テクノロジーの発達などにより、ビジネスの変化スピードが増す中で、PDCAサイクルが古いという声を聞くようになりました。新たフレームワークとしてOODAループなどを聞いたこともあるでしょう。
実際にはPDCAサイクルが効果的であるビジネスシーンはまだまだ多いので、「古いから全く使えない」ということはありません。本記事では、
- PDCAサイクルが古いと言われる理由
- PDCAのメリットと重要性
- 新たなフレームワークとPDCAサイクルとの使い分け方
を紹介します。
<目次>
- PDCAサイクルとは?
- PDCAが古いと言われる理由とは?
- PDCAのメリットと重要性
- PDCAに代わると言われる新たなフレームワーク4選
- OODAループとは?
- STPDサイクルとは?
- DCAPサイクルとは?
- PDRサイクルとは?
- まとめ
PDCAサイクルとは?
PDCAサイクルとは1950年代にW・エドワーズ・デミングが提唱した、以下4つの頭文字を取ったフレームワークのことを言います。
- Plan(計画)
- Do(実行)
- Check(測定・評価)
- Action(対策・改善)
PDCAサイクルは、計画を立てて実行し、検証し、改善するという一連のプロセスであり、PDCAを回し続けることで品質の改善や向上につなげられる、という考え方です。
もともとは製造業のプロセスを念頭に考えられたものですが、汎用的に使えるフレームワークであり、ビジネス分野における一般常識レベルのフレームワークとして広く普及しました。
PDCAが古いと言われる理由とは?
ビジネス分野における一般常識レベルにまで普及しているPDCAですが、近年では古いと言われることもあります。その理由を紹介します。
改善に時間がかかる
PDCAが古い・遅いと言われる最大の原因が、近年のビジネスは求められるスピード感が高まっていることです。
PDCAサイクルは、一定の時間軸で取り組むことに適したフレームワークです。つまり「計画作成」するような中長期的な時間軸で運用することが前提のサイクルになっています。
そのため、「悠長に計画を作成し、実行してから検証して改善。そして次の計画を作成する、というPDCAのスピード感では、近年のビジネスについていけない」というのがPDCAサイクルは古い、という人の主張です。
確かに、PDCAは人事評価制度などをリンクして運用されることも多く、そうすると半年や1年のサイクルでまわされがちです。
もし半年や1年に1回転しかしなければ、確かに現代のビジネスには付いていけない側面はあるでしょう。
新しいアイデアを生み出すのが難しい
PDCAサイクルは新しいアイデアやイノベーションを生み出すのには向かない側面もあります。
PDCAサイクルの長所は、実行して改善を繰り返すというサイクルによる、今の延長線上で最良の結果を導き出すことです。
現代ではネットサービスやDXの進行により異業種が競合となったり、新サービスが一気に世界中に広がったりする時代となりました。
その中で生き残るためには、ビジネスにおけるイノベーションの重要性が増しています。
イノベーションがビジネスで優先されるようになったことに伴い、改善を積み重ねていくPDCAの考え方は古いと言われることがあります。
ただし、トヨタ自動車が世界に冠たる自動車メーカーとなった一因は、間違いなくその卓越した改善力です。
改善が古い、無意味というわけではなく、改善と同時にイノベーションが大事になっているというニュアンスで捉えることが必要です。
運用が目的化しやすい
PDCAサイクルは、前述の通り、人事評価制度とリンクしたMBOや年間の事業計画などと連動して動かされることも多い仕組みです。
そのため、全社制度として運用するうちに、いつの間にかPDCAサイクルを回すこと自体が目的になってしまう事例も少なくありません。
PDCAサイクルを行う目的は業務を改善し、品質や生産性を向上させたり、事業を成長させたり、計画やプロジェクトを成功に導いたりすることです。
しかし、全社展開して制度化すると、PDCAサイクルの計画・検証などが定型化され、運用するのに大きな労力がかかり始めます。
労力が大きくなるほど、運用が目的化し、本来の目的を見失って成果を出せないという事態に陥ります。
