インクルージョンとは?ダイバーシティとの違いは?意味や企業への導入事例を紹介

インクルージョンとは?ダイバーシティとの違いは?意味や企業への導入事例を紹介

近年、HRや組織開発の分野で「インクルージョン」という考え方が注目されています。インクルージョンとは、「多様性のある社員を受け入れ、強みや個性を発揮して活躍できる環境を構築する」という考え方です。

 

この10年ほどでかなり浸透したダイバーシティと類似した概念ですが、ダイバーシティは「多様性のある社員を受け入れる」という比重が強い考え方ですが、インクルージョンはダイバーシティを前提として、「活躍してもらう」という点に比重を置いた考え方です。

 

従来まで日本のビジネス組織は、比較的単一/均一な価値観を背景に形づくられてきました。しかし、価値観、生き方が多様化し、絶対的な少子高齢化が進む中で、多様な人材を受け入れて活躍させるという「インクルージョン」の考え方は必要不可欠です。

 

記事では、ダイバーシティとの違いや共通点を踏まえながら、インクルージョンのメリットや導入事例等を解説します。

 

<目次>

インクルージョンとは?

インクルージョンの定義と目的

最初にインクルージョンの具体的な定義や、重視されるようになった背景等を詳しく解説します。

 

 

インクルージョンの定義と目的

インクルージョンは、元々「包括」「包含」等の意味を持つ英単語です。2010年代以降、日本のHRや組織開発の現場で注目されるキーワードの一つとなっていますが、HRや組織開発で用いられる場合には「多様な人材が組織の一員として活躍できる環境」のことを指します。

 

ここでの「多様」とは、人種やLGBTを含む性別、国籍、宗教、価値観やスキルから、個々の人材が置かれて状況(出産、育児、介護…)まで幅広いものを指しています。組織としてインクルージョンの考え方を実践するということは、考え方や特性の違いに関係なく人材を受け入れ、個々の能力や経験等を業務に活かして働ける環境を創り出す、ということです。

 

 

インクルージョンがいま注目される背景

インクルージョンは元々、1980年代に生まれていた考え方ですが、2010年代になって改めて日本で注目されるようになった背景はなぜでしょうか?

 

大きな要因として挙げられるのは、グローバル化、少子高齢化等による人材不足、ライフスタイルの変化等を含めた価値観の多様化です。

 

大手企業だけでなく中堅中小企業も当たり前のように海外進出するようになったことによる人材の多様化が進んでいます。また、少子高齢会に伴って労働人口が減少する中で、女性、シニア層、海外人材の活用等は企業が避けては通れないテーマです。今後数十年で考えれば、海外人材を受け入れられない会社は確実に衰退するでしょう。また、LGBT等の性に関する多様化もインクルージョンが注目される背景です。

 

雇用できる人材に限りがあり、多様性が見られることから、人材のマンパワーを最大限に活かすためには、多様性を受け入れて活用していける環境が不可欠な状況になっています。

 

 

企業における導入イメージ

企業でインクルージョンを導入する場合、どのように導入を進めれば良いのでしょうか?

 

インクルージョンは、大手企業がおこなうCSR等のようにイメージ戦略として捉えられる傾向もありますが、本質的な目的は「多様なバックグラウンドと強みを持った人材に、一人ひとりの可能性を最大限に発揮して活躍してもらうこと」です。

 

組織としての視点で考えれば、インクルージョンは人材不足の解消や成果の最大化が目的だといえるでしょう。従って、インクルージョンの導入は、CSRのようなイメージ戦略ではなく、より実践的かつ実務に沿った次元で考えると良いでしょう。

 

具体例を紹介すると、例えば以下のようなものです。

 

  • 在宅勤務やテレワーク制度の導入
  • 正社員でも利用できる時短勤務の制度
  • 多様性や違いから成果を生み出す価値観教育
  • 会社としての共通言語の構築
  • 強みを活かすマネジメントの実践

 

「多様性を持った社員が自分の強みを活かして活躍できる」という本質的なインクルージョンに近づけば、社員のエンゲージメントが上がり、組織の生産性もアップします。とくに、ライフステージに応じた働き方や強みを活かすマネジメント等は有効です。

 

また、インクルージョン導入は、採用力アップにも貢献します。多様な人材を採用して受け入れられるようになれば、母集団形成の幅が広がりますし、隠れた優秀人材を雇用し、活躍させられるようになります。また、前述のライフステージに応じた多様な働き方ができることは、いまの若者にとっては高く評価されます。

 

ダイバーシティとインクルージョンの違いと共通点

ダイバーシティは、インクルージョンと非常に混同されやすい考え方であり、実際に近い概念でもあります。両者の違いと共通点を改めて確認しておきます。

 

ダイバーシティとインクルージョンは、どちらも人材の「多様性」に関する考え方です。違いは、ダイバーシティは「組織の中に多様性を持った人材を受け入れる」という“受け入れ”にウェイトを置いた考え方であることに対して、インクルージョンは多様な人材を受け入れたうえで、「個人が持つ強みや能力を活かす」ことにウェイトを置いた考え方であるということです。

 

