ジョブ型とは?|メンバーシップ型雇用との違いやメリット・デメリットを解説

更新:2023/07/28

作成:2023/05/17

古庄 拓

古庄 拓

株式会社ジェイック執行役員

ジョブ型とは?|メンバーシップ型雇用との違いやメリット・デメリットを解説

ジョブ型雇用は、仕事の内容(ジョブ)に応じて人材を採用・評価する仕組みで、従来の「メンバーシップ型雇用」と対比されます。日本企業はメンバーシップ型の雇用制度が主流でしたが、グローバル競争や社会情勢の変化、働き方の多様化などを背景に、ジョブ型雇用に関心を持つ企業も増えています。

 

記事では、ジョブ型雇用の概要や従来のメンバーシップ型雇用との違い、それぞれのメリットとデメリット、また、ジョブ型雇用制度を導入する上でのポイントを解説します。

<目次>

ジョブ型雇用とは?

最初に、ジョブ型雇用の概要、またジョブ型雇用と対比されるメンバーシップ雇用について確認します。

 

ジョブ型雇用とは

ジョブ型雇用とは、組織の業務遂行に必要な職務(ジョブ)を明確にし、職務(ジョブ)に基づいて人材を採用・配置・育成する制度を意味します。

 

ジョブ型雇用では、企業が人材を採用するにあたり職務内容を明確に定義して雇用契約を結びます。職務内容の詳細を文書にしたものを「職務記述書」(ジョブディスクリプション)と呼び、ジョブディスクリプションに基づいて賃金や人材育成の方針を決定することが一般的です。

 

ジョブ型雇用制度を導入する主な目的を以下です。

1)業務遂行に必要な職務内容を明確にし、職務に適したスキル・能力を持った人材の採用・配置を実現にする
2)専門性が高い職種などにおいて、人材確保をスムーズに実施できるようにする
3)従業員に自分のスキルや志向に応じて様々な職務に挑戦する機会を提供することで、従業員の自律的なキャリア開発を促す

メンバーシップ型雇用とは

ジョブ型雇用との対比で用いられるのがメンバーシップ型雇用です。メンバーシップ型雇用は、日本企業の一般的な雇用形態であり、従業員の採用に当たり、特定の職務には限定せずに契約して、多様な業務に対応できるようにすることを目的にした人事制度です。

 

メンバーシップ型雇用のもとでは、汎用的な能力を重視して採用を行い、採用後は部署異動や転勤を繰り返しながら、キャリアアップを目指していきます。

 

なお、日本でも中途採用では昔から「配属ポジション」を明確にして採用活動が実施されていますし、新卒採用においても、最近は「職種別採用」を実施している企業も増えています。

 

ただ、これらはあくまで「初期配属」を明確にしているだけであり、雇用契約自体は職務内容などを限定せずに契約することが一般的です。これらは“ジョブ型採用”ではありますが、雇用自体は“メンバーシップ型”であるといえるでしょう。

ジョブ型雇用が注目される背景

前述のように、現在の日本企業では、メンバーシップ型の雇用制度が依然として主流となっています。

 

しかし、近年では、ジョブ雇用を検討する日本企業も少しずつ増えています。ジョブ型人事制度に関する企業実態調査のアンケートでは、「導入済み」または「導入検討中(導入予定含む)」と回答した企業が57.6%と半数を上回る結果にもなっています。

(参考)ジョブ型人事制度の導入状況とその理由|パーソル総合研究所

ジョブ型雇用のメリット

ジョブ型雇用の主なメリットは以下の2つです。

 

メリット①専門性の高い人材を採用しやすくなる

近年は、DX化やテクノロジーの活用を否応なく求められるようになっています。
また、営業分野などでも「THE MODEL」などに代表されるようなインサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセスといったように分業化が進んでいます。

 

こうした専門分化に伴って、組織は専門性の高い人材を確保することが不可欠になっています。
また、転職が当たり前になる中で、ビジネスパーソンのプロフェッショナル志向が強まっている側面もあります。

 

