ピープルマネジメントは、メンバー一人ひとりと向き合い、メンバー各自の成長や成功をサポートするためのマネジメント手法の一つです。
IT化やDXが進むことで知識労働者に求められる仕事が変わり、また、価値観や働き方も多様化する中で、画一的に部下を管理・監督しようとする昭和型のマネジメントがうまく機能しなくなっています。こうした状況の中、メンバーの個性を尊重して、可能性を発揮させるアプローチとして、ピープルマネジメントが改めて注目を集めています。
記事では、ピープルマネジメントが注目される背景やメリット、運用を強化・成功させるためのポイントと注意点を解説します。
<目次>
- ピープルマネジメントとは?
- ピープルマネジメントが改めて注目される背景
- ピープルマネジメントを実践・強化することで得られるメリット
- 令和に求められるピープルマネジメントとは?
- ピープルマネジメントの強化に必要な管理職・リーダーのリスキリング
- ピープルマネジメントを強化するステップ
- ピープルマネジメントを成功させるためのポイントと注意点
- ピープルマネジメントの成功に役立つサービス
- まとめ
ピープルマネジメントとは?
まずはピープルマネジメントの概要を紹介します。
ピープルマネジメントとは
ピープルマネジメントとは、メンバーの一人ひとりと向き合い、メンバーの成長、成功をサポートし、一人ひとりの潜在能力や可能性が最大限に引き出すマネジメント手法です。一人ひとりのエンゲージメントやモチベーションが高まることで、組織全体のパフォーマンスも高まります。
ピープルマネジメントは、従来の指示・監督を中心としたマネジメント手法とは異なり、メンバーの個性や能力を尊重し、主体的に行動するように促していくことで、組織全体の向上を図ることができるのが特徴です。
ピープルマネジメントと管理・統制型マネジメントの違い
ピープルマネジメントは決して新しい概念ではありません。“人を大事にする”という考え方自体は昔からある思想です。ただ、企業の組織規模が大きくなる中で、従来の主流となってきたマネジメントは組織の目標達成のために社員を管理・統制するアプローチでした。軍隊における指揮命令系統、またチェーンストア理論などにみられるように中央集権型で意思決定して、上意下達で実行していくイメージです。従業員は、組織の「パーツ」であり、「歯車」として、社員個々のニーズや人間性は二次的なものとされがちでした。
これに対して、ピープルマネジメントは社員の人間性を尊重し、一人ひとりの成長と自己実現を支援することに重きを置いたマネジメントの考え方です。上司は対話を通じて目標設定や役割分担を行い、フィードバックを活発に行うことで社員の成長を促します。また人格的・心理的なニーズにも着目し、働きがいや自己実現をサポートすることで、生産性を高め、イノベーションを創出することを目指します。
組織の目標達成、実行の合理性に焦点を当てた管理・統制のアプローチである従来型マネジメントに対して、ピープルマネジメントは社員一人ひとりの成功や自己実現を重視して主体性と創造性を引き出すことを目指すマネジメント思想です。
両方にメリット・デメリットや適切なステージがあり、一概に優劣があるものではありません。大きな流れとして大量生産×効率化の時代にはフィットしていた従来型マネジメントが、イノベーションや創造性を求められるVUCAの時代に入って不適合な部分が目立ち始め、それを埋めるものとしてピープルマネジメントにフォーカスが向いているという形です。
ピープルマネジメントとタスクマネジメント
ピープルマネジメントを前述のような「一人ひとりと向き合う」という狭義の意味ではなく、タスクマネジメントと対比させて、「人のマネジメント」という広義の意味で使うこともあります。
組織においてリーダーがマネジメントする対象は、大きく分けてタスク(事柄)とピープル(人)の二つがあります。
これは、リーダーの機能をP機能(目標達成行動)とM機能(集団維持行動)によって分類するPM理論に照らし合わすとイメージしやすいかもしれません。
タスクマネジメントは、目標達成に焦点を当てたものであり、ゴールから逆算して論理だって進行、意思決定していく側面が強いものです。
これに対し、ピープルマネジメントは、人の目的意識やモチベーション、チームビルディング、協働意識や参画意識など、「人」の意識や関係性に対するマネジメントです。
タスクマネジメントとピープルマネジメント、組織のマネジメントにおける両輪であり、2つがそろうことで組織はハイパフォーマンスを発揮できるようになります。
タレントマネジメントとの違い
