新卒採用の面接ではスキルよりも、成長ポテンシャルにつながる誠実さや向上心、達成動機といった内面的な要素が重視されます。
学生の本質を見極めるために、面接官はどのような質問を用意すればよいでしょうか。
具体的な質問例を挙げながら、新卒採用における見極めポイントを解説します。
<目次>
新卒採用面接のポイント
(出典) photo-ac.com
新卒採用では短期間で多くの学生との面接を行います。中途採用と大きく違うのは、業務の遂行能力やスキルでは評価ができないことです。ポテンシャルや意欲といった内面的要素は評価がしにくく、先入観や面接官の価値観などのバイアスがかかりやすいですので注意が必要です。
応募者の性格特性や価値観を重視する
新卒採用の応募者は社会人としての経験はなく、即戦力としてはあまり期待ができません。企業が時間をかけて育てていくことを考えると、応募者の性格特性やポテンシャル、価値観などに選考のウェイトが置かれます。『ポテンシャル』とは、入社した後の『活躍可能性』です。
主に、応募者の『配属部署で必要とされる性格特性・動機とのマッチ度』『自社のミッション・ビジョン・組織風土とのマッチ度』『地頭のよさ』等から判断します。上記の要素はいずれも入社後の教育で習得しにくい要素であるため、面接官がしっかりと見極める必要があります。
また、一般的には以下のような性格的特性が業種や職種を問わず活躍可能性につながりやすい要素です。
- 主体性
- 向上心
- チャレンジ精神
- 誠実さ・謙虚さ
- 協調性
- コミュニケーション力
なお、面接で生じやすい先入観として、特徴的な一面にとらわれて、正当な評価ができなくなる『ハロー効果』があげられます。
例えば、有名大学出身の応募者、また、体育会系で主将経験があるといった応募者を、職務全般において優秀な人材と捉えてしまい欠点が見えなくなってしまうケースがハロー効果です。華々しい学歴や経歴に引っ張られると、潜在的能力や内面的要素を見極める目が曇ってしまいがちです。
表面的な要素に引っ張られるのではなく、フラットに本質的な資質を見極める意識を持つことが大切です。
応募者の考え方や行動を引き出す姿勢で臨む
社会経験のある応募者と比べると、新卒学生は面接に慣れておらず、緊張で十分なパフォーマンスが発揮できないケースも多くなります。
従って、緊張時のパフォーマンスを採用基準としている場合を除いては、性格特性や動機のポテンシャルといった内面的要素が見極めることが大切です。応募者の内面を探るためは、『相手を見極める』というよりも、『相手の素を引き出す』という意識がポイントです。
例えば、エピソードや回答を深掘りする際は、応募者への『共感』を意識しましょう。相手の行動や意思決定に理解を示しながら質問を投げかけることで、相手の内面が見えやすくなるでしょう。
また、内定を見るためには表面的なエピソードから一段深掘りして「Why」を質問することも効果的です。
- どうして〇〇が好きなのですか?
- その行動を選んだ理由は何ですか?
- 〇〇を達成するために、具体的に何をしましたか?
また、過去の印象的なエピソード等を語ってもらうのもよいでしょう。就活生に『自分の言葉』で話してもらうことで、どのような考え方や行動原理に基づいて生きてきたのかが見えやすくなります。
面接官の言葉選びや意識も重要
面接は企業が応募者を評価するように、応募者が企業を評価する場でもあります。面接官の何気なく放った一言が応募者の入社意欲を下げてしまうケースも多くあります。
面接官は企業の顔として、言葉遣いや態度に十分配慮しなければなりません。面接では会社に合う人材を見極めると同時に、会社の魅力もアピールする必要があります。
面接官には『自社の魅力を分かりやすく説明するスキル』が求められることも、改めて認識しましょう。面接の後半には応募者から『逆質問』を受ける時間を設けるのが基本です。自社の事業やサービスについて面接官が深く理解しておらず、的を射た回答を返せないと応募者の志望度が下がってしまう可能性があります。
新卒採用で定着の可能性をチェックする質問
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新入社員の育成を終えて戦力になるという矢先、辞表を出されては組織に大きな打撃を与えます。新卒応募者が定着できる可能性が高いかどうかは、採用段階で見極めるのが理想です。
応募者の価値観や性格特性が組織風土等と合うか
企業のビジョンや価値観・カルチャーに共感できる人は、そうでない社員に比べて離職率が低く会社に長く貢献する傾向があります。以下のような質問によって応募者の性格や価値観を知り、『企業文化との適合性』を判断しましょう。
- 一言でいうと、あなたはどんな性格だと思いますか?その理由も教えてください。
- 友人や家族にはどのような人だと言われますか?
