日々、業務を行っていると、どんな現場でも誰にでもミスは起こり得ます。
こうした人の判断の間違いや不注意が原因で起こるミスは「ヒューマンエラー」と呼ばれ、人間が仕事をするうえで避けることができない問題です。
一方で、ヒューマンエラーが発生すれば業務の中断や効率の低下、また、損害が生じて関係者に迷惑をかけてしまうといったことにもつながりかねません。
本記事では、ヒューマンエラーの概要と種類、発生要因や事例を紹介し、これらを踏まえてヒューマンエラーを防ぐポイントをお伝えします。
<目次>
ヒューマンエラーとその種類
最初にヒューマンエラーの概要と種類を確認します。種類を知ることはヒューマンエラーを防ぐ、軽減することにもつながりますので、ぜひご確認ください。
ヒューマンエラーとは?
ヒューマンエラーとは、「意図しない結果を引き起こした人間の行為」を意味します。
うっかりミスのような小さなものから取り返しがつかない損害を与えるものまで、ヒューマンエラーには様々なケースがあります。
ヒューマンエラーは完ぺきに防ぐことはできませんが、可能な限り発生しないようにすることが大切です。
ヒューマンエラーの種類
ヒューマンエラーには、大きく分けると2つの種類があります。
●「オミッションエラー」(ついつい・うっかり型)
オミッションエラーとは、するべきことをしなかった、また無意識の行動によって、意図しない結果を引き起こしたヒューマンエラーのことで、「ついつい・うっかり型」とも言われます。
たとえば、「電話番号の聞き間違いにより、関係ない相手に電話してしまう」「数値の入力ミスにより、入金額を間違って振り込んでしまった」「日程の勘違いにより、会議に無断欠席してしまう」といったものがオミッションエラーです。
●「コミッションエラー」(あえて型)
コミッションエラーとは、オミッションエラーの逆で、意図的に不適切な行為が実施されたために起きたヒューマンエラーのことで、「あえて型」とも呼ばれます。
具体的には、「慣れたので確認作業を勝手に省略した」「ベテランが、マニュアルに書かれていない方法で実行した」など、当事者がある程度の意図をもって実施した結果としてエラーが起きたものが該当します。
オミッションエラーとコミッションエラーは、いずれも「意図しない結果を引き起こした行為」です。
これに対して、そもそも損害や人的被害を与えることを意図して行った行為は、ヒューマンエラーではなく、犯罪など別次元の話です。
ヒューマンエラーが起きる主な要因
ヒューマンエラー対策のためには、原因の把握が大切です。ここでは、ヒューマンエラーが起きる主な原因を確認していきます。
1.不注意
ヒューマンエラーが生じる代表的な要因が、不注意です。
不注意は、長時間労働や睡眠不足での作業、同じ業務や単調な反復作業の繰り返し、作業に集中し過ぎてしまうなどが原因で発生します。
「普段と同じ業務を行っているのに、今日は何故かミスをしてしまった」というのも不注意に当てはまります。
2.思い込み・勘違い
思い込みや勘違いが原因で発生するヒューマンエラーも多くあります。
例えば「本当は明日が納品日なのに、来週末だと勘違いしていた」「打ち合わせ先がA社なのに、B社と思い込んでB社用の資料を持参してしまった」などが該当します。
先入観や思い込みがある場合、行動時に作業者自身の注意力などで誤りに気づくことは困難なケースが多くなります。
3.連絡不足
連携不足も現場で非常によく見られるヒューマンエラーの一つです。
連絡不足が原因のエラーは、コミュニケーションエラーともよばれ、業務に関わる人が多くなると発生しやすくなります。
伝達する内容や伝え方に問題があったり、伝えた側はしっかり伝えたつもりでも相手に正しく伝わっていなかったりといったことが原因で起こるヒューマンエラーです。
4.知識や経験の不足
ヒューマンエラーは作業に関する知識や経験不足が原因で発生することもあります。特に新人や経験の少ない若手の場合に多く見られるでしょう。
知識や経験が不足していることに自分自身で気づかず「自分は分かっている・できる」と思い込んでいる場合にも起こりがちです。
5.決められた手順の省略
上記で解説した4つのケースは、ついつい・うっかりが原因で起きてしまった「オミッションエラー」に相当します。
