心理的安全性を高める|世代間ギャップを乗り越えるためのコミュニケーション術

更新:2024/09/09

作成:2024/08/09

世代間ギャップを乗り越えるためのコミュニケーション術サムネイル

職場において、世代間ギャップによるミスコミュニケーションを感じる方は多いのではないでしょうか。そんなときは「心理的安全性」という概念を通じて、課題を解消し、より良い職場環境を築く方法を探ってみましょう。

 

今回は「世代間ギャップがあっても円滑にコミュニケーションが取れる関わり方」をテーマに、心理的安全性の専門家による具体的な対処法と実践例を紹介します。今すぐ読んで、明日からの職場コミュニケーションを変えてみませんか?

<目次>

はじめに

こんにちは。心理的安全性を生み出す専門家の小野みかです。私は、「心の通った会話がチームを強くする」との考え方のもと、成果につながる人間関係構築のコツをお伝えしています。

 

今回のテーマは世代間ギャップ。職場でのコミュニケーションの悩みは尽きないものですが、特に近年では、新しい価値観を持つZ世代の登場もあり、職場の中で「世代間ギャップによるミスコミュニケーション」を感じている方も多いようです。

 

Z世代とは、1990年代中期から2010年代初期に生まれた世代のことです。Z世代は、生まれたときからデジタルデバイス・SNS・インターネットが発達しており、デジタルネイティブ、SNSネイティブであるのが特徴です。

 

また、タイムパフォーマンス重視、効率主義、プライベート重視、オープンで平等なコミュニケーションなど、従来の若者以上に多様な価値観を持っていると言われています。

 

仕事面においては「やや保守的で安定志向」が強い傾向にあります。いかに短い時間で効率的に成果を出すかを意識しているため、サービス残業や付き合いでの飲み会・イベントなどは避けがちです。

 

一方で、キャリアアップには意欲的で、自分自身のキャリアを見つめて資格取得に励んだり、起業や独立を考えたりする人も少なくありません。

 

会社への帰属意識が強く、仕事優先の傾向が強い40代以降の社員からすれば、Z世代のような考え方には戸惑いを感じる場面も多くあるでしょう。違いを感じたときには、互いの考え方を理解し、尊重し合いながら効果的なコミュニケーションを図ることが大切です。

 

その際に重要な土台となるのが、組織における「心理的安全性」です。「心理的安全性」とは一体どのようなものなのか、醸成するためには何が必要なのか、詳しくひも解いてみましょう。

組織のパフォーマンスを上げる「心理的安全性」

心理的安全性(Psychological Safety)とは、1999年にエイミー・C・エドモンドソン教授により提唱された理論を指します。

 

この理論が注目されるようになったのは、2012〜2015年の間にGoogle社が行った「プロジェクト・アリストテレス(Team Aristotle)」の調査がきっかけです。

生産性の高いチームの条件を調査した「プロジェクト・アリストテレス」

調査の目的は、効果的なチームの特性を理解することでした。プロジェクト名は、アリストテレスが「全体は部分の総和以上である」と述べたことに由来しています。そして、調査結果の中で「心理的安全性」がチームの成功において非常に重要な要素であることが発見されました。

生産性の高いチームと低いチームの違い

Google社のプロジェクトチームには、成績優秀で才能にあふれる個人が集う環境が整っています。しかし、そんなGoogle社であっても「生産性の高いチーム」と「生産性の低いチーム」があります。

 

生産性の高いチームと聞くと、つい「優秀なメンバーが揃っている」「管理職のリーダーシップが素晴らしい」といったイメージを持ってしまいがちです。しかし実際には、能力や才能といったもの以上に心理的安全性(安心できる信頼関係)が大切であることが、Google社の調査によって証明されたのです。

心理的安全性とは組織のメンバーが安心して意見を述べられる環境

心理的安全性が担保されると、互いの意見や価値観を尊重し合う関係性が作られ、メンバーが気兼ねなく意見を述べられるようになります。

 

すると、組織内で新たなイノベーションが生まれやすくなったり、チームのパフォーマンスや社員満足度が向上したりします。こうした土台が、結果的に組織全体のパフォーマンス向上にも繋がっていくのです。

コミュニケーションギャップが生まれる背景

心理的安全性の重要性は理解していても、組織の中で実践していくのは難しいと感じている方も少なくないでしょう。課題を乗り越えていくためには、はじめに人間関係の基盤を理解しておく必要があります。

