中堅中小企業では、中途採用に取り組んでもなかなか応募者が集まらないといった状況が見られます。
採用活動は、「1/1採用」が理想ともいわれますが、現実的にはある程度確率論的な部分もあり、母集団形成は重要です。
本記事では、中途採用における母集団形成について、母集団形成の重要性とよくある課題、母集団形成を成功させるコツを紹介します。
<目次>
母集団形成とは?
採用活動における「母集団」は、選考への応募者全体を指します。つまり、母集団形成は自社の採用・選考への応募者を集める作業です。
集まった母集団を書類選考や筆記試験、面接などを通じてふるいにかけられていきますので、採用を成功させるためには母集団形成を成功させることが大切です。
もちろん、単純に数多くの応募者を集めるのではなく、自社とマッチする人材を集めることが大切です。
採用効率を考えると、自社の理想とする人材1名がピンポイントで応募してくれて、その1名内内定を出し、承諾・入社してくれる「1/1採用」が理想ともいわれます。
つまり母集団の数だけにこだわるのではなく、「自社とマッチする=採用ターゲット、採用ペルソナに合致する」という視点を持つことが重要です。
とはいえ、現実的には採用活動と選考は、ある程度確率論となる部分もあります。
そのため、中途採用を成功させるためには、質の担保は意識したうえで、ある程度の母集団を形成することが大切です。
中途採用における母集団形成のステップ
本章では、中途採用における母集団形成のステップを簡単に紹介します。
採用計画をすり合わせる
中途採用の場合、新卒採用と異なり、採用ポジションや人数、また、採用レベル(採用基準)が状況に応じて変わります。
従って、自社の事業計画や組織状況を踏まえて、採用の決裁者層と採用計画をすり合わせることが非常に重要です。
新卒採用の場合、基本的にポテンシャル採用で職種別採用を実施する場合には2~数種類程度です。
しかし、中途採用の場合は、10ポジションで1人ずつといった採用になることも有り得ますし、逆に1ポジションで10人という場合もあります。
前者と後者では適した採用方法もまったく変わってきます。
また、同じ営業職の採用でも、「事業計画上、○月までに絶対5人確保したい。育成はするのでポテンシャル層でかまわない」場合もあれば、「いまの営業メンバー内でリーダー候補になる人が不足しており、1年後に営業リーダー候補となるレベルの即戦力」という場合もあります。
採用ポジションと人数だけでコミュニケーションしていると、上記のような定性的な採用ターゲットや採用の位置づけがズレる場合がありますので要注意です。
採用ターゲットを明確にする
いくら母集団を形成できても、採用につながらない人材ばかりでは意味がありません。
自社にとって必要な人材を集めるためにも、どのようなスキルや能力を求めているのかを踏まえ、ターゲットを明確にする必要があります。
採用計画の大枠が決まったら、まずは、ポジション毎に求める必要スキルなどの採用基準(スペック)を洗い出しましょう。
ポテンシャル採用の要素を含む場合には、スキルだけでなく性格特性や行動特性などの適性も考慮することをおすすめします。
なお、求めるスキルや能力をリストアップしていくと、大体理想像になっていきます。
リストアップした後で、必須(MUST)と歓迎(WANT)を区分すると、ある程度現実的な採用基準になってくるでしょう。
採用ペルソナを作成する
ターゲットを明確にしたら、さらに採用ペルソナに落とし込んで具体化することがお勧めです。ペルソナとは「ターゲットを象徴する架空の人物像」を意味するマーケティング用語です。
採用ターゲット(採用基準)を決めた段階では、求めるスキルや経験の箇条書きになっていることが大半です。
ここに「人物」としての側面を肉付けしたものが採用ペルソナです。例えば、以下のようなものを付け加えていきましょう。
- 年齢、性別
- いまの会社、仕事内容
- 生活スタイルや趣味、プライベート
- 仕事へのスタンスやキャリア分
- 転職理由
- 転職·就職活動のやり方
- 自社を選ぶ理由
採用手法を検討する