PDCAのメリットと重要性
古いと言われているPDCAサイクルですが、現代でも非常に重要な役割を果たします。PDCAサイクルを運用するメリットと重要性を確認しておきましょう。
3つのポイントをきちんと押さえて運用することで、PDCAサイクルはまだまだ現役で使う有効なフレームワークとなります。
ゴールと課題を明確化する
PDCAサイクルはPlan(計画)のプロセスで達成すべき目標を定め、具体的な行動方針や到達すべきプロセスを決めた後に実行に移します。
だからこそ、振り返る際にも上手くいったこと/いかなかったこと、また計画からズレた場所を把握しやすくなります。
振り返りの品質を上げるためには、実行前に仮説レベルで構わないので、ゴールと達成プロセスを決めておくことが大切です。
実行に集中できる
PDCAサイクルでは、ゴールと達成プロセスを設定してから実行することで、実行に集中しやすくなります。ゴールとロードマップが明確になることで、実行中の「迷い」が減ります。
振り返りが組み込まれている
PDCAサイクルはDo(実行)に対するCheck(評価)が組み込まれていることもポイントです。
成長しない組織の特徴が、何かを実行したあと、振り返りをきちんと実施しないまま、また新たなPlan(計画)を立ててしまうことです。
振り返りを実施しないまま、次の計画を立ててもレベルアップや失敗の回避は出来ません。
「やりっぱなし」にせず、振り返りで気づいた成果や課題をAction(改善)として次のPDCAサイクルに反映することで、確実な成長を実現できます。
PDCAに代わると言われる新たなフレームワーク4選
PDCAサイクルは古いと言われているものの、上述したポイントを押さえて運用すれば、スピード感のある現代でも有効に使えるフレームワークです。
ただし、確かに現代のビジネスはPDCAサイクルが提唱された1950年代よりはるかにスピーディです。
その中で、PDCAではないフレームワークを使うほうが有効な場面があることも事実です。PDCAサイクル以外で押さえておくべきフレームワークは、以下の4つです。
- OODAループ
- STPDサイクル
- DCAPサイクル
- PDRサイクル
OODAループとは?
OODAループの意味とメリット・デメリット、PDCAサイクルとの使い分け方について解説します。
OODAループの意味
OODAループとは、以下4つの頭文字を取った略称のフレームワークです。
- ・Observe(観察)
- ⇒現在の状況や周りの環境を観察する
- ・Orient(方向づけ)
- ⇒得られた情報を元に状況判断を行い、取るべき方向性を決める
- ・Decide(意思決定)
- ⇒具体的に取るべき手段を決める
- ・Act(行動)
- ⇒決定した内容を実行する
OODAは「ウーダ」と読みます。もともとは米国空軍で、戦闘機のパイロットなどが空を飛びながら瞬時に判断して対応していくサイクルをモデルにしたものです。
メリット・デメリット
OODAループのメリット・デメリットは以下の通りです。
メリット | デメリット |
---|---|
・スピーディに対応できる ・現状に対して最適な対応を取れる | ・個人の技量が求められる ・チームワークが取りづらくなる ・意志決定がバラける |
OODAループは、PDCAサイクルのように計画を作る工程が省かれており、状況を見ながら瞬時に対応・意志決定ができます。
一方で、OODAループは瞬時に判断・意思決定するからこそ、対応する個人の力量によって結果が大きく左右されてしまいます。
また、組織内で十分に認識や方針のすり合わせがされていないと、意思決定の方針や実行がバラバラになってしまう可能性もあります。
OODAループとPDCAとの使い分け
OODAループは現状を観察するところから始めるため、PDCAサイクルよりもスピーディに実行し、かつ柔軟な対応も可能になります。
中長期としての大きなゴールや計画、判断基準をPDCAサイクルとして持っておき、Do(実行)の中でOODAループを使っていくイメージで考えるといいでしょう。
具体的には、四半期や半期のサイクルではPDCAサイクルを大きく回しながら、毎日や毎週の実行フェーズはOODAループを高速で回し、軌道修正していくイメージです。
STPDサイクルとは?
