「目的」と「目標」という言葉は、普段あまり意識せずに使ってしまっている人も多いかもしれません。
しかし、ビジネスで成果をあげる、モチベーションを維持するためには、目的と目標の違いを明確に理解して、使い分けることが、大切です。
「目標や手法が目的化してしまう」「目標に意味付けがされておらず、モチベーションが維持できない」といったことはよくある失敗事例です。
記事では、「マネジメントの父」とも呼ばれる経営学者ドラッカーの言葉も引用しながら、目的と目標の違いや考え方、設定や達成のポイントを紹介します。
<目次>
「目的」と「目標」の意味と違
組織内でコミュニケーションが円滑に行われるためには、共通言語を構築する必要があります。
人によって言葉の捉え方が違うと、認識の違いによって思わぬトラブルを招きかねません。まずは「目的」と「目標」という言葉の意味を確認しましょう。
目的とは?
目的とは、「目指す的(まと)」であり、「最終的に目指すべき到達点」を意味します。別の表現でいうなら「何のために?」という言葉に置き換えられることが多いでしょう。
目標とは?
目標とは、「目指す標(しるべ)」であり、「目的を達成するための指標」のことです。
つまり、目標とは、最終到達点である目的に行き着くための、いわばマイルストーンです。別の言葉でいうなら「何を達成するか?」です。
例えば、「お客様に最高のサービスを提供できるようにする」という目的を達成するために、「必要な資格を取る」「○○の実務経験を積む」といった目標を立てるというイメージです。
目標は、目的にたどり着くまでの中間ポイントに、いくつか設定されます。
企業の場合でいえば、「ミッション」や「ビジョン」「経営理念」などの目的があり、それに対して、「中長期の事業計画」「単年度の経営計画」「事業部や部門の年間計画」といった形で定性・定量的な目標が設定されていきます。
目的、目標と似た言葉
目的、目標と似た言葉に「ゴール」や「指針」があります。
「ゴール」は、到達点という意味です。日本語では文脈に応じて、目的と目標、どちらの意味でも使われますが、比較的「目標」の意味でつかわれることの方が多いでしょう。
また、「指針」とは、どのようにして物事を進めていくのかという原則やルールのことです。
目的や目標を達成するための方法を考えるうえで守るべきもの、ということになります。目的がWhy、目標がWhatだとすると、指針はHowになるでしょう。
混乱を避けるためにも組織内での認識を統一し、共通言語として使えるようにしておくことが大事です。
目的を定めることの重要性
組織内の業務においては、「目標設定」や「目標達成」のノウハウなどは扱われることが多いですが、「目的設定」は意外と触れられないことも多いかもしれません。
本章では「目的設定」の重要性について扱っていきます。
目的を定めることで目標が明確になる
最終到達点である目的がしっかりしてこそ、中間指標となる目標も明確に定まります。
ドラッカーは目的設定について、以下のように述べています。
明確で具体的な目標が定まることで、具体的な計画を組みやすくなることは言うまでもありません。
ただ、その先にある目的、「どのような成果を得たいのかが不明確なまま、とりあえずやりやすそうなところから着手する」といったことをしてしまうと、迷走した挙句に疲弊するということになりかねません。
目標を定める上では、「どのような成果を得たいのか」「最終的なゴールが何か?」をはっきりさせ、そこから逆算して目標を設定することが大切です。
仕事に意味付けできる
目的は、仕事における「何のために」であると言えます。「何のためにこの仕事をして、何のために目標を達成するのか」の答えが目的です。
機械やAIが人間の仕事をどんどん代替していく時代にあって、与えられた仕事を機械的にこなすだけでは仕事に意味を感じられなくなり、やがてやる気を失ってしまいます。
また、そもそも人間に求められているのは創造的な仕事や感情労働的な仕事であり、モチベーションなどが成果に大きな影響を与える業務です。
そのような時代に、仕事とどう向き合っていけばいいのでしょうか。ドラッカーは、人間としての成長や仕事への意味付けについて、以下のように述べています。
与えられた仕事をこなしていくだけでは、創造的な部分が無く、成長も感じにくいものです。
とりわけ、分業化が進んだ組織では自分が担当する仕事を機械的にこなすだけで手一杯になりがちであり、仕事の意味を見失いがちです。
なかには自分がやっている仕事の意味付けがうまくできず、「成長が感じられない」と辞めてしまう人もいるでしょう。
ドラッカーの話に出てくるクラリネット奏者のように、自分がやっていることの「意味」を見出すことが創造的な仕事や成長につながります。