人間関係の基盤は「家庭」にあり

私たちの人間関係の基盤は「家庭」です。人間は生まれると、まずは家庭の中で家族とのコミュニケーションの取り方や人間関係の築き方を自然と学んでいきます。

 

家庭は、子供にとって最初の教育の場であり、基本的な価値観や倫理観がここで形成されます。親や家族の言動を通じて、誠実さ、思いやり、尊重、愛などの重要な価値観を学んでいくのです。

 

家庭環境は、個々の価値観はもちろん、行動様式、対人スキルの発展にも大きな影響を与えます。世代間や男女間などにギャップが生じるのは、育ってきた環境や文化、幼いころから受けてきた影響が個々人に色濃く反映されているからとも言えるでしょう。

価値観をすり合わせていくことの重要性

筆者の実家はプロテスタントのキリスト教の教会を営んでいるのですが、父親が牧師をしている関係で、毎週何組も結婚式を挙げるという特殊な環境下で育ちました。

 

キリスト教式の結婚式では、結婚式の前に新郎新婦が牧師と一緒に「家族とはどういうものなのか」という結婚教育と呼ばれるプロセスを踏むのが一般的です。

 

この結婚教育は、第三者である牧師と共に「異性間ギャップ」や「価値観の違い」をすり合わせして、新しい家族としてのスタートを遂げられるかという土台作りをする目的で行われます。

 

具体的には、夫婦として添い遂げることを目指すために、相手がどういった価値観を持っている人なのか、何を目指して家族を持とうとしているのか、などを確認していきます。本当にこの人とだったらどんなことがあっても乗り越えていける、という信頼関係ができた上で結婚式を挙げるのです。

 

これは、人間関係の構築全般において当てはまるプロセスだと言えます。価値観や考え方が違う際に、否定したり、無視したりするのではなく、「どうしたら乗り越えられるのか」を考えることが重要なポイントです。

家族コミュニティと組織コミュニティの在り方の違い

基本的に家族とは、いつでも帰っていきたい場所であり、ほっと安心できて明日へのエネルギーがチャージされるような場所です。家族の雰囲気は、1人1人が創り出すものであり、互いに支え合って安心感のある場にしていくことが家族としての大きな役割でもあります。

 

つまり、家族は、ただそこに存在するだけで安心できたり、共に同じ時間を過ごしたりすることが目的のコミュニティ(BE型)です。

 

一方、企業や会社、チームには「安心感」というキーワードは目的に入っておらず、成果を上げる、数字を出すことにコミットしている場合が多いです。こうした組織は、行動型コミュニティ(DO型)であり、行動とそれに伴う結果が求められます。

 

家族経営の会社は、DO型とBE型の両方が混在する場合もありますが、多くの方はDO型と呼ばれる、成果を目的とした関わりの中で働くことがほとんどです。こうした組織では「心理的安全性」は重要にはなるものの、安心感だけで成果が出るわけではないため、「仲良しグループ」を目指すことがゴールではありません。

DO型の組織には「心理的安全性」をベースにして成果を取りに行くチーム作りが必要

心理的安全性の重要性について話すと、経営者の方から「仲良くなり過ぎて成果が出なくなるのは困る」という意見が出ることもあります。

 

確かに、心理的安全性は、使い方によっては馴れ合いになるリスクもはらんでおり、DO型における心理的安全性の作り方と、BE型における心理的安全性の作り方は分けて考えなければなりません。

 

DO型の組織では、面接や面談などで個々のパーソナルな部分を上司が判断し「この人はこの部署/ポジションで」と決めることがよくあります。

 

DO型の組織では、「成果を出す」ことが大きな目的であるため、それぞれの人が持つポテンシャルをしっかりと発揮できるポジションや業務を任せることが必要になりますが、本人の希望とは裏腹に希望しないポジションに配属されたり、業務を任されたりすることがあります。

 

その場合本人は「自分のやりたいことはこれじゃない」「この仕事は自分じゃなくてもできる」と思いながら毎日過ごすことになるでしょう。結果、モチベーションや生産性が著しく落ちてしまい、その人自身にとっても、組織全体にとっても大きな損失となります。

 

そのため、DO型の組織では「なぜあなたにこの仕事を任せるのか」という理由を明確にし、本人が「これは自分の仕事である」という納得感を持ってもらう必要があるでしょう。納得感は職場での心理的安全性を生み出す大きな要素となります。

組織内での心理的安全性を高める方法

「心理的安全性」を高めるために具体的に何をしなければいけないのか、方法を3つご紹介します。

1.心の在り方を整える

人は自分の心の状態が整っていなければ、相手のことを気遣うことは難しいと言われています。そのため、常に「自分は今、心の状態が良いのだろうか」と自分に対して確認してあげることが大切です。

