クリティカルシンキング(批判的思考)とは何か?3つの基本姿勢と実践のコツ

クリティカルシンキング(批判的思考)とは何か?3つの基本姿勢と実践のコツ

クリティカルシンキングは、物事の本質を見出して意思決定の矛盾や漏れをなくし、根本的な解決策を見出すことに有効な思考法です。日本語で「批判的思考」と表されるクリティカルシンキングは、問題解決や意思決定に関わる人なら、ぜひ身に付けておきたいスキルの一つです。

 

記事では、クリティカルシンキング(批判的思考)とは何かという基本、クリティカルシンキングを実施するための基本姿勢や実践のコツを解説します。

<目次>

クリティカルシンキングとは何か?

クリティカルシンキングは、日本語に直訳すると「批判的思考」と表されます。「批判」という表現にネガティブなニュアンスを感じるかもしれませんが、クリティカルシンキングは決してネガティブな意味合いを持つものではありません。

 

クリティカルシンキングは、「その前提はそもそも正しいのか?」ということを客観的に分析・検証して、本質的な結論や解決策を見出す思考法です。クリティカルシンキングは「最適解」に到達するために有効な思考法として、問題解決や意思決定の場面で積極的に活用されています。

 

クリティカルシンキングは、情報過多になりがち、また、正解が分からない中で変化への対応が求められる現在のビジネス環境において、ぜひ身に付けておきたい思考法の一つです。

クリティカルシンキングとロジカルシンキングの違い

顎に手を当てて前を見ている男性

クリティカルシンキングと並べて論じられることが多い思考法に、ロジカルシンキングがあります。両者の違いを簡単に確認しておきましょう。

 

ロジカルシンキングは「論理的思考」と訳されます。名前のとおり、ある事柄に対して推論を重ねたり、多くの事実から類似点を見つけて納得感のある結論を導き出したりする思考法です。

 

ロジカルシンキングの具体的なメソッドとしては、演繹法や帰納法による推論、ロジックツリーやピラミッドストラクチャーによる論理の構築、MECEの考え方等による全体把握等が挙げられます。

 

一方で、クリティカルシンキングは、ある事柄に対して「その前提は正しいのか」「これは掘り下げるべき問題なのか」と、そもそもの前提を客観的な視点で疑う思考法です。

 

クリティカルシンキングとロジカルシンキングは対立する概念ではなく、うまく組み合わせて使うことができます。

 

例えば、ロジカルシンキングを用いて課題を分解したうえで、クリティカルシンキングのアプローチで前提となっている要因・前提を疑い、解決策の実現方法をロジカルシンキングで考える、といった組み合わせ方が考えられます。

 

クリティカルシンキングの効果とメリット

クリティカルシンキングを身に付けることで、以下のようなメリットが得られます。

 

  • 物事の本当の課題を見つけることができる
  • 意思決定の矛盾や漏れをなくすことができる
  • 本質的かつ根本的な解決策を見出すことができる

 

3つのメリットについて、詳しく見ていきましょう。

 

 

物事の本当の課題を見つけることができる

人は無意識に、固定化されたフレームワークや制限された思考の中で考えてしまいます。クリティカルシンキングは、それらの制限や前提を疑う思考法です。そのため、無意識に持っていた前提のもとでは見えてこなかった、真に解決すべき問題・取り組むべき課題を発見できます。

 

分かりやすい事例でいくと、「業務量が多いのに人が足りない」という課題があると、つい「人をもっと増やさなければ」と考えてしまいがちです。

 

しかし、クリティカルシンキングでは「そもそも、この業務をやる必要があるのか」「この業務をやるのに、こんなに時間が必要なのか?」と前提を疑います。その結果、本質的な課題を見つけ、根本的な問題解決を図ることができるのです。

 

 

意思決定の矛盾や漏れをなくすことができる

「本当の課題を見つけることができる」というメリットにも通じることですが、クリティカルシンキングではそもそもの前提を疑っていく過程で、意思決定の矛盾や漏れに気付くこともできます。

 

先ほどと同じ例で説明しましょう。クリティカルシンキングでは、「人を増やして業務を回す」という解決策を疑います。

 

その結果、「過去、人を増やして業務量過多は解決したのか?」「そもそも、なぜ仕事が増えているのか?」「やらないという選択肢はないのか?」といった思考をすることで、解決策に関する矛盾や漏れに気付きやすくなるのです。

 

 

本質的かつ根本的な解決策を見出すことができる

上記2つの効果によって、クリティカルシンキングを活用することで、その場しのぎの応急処置ではない、根本的な解決策を見出すことができます。クリティカルシンキングを身に付ければ、問題解決や意思決定の精度が大幅に向上するでしょう。

 

クリティカルシンキングで大切な3つの基本姿勢と考え方

クリティカル・シンキングの3つの基本姿勢「目的は何かを意識する」「自他に思考の癖があることを前提に考える」「問い続ける」

続いて、クリティカルシンキングを実践するにあたって、大切にしたい基本姿勢と考え方を解説します。

 

 

目的は何かを意識する

クリティカルシンキングを行なうときは、常に「何のために行なうのか」を明確に意識しましょう。

 

クリティカルシンキングの目的は、根本的な課題を発見し、本質的な解決策を見出すことです。従って、クリティカルシンキングを実践するうえでは、「そもそも何を考え、議論するのか」「何のために考えているのか」という目的からブレないことが大切です。

 

クリティカルシンキングは「前提を疑う」というプロセスがあるので、思考するスケールが広くなります。そのため、「何のために考えるのか」「ゴールは何か」を見失うと、思考途中で迷子になったり、考えること自体が目的化してしまったりしやすいのです。