その意味では、大手企業等においてダイバーシティがある程度進んだからこそ、出てきた考え方がインクルージョンであるといえるかもしれません。これから多くの中堅中小企業が取り組んでいくうえでは、「活躍」ということにフォーカスを置いたインクルージョンのほうが、より実用的な考え方ということもできるかもしれません。

 

インクルージョンの推進で組織が得られる3つの効果とメリット

組織でインクルージョンを推進する

続いて、インクルージョンを推進することで、組織が得られるメリットを解説します。

 

 

個人が尊重されモチベーションの向上に繋がる

インクルージョンを推進することは、社員一人ひとりの個性を尊重することに繋がります。社員は「企業から必要とされている」「企業の中に、自分が活躍して、成長できる場所がある」という意識が芽生えるようになり、自己有用感が得られ、「企業にもっと貢献したい」というモチベーションが高まりやすくなります。

 

 

社員の離職率が低下し、定着率がアップ

インクルージョンにより、エンゲージメントやモチベーションが向上することで、離職率の低下にも繋がります。また、テレワークや時短勤務等のライフスタイルに合わせた働き方が実現することで、退職せずに仕事を継続しやすい就労条件も整います。

 

一定の経験を積んだ社員が、出産や育児、配偶者の引っ越し、介護等のライフイベントが発生する中で継続して勤務してくれることは、組織にとっても大きな価値があるでしょう。

 

 

多様な人材との関わりでイノベーションが起こりやすくなる

多様な人材は、イノベーションの創出にも効果的です。背景や文化の異なる人からは、まったく違った視点の意見が出やすいでしょう。また、新商品やサービスの企画案を作成する際に、異なる立場の人にしか気付けないアドバイスや改善点の指摘もあるでしょう。

 

上記の根底となる「異なる意見や価値観をぶつけることによって、より良いアイディアを生み出すことができる」という“違いを尊ぶ”価値観が社内に浸透すれば、日常的な社内の会議やMTGの生産性・効果性もぐっと高まります。

 

インクルージョンを組織で取り組む方法と注意点

インクルージョン導入のために、企業はどのように取り組めば良いでしょうか?具体的な方法と注意点を5つ紹介します。

 

 

強みにフォーカスする

インクルージョン導入のポイントの一つは、強みにフォーカスすることです。真逆の考え方をイメージしてみるとわかりやすくなります。インクルージョンの真逆にある考え方は、「全社員が一律の働き方をすること」「全社員を同じ型にはめようとすること」です。つまり、「すべての項目において平均点以上の人材を育成しよう」とする考え方です。

 

インクルージョンでは、個性や属性を受け入れたうえで、スキルや特性を活かした働き方を推奨します。社員それぞれに合った働き方で、能力を最大限に発揮することが重要です。幕末の偉人であり、明治維新で重要な役割を果たした人材の多くを指導したことで知られる吉田松陰も、「備わらんことを一人に求むるなかれ」と述べています。

 

強みにフォーカスするという考え方は、異なる属性や文化を持った社員にはもちろん、既存組織のパフォーマンス向上にも有効です。すべての社員には多かれ少なかれ得手不得手があり、活かせる能力や特性は人それぞれ異なるからです。

 

もちろん、それぞれの仕事において、必要な能力やスキルは身に付けてもらう必要はあります。強みにフォーカスするとは、甘やかすことではありません。むしろ「異なる特徴や強みを持っている個人を、型にはめるのではなく、強みをうまく活かすことで、成果を最大化させる」という、ある意味では非常に合理的な考えです。

 

 

成果にフォーカスする

強みに注目したマネジメントをするうえで大事なことは、成果にフォーカスすることです。「顧客に対してどのような価値を提供できたか?」「成果にどのように貢献したか」を共通のゴール、評価軸とすることで、強みを活かしやすくなります。

 

共通の評価軸もなく、社員の強みを個別に活かそうとする、自由に任せようとすると、個々の社員が好き勝手にやりたいことをやる無秩序な組織になってしまいかねません。そこに「成果に貢献する」という軸があることで、社員は強みを活かす方向性が明確になりますし、企業から社員一人ひとりに対する評価も公平・平等なものにしやすくなります。インクルージョンを実現することは、本当の意味での「成果主義」の導入と密接な関係があります。

 

 

必要な制度を構築する

時短勤務や在宅勤務、テレワーク等の働き方の多様化は制度構築と密接に連携します。とくにいまの日本においては、労働時間や雇用に関する規制や見られ方は非常に厳しくなってきています。誰を対象にするのか、どのように管理するのか、何を条件とするのか等はしっかりと検討したうえで、制度構築して多様な働き方に取り組んでいきましょう。

 

「多様な働き方」は「成果を上げることが大事であって、週5日8時間会社に来ることが大事ではない」という非常に本質的なものですが、一方では、「不平等・不公平だ」という声にも繋がります。しっかりと制度を決めて、考え方と共に社員に告知していかないと、対象外となる社員がモチベーションを低下させてしまうリスク等もあります。

 

 

社員の意識を変える

インクルージョンを成功させるためには、経営陣やマネージャー層だけではなく、全社員の意識を変える必要があります。

 