ピープルマネジメントの類義語としてあがってくることが多いのが、タレントマネジメントです。2つを比較してみると、ピープルマネジメントへの理解がより深まるでしょう。
ピープルマネジメントとタレントマネジメントは、人に関するマネジメントである点は共通していますが、人材の位置づけや成果を出すためのアプローチに大きな違いがあります。
タレントマネジメントは、組織開発の視点や能力、スキルへの注目が強いものです。人材を組織の成果を生み出すリソースと位置付けられ、組織内のリソースをいかに効率よく活用して成果を最大化させるのかに重点が置かれます。
タレントマネジメントシステム等のツールと一緒に語られることが多く、従業員の経歴、資格、スキルなどを可視化して一括管理し、人事戦略などに基づいて人材を適材適所に配置することで、強みを最大限に発揮できるようにしていきます。
一方で、ピープルマネジメントは、タレントマネジメントと比べると個人によりフォーカスし、また定性的なエンゲージメントや感情、人と人の間にある関係性などに焦点をあてた概念だと言えます。一人ひとりの成長や成功にコミットメントしていくことでエンゲージメントを高め、個人の力を最大化させることで組織としての成果も最大化させるアプローチです。
ピープルマネジメントにおいては、人材は投資の対象である「資本」として位置付けられ、付加価値やイノベーションを生み出していくための投資対象と位置付けられます。
タレントマネジメントが可視化された経歴、資格、スキルで人材を管理するのに対し、ピープルマネジメントでは、まだはっきり表には出ていない潜在的な力を引き出すことが重視されます。そのため、メンバーの一人ひとりと向き合うということが重要になり、上司の側は、相手の隠れた強みを見つけ出し、それを伸ばしていくといったことが求められるようになります。
見つけ出した強みを活かせるようにし、ときにチームとして他者の強みともうまく掛け合わせながら、機械やAIには生み出すことのできない新たな価値を創造していけるようにしようとするのがピープルマネジメントです。
2つの概念は優劣などがあるものではありませんが、上記のように異なるニュアンスや文脈で使われます。
クルト・レヴィンの法則とピープルマネジメント
一人ひとり潜在的な能力を引き出そうとするピープルマネジメントにおいて参考になるのが「クルト・レヴィンの法則」と呼ばれるものです。
クルト・レヴィンの法則とは、社会心理学者のクルト・レヴィンによって提唱されたもので、人間の振る舞いと本人の特性、周囲の環境の関係は以下のような関数で表すことができるとするものです。
- B : Behavior 振る舞い
- f : function 関数
- P : Personality 本人の特性
- E : Environment 周囲の環境
クルト・レヴィンの法則は、人の行動は、本人の特性や価値観だけでなく周囲の環境や人間関係の作用によって変わることを示したものです。
個々人のパフォーマンスを最大限に引き出すには、本人の強みや価値観理解のほか、成長できる環境や心理的安全性の確保、上司側の意識改革といったことも重要になってくるとわけです。
ピープルマネジメントが改めて注目される背景
なぜ今ピープルマネジメントの概念がより重視されるようになったのか、昭和の時代と比較しながら、令和の時代にピープルマネジメントがより重要となる背景を解説します。
終身雇用制度の崩壊と少子化
現在の日本は少子化が進み、若年層の採用はより難易度を増しています、また、終身雇用が崩壊して雇用の流動性が高まる、つまり転職が当たり前となったことで、優秀人材をつなぎとめる重要性は増しています。
転職の自由があり、かつ複業(パラレルワーク)や独立(個人事業主やフリーランス、法人設立)などの選択肢も増えている中で優秀層をつなぎとめるには、給与や待遇だけでなく、エンゲージメントや働きがいを高める必要があります。
これはピープルマネジメントの領域である、信頼関係や職場の人間関係、ポジティブな感情へのアプローチ、動機づけ等が大切になっていることを示しています。
組織内の役職や待遇といった画一的な要素で人を惹きつけるのではなく、一人ひとり異なる価値観やニーズにうまく対応できるようにすることで、離職を防ぐことができますし、エンゲージメントを向上させることができます。
組織の生産性を高め、深刻な人手不足を乗り越えるためにピープルマネジメントは重要なものになってきます。
価値観や働き方の多様化
価値観が多様化してきている中で、すでに触れたように給与や待遇の相対的な重みというのは減ってきています。