 

こうした事態に陥らないためには、「何のために行なうのか?」「これは本当に解決する必要があるのか?」「目的と手段がすり替わっていないか?」といった思考が役立ちます。こうした考え方を習慣化することで、思考の迷路に入り込んでしまうことを防げるでしょう。

 

 

自他に思考の癖があることを前提に考える

人は誰でも、思考の癖(価値観や思い込み)を持っています。クリティカルシンキングを成功させるうえでは、「思考の癖があること」を前提として認識することが重要です。

 

人は、自分の思考の癖には、自分では気付きにくいものです。従って、自分の価値観や思い込みが反映された主観的な見方や意見を、まるで客観的な状況や正解であるかのように語ってしまうこともあります。

 

クリティカルシンキングを行なう際には、「これは、実は(自分の)主観的な意見かもしれない」という認識を持っておきましょう。この認識を持っておくことで、議論のすれ違いを避け、周囲と建設的な議論を行なうことができるでしょう。

 

 

問い続ける

問いを発し続けるのも、クリティカルシンキングの実践において大切です。「So what? (だから?)」「Why? (なぜ?)」と繰り返し問い続けると、物事の本質が見えてくることがあります。ここでも、例を挙げてみましょう。

 

 

「業務量が多い」

 

  • なぜ?

→「担当する案件が多すぎるから」

 

 

  • なぜ?

→「仕事をとりすぎているから」

 

 

  • なぜ?

→「売上目標に対する、適切な受注件数を設定していないから」

 

 

  • だから?

→「これで十分、という受注目標件数の数字を明確にすべき」

 

 

このように何度も問いと答えを繰り返すのが、本質的な解決策を見出すポイントです。日常生活の中でも、「なぜ?」「だから?」という問いを自分の中で繰り返す癖をつけましょう。

 

クリティカルシンキングを実践するコツ

顎に手を当てて前を見ている女性

 

最後に、クリティカルシンキングを実践するためのコツを2つご紹介します。「クリティカルシンキングを実践してみたけれど、なぜかうまくいかない」「本質的な解決策や課題がなかなか見えてこない」というときには、以下の2点を意識してみてください。

 

 

客観的な視点で物事を見る

クリティカルシンキングを行なっているつもりでも、主観的な見方から抜け出せていないということはよくあります。本当に客観的・批判的な視点で物事をとらえられているか、別の見方がないかをもう一度考えてみましょう。

 

客観的・批判的な視点から物事を見るためには、「なぜ?」「どうして?」「それは本当か?」「ほかに課題はないか?」「本当にやるべきことは?」等の“クリティカルシンキングの口癖”を頭の中で習慣化するのが効果的です。

 

加えて、「これは動かせないだろう」と思い込んでいる前提条件を、あらためて疑ってみることもポイントです。クリティカルシンキングを実践するうえでは、「無意識に前提にしている/前提になっている条件」を意識化することがポイントになります。

 

「無意識の思い込み・制約」を作っていないか、一つひとつチェックしてみましょう。無意識の前提を見つけるうえでも、上述のような“クリティカルシンキングの口癖”の習慣化が有効です。

 

 

客観的事実と主観的意見を区別する

先ほど近いですが、普段から、事実と意見を区別する癖をつけましょう。事実と意見をはっきり見分けるのは、予想以上に難しいものです。先述のとおり、人には思考の癖や思い込みがあり、「事実」として述べたことであっても、発言者の主観的な意見や価値観が隠れていることがあります。

 

日常的に、自分の発言あるいは他人の発言に対して「これは事実か、それとも意見か?」「どんな前提条件や価値観で発言されているのか?」を考えるようにすると、クリティカルシンキングの実践レベルが上がります。

 

まとめ

クリティカルシンキングは、物事の本質を見出し、根本的な「最適解」に到達するうえで有効な思考法です。日本語では、クリティカルシンキングは「批判的思考」と翻訳され、“批判=ネガティブ”な印象があるかもしれません。

 

しかし、クリティカルシンキングにおける“批判的”とはネガティブな意味ではありません。前提条件を疑い、客観的なものの見方をすることで、主観的なフィルターや思考の癖から離れて、物事の本質を見出すことがポイントです。

 

クリティカルシンキングを実践するには、「なぜ?」「どうして?」「それは本当か?」「ほかに課題はないか?」「本当にやるべきことは?」等の“クリティカルシンキングの口癖”を自分の思考として習慣化することが有効でしょう。

 

記事を参考に、クリティカルシンキングを、ロジカルシンキングやラテラルシンキングと組み合わせて活用できるようになれば、ビジネスにおける意思決定や問題解決の生産性もグッと高まるでしょう。

著者情報

近藤 浩充

株式会社ジェイック|取締役 兼 常務執行役員

近藤 浩充

大学卒業後、情報システム系の会社を経て入社。
IT戦略事業、全社経営戦略、教育事業、採用・就職支援事業の責任者を経て現職。企業の採用・育成課題を知る立場から、当社の企業向け教育研修を監修するほか、一般企業、金融機関、経営者クラブなどで、若手から管理職層までの社員育成の手法やキャリア形成等についての講演を行っている。
昨今では管理職のリーダーシップやコミュニケーションスキルをテーマに、雑誌『プレジデント』(2023年)、J-CASTニュース(2024年)、ほか人事メディアからの取材も多数実績あり。

著書、登壇セミナー

・社長の右腕 ~上場企業 現役ナンバー2の告白~
・今だからできる!若手採用と組織活性化のヒント
・withコロナ時代における新しい採用力・定着率向上の秘訣
・オンライン研修の「今と未来」、社員育成への上手な取り入れ方
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