 

また、自分の心の状態を確認することが習慣化すると、目の前の相手に対しても「この人の心の状態はどうだろうか」「今ちょっと調子が悪いのかな」といった部分を察することができるようになります。ささやかな気遣いの積み重ねが、情の通った人間関係の礎となるのです。

2.常識の違いに興味を持ち、言動の奥にある「価値観」や「意思」をキャッチする

どんな時代でも、上の世代の方々は下の世代に対して「今どきの若者は・・」と言ってしまいがちです。

 

自分の世代とは異なる新人の仕事ぶりや言動を見た際に、つい出てしまうフレーズではあると思いますが、上司が部下に「これはやったらダメ」「これは決まりだから」と上の世代の考え方や価値観を押し付けると、若い世代の自主性が失われてしまいます。

 

例えば家庭での親子関係を見たときに、小さいころから親が子に「○○はダメ」「何やってるの!?」と言い続けると、子どもはやる気を失ったり、自分で考えることを放棄したりするようになります。

 

会社でも同様で、若い世代の言動を毎回否定・指摘すると、新入社員たちはやる気を失い、何事にも消極的になってしまう可能性があります。若い世代の社員が、自分の想像を超える提案や言動をしてきた際には「面白いね!」「なぜそのやり方でやろうと思ったの?」と、提案や言動の奥にある価値観や意思をきちんとキャッチしてあげることが大切です。

 

相手が間違っているとレッテルを貼るのではなく、まずは自分と相手との常識の違いに興味を持ちましょう。その際には、自分の気持ちにも向き合いつつ、「今、相手との違いを感じているんだな」「自分と相手とは何が違うんだろう」と、違いに歩み寄って、詳細を聞いてあげることで、世代間のギャップを埋めるコミュニケーションが成り立つようになります。

3.長期的視野に立ったウェルビーイングな組織作りをする

近年、組織の生産性をあげるために、チームビルディングや人材教育に力を入れている企業も少なくありません。しかし、チームビルディングや人材教育も「安心して自分のポテンシャルを発揮できる環境」や「互いを尊重し合える関係性」がなければ、土台のない場所に建物を建てているのと同じ状態です。

 

もちろん目先の売上も大事ですが、長期的に生き残っていく企業を目指すためには「健やかな精神状態で仕事ができる場所を作る」ことに真剣に取り組んでいく必要があります。

 

嫌いな人ばかりいる組織で、メンバーが「チームのために貢献しよう」と積極的に思うことは少ないでしょう。

 

反対に、組織の中に心理的安全性があり「尊敬し合える仲間がいる」「信頼できるメンバーのために尽くしたい」という雰囲気が醸成されると、人は自然に自分のポテンシャルを発揮できるようになります。

まとめ:世代間ギャップを埋めるための第一歩は「心理的安全性」から

記事では、世代間ギャップを埋めるコミュニケーション術についてお伝えしてきました。

 

社内のコミュニケーションを円滑化する方法には「講習を受ける」「対話の場を設ける」など、さまざまな選択肢があります。しかし、そうした施策の効果を発揮させるためには、まず組織内の「心理的安全性」を高め、互いを尊重し合う関係性のもと、個人のポテンシャルが十分に発揮される環境を創り出すことが重要です。

 

異なる世代の相手が持つ価値観や文化に興味を持ち、互いに歩み寄りながら、信頼関係を構築するところから始めていきましょう。

一般社団法人日本心理的安全教育機構代表理事
合同会社MYGIFT 代表社員
小野 みか氏
1978年生まれ東京育ち。牧師である父親が運営するプロテスタント系教会で育つ。教会の結婚式で牧師と新郎新婦が行う「結婚教育」に豊かな人間関係の秘訣が全て詰まっていると気づき、教会の枠を超えて誰でも学びが受けられるように講演・研修活動を始める。全国35を超える地方自治体や、官公庁、上場企業の講師として全国を飛び回り活動をしている。登壇回数は600回超、動員実績はのべ30,000人を超える。参加者満足率98%と高い評価を維持し、国内最大手の結婚相談所にてマリッジアドバイザー教育、3万6千人を有する会員向け教育事業の企画プロデュース及び筆頭講師も務める。タカラトミー、出雲市などと共同で女性向け人生ゲーム「出雲縁結び人生ゲーム」を監修、女性が魅力あふれる人生の選択をゲームを通して体感できるようなイベントも開催している。

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