採用ターゲットが明確になり、ペルソナも完成したら、いよいよ母集団形成に向けて採用手法を検討します。中途採用における採用手法には、以下のような方法があります。
- 転職サイト
- ダイレクトリクルーティング
- 人材紹介
- 転職イベント
- SNS採用(ソーシャルリクルーティング)
転職サイトは、中途向けの求人サイトに求人を掲載し、応募者のエントリーを待つ方法です。オンライン上で多くの人が閲覧できるため、母集団を形成しやすいメリットがあります。
しかし、マッチング度の低い求職者からも応募がある、他社の情報に埋もれてしまいやすいなどの注意点もありますので、採用ターゲットと自社の採用ブランドなどを踏まえて適した転職サイトを選ぶことが大切です。
ダイレクトリクルーティングとは、契約サービスに登録する求職者を検索して、企業からスカウトメッセージを送る採用方法です。企業側から「攻める」採用手法として注目を集めています。
自社が欲しいと思う人材にピンポイントでアプローチできる、メッセージの文面を工夫することで知名度等がない会社でも優秀人材を獲得できる点がメリットですが、運用に手間や工数がかかります。
人材紹介とは、人材紹介会社から求職者を紹介してもらう方法です。
採用単価は割高になりますが、自社のターゲットにマッチした人材を完全成功報酬で紹介してもらえるため、効率よく採用活動を進められます。
転職イベントは、転職サイトの運営会社や行政、公的機関、HR企業が開催する合同企業説明会やマッチングイベントです。求職者と直接会えることが転職イベントの魅力です。
転職サイトなどでは知名度や所属業界などで応募を集めにくい企業でも、直接会ってアピールすることで志望度を高めることができます。
最後に、SNS採用(ソーシャルリクルーティング)は、SNSを通じて求職者へアプローチする手法です。
運用にコストがかからないことがメリットですが、一定のフォロワーを集めないと母集団形成などにつながりませんので機能させるまでに時間がかかります。
募集を開始する
採用手法を決めたら、実際の募集を開始します。募集に際して、求人票の作成は大切なプロセスのひとつです。
求人票を作成するに際して、採用ターゲットと採用ペルソナにとっての会社と求人の魅力をしっかりと整理して作成することが大切です。
採用手法によってはサービス提供側で求人票を作成してもらえることもありますが、その際に自社の魅力ポイントをしっかりと伝えることが大切です。
求人票が作成できたら、選択した手法で母集団形成を開始しましょう。
予算や工数との兼ね合いはありますが、成果報酬制のサービスなどもうまく取り入れながら幅広く告知するのがおすすめです。
中途採用でよくある母集団形成の課題
中途採用の母集団形成で、思ったような成果が出ないと悩む企業も多くあります。
中途採用における母集団形成の課題は大きく分けて、数の課題と質の課題、2つに分けられます。簡単に2つの課題を確認しておきましょう。
応募者の数がなかなか増えない
中途採用における母集団形成のよくある課題は、まず応募者数の不足です。
知名度が低い中堅中小企業、スタートアップ企業、また、事業内容がイメージしにくいニッチ業界や求職者から敬遠されがちな不人気業界などで生じやすい課題です。
応募者不足の要因としては、採用ターゲットの設定ミス、採用力に見合った母集団形成チャネルの選択ミス、求人広告の魅力不足などが考えられます。
自社の認知度や採用ブランドなども踏まえて、まずは「会える」採用手法を選ぶことが大切です。
採用ポジションを充足させる重要度にもよりますが、人材紹介会社に幅広く声をかける、転職イベントやマッチングイベントなどの直接会える採用手法を選択することがポイントです。
採用ターゲットとなる応募者が少ない
母集団形成に関するもうひとつの課題は、母集団の人数自体はいても、採用ターゲットになる応募者が少ないことです。
応募者の人数を集められても、採用ターゲットでなければ意味はありません。
自社が望む人材からの応募がないと感じる場合には、
- ①採用ターゲットが適切か?
- ②採用ターゲットと選択している採用手法がマッチしているか?
- ③採用ターゲットに対して魅力ある求人広告になっているか?