給与や待遇はいまも大事な要素ですが、同時に一人ひとりの価値観と向き合ったうえで、価値観を満たし、個々人の働きがいを生み出すアプローチが大切になっています。ワークライフバランスを重視する人も増えており、ピープルマネジメントでウェルビーイング等を考えていく必要性は増してきています。
こうした多様化した価値観に対応できるようにするには、上から画一的な価値観を押し付けるマネジメントをするわけにはいきません。
多様な価値観を持った人にとって働きがいのある職場を実現し、組織の生産性を高めるために一人ひとりを大事にするピープルマネジメントは、効果的なマネジメント手法と言えます。
知識労働・感情労働の増加
機械の発達、またIT・AIが進化する中で、人に求められる役割として付加価値を生み出したり、また、感情に寄り添ったり感情を動かしたりする仕事がますます重視されています。このような知識労働や感情労働においては、労働者のエンゲージメントやモチベーションが、今まで以上にパフォーマンスに影響するようになります。
ある程度決まった手順や判断基準が存在する仕事はどんどん機械やAIに置き換えられる中で、人間は絶対的な正解がない中で意思決定したり柔軟に対処したりする必要があります。
そのようなよりレベルの高い知識労働や感情労働が要求されるようになった中で、個々人の強みを発揮して最大限のパフォーマンスを引き出すために、一人ひとりと向き合うピープルマネジメントが重要になります。
イノベーションの必要性と人的資本経営
通信技術や情報処理、AIの急速な進歩の中で、知識労働の中でより求められている役割がイノベーションの創出です。
組織開発でも「人的資本経営」と頻繁にいわれる現在、イノベーションを生み出すための投資の対象である「資本」という位置づけになってきます。資本とされる人材の価値を最大限に引き出して成果につなげていくためには、個々の従業員が持つ潜在能力を見つけ出し、イノベーションにつなげていけるようにすることが重要です。
こうした人的資本経営の時代に最適なマネジメント手法として、ピープルマネジメントは注目を集めています。
ピープルマネジメントを実践・強化することで得られるメリット
ピープルマネジメントは、一人ひとりと向き合うからこそ、結果が出るまでには時間がかかりますし、定量的な数字として成果が表れにくいものでもあります。しかし、ピープルマネジメントを成功させれば企業にはさまざまなメリットがあります。具体的にどのようなメリットがあるかを紹介します。
上司と部下の信頼関係が強まる
上司が、部下一人ひとりと向き合うことで、お互いの価値観や強みを把握できるようになります。そうすることで、上司と部下の信頼関係はより強固なものになるでしょう。
一方的な指示、命令で動かすという指揮命令型のマネジメントは、部下を受け身にしてしまいやすく、また、指示、命令が受け入れられない場合には反発されてしまうこともあります。
知識労働や感情労働の重要性が増す中でピープルマネジメントをうまく実践することで、部下が信頼関係に基づいて自発的に動くようになり、工夫やアイデアも生まれやすくなるでしょう。良好な信頼関係により上司と部下のコミュニケーションが円滑になる、またボトムアップ型のマネジメントが円滑に進み、組織の生産性向上を期待できます。
エンゲージメントが高まる
ピープルマネジメントは一人ひとりの成長や成功にコミットメントするマネジメント手法であり、仕事へのモチベーションや組織へのエンゲージメントを高めることができます。
先ほども触れたように、とりわけ知識労働や感情労働におけるエンゲージメント向上は、パフォーマンスの向上と密接な関係があります。ピープルマネジメントの導入により、部下が自発的に動き、自分の工夫やアイデアによって成果を上げるようになれば、自己効力感も高まっていくでしょう。
エンゲージメントの向上は、離職を防止する効果も期待できます。人手不足が深刻化する中では、人材を定着させることは企業にとっての大きな課題であり、生産性の向上とあわせて、ピープルマネジメントで実現する大きなメリットであると言えます。
キャリア自律につながる
ピープルマネジメントの考え方はキャリア自律にもつながります。部下が、上司との対話を重ねる中で自分の価値観や強みを知ったり、自らがしている仕事に意味や価値を見出せるようになったりすれば、それは自分自身のキャリアを考えるきっかけとなります。
また、部下が自発的に動き成果を出せるようになってくれば、仕事に対する自信につながり、キャリア形成により前向きに取り組めるようになります。
こうした日々の積み重ねとキャリア研修やキャリア面談、キャリア自律を支援する人事制度等を組み合わせることで、効果的なキャリア自律が実現するでしょう。
令和に求められるピープルマネジメントとは?