これに対して、「コミッションエラー」は、「こうした方が早いだろう」という考えで、正規の手順を踏まない、あるいは決められた工程を省いて作業を行った場合に発生します。
仕事に慣れてきたり、時間がなかったりすることを理由に、普段は行っている確認作業を省略してトラブルになるといったことは、仕事に慣れてきたタイミング、また経験を積んだベテランに起こりやすいエラーといえます。
ヒューマンエラーの事例
前章では、ヒューマンエラーが起きる主な要因を5つ紹介しました。
本章では、紹介した5つのヒューマンエラーそれぞれについて、具体的な事例を挙げて解説します。
1.不注意によるヒューマンエラーの事例
不注意によるヒューマンエラーの事例としては、2005年に発生したみずほ証券での株の誤発注のケースがあげられます。
この事例では、みずほ証券の担当者が、「1株61万円の売り」を「61万株1円売り」と誤入力して注文した結果、発生しました。
通常ではあり得ない注文だったため、コンピューターの画面には警告文が表示されましたが、担当者が警告文を無視して注文を受けてしまった結果、みずほ証券は400億円の損失を被ることになりました。
その意味では、本ケースは「不注意による誤操作⇒思い込みによる警告の無視」という複合型のヒューマンエラーともいえます。
2.思い込みによるヒューマンエラー
思い込みによるヒューマンエラーの事例では、新千歳空港で2008年に発生した、無許可での離陸があげられます。
このケースは、「すぐにテイクオフの準備をせよ」という管制官の指示に対し、「すぐにテイクオフできる」と機長が誤解したことが原因で発生しました。
幸運なことに、乗客や乗員にケガはなかったそうです。
しかし、一歩間違えれば重大事故にもなりうる可能性があったことから、国土交通省から重大インシデントに認定されることとなりました。
3.連絡・伝達不足によるヒューマンエラー
連絡・伝達不足によるヒューマンエラーとしては、次のような例が挙げられます。とあるレストランで、団体客からディナーの予約がありました。
その際、アレルギー対応の申し出を承っていたにもかかわらず、厨房への伝達が不十分だったため、アレルギー食材を使用したメニューを出してしまったというものです。
幸い、食べる前に客側で気づいたために事なきを得ましたが、事と次第によっては伝達不足が原因で命に関わる可能性もあったといえます。
4.知識・経験不足によるヒューマンエラー
知識や経験不足によるヒューマンエラーとしては、以下のような事例があげられます。
- レジ操作が不慣れで会計に時間がかかり、お客さんを待たせてしまう
- クーポン券や割引券などの処理を間違えて、キャンペーンの適用ができない
- 贈答品の梱包に慣れておらず、出来栄えに不満が生じてクレームを受ける
上記で挙げたように知識・経験不足によるヒューマンエラーは、従業員の教育にかける時間が十分取れなかったなど、オープンしたての販売店などで多いエラーと言えます。
5.決められた手順の省略で起きるヒューマンエラー
決められた手順の省略などによる、ヒューマンエラーでは、以下のような事例が挙げられます。
- 規格外の注文であったが、「できるだろう」と判断して上長に相談せずに請け負ってしまった
- メールの送信時に決められたチェック手順を無視して送ってしまい、誤送信を起こしてしまった
知識や経験豊富なベテランが、必要な手順や確認を省いて業務を進めるなど、過信や判断ミス、「自分の判断は正しい」という間違えた捉え方が原因で生じることが多いヒューマンエラーです。
ヒューマンエラーを防ぐ7つのポイント
最後にヒューマンエラーを防ぐために大切なポイントを7つ解説します。
1.人が関与する作業の排除
ヒューマンエラーに共通するのは、人が関わることによって発生するということです。
従って、ヒューマンエラーを防止するには、人が関与する工程をできるだけ排除することが基本です。
例えば「会計時のおつりを間違えてしまう」に対してであれば、「自動レジの導入」などが考えられます。
もちろん仕事においては人が付加価値を生み出す、また人が判断することは多いものです。
ただし、繰り返しの作業などであれば、自動化してしまえないか?といったことがはじめに考えるべき対処法といえるでしょう。
2.業務の単純化
