クリティカルシンキングとロジカルシンキングの違いと使い分けのポイント

クリティカルシンキングとロジカルシンキングの違いと使い分けのポイント

ビジネスを進めるなかでは、さまざまな場面で問題解決や意思決定が必要になります。そこで、最適解にたどり着くために多用されているのが、クリティカルシンキングやロジカルシンキングのような思考法です。

 

クリティカルシンキングとロジカルシンキングは、それぞれどのような特徴を持つのでしょうか。また、両者の違いはどこにあるのでしょうか。記事では、クリティカルシンキングとロジカルシンキングの特徴や違い、また、2つの思考法を使い分けるポイントを解説します。

<目次>

クリティカルシンキングとは?

まずは、それぞれの思考法の特徴を確認しましょう。最初に、クリティカルシンキングの特徴とメリットを解説します。

 

 

クリティカルシンキングとはどのような思考?

クリティカルシンキング(critical thinking)は、日本語では「批判的思考」と言われる思考法です。「批判的」という言葉にどこかネガティブなイメージを抱くかもしれませんが、クリティカルシンキング(批判的思考)には、ネガティブな意味合いは含まれません。

 

クリティカルシンキングは、「感情や主観に流されることなく、客観的な視点で物事の本質を見据えて、根本的な解決策を見出そう」とする思考プロセスです。

 

クリティカルシンキングの大きな特徴は、何かを考えるにあたって、その前提を客観的に分析、検証することです。「その前提は本当に正しいのか?」と問いかけ、前提の正誤や制限が絶対的なものなのかを検証して、本質的な結論や解決策を見出します。

 

以下に、ビジネスシーンにおけるクリティカルシンキングの具体的な例を挙げてみます。

 

【場面設定】

  • WebメディアAとWebメディアBに自社サービスの広告を出稿した
  • WebメディアAに40万円、WebメディアBに60万円、合わせて費用は100万円
  • WebメディアAからは1ヵ月で4,000件の閲覧、10件の申込が得られた
  • WebメディアBからは1ヵ月で2,000件の閲覧、30件の申込が得られた
  • 再度100万円の予算でWebメディアに広告を出稿したいが、どちらを選ぶべきか?

 

【クリティカルシンキングの思考プロセス】

  • そもそも、閲覧数と申込数はどちらを重視すべきなのか?
  • 見る指標は閲覧数と申込数だけでいいのか?何をゴールにした広告なのか?
  • 閲覧数、申込数の目標はいくらなのか? どの目標をいつまでに達成すべきなのか?
  • 予算100万円はすべて使う必要があるのか?逆に増やせないのか?
  • WebメディアAでは閲覧が多く、WebメディアBでは申込が多いのはなぜなのか?
  • WebメディアA・Bで、ほかに出稿できる広告箇所はないのか?
  • WebメディアA・Bのほかに掲載できるメディアはないのか?

 

ストレートに「どちらを選んだらいいか?」と考えてしまいそうな問いに対して、「目的」や「前提条件」「制約条件」といったものを、まずは“疑う(確認する)”ことがクリティカルシンキングの特徴です。

 

この後「ロジカルシンキングとは?」の章で、同じ場面におけるロジカルシンキングの思考プロセスをご紹介します。クリティカルシンキングの思考プロセスと比較してみてください。

 

 

クリティカルシンキングを取り入れるメリット

一見完璧に見える問題解決や意思決定にも、なんらかの不足や欠陥があります。また、人の思考は無意識のうちに、「前提条件を鵜呑みにして思考してしまう」「制約条件を“変えられない”と信じ込んでしまう」「自分の主観や思い込みで判断してしまう」傾向があります。

 

クリティカルシンキングを取り入れることで、「足りない部分」「欠けた部分」を補う、また、無意識の思い込みから思考を開放して、問題解決や意思決定の精度を向上させることができます。

 

クリティカルシンキングで、「その前提は本当なのか?」と問うことによって、意思決定のプロセスにおける矛盾や漏れ、前提条件の制限を見つけ出します。こうした思考プロセスを用いることで、問題自体の本質となる「核」の部分を見極められるのです。

 

そもそもの前提を疑うことにより、これまでにない柔軟な発想や、新しい視点での考えが生まれやすくなるのもクリティカルシンキングのメリットです。

ロジカルシンキングとは?

顎に手を当てて考え込んでいる男性

次に、ロジカルシンキングの特徴とメリットを見ていきます。

 

 

ロジカルシンキングとはどのような思考?