「何のためにやっているのか」という目的が明確になり、また複数の目的との紐づけが出来ると、モチベーション等もブレなくなってきます。
「複数の目的との紐づけ」とは、会社のミッションのためであり、顧客に喜んでもらうためであり、自分の強みを生かすためであり、自分のキャリアに繋がることであり、待遇改善して自分や家族を幸せにするためであり…といった複数の目的と仕事がしっかりと結びついた状態です。
判断基準ができ、変化対応が素早くなる
VUCAとも呼ばれる今の時代、外部環境の変化も激しいものです。インターネットが進化する中で、異業種がいきなり自社の競合となることもあるでしょう。
たとえば、映画館や書店・出版社といった業界が、amazonやNetfrixなどの今まで存在しなかった異業種の参入によって大打撃を受けていることはご存じのとおりです。
外部環境の変化に合わせて、企業はより素早い変化対応が求められており、現場に権限委譲して、細かく変化対応し、アレンジしていく必要もあります。
その際に必要になってくるのが、「目的」を踏まえた判断軸です。ドラッカーはどのような視点を持つべきかについて以下のように述べています。
前述の通り、変化が激しい時代の中で、組織は権限委譲を進め、細かく変化対応していく必要があります。
つまり、現代は現場の1人1人がマネジメントの仕事、つまり意思決定や資源の分配を担う必要があります。
日々の生計を立てる、プロとしての腕を磨く、どちらも重要であり必要なことですが、同時に、権限委譲していくうえでは、「この仕事は何のためにしているのか」「我々はどんな形を提供したいのか」という目的を見失わないようにすることが大切です。
目的を明確にすることで、ブレずに、変化を恐れず、素早く意思決定をしていけるようになります。
多くの企業が陥る目的・目標の勘違いやトラブル
目的や目標を適切に設定することで、方向性がブレることなく素早く意思決定していけるようになります。
しかし、それができずにトラブルに陥ってしまうケースも多くあります。具体的に、どのようなトラブルに陥ることが多いかを見ていきましょう。
目標が目的化してしまう
よく見られるのが、知らない間に目標が目的化してしまうというケースです。営業でも、いつしかノルマの達成ばかりに気をとられてしまい、強引な販売につながってしまうということがよくあります。
組織においても、どうしても目標に手が届かないという場合に不正が行われてしまうという事象もあります。
目標を達成することは重要ではありますが、目標はあくまで通過点に過ぎません。
目的からズレてしまったのでは意味が無くなってしまい、強引に目標を達成しようとするあまり、顧客からの信頼を損なってしまうことにもなりかねません。
目的がはっきりしないまま目標だけを追いかけてしまう
目的がはっきりしないまま、目標だけ設定してしまうことも意外と多くあります。
たとえば、いくら利益を出すのかを決め、そこから売上目標を決めるというような場合です。
利益は企業が存続していくための原資であり、事業をよりよくするためにも不可欠ですので、利潤を追求する、売上を設定するという活動は必要になります。
しかしながら、何のために活動するのかという目的をはっきりさせないまま、売上目標だけを掲げて売上ばかりを追いかけてしまうと、従業員や組織が疲弊していってしまうことになりかねません。
機械的に仕事をこなすだけのような状態になってしまい、仕事に意味を感じられなくなり、離職する人やメンタルダウンする人が出てきてしまう可能性があります。
目標を適切なレベルで設定できていない
目標を適切なレベルに設定することができておらず、トラブルに陥ってしまうこともあります。
たとえば、チャレンジ意欲を掻き立てるために敢えて達成困難な目標を掲げ、組織を鼓舞したものの、達成できないことが続いて組織を疲弊させてしまうといった場合です。
一方で、モチベーションを保つために簡単に達成できる目標ばかりを設定してしまい、組織全体が成長できなくなってしまうというケースもあります。
適切な目標のレベルとは、どのようなものなのでしょうか。
ドラッカーは、このように指摘しています。背伸びしつつも、達成可能なレベルに設定するというのが重要なポイントです。
組織のやる気を引き出すために高い目標を設定してしまうということは悪いことではありません。
たとえば、後述するOKRという目標管理手法では「達成できたことを想像するとワクワクするような高いレベル」、普通にやったら6~7割程度の達成率にしかならない目標を設定することを推奨します。