現在、仕事に対する価値観や働き方が大きく変わりつつあります。令和の時代にどのようなピープルマネジメントが求められているのかを紹介します。
管理統制型組織から価値共創型組織への移行
いま起こっている大きな変化が、管理統制型組織から価値共創型組織への移行です。
仕事における正解が比較的見えていた時代、正解に効率よくたどり着くためにはトップダウン型のマネジメントが有効でした。何が答えなのかを知っているトップが下に指示・命令を出し、下の者は上の指示に従うことで成果を出すことができていました。
管理統制型の組織における上司の役目は、トップからの指示・命令を現場に伝え、その通りに実行されているのかを管理・監督することでした。
しかし、変化が激しく正解がない時代になってくると、トップダウンで人を動かすことは難しくなってきます。トップも正解を知っているとは限らず、むしろ現場に近い若手の方が、現状を打開するためのアイデアを持っていることもあります。
また、VUCAとも呼ばれる不確実な時代、最適な答え自体も目まぐるしく変わっています。さらに顧客もカスタマイズされたサービス等に慣れ親しんでいる中で、現場ではより臨機応変な対応が求められています。
トップダウンの管理統制型組織では、現場の声を吸い上げてトップが意思決定し、現場に指示・命令を出すのに時間がかかり過ぎてしまうことから、急激な変化に柔軟に対処できるようにするためには、フラットで柔軟性のある組織が求められるようになってきます。
さらに、AIの導入が進むなかで、定型的な知識労働はどんどんAIに置き換えられ、人間にはイノベーションを起こし、今までにない新たな価値を創造するような仕事が求められるようになっています。
イノベーションが生まれやすい組織というのは、心理的安全性が確保され、周囲と対等な立場で議論し合える組織です。異なる価値観や考え方を持った人同士が互いに協力し合い、シナジーを発揮していけるようにすることで、新たな価値を生み出していけるようになります。
こうした点からも、組織は軍隊型の管理統制型のマネジメントから、ボトムアップ型・価値共創型のマネジメントに移り変わることが求められています。
管理統制型の組織では方針を決めて進捗をきちんと管理するタスクマネジメントが重要でしたが、ボトムアップ・価値共創型の組織をつくるには、人と向き合い、人の潜在能力を引き出すピープルマネジメントが相対的に重要性を増しています。
管理職のオープンマインド
令和の時代の価値共創型組織において、ピープルマネジメントを成功させるために重要になってくることが管理職のオープンマインドです。
オープンマインドとは、ありのままの自分を相手に見せ、自分の考えを正しいと決めつけずに異なる意見にも耳を傾けられるマインドをいいます。
昭和の時代から続く管理統制型のマネジメントの流れで、一方的な考えの押しつけや説得、説教で相手をコントロールしようとすると、Z世代の若手からは強い反発を受けます。
若手社員が何かアイデアを出しても、前例主義にとらわれてそのアイデアを否定してばかりになってしまっては、「何を言っても受け入れてもらえない」と、やがて何も言わないという状態になってしまいます。そうなれば、せっかくのイノベーションの芽を摘んでしまうことにもなりかねません。
さらに、ひたすらダメ出しをすることで欠点を改善させ、完璧な状態に近づけていくというやり方も、正解のある時代には有効なマネジメント手法でしたが、正解の無い時代には、イノベーションにつながるように、強みに着目して伸ばしていくということが重要になります。
また、管理職自身が型にはまるのではなく、自分の強みや弱み、個性を開示して、ポテンシャルを発揮していない状態では、部下のピープルマネジメントを実践することはできないでしょう。
今の若手を動かしていくためには、自己開示、そして、異なる価値観や意見を受け入れる度量、両方が重要なポイントになってきます。
求心力の強化とエンゲージメント
雇用の流動化と、ジョブ型人事等に代表されるような仕事の細分化と専門性強化が進む中においては、組織の持つ求心力は弱まり、相対的に遠心力が強まっています。
昭和の時代は、終身雇用と年功序列を前提に組織が強い求心力を発揮することができましたが、令和の時代には遠心力が強まった中で、ミッションやビジョン、働きがい、キャリア安全性、コミュニティとしての組織整備など、新たな求心力の強化策を実施して、エンゲージメントを強化していく必要があります。
フラット化した組織において、組織がバラバラになってしまわないように、組織を進むべき方向に向かってまとめ上げるのに必要になってくるのが「求心力」です。
ピープルマネジメントの強化に必要な管理職・リーダーのリスキリング
