日本では、プロパー社員は「新卒で正社員として入社して働き続けている社員」、プロパー採用は「新卒採用」という意味でよく用いられます。ただし、新卒で入社した社員という意味以外にも、非正規雇用のメンバーや協力会社の社員と自社の正社員を区別する意味で使われる場合もあります。
記事では、プロパー社員やプロパー採用という言葉の意味や種類、生じる課題や解決のポイントなどを紹介します。
<目次>
プロパー社員とプロパー採用とは?
「プロパー採用」という言葉は聞きなれない方も多いかもしれません。まずはプロパー採用とはどのようなものかを確認します。
プロパー採用とは?
「プロパー採用」という言葉は馴染みがなくても、「プロパー社員」という言葉は聞いたことがあるかもしれません。
プロパー採用とはプロパー社員を採用することですが、プロパー社員という言葉は、場面や文脈によって、3つの違った意味で使われています。
プロパー社員とは?
プロパー社員という表現が最も使われるのは、「新卒で正社員として入社して働き続けている社員」を指すケースです。
この場合、「中途採用で入社した社員」との対比としてプロパー社員と呼ばれます。
また、別の使い方としては、「契約社員や派遣社員」と区別して「正社員」を表す場合に、プロパー社員ということがあります。
さらに、「協力会社や下請け会社の社員」と区別する意味としてプロパー社員と呼ぶこともあります。
記事では、1番目の「新卒で正社員として入社して働き続けている社員」という定義のプロパー社員、またプロパー採用=新卒採用について取り上げていきます。
プロパー社員の特徴
昨今では、年功序列や終身雇用の崩壊も進み、転職も当たり前の状況になっています。しかし、日本企業、特に歴史ある企業では、将来の幹部候補として育成するといった理由で、プロパー採用を重視する組織もまだ残っています。
本章では、プロパー採用した社員(プロパー社員)の特徴、メリットデ・メリットについて解説します。
特徴① 企業理念や価値観を浸透させやすい
プロパー採用で入社した社員にとって、一社目は“社会人になって初めての会社”です。
新卒時に刷り込まれた考え方は、その後のビジネス人生に大きな影響を与えます。
プロパー社員には、まだビジネス知識や経験がないところから、長い期間をかけて会社の理念や価値観を浸透させられます。
新卒時に他社で異なる理念や価値観の教育を受けてきた中途社員と比べると、理念や価値観を浸透させやすく、企業文化の担い手となるでしょう。
特徴② 帰属意識が高い
企業理念や価値観の浸透と重なる部分がありますが、プロパー社員にとって新卒で入社した会社は、自分を育ててくれた会社であり、「自分の会社」という主体性やエンゲージメントが高くなる傾向にあります。
最近は若手層の離職も増えていますが、10年を超えて会社にいるようなプロパー社員は、会社に対して高い帰属意識を持っていることが多いでしょう。
特徴③ 企業特有の文化を理解している
企業では、それぞれ特有の文化が培われています。企業の文化というのは、ミッションやビジョン、バリューなどの他、意思決定のプロセス、仕事の進め方も含まれます。
これらは明文化されていない暗黙知の集合体であることも多くあります。
新卒から長年勤めているプロパー採用の社員には、こうした企業の文化が沁みついていることから、文化に沿った行動を自然にとることができます。
前述した通り、企業文化の担い手であり、また、仕事をスムーズに進めることも出来るでしょう。
特徴④ 社内人脈がある
プロパー社員は同期入社の仲間や、新卒入社後に面倒を見てもらった先輩社員や上司など、社内に人脈を持っています。
社内で長い時間と経験を共有し、また、時間が経過する中で様々な部署や職種に散らばり、権限なども持つようになります。
中途社員と比べ、プロパー社員はこうした社内人脈を通じて情報を得たり、仕事で協力を依頼したりすることも容易になります。
特徴⑤ 中途採用組との分断が生まれやすい
プロパー採用の社員は、共通の意識を持っていたり、同期のつながりが会ったりすることから、プロパー社員同士で固まってしまいがちです。
また、立場を強めようとするため、意図的に中途採用組との違いを強調するようなこともあるでしょう。