互いの価値観を尊重して強みを活かして働くためには、社員同士の協力が不可欠であり、互いの違いを尊重するコミュニケーションが必要です。足の引っ張り合いや不平不満によるモチベーション低下は避けなければなりません。

 

社員の意識を変えるためには、価値観教育をおこなっていくことが必要です。そして、インクルージョンの実践が、社員一人ひとりにも大きなメリットがあることを伝えることが大切です。

 

 

インクルージョンの浸透状況を定期的にチェックする

インクルージョンの浸透状況は定期的にチェックしましょう。社員面談やアンケート等をおこない、社員がどのように感じているのかをチェックすることが大切です。

 

チェックの際に質問すべき内容は、「強みを活かせているか?」「成果に対して平等に評価されているか?」「個人の状況に合わせた多様な働き方ができるか?」等が良いでしょう。

 

インクルージョンの導入事例を解説

インクルージョンの導入事例とその特徴を、3社ご紹介します。

 

 

事例1.サイボウズ

サイボウズは、「100人いれば100通りの働き方があって良い」との考え方のもと、非常に多様性のある働き方を認めている企業です。代表的な制度は以下の通りです。

 

  • 育児・介護休暇制度
  • 働き方宣言制度(在宅勤務や時短勤務等、社員が自身の働く場所や時間を選択できる制度。残業や出張の可否も宣言できます。)
  • 在宅勤務制度
  • 育自分休暇制度(退職するスタッフも、最長6年間まで復職を認める制度)

 

上記は働き方に関する施策がメインですが、他にも待遇や福利厚生等でもインクルージョンの考え方が実践されています。これらのインクルージョン施策により、サイボウズでは退職率を28%から4%にまで低減させています。

 

サイボウズは一部上場企業であり、厳密なコンプライアンス等と上記のような多様性を両立させていること、また、インクルージョンの実践による組織へのエンゲージメントアップ等の効果により、着実に業績を伸ばしていることがポイントです。

 

 

事例2.野村証券

野村証券では、性別や人種等を採用や評価の際の項目としないことにより、企業としての競争力を高めることを目指しています。

 

上記自体は現代においてはコンプライアンス、法令上も当たり前の話となりますが、野村証券は、そこから一歩踏み込んで、採用や評価の項目にしないだけではなく、実際に活躍まで繋げられるように、施策をおこなっています。

 

女性、LGBTや障がい者、育児・介護中の社員等、多様な社員の働き方を支援し、実現するために、ワークライフマネジメントや女性社員のキャリア形成を支援するための研修を実施、多文化や障がい者、LGBT等の理解促進、職場環境の整備等に積極的に取り組んでいます。

 

 

事例3.ソニー

ソニーでは、全社員を対象としたテレワーク制度の活用や休職して留学できるフレキシブルキャリア休職制度の導入等、ライフスタイルに合わせた働き方や自己実現を実現しやすい施策を打ち出しています。

 

育児と仕事との両立やLGBTに関するイベントにも積極的に参加する等、インクルージョンを導入するとともに社員への教育も実施しています。

 

まとめ

インクルージョンとは、社員の多様性を受け入れ、個性や能力を発揮して活躍できるようにするための環境を整える考え方を指します。インクルージョンはCSRの一環として大手企業がおこなうものではなく、本質的な成果主義の考え方に則って、社員の強みを活かす考え方です。

 

今後の少子高齢化社会の中で必要な人材を確保するためには、多様性を持った人材を対象にできることは、中小企業にとっては大きなアドバンテージになります。また、社員一人ひとり、性格や強みも違う中で、インクルージョンの考え方を取り入れると、既存社員のモチベーション向上や離職率の低下等のメリットも期待できます。

 

記事内では導入のコツも紹介しているので、興味のある方はぜひ記事を参考に導入をご検討ください。

強みを活かす考え方と組織作りは、下記の資料もご覧いただくと参考になるでしょう。

著者情報

近藤 浩充

株式会社ジェイック|取締役 兼 常務執行役員

近藤 浩充

大学卒業後、情報システム系の会社を経て入社。
IT戦略事業、全社経営戦略、教育事業、採用・就職支援事業の責任者を経て現職。企業の採用・育成課題を知る立場から、当社の企業向け教育研修を監修するほか、一般企業、金融機関、経営者クラブなどで、若手から管理職層までの社員育成の手法やキャリア形成等についての講演を行っている。
昨今では管理職のリーダーシップやコミュニケーションスキルをテーマに、雑誌『プレジデント』(2023年)、J-CASTニュース(2024年)、ほか人事メディアからの取材も多数実績あり。

著書、登壇セミナー

・社長の右腕 ~上場企業 現役ナンバー2の告白~
・今だからできる!若手採用と組織活性化のヒント
・withコロナ時代における新しい採用力・定着率向上の秘訣
・オンライン研修の「今と未来」、社員育成への上手な取り入れ方
・社長が知っておくべき、業績達成する目標管理と人事評価
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・オーナー経営者が知っておきたい!業績があがる人事評価制度と組織づくりのポイント
・社長の右腕 10の職掌 など

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