STPDサイクルの意味とメリット・デメリット、PDCAサイクルとの使い分け方について解説します。
STPDサイクルの意味
STPDサイクルとは、以下4つの頭文字を取ったマネジメント管理の手法のことです。
- ・See(現状を見る)
- ⇒現状の情報を調べる
- ・Think(分析)
- ⇒Seeで集めた情報を分析する
- ・Plan(計画)
- ⇒分析した情報を反映しながら、実行計画を立案する
- ・Do(実行)
- ⇒Planで立てた計画を実行する
Think(分析)の工程が含まれている点は、PDCAサイクルに共通していますが、現状を把握することに重点の置かれたフレームワークとなっています。
メリット・デメリット
STPDサイクルのメリットとデメリットは、以下の通りです。
メリット | デメリット |
---|---|
・分析から入ることで施策の精度を高められる | ・効果を検証するプロセスがない ・実行までに時間がかかる |
STPDサイクルは分析してから実行に移す一方で、結果を検証するプロセスがありません。また、PDCA以上に実行するまでの時間がかかる点も、デメリットと言えるでしょう。
STPDサイクルとPDCAとの使い分け
STPDサイクルとPDCAサイクルは使い分けるというよりは、組み合わせて運用するイメージになるでしょう。
STPDサイクルは現状の観察と分析に重きを置いたアプローチになり、一方のPDCAサイクルは実行後の評価と改善が組み込まれたフレームワークです。
たとえば、新しいチームに管理職として着任したときや、新たな既存事業をマネジメントする際など、「いきなり行動に移すことがリスクにつながる」場面ではSTPDサイクルの考え方が役に立つでしょう。
また、緊急ではないものの改善が必要な課題、慢性的に発生している問題などにアプローチをする際にも有効です。
PDCAサイクルと組み合わせた場合の流れは、S(See)→T(Think)→P(Plan)→D(Do)→C(Check)→A(Aciton)という形です。
現状を反映させた計画を作成でき、実行した後に評価・改善ができるようになり、双方のデメリットを補完できるワークフローとなるでしょう。
DCAPサイクルとは?
DCAPサイクルの意味とメリット・デメリット、PDCAサイクルとの使い分け方について解説します。
DCAPの意味
DCAPサイクルは構成するプロセス自体はPDCAサイクルと同じですが、順番が異なり、まずDo(実行)から始まります。
- 1.Do(実行)
- 2.Check(評価)
- 3.Action(改善)
- 4.Plan(計画)
「百聞は一見に如かず」ということわざがあるように、最初に実行した後にCheck(評価)とAction(改善)を行い、Plan(計画)を作っていきます。
経験したことに基づいて計画を練ることで、サイクルを回しながら経験値を積みつつ、ち密な計画を練られるようになります。未知の領域に対して有効なフレームワークと言えるでしょう。
メリット・デメリット
DCAPサイクルのメリット・デメリットは、以下の通りです。
メリット | デメリット |
---|---|
・実例に基づいて計画を立てられる ・計画づくりに時間をかけすぎることを防げる | ・計画の抜け漏れが大きなトラブルになるようなプロジェクトだと難しい ・大人数で回すプロジェクトだと統率が取れなくなる |
DCAPサイクルは、行動から入ることで机上の空論ではない実例に基づいたデータや知見を入手することができます。従って、新たな取り組みをする際に有効といえるでしょう。
一方で、計画の抜け漏れが大きなトラブルになるプロジェクト、失敗が取引先との信頼関係に直結したり、後からのリカバリーが難しかったりするようだと、使いづらいフレームワークです。
また、大人数で回すプロジェクトだと、いきなり実行から入ると統率できなくなる恐れがあるので、おすすめできません。
失敗してもダメージが少なくケース、また、小規模な新規プロジェクトなどで効果を発揮するフレームワークと言えます。
DCAPサイクルとPDCAとの使い分け
DCAPサイクルとPDCAサイクル情報の有無と軌道修正の可否に応じて、使い分けるのがおすすめです。
DCAPサイクルは、PDCAサイクルの「P」部分の精度を落とす、粗い仮説で実行してみるということです。従って、ある意味ではPDCAの運用でカバーできる範囲ともいえます。
ただし、たとえば、PDCAサイクルが人事制度に紐づけられて動いていたり、運用自体が目的化していたりすると、計画づくりに過度に重きを置かれたり、一度作った計画を修正することが認められにくい傾向があります。
そうした場合には、Do(実行)から入るDCAPの概念を意図的に導入することで、実行力や実行スピードを強化できるかも知れません。
情報がないために精密な計画を立てられない、かつ軌道修正が可能な場合には「まずはやってみる」の意識は大切です。
PDRサイクルとは?