仮に悪意はないとしては、プロパー社員のつながりが強い、中途採用組は距離を感じたり、疎外感を抱くようになってしまったりして、分断が生じやすくなります。
一種の派閥的なものになり、企業としての一体感が作られにくくなるでしょう。
特徴⑥ 視野が狭くなりやすい
プロパー社員が同じ会社で同じやり方を続けていると、「それ以外の方法に触れることがなく、今のやり方が正しい、そのままでいい」と思い込んでしまうリスクがあります。
外からの刺激が乏しくなり、新しいものを取り入れようというモチベーションが働かず、組織が停滞する原因にもなり得ます。
特徴⑦ 保守的になりやすい
プロパー採用の社員は、前述の通り、“うちの会社のやり方”以外を知らず、視野が狭くなりがちです。
また、新卒から長く同じ会社に勤めているなかで会社から評価を得ている部分もあるでしょう。
結果的に、立場を守ろうとする心理が働き、失敗のリスクを避け守りに入ってしまうこともあります。
従来のやり方に固執して、新しいことにチャレンジしなくなる傾向が出ることもあるでしょう。
プロパー採用と比較したキャリア採用(中途採用)のメリット・デメリット
日本でも転職は当たり前になり、会社に中途採用で入ってくる人も増えました。
キャリア採用で入社した社員のメリット・デメリットを、プロパー採用と比較してみていきましょう。
キャリア採用のメリット
キャリア採用で入社する社員は、以前に勤めていた会社で培ってきたスキルや考え方を社内に持ち込んでくれます。
前の会社でうまくいっていた方法であれば、すぐに取り入れて活用できるでしょう。
キャリア採用の社員は“刺激剤”となって、社内に新しい空気を作ってくれる可能性があります。
また、自社に不足していて、必要と思われていた能力やスキルを持っている人であれば、即戦力として入社後すぐに活躍できるでしょう。
自社に不足している部分をすぐに埋めてくれる人材となることが期待できます。
キャリア採用のデメリット
キャリア採用の社員は退職経験があり、人によっては複数の転職を経験している場合もあります。
そういった人は、企業に対する帰属意識よりも、自分の能力を活かせる場所、自分のキャリアを作れる場所、自分を正当に評価してくれる場所を求める意識が強くなります。
もちろん、これ自体は正当なものですが、悪い方向に働くと、会社へのエンゲージメントが高まらず、小さな障害や壁にぶつかった際、また離職してしまう、また、モチベーションを落としてしまうことも有り得ます。
また、キャリア採用の社員は、無意識に入社した会社を前の会社と比較しています。
悪意がなかったとしても、伝え方等によっては、プロパー社員と対立してしまったり、周囲の反発を買ったりすることも有るでしょう。
キャリア採用とプロパー採用の社員がうまく融合していくために、企業側で比率を考え、また交流の施策などを行っていくことが大切です。
プロパー採用の課題を解消するポイント
プロパー採用とキャリア採用の社員がうまく融合し、お互いの強みを発揮してもらうにはどのようにすれば良いでしょうか。参考になる施策をいくつか紹介します。
評価基準を統一する
まず大前提として、プロパー採用の社員とキャリア採用の社員で、評価基準を同一にすることです。
プロパー社員に甘い評価をしたり、キャリア採用だからといって評価基準を変えたりせず、社員としての実績や仕事に対する取組みを評価するということを徹底しましょう。
評価基準の違いは、社員に敏感に伝わります。
給与体系に違いを作らない
プロパー採用とキャリア採用で、給与体系に違いを作らないということも前提として大切です。
どちらかを優遇するような体制があると、対立や断絶の要因となります。
中途採用の場合、「社内にないスキルを取り込む」ために、前職給与をベースにして、社内の給与テーブルとはずれる形で採用することもあるでしょう。
「入社1年間のイレギュラー処置」などはやむを得ない点もありますが、しっかりとパフォーマンスの支援をした上で、全社の評価基準・給与体系ときちんと整合性が取れるようにしていくことが大切です。
部門や役割を超えたコミュニケーション機会を設ける