複雑な工程が組まれていたり、人が理解しづらかったりする作業も、ヒューマンエラーが発生する要因です。
対策としては、シンプルな業務にする、複数人で作業を分担するなど、できるだけ業務を単純化させることです。
ヒューマンエラーが継続している業務がある場合、単純化できないか、業務フローの見直しを検討した方がよいでしょう。
3.フェイルセーフ、フールプルーフ
フェイルセーフ、フールプルーフもヒューマンエラーを防止する重要な考え方です。
フェイルセーフとは、システムや機械の操作時にミスやエラーが生じた場合でも、危険な方向にいかないよう、安全を確保する仕組みをいいます。
例えば電車のドアが閉まる際、付近に人がいると、挟まれないようにドアの動きが停止しますが、これがフェイルセーフの一例です。
また、エラーが生じた際、安全な方向へ動作するフェイルセーフに対し、フールプルーフは、そもそも人間はミスをするという前提に立ち、ミスができないようにする仕組みです。
「ふたが開いていると回らない洗濯機」や「扉が閉まらないと起動しない電子レンジ」などが例に挙げられます。
4.マニュアル、チェックリストの整備
マニュアル、チェックリストを作成して活用することも、ヒューマンエラーを防ぐ上で基本となる対策です。
起こりうるヒューマンエラー対策を踏まえた上で、手順書や作業チェックリスト、引継ぎ資料などを整備することが大切です。
また、すでに用意されているにもかかわらず、ヒューマンエラーが多発する場合には、マニュアルやチェックリストの見直し・修正、また作成したものがきちんと使われているかという確認が必要でしょう。
5.複数人によるチェックの徹底
一人の人間が作業と確認を兼ねると、思い込みなどによるヒューマンエラーが発生しやすくなります。そのための対策としては複数人によるチェックが効果的です。
複数人によるチェック方法には、以下の2つがあります。
- ダブルチェック:複数の人で同一の観点でチェックを行う
- クロスチェック:複数の人がそれぞれ違う観点でチェックを行う
なお、複数人で確認する際、例えば、2回目のチェック担当者が「1人目がチェックしているから…」とチェックを適当に実施するといったことが、現場でよく起こりがちです。
これでは複数人で確認することの意味はありません。
交通機関や工場などでよくあるチェックリストや指差し確認のような仕組みと組み合わせる、また、2回目のチェック担当者が真剣にチェックを実施できるようするといった仕組みを設けることが大切です。
6.リテラシーの向上を図る
講習会や勉強会などを通じて、ヒューマンエラーのリスクや事例を共有し、従業員のリテラシー向上を図ることも有効な対策です。
リテラシーが向上することで、個々人の意識や注意力が高まるだけではなく、関係者同士での声掛けなども自然に発生してきます。
こうした関係性により、職場全体でヒューマンエラーを起こしにくい環境もできあがります。
ただし、ヒューマンエラーを徹底して防ぐためには、「意識する」だけに依存しないことが重要です。
ヒューマンエラーが発生しない工夫、万が一発生しそうになってもその場で気づける工夫を、業務のプロセスの中に確実に落とし込むようにしましょう。
7.業務環境の改善
業務環境の改善もヒューマンエラーの防止に効果的です。環境の改善例としては、例えば、オフィスの照明や空調、レイアウト変更などの物理的な改善が挙げられます。
また、残業時間の抑制といった働き方改革の取り組みも、従業員の身体・精神の健康面に貢献します。
働きやすい、作業のしやすい環境を構築することは、手元の作業においてのミス、疲労などを要因とするヒューマンエラーの軽減に大きな効果を期待できるでしょう。
まとめ
記事では、ヒューマンエラーの概要とその種類、発生要因や事例、そしてヒューマンエラーを防ぐためのポイントをお伝えしました。
ヒューマンエラーは、人が業務に関わる以上、完全に無くすことは困難です。
しかし、組織全体での取り組み・仕組み作りを通じて、可能な限り0に近づけていくことは可能です。
記事でお伝えした対策などもしっかり行うことで、起こりえる事故を未然に防ぐ、あるいは最小限に抑えられるようにしていきましょう。
記事内容が自社で対策を考えるヒントとして、少しでも役立てば幸いです。