といった点を見直するとよいでしょう。
中途採用で母集団形成を成功させるためのコツ
最後に中途採用における母集団形成を成功させるために押さえておくべきポイントを分かりやすく紹介します。
採用ターゲットとペルソナの明確化
前述したように、中途採用で母集団形成を成功させるためには採用ターゲットとペルソナの明確化が必要です。
いくら大きな母集団を形成できたとしても、自社にマッチしない人材ばかりだったとしたら採用成功にはつながりません。
自社が必要とする人材からの応募を増やすためには、まず採用基準を現実的なものに設定しましょう。
繰り返しになりますが、必須条件と希望条件に区分けすることが大切です。その上で、採用ペルソナとして肉付けしましょう。
採用ペルソナを作り、どんな経験をしているか、また、なぜ自社に応募・承諾するのかをしっかり考えることで、採用ターゲットがブラッシュアップされますし、採用メッセージも明確になります。
採用ペルソナを踏まえた母集団形成のチャネル選定
適切なペルソナ設定を行なっても、採用手法を誤れば求める人材に応募してもらうことは難しくなります。
母集団形成を成功させるためには、採用ペルソナに合ったチャネル選定が必要です。自社の採用力や採用ターゲット、職種なども踏まえて、どの採用手法が向いているかを選定しましょう。
まずは採用ターゲット・採用ペルソナがどの採用チャネルにいるか?を洗い出しましょう。
その上で、自社の採用ブランド力や投下できる工数と、採用チャネルの特性を照らし合わせて、合いそうな採用手法を選択しましょう。
採用ペルソナを踏まえた訴求メッセージの統一
母集団形成する際には、採用ペルソナに刺さる訴求メッセージをしっかりと考え、また、採用プロセス内で統一することが大切です。
訴求メッセージを考える上では、ペルソナにとって魅力という視点が大切です。
まずは自社の魅力をすべて洗い出したうえで、「この応募者、採用ペルソナにとって魅力的な要素は何か?」を考えてメッセージは作成しましょう。
メッセージはできるだけ具体的にするのがおすすめです。中途採用の応募者、とくにキャリア層は、新卒採用の就活生と比べて、仕事に対する希望や求める条件、転職理由となる悩みなどが比較的明確です。
ペルソナを基に「希望が叶う」「現状の不満を解決できる」とイメージしてもらいやすいメッセージを考えましょう。
データ分析等を通じた改善活動の実施
採用活動を進めていくうえでは、定期的に振り返りを行い、改善を実施することが重要です。
「採用計画は適切だったか?」「ターゲット層は応募しているか?」「母集団から取りこぼした人材はいなかったか?」「どの採用手法がパフォーマンスしているか?」などを振り返ることで、次の採用に生かすことができます。
採用市場の変化や応募者の傾向などを踏まえ、募集時に設定したペルソナも定期的に見直しましょう。
自社とマッチする人材を取り逃さないためにも、長期的な視野を持ち、データをしっかりと分析しながら改善活動を行うことが大切です。
採用難易度に応じた工数やコストの投資
優秀な人材を採用するためには、一定の投資も必要です。
とくに転職活動においては、優秀層はそもそも自社で十分な評価をされており転職しにくい、さらに転職する時も自分のネットワークで転職する傾向があります。
従って、転職市場にでてくる優秀人材にアプローチしたいのであれば、幅広く網をかける、また工数を投下することが必要です。
一般的に、採用活動でコストを抑えるためには工数が必要です。
優先事項がコスト削減であれば、ダイレクトリクルーティングを運用する、リファラル採用・ソーシャルリクルーティングなどで中期的な取り組みを行うなどを検討するとよいでしょう。
逆に、工数を抑えることの優先順位が高いようであれば、人材会社などを利用するという手もあります。採用単価は少し高くなりますが、工数を押さえてキャリア層にアプローチできるでしょう。
まとめ
中途採用を成功させるためには、一定の母集団形成が必要不可欠です。
ただし、母集団形成は単に数を集めればよいというわけではなく、自社の採用ターゲットになる人材を確保することが大前提です。
採用ターゲットと採用ペルソナの設定をしたうえで、自社の採用ブランドを踏まえて、採用手法の選択を行いましょう。
中途採用を成功させるためには、中長期的な目線を持ち、採用活動をやりっぱなしにするのではなく検証しながらブラッシュアップする、また短期施策と並行して中長期に効いてくる採用施策を着手していくことが大切です。