給与や評価の整備をしたうえで、プロパー採用、キャリア採用といった壁を作らないようためには、コミュニケーションが全てです。
組織のコミュニケーションは「職場(同部署・同職種・同チーム)」になりがちです。
そして、新卒の場合は、ここに加えて「同期」というコミュニケーションが生まれます。
同期の存在が新卒組の強みですが、中途組とのギャップを生む原因にもなります。
従って、部門や職種を超えたコミュニケーション機会をなるべく多く、また、継続的に生み出すことが大切です。
たとえば、スポーツや趣味を通じて交流する部活やサークル、たとえば、年齢軸や誕生月などを軸にしたコミュニケーションの機会などが有効です。
採用と組織づくりの未来とあり方
少子化が進み、また、ビジネスにおける知識労働のウェイトが増すなかで、企業にとって採用や組織作りの取り組みはますます重要になっています。
企業の採用と組織の在り方は今後どのように変わっていくでしょうか。基本的ないくつかの事柄について簡単に紹介します。
転職の一般化
冒頭でもご紹介した通り、日本でも転職は当たり前のことになりつつあります。
とくに終身雇用の時代を知らないZ世代や20代は組織への帰属意識は明らかに薄くなりつつあります。
転職の一般化に加えて、次に紹介する仕事の専門分化、また、副業、フリーランスなどの多様な雇用形態なども人材の流動化を促進することにつながっています。
こうした時代の流れがある中で、プロパー採用偏重のままでいると、若手のプロパー社員の離職が増えていったときの対応が難しくなるでしょう。
中途採用比率の公表義務化という流れもありますので、中途採用をしていない会社は、中途採用する上でも応募を取りづらくなるでしょう。
時代の流れに乗ることが正しいわけではありませんが、自社の事業内容などを踏まえて、社会情勢の変化に対応した組織作り、組織の未来像を考える必要があるでしょう。
仕事の専門分化とジョブ型採用
“THE MODEL”などに代表されるように、研究職など以外でも仕事の専門分化がどんどん進んでいます。それに合わせて、ジョブ型採用も増えてきています。
プロパー採用はメンバーシップ型採用に基づく考え方であり、プロパー社員を偏重し続けていると、ジョブ型採用に対応しにくくなり、社内にない専門性を取り込むことが難しくなる可能性があります。
仕事の専門分化やジョブ型採用の流れは、働く個人の意識を“就社”から“就職”へと変えていっています。これも転職が促進される背景になっています。
プロパー採用のよさを尊重しつつ、ジョブ型採用を取り入れる必要があるかなどを考える必要があるでしょう。
バランスの取れた組織づくり
紹介した通り、プロパー社員は企業の理念や価値観が浸透しやすいといった強みが確かにあります。
しかし、プロパー社員に偏ってしまうと、組織が硬直化するリスクがあり、今後の変化の激しい市場に対応できなくなる可能性も出てきます。
これからの組織作りにおいては、プロパー採用とキャリア採用のバランスが不可欠です。
前述したように、両者の垣根をなくし、コミュニケーションを活発にするための施策を行っていくことが大切になるでしょう。
まとめ
日本の企業は一般的にプロパー採用に偏重していると言われます。
年功序列と終身雇用が崩壊し、仕事の専門分化やジョブ型採用などの流れもある中で、プロパー採用偏重は薄れつつありますが、まだまだ強く残っています。
プロパー採用は、組織理念や価値観を吸収して組織文化の担い手となってくれやすい、同期や上司・先輩とのつながりによって部門や職種を超えた社内人脈を持つなど、メリットとなる部分が確かに存在します。
一方で、視野が狭くなったり、価値観が保守化したりする。また、中途採用社員に疎外感を与えたり、最悪の場合は一種の派閥化したりするようなこともあります。
時代の流れを踏まえると、これからの市場で生き残っていくためには、キャリア採用も積極的に行い、バランスがとれた柔軟で活気ある組織づくりを進めていくことが必要です。
なお、中途採用を行う上で、比較的理念や価値観の浸透をさせやすい、20代の若手採用をお考えでしたら、HRドクターを運営する株式会社ジェイックが提供する就職カレッジ 集団面接会もぜひご検討ください。以下より資料をダウンロードできます。