いたとしても、それぞれに期待をかけて任せればいいのです。

 

自走サイクルを回す

そして、期待をかけて任せるという「抜擢」をすることで、自走サイクルが働きます。「抜擢」→「決断」→「失敗」→「学習」という4つのステップがぐるぐる回っていくと、どんどん自走するようになります。

 

自走サイクル

 

まず抜擢をします。例えば新聞情報収集を任せると、次にどう行動するか?(どの新聞を読むか?)という決断が必要となります。そして多種多様な新聞の中から、例えば両親が読んでいる新聞を選びそれを切り抜き、上司に提出するとします。

 

しかし上司からは、「ビジネス界では経済新聞を読まなければならない」との指摘を受けたりすることがあります。ここで小さな失敗が起きます。自ら決断をして失敗する……、最初のうちは失敗することがほとんどですが、重要なのはそこから学習することです。

 

「そうか。ビジネス界では新聞は経済新聞を読む必要があるのか。ということは、雑誌にもビジネス誌があるのかな?今度はビジネス雑誌も読んでみよう!」と学習が始まります。こうした部下の行動に対して、また期待をかけて任せてあげると、さらに自分で決断し、自分で行動し、自分で学ぶ……とどんどん自走していきます。

 

「新聞を読んでおいて。新聞読まない奴は社会人じゃないから」と言う会話があるとします。これも同じように、新聞を読ませるなら、「新聞はぜひ読んでほしい。我々の業務に役立つから。ぜひ力を貸して欲しい。よろしくお願いします」と伝えてあげた方がやる気になりますよね。これが抜擢です。この言動によってやる気を引き出すことが大切です。

 

皆さまの中には、社内で育成プログラム作りや研修を実施されている方も多いのではないでしょうか。時として外部に依頼することもあるでしょう。特に自社のノウハウではカバーできない分野は、専門の組織に依頼することも有効だと思います。我々も、ハラスメントに関するものやリーダーシップに関するものなど、外部の研修を活用したり、外部から取り入れたりしています。

 

しかし、この「抜擢」の方法は、コストをかけずに行えるものです。これを活用して、どんどん人を動かす力を身に付けていくと、成長は加速します。内部での育成はよくOJTと言われますが、より重要なのはこの「抜擢」です。期待をかけて任せることが、育成には最も効果的だと思います。

 

決断が人を成長させる

次に、成長する人と伸び悩む人の違いについて、議論してみましょう。彼らの違いは何でしょうか?

 

「素直さ」「実行力」「意欲」「柔軟性」「ポジティブさ」「課題を整理できる力」……

 

いろいろあると思いますが、私が特に大事にしているのが「決断経験」です。成長する人というのは、常に決断を続けています。決断していない人は伸び悩む。同じレベルの仕事を続けている人は、決断する機会が減ってしまうため、成長が停滞します。新しい仕事や新しいチャレンジを続ける人は、常に決断を下すという状況にあります。

 

決断経験

 

皆さまも、自分で決めた経験は、成功も失敗も全て貴重な経験となるということを忘れないでください。ぜひ「決断経験」を周りの部下や後輩に増やしていってもらえればと思います。

 

リーダーを育てる独自の仕組み

参考までに、サイバーエージェントの「決断経験」を提供する仕組みを2つ紹介します。

 

リーダー育成の仕組み

 

1つは、「あした会議」です。役員対抗で新規事業バトルを行うというものです。

 

この会議では、役員1人と現場社員4人でチームを組み、社長の藤田に対し、新規事業や人事制度、役員の人事異動など、会社の改善提案を行います。この活動を通じて、社員たちの決断経験が増えます。

 

もう1つは「新卒社長」です。これは、20代や30代のうちに社長を任せるというものです。私たちの業界はインターネット分野であり、新しいチャレンジが常に求められる環境なので、若手に積極的に決断経験をさせることで、さらなる成長を促しています。

 

それでは、最後にまとめに移りたいと思います。「抜擢」という言葉は、少々ハードルが高いかもしれませんが、「期待をかけて任せる」ということを皆さまの会社の全員がやれば、会社の雰囲気は確実に良くなるでしょう。

 

私は、これを日本全国全ての人が行えば、必ずや成長につながると信じています。私は「期待をかけあう社会」を作りたいと考えています。

 

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