ただ、たとえば上記のような6~7割の達成率になるような目標設定を、「達成率によって評価される人事評価制度(MBOでよくある仕組み)」と組み合わせて導入してしまうと、現場や組織の疲弊感は大きなものになりますし、目先の目標達成のために不正を働いてしまう人を出してしまったりするといったことにもなりかねません。
目標はあくまで手段であり、意図や認識を合わせたうえで適切なレベルで設定する必要があります。
目的や目標を設定して達成する方法
目的や目標を達成できない要因として、適切な目標設定が出来ていなかったり、目的・目標達成のノウハウについて理解が浅かったりすることがあります。
目的・目標の設定や達成手法は非常に重要なノウハウです。本章では基本的な設定・達成のポイントをいくつか紹介します。
1)企業理念や事業ドメインをもとに考える
組織における目的を考えるうえでは、企業理念やどういった市場でビジネスを展開していくのかという事業ドメインやコンセプトが反映されている必要があります。
例えば、セブンイレブンの事業コンセプトは「近くて便利」です。
コンビニというと、お弁当や日用雑貨といった「物」のイメージがありますが、セブンイレブンが提供しているのは「便利さ」であるということが分かります。
この「近くて便利」を提供するというドメインから生まれたもののひとつが、セブン銀行です。現金を下ろすのに遠くの銀行やATMまで行くのが面倒だと感じる人も多いはずです。
また、コンビニ内のATMであれば、昼食や夕食を買ったついでに現金を下ろせるというメリットもあります。
つまり、セブン銀行は、業態としては今までのコンビニエンスストアにおける物販とは全く違う事業のように見えますが、「近くて便利」という価値提供を実現させる事例のひとつと言えます。
コンビニという事業の枠にとらわれずに価値提供できるのは、企業理念や事業ドメインが明確に定められているからです。
一もし、「儲かりそうだから…」という理由で様々なことに手を出してしまうと、事業の統一感を保つことができなくなり、方向性を見失ってしまうということにもなりかねません。
ブレることなく業種や業界の壁を超えた競争に生き残るためには、「どんな価値を提供するのか?」ということを強く意識しておく必要があります。
2)「なぜ」を繰り返す
顧客に価値を提供するためには、「なぜ」を繰り返すことで、顧客の目的をよく考えることも重要です。
マーケティングの世界で有名な話として、「ホームセンターにドリルを買いに来た人が本当に欲しいのは、ドリルではなく穴である」というものがあります。
顧客にとって真のニーズは穴であり、ドリルは手段です。
たとえば、もしドリルよりも安くて簡単に穴をあける方法があれば、顧客はそちらを選ぶ可能性が高いはずです。
顧客の真のニーズを知ることなく商品やサービスを売ろうとしてしまうと、断られてしまったり、ミスマッチを起こしてクレームにつながったりといったことにもなりかねません。
「なぜ」を繰り返して顧客の真のニーズを探り、そのニーズに対してどのように応えていくのかを考える必要があります。
3)目標設定におけるSMARTの法則
目標を設定する上で意識しておきたいのが、「SMARTの法則」と呼ばれるものです。
SMARTの法則は、適切な目標設定の要素をまとめたもので、具体的には以下5つの要素を満たすように目標を表現することの重要性を示しています。
目標設定で最も重要なのは、具体性があることです。
当たり前の話ですが、何を達成したいのかが不明瞭であれば、達成するための計画も立てようがありません(具体性)
また、その意味で、どういった項目を評価の指標とするのかの設定も重要です。具体性と紐づきますが、客観的にどういう状態になれば達成できたか?を明確にしておく必要があります(測定可能性)
マストではありませんが、評価項目は可能な限り数値化して測定可能なものにする(定性的なものに関しても達成可否が明確になるようにする)ことで、どれくらい前に進めたのか、何がどれだけ足りなかったのかといった分析がしやすくなります。
「達成可能性」については、ドラッカーの言葉でもご紹介したとおりであり、あまりに無理のあるものは望ましくありません。
4つ目の「関連性」というのは、目標は目的、また上位の目標と関連したものである必要があります。
また、目標には「明確な期限」も必要になってきます。期限がなければ、どんどん先延ばしになってしまい、なかなか前に進めにくいでしょう。
達成目標とする時期が決まっているからこそ、納期を区切って達成計画を組めるのです。
以上5つの要素を目標設定に織り込むことで、的確な目標設定ができるようになります。
4)マンダラチャートで目標達成の計画をつくる
目標達成のための計画作りで役に立つのが、「マンダラチャート」です。