ジョブ型雇用は、企業が必要な職務や仕事内容を明確に定義することで、その分野において専門的なスキルや知識を持った人材を採用しやすくなる効果があります。

メリット② 生産性の向上に貢献する

ジョブ型雇用では、従業員は自分の担当する職務に集中し、専門性やスキルを高めることができます。

 

また、専門性の高い人材は、自らのスキルや知識を磨く意欲も高いことが一般的です。これにより、仕事の質やスピードがますます向上し、結果として組織全体の生産性の向上に大きく貢献します。

 

また、組織内におけるジョブが明確になり、自分が身に付けるべき能力などが明確になることで、個人がキャリアプランを描きやすくなり、キャリア自律が促進される効果もあります。

ジョブ型雇用のデメリット

ジョブ型雇用には、メリットだけでなくデメリットも多くあります。導入を検討する際には、デメリット側も理解しておくことが必要です。

 

デメリット①異動や転勤が困難になる

ジョブ型雇用では、従業員はあらかじめ決められた職務内容をこなすことが求められ、職務内容は雇用契約時に提示された職務記述書(ジョブディスクリプション)に基づいています。

 

逆にいうと、契約時のジョブディスクリプションに記載されていない仕事をするように求めたり、別の仕事に一方的な異動指示をしたりすることは出来ません。

 

従って、組織として事業内容や市況の変化に対応して人員の再配置を検討したい場合に、職務記述書で交わした業務内容が足枷になる懸念があります。

 

例えば、新しい事業やプロジェクトを立ち上げる場合、既存の従業員に異動や転勤を命じることが簡単にはできなくなるかもしれません。

 

また、業務のかき入れ時に余裕のある他部署にヘルプを頼んだり、緊急事態に全社員で対応したりといった、今までは普通にできていたことも、実施しづらくなる可能性があるでしょう。

デメリット②採用コストの上昇

ジョブ型雇用では、職種や職務内容を明確にした上で、要件に合致した人材を採用します。しかし、企業が求める要件に合致する人材は市場に少ないため、競合との人材引き抜き合戦により、採用コストが高くなる可能性があります。

 

また、ジョブディスクリプションにかなう人材が目標通り採用できない場合、業務遂行に黄色信号が灯るリスクも生じるでしょう。

デメリット③人材流出リスクの上昇

ジョブ型雇用を好む人材は、プロフェッショナル志向が高く、自己成長や待遇に興味・関心を持っている傾向が高くなります。

 

これ自体は悪いことではありませんが、一方で、条件や仕事内容でより魅力的な求人があれば、容易に転職してしまう可能性も高くなります。その点で、メンバーシップ型で働く社員よりも、流出リスクは高くなると考えられます。

デメリット④メンタル面、心理的安全が低下しやすい

ジョブ型雇用では、従業員の能力や貢献度が評価に直結するため、競争意識やプレッシャーがより高まります。現在は、成果主義が当たり前となっていますし、目標や成果へのコミット意識という意味ではプラスに働く部分もあるでしょう。

 

しかし、一方で、従業員のストレスや不満を増やし、メンタル面に悪影響を及ぼすリスクもないとはいえません。

 

また、従業員側の目線に立つと、ジョブ型では自分の担当領域で仕事がなくなると、契約が終了する可能性もありますし、不安がパフォーマンスにマイナスに働くことも考えられるでしょう。

デメリット⑤チームワークや組織の一体感が損なわれやすい

ジョブ型雇用では、従業員は自分の職務に特化したスキルや知識を身につけることが求められます。また、自分が担当する業務の遂行や目標達成に責任があり、逆に、その守備範囲から外れた部分をカバーする義務は負いません。

 

これは他の職務や業務内容に対する理解や関心の低下を招く可能性があり、チームワークや組織の一体感が損なわれる恐れにつながります。また、仕事と仕事の間にあるような担当領域があいまいな業務に誰も対応しなくなるといったケースもあり得ます。

ジョブ型雇用制度を導入するためのポイント

ジョブ型雇用制度の導入にあたっては、どんなことがポイントになるでしょうか。ジョブ型雇用を導入する際のポイントを3つ紹介します。

 