- どんなときにやりがいを感じますか?
ポテンシャル採用である新卒採用では、応募者の性格特性や価値観を探らなければならないため、面接官の質問内容が『パーソナル』なところに一歩踏み込むことになりがちです。
一方で、厚生労働省は採用の可否は『職務遂行に関係のある質問』によって判断されるべきとしており、就職差別につながりかねない質問のガイドラインを示しています。配慮すべき質問事項には必ず目を通して把握しておくことが大切です。
基本的には、就職差別につながりかねない質問は下記の2つからなります。
- 本人に責任のない事項の把握
- 本来自由であるべき事項の把握
とくに2つめの「本来自由であるべき事項」には思考・信条が含まれ、たとえば愛読者や尊敬する人物なども注意が必要な質問になることを知っておきましょう。
参考:公正な採用選考の基本|厚生労働省
長期的にどのような展望を持っているか
キャリアビジョンが自社と合わない人は、他に高待遇の仕事が見つかると早期に離職する可能性があります。面接時は『長期的にどのような展望を持っているか』を質問し、入社後の活躍や成長を見極めましょう。
次のような質問は、長い目で見たキャリアビジョンを確認するのに役立ちます。
- 入社後、10年たったらどのように成長していると思いますか?
- どんな存在を目指したいですか?
- 仕事における将来の目標は何ですか?
『キャリアビジョン』『展望』『人生設計』などの言葉を使うと、答えに困る就活生もいるため、分かりやすい言葉に言い換えることもポイントです。
短期的にどんな仕事イメージを持っているか
長期的なキャリアビジョンに加え、短期的な仕事イメージの確認も重要です。最近、キャリアプランに関する新卒の離職判断は速まる傾向にあります。
『下積み』や『石の上にも3年』という価値観が薄れており、雇用の流動化も進んだ影響で、最近の若者にとっては退職がそれほど重要な決断ではなくなってきています。
「希望するプロジェクトに関われないのであれば辞めます」「3年も希望外の部署で働くのは嫌です」といった理由で退職するケースも増えています。
面接官は『短期的にどんな仕事をイメージしているか』『キャリアをどんな時間軸で捉えているか』を丁寧にヒアリングしておかないと、入社後にギャップが生じるリスクがあります。
応募者のポテンシャルを見極める質問
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社会人経験がない新卒応募者に期待するのは、ほとんどの場合、潜在能力や将来性です。履歴書だけでは見抜くことが難しい要素になるため、面接の重要度は増します。
具体例やエピソードを語ってもらい、深掘りすることで、相手の本質が見えてきます。
前提は自社の「活躍基準」を定義すること
新卒採用におけるポテンシャルは、『この質問をすれば、この要素を見極められる』という単純なものではありません。ポテンシャルを見極めるときは、『自社の活躍基準とマッチしているか』が大切です。
例えば、『主体性の高さ』は新卒採用で重要視されるポテンシャル要素の一つですが、「自分で考えて判断して行動する」要素が強すぎると、職場によっては「チームワークを乱す」「上司がコントロールできない」「職場の秩序を乱す」要因にもなりかねません。
また、『ストレス耐性』の高い人は、忍耐強くストレス環境への負荷体制が強いわけですが、言い換えればストレス耐性は鈍感力でもあります。つまり、ストレス耐性が強い人は他人の感情への鈍感性が高く、場合によってはホスピタリティ産業には合わない可能性もあります。
つまり、ポテンシャルや活躍可能性を考える上では、『自社での活躍基準』をしっかりと考えて、自社の活躍基準とのマッチ度を考えることが大切です。
主体性を持って取り組んだり意思決定したりした経験
主体性とは、自分の意思に基づいて選択し、選択の結果に対して責任を取る姿勢です。主体性の表れといえる行動には、『自発的な行動・姿勢』『アクティブな発言』『積極的な参加姿勢』『自分での意思決定』などが挙げられます。
面接では『過去にどんな意思決定をしてきたか』をヒアリングすることで、その人の主体性の度合いが分かります。
- 進学、アルバイトやクラブ活動など、過去の大きな意思決定を教えてください。
- なぜその意思決定をしましたか?