ピープルマネジメントが必要とされる背景には、これから進んでいく組織マネジメントの変化があります。マネジメントのあり方を変えるうえで必要になってくるのが管理職のリスキリングです。
リスキリングというと、一般にはDX領域がイメージされますが、組織形態が変わっていけば管理職に必要とされるマネジメントスキルも異なってきます。じつはマネジメントやリーダーシップにもリスキリングが必要なのです。
以下では、管理職・リーダーに求められるリスキリングとして2つ紹介します。
「対話力」の強化
令和にピープルマネジメントを実践していく上で、まず身につけておく必要があるのは「対話力」です。部下一人ひとりと向き合い、エンゲージメントを高めるためには、相手と信頼関係を構築して対話の力で人を動かせるようになることが大事です。
しかし、昭和の管理統制型のマネジメントのもとで育った世代は対等的な立場で対話するというよりも、上下関係に基づいて指揮・命令するコミュニケーションに馴染んでいます。
相手に寄り添って話に耳を傾けてもらうという経験をしたことがない管理職にとっては、対話するといっても具体的にどうすればいいのか分かりません。そのような状態になってしまわないようにするために管理職にとって対話力のリスキリングはとりわけ重要になってきます。
「リーダーシップ」のリスキリング
対話力と並んでリーダーシップにもリスキリングが必要です。正解があり、まだ価値観が多様化していなかった昭和の時代には「黙ってついてこい」というやり方が通用しましたが、正解がなく、価値観が多様化した時代には、そのようなやり方では若手人材はついてきません。
企業や事業全体といったスケールではなく、部や課といったスケールでも、部下を惹きつけるミッションやビジョン、ストーリーを語るリーダーシップが求められるようになっています。
仕事のやり方にしても、「仕事は見て盗め」という教え方では、うまく人材育成ができない時代です。長期間にわたって同じ組織でキャリア形成することが前提の昭和とは異なり、転職を前提とした時代には、若い人は具体的に教えてもらい、スピーディーに成長する、そのための的確なフィードバックを期待します。
一人ひとりの潜在能力を最大限に活かし、ピープルマネジメントを成功させるようにするためにも、管理職に新たな時代のリーダーシップを身につけさせ、強みを活かしたチームマネジメントができるようすることが求められます。
ピープルマネジメントを強化するステップ
本章では、ピープルマネジメントを強化するための方法を解説します。
メンバーと向き合う機会を増やす
ピープルマネジメントは、メンバー個々の個性や価値観、強みを大切にするマネジメントです。そのため、ピープルマネジメントに取り組む上では、まず個々のメンバーと向き合う機会を増やし、メンバーを知ろうとするプロセスが必須です。
業務レビューしかやっていなかったようであれば1on1のミーティングを実施して「個人」としてのメンバーを知る、また、メンバーの成長やパフォーマンスに対するフィードバックを行うといったことです。また、チーム内での相互理解を深めるうえで、メンバーの強みや仕事における価値観、ソーシャルスタイルの診断や共有などを実施することも良いでしょう。
マネジメントの質を高める
メンバー個々と向き合ったうえで、その価値観や強みを成果につなげるうえではマネジメントの質を高める必要があります。この4,5年、日本の組織開発では「心理的安全性」がひとつのキーワードになって、心理的安全性を高める、メンバーが自由にものを言える風土を作ろうという動きがありました。もちろん心理的安全性は大切ですが、心理的安全性は自分のワガママや要求を自由に言える環境ということではありません。あくまでチームの勝利や組織の成功に向けて、お互いを信頼して発言できるということが本質です。
メンバー個々と向き合う上でも、同じようにメンバーそれぞれの価値観や強みが単なるワガママになるのではなく、それが個人の成果、組織の成果につなげるようにマネジメントする必要があります。つまり、ピープルマネジメントを実現するためには、管理職のマネジメントスキルを高める必要があるのです。
従って、個々のメンバーと向き合う機会を増やすことと並行して、管理職のマネジメント力向上に取り組んでいく必要があります。効果的なピープルマネジメントを実践するためには、コーチングスキルやコミュニケーションスキルの向上が必要でしょう。また、メンバーのエンゲージメントを高めるためには、目標設定や評価のプロセスを透明にし、適切なフィードバックができるようになることも重要です。
ピープルマネジメントを成功させるためのポイントと注意点
トップダウン型のマネジメントの中で育ってきた管理職やマネージャーにとっては、新しいピープルマネジメントには戸惑いも生じるものです。ここでは令和のピープルマネジメントを成功させるためにどういったことに気をつければいいかを紹介します。