PDRサイクルの意味とメリット・デメリット、PDCAサイクルとの使い分け方について解説します。
PDRサイクルの意味
PDRサイクルとは、以下のプロセスをたどるフレームワークのことです。
- ・Prep(準備)
- ⇒行動に移すための準備
- ・Do(行動)
- ⇒実行する
- ・Review(見直し)
- ⇒得られた成果を評価する
PDRサイクルは、Do(行動)の前にP(準備)が入るものの、Plan(計画)ほどというほど精緻なものは作らないというイメージです。
従って、DCAPサイクルと同じように、スピーディに進められることが特徴です。
PDRサイクルは、成否の結果がわかりやすい業務、不確実性が多く計画を立てるのが難しい業務に適したフレームワークと言えるでしょう。
メリット・デメリット
PDRサイクルのメリット・デメリットは、以下の通りです。
メリット | デメリット |
---|---|
・1回のサイクルが短く、手早く改善できる ・いきなり実行するわけではないので、リスクを押さえられる | ・大きなリソースを投下し、失敗が許されないプロジェクトや業務内容には不向き |
DCAPサイクルと比べると、準備のプロセスが組み込まれていますので、いきなり実行するのに比べると失敗のリスクを押さえられますし、周囲の理解も得やすいでしょう。
一方で、PDCAサイクルと違って計画をきっちり作成しませんので準備精度はどうしても低くなってしまいます。
そのため、失敗したときのリスクが大きいプロジェクトには向いていない点は、DCAPサイクルと同じです。。
PDRサイクルとPDCAの使い分け
失敗したときに生じる損害が小さい場合はPDRサイクル、大きい場合はPDCAサイクルを使うのがおすすめです。
PDRサイクルはPrep(準備)が必要であるものの、実行するために必要な最低限のことで問題ないので、短いスパンで進められます。一方で、Plan(計画)ほどの精密さはありません。
従って、「失敗時のリスクが小さいものに関して、高速で試して改善する」という場面に向いている考え方です。
OODAループとの使い分けでも紹介した通り、四半期や半期ではPDCAサイクルを運用しながら、Do(実行)フェーズでの小さな施策やプロセスゴールへの取り組みはOODAループやPDRサイクルを高速で動かす形で、併用するのが効果的でしょう。
まとめ
現代のビジネス環境は、数十年前よりも変化が高速化しており、Plan(計画)を緻密に練ってからDo(行動)に移すPDCAサイクルはもう古い・遅いとも言われます。
但し、PDCAサイクルは、運用のポイントを押さえれば、まだまだ現役で使え、基盤となるフレームワークといます。
四半期や半期などの時間軸ではPDCAサイクルをしっかりと動かしながら、状況に応じて、以下のような新たなフレームワークを組み合わせる、使い分けることが有効です。
- OODAループ
- STPDサイクル
- DCAPサイクル
- PDRサイクル
PDCAサイクルを含めた5つのフレームワークをうまく活用することで、成功確率を高めることに繋がるでしょう。
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