- 意思決定するうえでどんなプロセスを踏みましたか?
- 周囲とどんな関わり合いをして意思決定しましたか?
- 最終的にどのような理由(基準)で決定しましたか?
主体性は『自ら考えて決める』という特性です。多くの組織で活躍するうえで必要な新卒学生の重要なポテンシャル要素ですが、組織風土や仕事の内容によっては、過度の主体性は活躍の妨げとなる場合もあります。繰り返しになりますが『高ければ高いほどよい』というわけではありません。
向上心を持って目標や課題に取り組んだ経緯
新卒採用では現時点での知識やスキルより、向上心の有無を評価しましょう。もちろん今時点の知識やスキルは、発揮してきた向上心の現われであるケースは多いでしょう。
ただし、知識やスキルそのものを評価するよりも、どんなプロセスやマインドで知識やスキル取得に取り組んできたかの方が、入社後の活躍可能性を予測するうえでは役立ちます。理想や目標を掲げると、現状との間に必ずギャップが生まれます。
理想と現状のギャップを埋めていこうとするマインドが『向上心』や『達成欲』です。向上心のある学生は積極的に仕事に取り組み、スキルアップを目指します。成長が早く、数年後には戦力として組織に貢献してくれるでしょう。向上心のある新人がチームにいると他の社員が刺激を受け、組織全体が活性化されるのもメリットです。
面接では、頑張った結果だけではなく、目標に対して、どう現状を認識し、ギャップを埋めるためにどんな計画・行動を取ったのか、どんな壁を越えたのか、似たエピソードがどれぐらいあるかをヒアリングすることがお勧めです。
- 学生時代に最も努力した経験は何ですか?
- どんな目標を掲げたのですか?
- なぜその目標だったのですか?
- 目標を達成するために、どのような努力や工夫をしましたか?
- 努力の中でどんな壁にぶつかりましたか?
失敗のエピソード
新卒採用の面接では成功体験ではなく、『過去に失敗したエピソード』を質問すると良いでしょう。重要な内面的要素である『誠実さ』を見極められます。
- アルバイトやサークル活動で失敗したときのことを教えてください。
- 過去の失敗談を聞かせてください。
多くの人は面接が有利に運ぶように、成功体験をアピールしたがります。失敗体験を回答として準備している人は少なく、どのような答えが返ってくるかで相手の内面を垣間見える可能性が高いでしょう。
言い訳をせずに自分の失敗をキチンと向き合っている姿勢、また、失敗からの学びや反省をしっかりと自分の言葉で語れる人からは誠実さが伺えるでしょう。
円滑に仕事するためのスキルもチェック
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ある種の仕事を円滑に進める上で非常に重要となるのが、『問題解決力』や『論理的思考力』です。業務の遂行に求められるスキルであり、ある程度は入社後のトレーニングで身に付けられます。
新卒採用では、自社での重要度に応じて、面接や適性検査を通じて地力がどれだけあるのかをチェックしましょう。
論理的思考力を確認する質問
『論理的思考力』とは物事に筋道を立てて考えるスキルであり、ビジネスにおけるコミュニケーションの基礎です。
仕事やビジネスにおけるコミュニケーションは、時として感情のやりとりよりも『情報のやりとり』が重要です。
顧客との商談内容を上司に分かりやすく報告したり、顧客に対して筋の通った説明をしたりするには、論理的思考力やロジカルコミュニケーションが欠かせません。人の論理的思考力は『話し方』に表れます。
面接であれば、きちんと面接官の質問内容をくみ取って、的確な返答を返せるかで基礎的な論理的思考が見極められます。
緊張度などは考慮したうえで、面接官の質問をきちんと理解できていない、準備してきた回答を話すだけで微妙にずれている、分かりやすい回答をできるといった点で判断しましょう。
問題解決力を確認する質問
問題解決能力とは、『問題を発見する』『原因を分析する』『最適な解決方法を考える』『解決に向けて行動する』という一連の能力や行動力です。
問題解決能力の高い人は日常的に起こる問題に迅速に対応できるでしょう。
ある意味で新人の成長プロセスとは「分からない」「できない」という問題解決の連続ですので、成長スピードも期待できますし、成長に伴ってより困難度で原因調査や解決策の立案など、重要な役割も任せられるでしょう。
なお、論理的思考力と併せて、『課題解決力の必要レベル』も職種や仕事内容によって大きく異なります。
面接時は自社の必要レベルに合わせて評価基準を定めましょう。
- 困難に直面した体験と当時の対応方法を教えてください
- 仲間と対立したとき、どのような解決方法を取りますか?