数字に表れない要素への配慮
人事評価制度においては、数字として表れない要素は評価の対象外となってしまいやすいものです。もちろんパフォーマンス評価としては、定性・定量は別として成果を軸に評価することは正しいことです。
一方で、成果を生み出すためのピープルマネジメントにおいては、数字に表れない要素を考慮することが大切になってきます。
潜在的な能力というのは、能力が顕在化して成果につながるまでは数字として出てこないものです。またそもそもピープルマネジメント自体が、そもそも厳密には定量化できない強みや価値観、エンゲージメントや関係性等を扱う概念です。
最近はパルスサーベイやエンゲージメントサーベイなどを使って、目に見えない要素を可視化しようとする取り組みも進んでいますが、そうしたツール等も使いながら、数字として表れない要素にしっかりと目を向ける必要があります。
成果主義の適切な運用
優秀層を引き留め、エンゲージメントを高める上では、成果主義の適切な運用は必須です。成果の適切な評価、評価制度運用の透明性、評価と報酬の連動、報酬と各個人の市場価値とのバランス感などは、ピープルマネジメントを支えるインフラ部分として重要です。
成果主義を適切に運用する上では、成果が上がらなかった時の処遇とフィードバックも重要です。部下のエンゲージメントを高めていくためには、どういったところに強みがあり、それをどうすれば活かせていけるのかを上司が寄り添って見つけられるようにサポートできるようにすることが大事です。
ペイフォーパフォーマンス、成果主義の考え方をきちんと浸透させたうえで、ピープルマネジメントを通じて潜在能力を発揮できるように支援していくことが大切です。
心理的安全性の確保
信頼関係を築き、ピープルマネジメントを成功させるためには、本音で話し合える環境が大事になってきます。
周囲から否定されたりネガティブに評価されたりすることを恐れて、自分の意見、とくに懸念要素や初歩的かもしれない質問、突拍子もないアイデア、担当タスクの課題などを押し殺していえない状態では、スムーズな意見交換や精度の高い意思決定などはできません。また、イノベーションにつながるようなアイデアも出てこないでしょう。
相互理解を深めて「人」と「人」としての信頼関係を築き、人格否定を絶対にしないことが重要です。また、「人」と「行動」や「意見」をきちんと切り分けて扱うことも大切です。行動や意思決定に対して意見することはあっても、人格に対してネガティブに意見することがあってはなりません。
目的や目標を共有し、ベースの信頼関係を基に、組織の成果に向けて本音で意見交換できる場にしていくことが大切です。
対話を通じて可能性を引き出す
前章では1on1ミーティングを通じて、メンバーと向き合う機会を増やす重要性をお伝えしました。1on1ミーティングの際、対話を通じて相互理解を深まってきたら、問いやフィードバック等を通じてメンバー一人ひとりの可能性を最大限に引き出すことがポイントになります。
具体的には、以下のようなアプローチが有効です。
- 傾聴する:上司はメンバーの話をよく聞き、相手の気持ちや考えを理解しようする姿勢で臨むことが大原則です。
- 建設的なフィードバックを行う:適切な賞賛やアドバイスを行うことで、メンバーのモチベーションを高め、成長を後押しすることができます。
- キャリア開発への支援:メンバー一人ひとりの強み・関心・キャリアビジョンを把握し、いまの仕事がキャリアや自己実現にどうつなげるかを共に考える、また、キャリアビジョンに近づくための学びや挑戦の場を提供することが重要です。
ピープルマネジメントの成功に役立つサービス
HRドクターを運営する研修会社ジェイックでは、ピープルマネジメントの導入と成功をサポートする以下のようなサービスを提供しています。
デール・カーネギーのリーダーシップ&コミュニケーション研修
ピープルマネジメントにおいては、メンバーの一人ひとりに寄り添う高いコミュニケーション能力が求められます。管理職は一方的な命令や”圧”によって相手を動かそうとするのではなく、相手をポジティブな感情にすることで自発的に動けるようにすることが重要です。
そこで役に立つのが、デール・カーネギーの「【人を動かす】リーダーシップ&コミュニケーション研修」です。
デール・カーネギー研修では、相手と良好な信頼関係を築くにはどうすればいいのかがわかるようになります。また、対話を通じて相手をポジティブな感情にして動かすこともできるようになるでしょう。管理職やリーダーシップのリスキリング、対話力の向上が必要だと感じているようであれば、ぴったりのサービスです。