ロジカルシンキング(logical thinking)は、「ロジカル(論理的な・理にかなった)」と「シンキング(思考・意見)」の2つの語からなり、日本語では「論理的思考」と訳されます。物事に筋道を立てて根拠を示しながら結論を導き、論理、原因と結果、結論と根拠等の因果関係を大切にする考え方です。

 

ロジカルシンキングの手法としては、「演繹法」「帰納法」「弁証法」等が有名です。簡単に紹介します。

 

演繹法

演繹法は、前提を積み上げていき、そこから結論を導き出す方法です。ギリシャの哲学者アリストテレスによる三段論法が有名です。

  • (前提1)すべての人間は死ぬ
  • (前提2)私は人間である
  • (結論)ゆえに私もいつかは死ぬ

 

帰納法

複数の事実の共通項をまとめることで結論を出すのが帰納法です。

  • 事実A:○○銀行は年収が高い
  • 事実B:△△証券は年収が高い
  • 事実C:□□生命は年収が高い
  • 結論:金融業界は年収が高い

 

弁証法

ある命題や主張(テーゼ)とそれと対立・矛盾する命題や主張(アンチテーゼ)を提示して、両者を解決できる本質的な統合案(ジンテーゼ)へと昇華させる方法です。

  • テーゼ:朝は目覚ましのためにコーヒーを飲みたい
  • アンチテーゼ:健康のためには牛乳を飲むべきだと家族に言われた
  • ジンテーゼ:カフェオレを飲むことで、目も覚めるし健康にも配慮できた

 

このほかにもロジカルシンキングで有名なのは「ピラミッド構造」や「MECE」等の構成要素を考えたり、物事を分解して思考していったりする手法です。状況や問題を整理して、筋道だって解決していくことが特徴です。

 

 

具体例

先ほど「クリティカルシンキングとは?」で取り上げた例をロジカルシンキングで考えるとどうなるかを見ていきましょう。クリティカルシンキングとの違いを確かめてみてください。

 

【場面設定】

  • WebメディアAとWebメディアBに自社サービスの広告を出稿した
  • WebメディアAに40万円、WebメディアBに60万円、合わせて費用は100万円
  • WebメディアAからは1ヵ月で4,000件の閲覧、10件の申込が得られた
  • WebメディアBからは1ヵ月で2,000件の閲覧、30件の申込が得られた
  • 再度100万円の予算でWebメディアに広告を出稿したいが、どちらを選ぶべきか?

 

【ロジカルシンキングの思考プロセス】

  • WebメディアAとWebメディアBにはまったく同じ広告を出稿した。従って、閲覧数や申込件数の違いは、各メディアのユーザー数、ユーザー属性、広告の掲載状況からもたらされている
  • WebメディアBは、閲覧数に対して申込数を多く獲得できている。WebメディアAでは閲覧からの申込率は25%、それに対して、WebメディアBは1.5%。WebメディアBのユーザーは、WebメディアAよりも自社サービスとの親和性が高いことが予想できる
  • 申込1件あたりの費用は、WebメディアAが4万円、WebメディアBは2万円と、WebメディアBのほうが安い
  • 低単価でより多くの申込を獲得するにはWebメディアBに予算を集中させたほうが良い

 

ロジカルシンキングは、クリティカルシンキングと比べて、与えられたテーマに対して、誰でも分かる形で物事を整理・分解して、結論を導き出すことが特徴です。

 

 

ロジカルシンキングを取り入れるメリット

ロジカルシンキングには、基礎となるフレームワークが複数存在します。先ほど紹介した演繹法や帰納法、弁証法、またピラミッド構造やMECE等は、すべてフレームワークの一つと言えます。これらのフレームワークを覚えて活用することで、問題点をスムーズに整理・分析して、解決策を導き出すことができます。

 

また、ロジカルシンキングは、原因と結果、結論と要素等、物事を筋道立てて、明快に説明することができますので、人にその内容を伝え、理解・納得してもらうことにも有効です。ロジカルシンキングを用いると、誰かに説明や指導をする際にも伝わりやすいでしょう。

クリティカルシンキングとロジカルシンキングの違い

ここまで、クリティカルシンキングとロジカルシンキングそれぞれの特徴やメリットを確認できました。両者はどのように異なるかを整理しておきましょう。

 

クリティカルシンキングは、与えられている問いや前提条件が本当に正しいのか、無意識に制限している、見落としていることがないか、客観的な視点で検証して、物事の本質を見極めます。

 

一方で、ロジカルシンキングは、課題や問題に対し筋道を立て、要素を細分化・積み上げて考える思考法です。明快に筋道がある分、情報を整理したり、分かりやすい人に伝えたりすることができます。

 

事例では少し極端に表現していますが、クリティカルシンキングとロジカルシンキングは、優劣が合ったり、対立したりするものではありません。また、「一つの物事に対してどちらか一方しか使えない」わけではありません。

 

クリティカルシンキングとロジカルシンキング、それぞれの長所と短所を理解して、状況に合わせてうまく使い分けたり組み合わせたりすることが重要です。

クリティカルシンキングとロジカルシンキングを使い分けるポイント

顎に手を当てて考え込んでいる女性

2つの思考の長所や向いている場面を整理すると、

 