マンダラチャートとは、達成したい目標に対して、目標達成するための施策や行動、アイディアを具体的なレベルまで掘り下げていくものです。
3×3のマス目を9つ用意し、まずマス目の中央に達成したい目標を記入し、その周囲8マスに目標を達成するために取り組みテーマを書き込んでいきます。
次に、周囲のマス目8個の中央マスに書き込んだ取り組みテーマ8つを転記します。そして、各取り組みテーマに対して、8つの具体的な行動レベルの施策や取り組みを転記します。
マンダラチャートが完成すると、目標達成に繋がる行動レベルの施策やアイディアが64個出てくることになります。
このように目標達成に必要な取り組みを分割して可視化していくことで、やるべきことが明確になり、精度の高い計画を作成できるようになります。
5)目的・目標達成に向けてプロセスを管理する
目的と目標が定まって、達成計画を作成する、また進行する上では、プロセスを管理することも大事です。
プロセスを管理する手法としては、
- KPIマネジメント(Key Performance Indicator)
- MBO(目標管理制度)
- OKR(Objectives and Key Results)
があります。
まずKPIマネジメントは、プロセス管理の基本となる考え方で、目標を達成するために重要なプロセス指標(Key Performance Indicator)を設定して管理するという考え方です。
KPIがプロセスだとすると、ゴールになる指標をKGI(Key Goal Indicator)、KPIを達成するための行動指標をKAI(Key Action Indicator)と呼びます。
たとえば、KGIがKGIだとすれば、KPIは提案金額や商談数、KAIは既存顧客と新規顧客、それぞれへのアプローチ件数といった形です。
最終的に達成したいゴール指標は「結果」であり、結果だけを追い求めても仕事はなかなかうまく行きません。
だからこそ、結果を出すために大切な「先行指標」を追いかけ、先行指標を達成するための「行動」をやり切るという考え方です。
こうしたKPIマネジメントを踏まえつつ、目標管理に役立つのがMBOとOKRです。MBOとOKRはいずれも組織でよく取り入れられている目標管理の手法です。
MBOは、ドラッカーによって生み出された手法であり、組織と個人が合意してSMARTな目標設定することで、①組織メンバー個々の努力・達成が組織の達成につながる状態になる。
そして、②合意した目標を設定するからこそ、個人に権限移譲してセルフマネジメントを推進できるという考え方です。
MBOは、②で紹介したようにメンバーの自発性を促し、モチベーションの向上につながるメリットがあります。
一方で、人事評価制度を連動させることが一般的であり、結果的に各個人が自分の評価を上げるために達成しやすい目標設定ばかりになりやすいというデメリットもあります。
こうしたMBOのメリット・デメリットに対応した新たな目標管理制度として注目されるのがOKRです。OKRは一般的に個人単位では設定されず、組織全体の目標達成のために設定されます。
OKRは、組織全体として達成したい大目標O(Objectives)とそのためのKPIとなるKR(Key Results)を設定します。
OKRの特徴は、メンバーの方向性や意識を統一するために普通にやったら達成率60~70%ぐらいになるような野心的でワクワクする目標を掲げる点にあります。
OKRには、全社員で高い目標を共有することで、一体感やモチベーションを引き出せるというメリットがある一方で、MBOの感覚で考えると達成率が低い状態が続いてしまいがちなので、人事評価と連動させるとうまく行きにくい、達成率の低さがモチベーション低下を招くリスクがあるといった欠点もあります。
6)PDCAサイクルを回す
目的・目標が定まり、達成計画を立てても、その通りに進められるとは限りません。むしろ、100%計画通りに進むことなど殆どないといってもいいでしょう。
従って、取り組んでみて計画と実績がズレてしまった時には、原因をはっきりさせ、次につなげていくことが大切です。これがPDCAサイクルです。
PDCAサイクルは、Plan(計画)⇒Do(実行)⇒CA(振り返りと改善)を繰り返すことで、計画精度や達成率をどんどん高めていく手法です。
目的・目標の達成力を高めるトレーニング
ここまでお読みいただき、「目的」と「目標」の違い、目的の重要性や目標の設定、達成のためのポイントといったことは理解いただけたでしょうか?
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