- あなたなら、メンバーのモチベーションをどのような方法で高めますか?
他にもコンサルティング会社の採用でお馴染みのフェルミ推定やケーススタディーも問題解決能力を測るのに適しています。
いずれも正解がある問いではありませんが、過去の体験をヒアリングすることで問題解決への主体性、また、ケーススタディー等の取り組みを通じて問題把握、課題整理、仮説立案、実行といった一連のプロセスに関する能力を推測できます。
ただし、経験やスキルのある中途採用者でも、高い問題解決力を有している人はそう多くありません。新卒者ではなおさら少ないため、採用後に育てていく方向も視野に入れましょう。
主体性と論理的思考力があれば、日々の訓練や外部の訓練プログラムによって問題解決力は育成が可能です。
新卒応募者がチームで活躍できるか確認するには
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入社後に新卒応募者がチームで活躍できるかどうかは、『協調性』や『コミュニケーション能力』の有無である程度は判断できます。自社の社員と一緒に働く姿をイメージしながら、面接を進めましょう。
協調性の意味をどのように捉えているか問う
論理的思考力や問題解決力は訓練によって身に付けられますが、『協調性』は性格に起因するところも大きい資質です。会社では多くの人と連携しながら、仕事を進める必要があります。
独りよがりな行動を取る人や他人の意見に耳を傾けない人は、組織にとってマイナスの結果をもたらすでしょう。
面接で協調性を見極める上では、『自社で求められるのがどんな協調性なのか』を最初に定義しておく必要があります。
周囲の空気を読み、みんなと仲良くやっていけることだけが協調性ではありません。中長期的な成果を生むことを前提にしたビジネスにおいては、『価値観や立場の異なる相手といかに信頼関係が築けるか』『意見の相違があった際に理性的な方法で解消できるか』がチェックポイントになります。
面接では『協調性についての考え』を質問した後、その考えに至った理由やエピソードをヒアリングします。掘り下げていくことで、表面的には見えない価値観が浮き彫りになるでしょう。
- 協調性についてあなたはどう考えていますか?なぜそう思うのか、理由も教えてください。
- 「自分には協調性がある」と思った具体的なエピソードはありますか?
なお、採用面接において「協調性があった方がいい」というのは社会通念上、誰もが思い付くことです。
従って応募者には「協調性があるように見せたほうがいい」という動機が働きます。
その前提で、質問・深掘りしていくことが大切です。
逆質問でコミュニケーション能力を測る
コミュニケーション能力は、社会人として身に付けておきたい必須スキルです。学生時代は気の合う人に囲まれて過ごせますが、社会人になれば価値観や考えが大きく違う人とも一緒に仕事をしなければなりません。
仕事におけるコミュニケーション能力は、『説明力』『表現力』『傾聴力』『質問力』など複数の要素から成り立ちます。面接官の質問への回答を通じて、説明力や表現力といったアウトプットのスキルは見極められます。
では『質問力』はどこで判断すればよいのでしょうか?一般的には『逆質問』の時間が学生の質問力を測るタイミングです。
「何か質問はありませんか?」という問いかけに「ありません」と答える応募者よりも、気になった点や不明点を質問する応募者の方が、質問力が高いと伺えます。
また、単に準備してきた質問をそのまま出しているのか、面接の流れや面接官の回答を踏まえて尋ね方等を調整しているかも確認すると良いでしょう。
説明力や質問力のある学生は、入社後の商談やミーティングでも自らの意見・疑問をしっかり伝えられるでしょう。
まとめ
新卒者の採用はポテンシャル採用となることは基本で、即戦力としてのスキルではなく、自社での活躍可能性に影響するパーソナリティや動機、地頭等の見極めが重要です。
経験・能力はこれから積んでいくものと考えて、主体性や向上心・誠実さなどの内面的な要素を軸に判断しましょう。面接官には適切なタイミングで質問を繰り返し、相手の本音を引き出すスキルが求められます。
いつ・どのような質問をどんな意図でするかを面接官同士でもすり合わせ、限られた時間で効率よく見極めができるように進めましょう。