<クリティカルシンキングの長所>

・問題の本質を見出し、前提条件や制限条件が本当に正しいかを確認する

・視野を広げて自由に思考する

・問題が息詰まったときに解決策を模索する

 

<ロジカルシンキングの長所>

・フレームワークを使って物事を素早く整理する

・事実や仮説、推論を積み重ねて、再現性のある解答を導き出す

・物事を相手に分かりやすく伝える

 

クリティカルシンキングとロジカルシンキングはそれぞれ単独で使うことも有効ですが、組み合わせて使うとより効果的です。両者をうまく使い分けたり組み合わせたりするポイントをご紹介します。

 

 

まずはクリティカルシンキングで検証する

まずはクリティカルシンキングを用いて、「そもそも、考えるべき問いは本当にこれでいいのか?」「考える目的とゴールは何か?」を検証しましょう。

 

考えるべきテーマが間違っていると、いくら一生懸命考えても、最適な解決策にはたどり着けません。まずは問題の詳細を考える前に、クリティカルシンキングで、ざっと問題の全体像を確認すると効果的です。

 

 

ロジカルシンキングで思考する

ロジカルシンキングは、フレームワークを用いて情報をうまく整理するのが得意です。従って、問題が明確になったら、ロジカルシンキングのフレームワークを活用し、問題を整理・分析し、課題を洗い出すことがお勧めです。

 

ただし、ロジカルシンキングには限界や陥りやすいミスはあります。例えば、演繹法であれば、前提が間違っていると結論も間違ってしまいますし、帰納法なら事例の選び方を誤ると結論の正確性が下がってしまいます。

 

また、ロジカルシンキングでは「前提条件を疑う」ことはないため、洗い出された要素のなかに、無意識の制限や本来は変えられる前提条件、無意識の思い込み等が入ってしまうこともあります。そこで有効なのが、再度クリティカルシンキングを使うことです。

 

 

ロジカルシンキングをクリティカルシンキングで検証する

ロジカルシンキングである程度の整理・思考をおこなったら、再びクリティカルシンキングで、ロジカルシンキングで立てた道筋や要素を「本当なのか?」「ほかに方法はないのか?」と検証します。

 

人は、結論を出すと、「自分たちが出した結論は正しい」と思いたい心理が働きます。従って、ロジカルシンキングで結論を出してからクリティカルシンキングを用いるのではなく、思考途中でクリティカルシンキングを使ったほうが効果的です。

 

クリティカルシンキングでロジカルシンキングを補う際には、前提にとらわれすぎず、可能な限り自由に思考する、前提条件が正しいのか、変えられないのかを考えることがポイントです。

 

 

ロジカルシンキングで結論と実行方法を導き出す

ロジカルシンキングとクリティカルシンキングを組み合わせて、解決すべき問題を導き出し、客観的に状況が整理できたら、再びロジカルシンキングで結論を見出していきましょう。

 

また、解決策を見出した後、実行方法を整理するプロセスは、ロジカルシンキングの得意分野です。実行に必要なリソース、手順、段取り等を洗い出していきましょう。

 

ここで紹介した「クリティカルシンキング → ロジカルシンキング → クリティカルシンキング → ロジカルシンキング」を一例として、状況に応じて柔軟に思考法を使い分けてください。

まとめ

ビジネスの場でよく使われるロジカルシンキング(論理的思考)とクリティカルシンキング(批判的思考)は、それぞれ異なる長所を持つ思考法です。

 

ロジカルシンキングは、フレームワークを使って物事を素早く整理して、事実や仮説、推論を積み重ねて、再現性のある解答を導き出すことができます。

 

クリティカルシンキングは、前提条件や制限条件が本当に正しいかを確認することで、問題の本質を見出して、根本的な解決方法を導き出します。

 

ロジカルシンキングとクリティカルシンキングは対立する概念ではありません。2つの長所を理解して、両者を使い分けたり組み合わせたりして、それぞれの良いところをうまく活用していきましょう。

著者情報

近藤 浩充

株式会社ジェイック|取締役 兼 常務執行役員

近藤 浩充

大学卒業後、情報システム系の会社を経て入社。
IT戦略事業、全社経営戦略、教育事業、採用・就職支援事業の責任者を経て現職。企業の採用・育成課題を知る立場から、当社の企業向け教育研修を監修するほか、一般企業、金融機関、経営者クラブなどで、若手から管理職層までの社員育成の手法やキャリア形成等についての講演を行っている。
昨今では管理職のリーダーシップやコミュニケーションスキルをテーマに、雑誌『プレジデント』(2023年)、J-CASTニュース(2024年)、ほか人事メディアからの取材も多数実績あり。

著書、登壇セミナー

・社長の右腕 ~上場企業 現役ナンバー2の告白~
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