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ストレングス・ファインダー®研修
メンバーの一人ひとりの成長・成功をサポートできるようになるためには、それぞれの「強み」を活かしたマネジメントができるようにするということも重要です。
各個人の潜在能力を引き出せるようにするためには、どのような強みを持っているのかをよく理解することが必要です。組織に「強みを活かす」という概念を浸透させ、また、強みを成果につなげるスキルを身に付けることができるのが「ストレングス・ファインダー®研修」です。
ストレングス・ファインダー®研修では、世界2,300万人が受検した才能診断ツールであるストレングス・ファインダー®診断を活用して自分の才能を知り、さらに、その才能をどのように発揮して成果につなげていけばいいのかまでを一貫して学ぶことができます。
「強み」を出せるようになることで自信につながり、積極的な行動を促すことができます。また、チームの他のメンバーの強みを知ることで、自分の強みと他者の強みを組み合わせるということもできるようになり、チームのパフォーマンスを最大化させるだけでなく、イノベーションの創出も期待できます。
7つの習慣®研修
ピープルマネジメントでは、多様な価値観を持った人材をマネジメントし、イノベーションにつなげていくことが求められます。メンバーの一人ひとりが主体性を持って行動し、異なる価値観を持った人とシナジーを発揮していけるようにすることが重要となります。
主体性やリーダーシップを引き出し、また異なる価値観や意見を受け入れる器量を磨くことに役立つのが、「7つの習慣®」研修です。
7つの習慣®研修を導入することで、周囲に流されたり他責だったりした人の意識を変え、主体的な判断力、行動力を引き出すことができます。
また、周囲との信頼関係の築き方、相乗効果の意図的な生み出し方などを身に付け、チームのパフォーマンスを最大化させることがきるようになるでしょう。
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キャリア相談プラットフォームKakedas(カケダス)
キャリア形成に対する意識は、この10年で非常に高まりました。特に、いまの20代30代は終身雇用を前提としておらず、キャリア自律の感覚を前提として持っている人も多くします。
ただし、キャリア自律への意欲は、適切な支援をしないと、キャリア形成への焦り等にもつながり、モチベーションやエンゲージメントの低下、また、離職等にもつながる要素でもあります。
キャリア形成は、転職や異動希望等とも密接につながるものであり、社内や上司には相談しにくい側面もあります。そうした問題への対処に役立つサービスが、キャリア相談プラットフォームのKakedas(カケダス)です。
Kakedasでは登録された外部のキャリアコンサルタントの中からAIが相談者と相性のよい人を選び出し、相談者はその中から自分が気に入った人を相談相手として選ぶことができます。
自分と相性が良く、守秘義務を持っている外部のキャリアコンサルタントに面談してもらうことで、相談者は安心して本音を話すことができ、自己理解を深めることができます。また、組織の側も、本人を特定されないようにしたレポートという形でフィードバックを受けることで、エンゲージメントを高めるための有効な施策につなげることができます。
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まとめ
記事では、改めて強化が求められるピープルマネジメントをテーマにお伝えしました。
ピープルマネジメントは、大量生産×効率性の時代にフィットしていた管理・統制型のアプローチとは異なり、メンバー一人ひとりの成長と自己実現を支援することでイノベーションや創造性、エンゲージメントを引き出すことを目的としたマネジメントです。
組織としてピープルマネジメントの強化・実践に取り組むためには、メンバーと直接対話するリーダー・マネージャーのリーダーシップやコミュニケーション力が鍵を握ります。
ピープルマネジメントでは、リーダーやマネージャーは一方的に指示や評価を行う管理者ではなく、メンバーの成長や成功をサポートする伴走者であることが求められます。管理職にはこれまでのような「上に立つ」リーダーシップからのリスキリングが求められているといえるでしょう。
HRドクターを運営する研修会社ジェイックでは、ピープルマネジメントを実践できる管理職を育てるためのヒューマンスキルやリーダーシップのリスキリング教育を得意としています。ご興味あれば、以下よりご覧ください。
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