ポイント①自律的なキャリア開発の支援:

ジョブ型雇用制度では、従業員が自律的にキャリアを形成することが期待されますが、企業側からの支援も不可欠です。キャリア開発の具体的な方法としては、キャリア研修を実施する、キャリア面談を導入するなどして、一人ひとりがキャリアを考える機会を持つ。

 

また、社内公募制度や異動希望制度を設けてキャリアチェンジの機会を提供する、上司やメンターなどと定期的にキャリアに関する面談を行って個々のキャリア志向や専門性を考慮しながら一人ひとりに応じたマネジメントを行う、などがあげられます。

ポイント②適切かつ公正な評価制度の整備:

適切な評価制度を整備することは、ジョブ型雇用制度を導入する上で大切になるポイントの1つです。

 

ジョブ型雇用は、個人の能力や実績に基づいて評価されるため、適切かつ公正な評価制度が求められます。そのためには、従業員が自分の評価結果に納得できるよう、明確な評価基準を設計することが求められます。

 

多くの場合、社員の一次評価を行うのは、上司・管理職の役割です。したがって、管理職向けの考課者研修プログラムや、管理職自身がフィードバックを受け取る360度診断などを通じて、管理職の評価スキルを高めることも重要です。

 

評価制度の運用ポイントはメンバーシップ型雇用でも変わりませんが、ジョブ型になると、「自分の専門性を提供して報酬をもらう」という関係性がより明確になりますので、今まで以上にしっかり運用する必要があるでしょう。

ポイント③ローパフォーマーの活躍支援:

ジョブ型雇用制度では、従業員の成果や貢献度が評価に直結するため、高いパフォーマンスを発揮する社員に対しては、適切な報酬や評価で報いることができます。

 

しかし、高いパフォーマンスを発揮できる従業員がいれば、職務基準に満たないローパフォーマーの人も出てくるでしょう。

 

従って、組織としてジョブ型雇用による恩恵を底上げするためには、ローパフォーマーの人が活躍できる人材に成長できるよう、支援策を講じることも大切になります。

 

例えば、メンターやコーチのようなサポーター役を設け、自己改善に取り組めるようサポートする、本人の能力やスキルを発揮できるよう配置転換を検討するなどが検討できるでしょう。

 

また、職務などが合わない人に対するイクジットの仕組みも設けておくことも必要となるかもしれません。

まとめ

本記事では、ジョブ型雇用とは何か、メンバーシップ型雇用との違いやメリット・デメリット、また、ジョブ型雇用制度を導入する際のポイントについて解説しました。

 

ジョブ型雇用は、企業に必要な職務を明確にし、その仕事に適した人材を配置・採用・育成する制度です。メンバーシップ型雇用と比べて、専門性の高い人材を採用しやすく、生産性の向上に貢献するメリットがあります。

 

しかし、異動や転勤が困難になったり、採用コストや人材流出リスクが上昇したり、メンタル面やチームワークが低下したりするデメリットも持ち合わせています。

 

また、ジョブ型雇用制度を導入するためには、自律的なキャリア開発の支援、適切かつ公正な評価制度の整備、ローパフォーマーの活躍支援などのポイントを押さえることも重要です。

 

コロナ禍における働き方の変化や経団連の提言、大手企業の導入事例などを見ると、従来主流だったメンバーシップ型雇用からジョブ型雇用への移行が今後も加速することでしょう。本記事でお伝えした基本ポイントが少しでも参考になれば幸いです。

 

著者情報

古庄 拓

株式会社ジェイック執行役員

古庄 拓

WEB業界・経営コンサルティング業界の採用支援からキャリアを開始。その後、マーケティング、自社採用、経営企画、社員研修の商品企画、採用後のオンボーディング支援、大学キャリアセンターとの連携、リーダー研修事業、新卒採用事業など、複数のサービスや事業の立上げを担当し、現在に至る。専門は新卒および中途採用、マーケティング、学習理論

著書、登壇セミナー

・Inside Sales Conference「オンライン時代に売上を伸ばす。新規開拓を加速する体制づくり」など

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