近年、日本ではエンジニア需要の拡大と少子化の影響、そして、育成の遅れにより、ITエンジニアが著しく不足する状況になっています。
こうしたなかでシステム開発会社などが注目しているのが、外国人エンジニアの採用です。
ただ、これまで外国人エンジニアの採用実績がない場合、採用方法や注意点などの不安要素もたくさんあるでしょう。
記事では、近年の日本で外国人エンジニアの採用が活発化する背景や状況、外国人エンジニア採用に取り組む3つのメリットを確認します。
そのうえで、外国人エンジニアの採用で注意すべきこと、具体的な採用方法も紹介しますので、参考になれば幸いです。
<目次>
外国人エンジニア採用|活発化の背景と状況
近年、日本での外国人エンジニアの採用が活発化しています。
厚生労働省が毎年発表している「外国人雇用状況の届出状況まとめ」によると、平成20年に18,030人だった情報通信業に従事する外国人労働者が、約10年後の平成29年には、52,038人に増加しています。
出典:外国人雇用状況の届出状況(平成20年10月末現在)について(PDF)
出典:「外国人雇用状況」の届出状況表一覧(平成29年10月末現在)
絶対数としてはまだ少ないですが、日本で働く外国人のITエンジニアはこの10年間で約2.8倍に増加したことになります。
同時に、本記事では触れませんが、近年では、海外でエンジニアを現地雇用して日本国内で受注したシステム開発を進めるようなオフショア開発を実施するIT企業も非常に多くなっています。
外国人エンジニア採用は、なぜここまで加速しているのでしょうか。この章では、外国人エンジニアが注目される理由と背景を確認しておきましょう。
日本のIT人材不足
まず、日本のITエンジニアは、以下の要因で著しく不足しています。
- ITエンジニアの需要増
- 少子化による影響
- 日本のIT教育の遅れ
- 海外と比較してITエンジニアの年収が低い
大前提として、さまざまなサービスがWeb化・クラウド提供されるようになり、また、業種を問わずIT活用、DX化は不可欠なものとなっていることはいうまでもありません。
こうしたなかで、システム開発を担うITエンジニアへの需要は急激に拡大しています。
一方、日本では少子化の影響で、そもそもの労働力人口が加速度的に激減しています。
内閣府の予測では、2014年に6,587万人だった労働力人口は、2030年には5,683万人にまで減少すると見られています。
この数字をみれば、日本全体で労働力が不足しやすい状況がわかるでしょう。
その中で、需要が急拡大しているITエンジニアは、求人倍率などで見ても、各職種のなかで群を抜いて採用難易度が高い職種となっています。
ITエンジニアの場合、未経験者が仕事をするには一定期間の初期教育が必要となります。
したがって、他の職種と比較して職種間の労働人口の移動も難しくなっています。
また、経済産業省による調査では、ITエンジニアに関する企業の教育・研修制度や自己研鑽制度への満足度がかなり低いうえに、自主的に勉強している人も少ないことがわかっています。
出典:IT人材育成の状況等について(経済産業省 商務情報政策局 情報処理振興課)
こうした教育面の問題も、ITエンジニアが育たない一因であると考えられます。
なお、アメリカなどでは、データサイエンティストが、最高の職業1位になっています。一方で日本のITエンジニアは、アメリカほど憧れの職業ではありません。
ヒューマンリソシアが調査した世界のITエンジニアの給与で見ても、日本は世界全体の18位・42,464USドルであり、この数字は世界1位であるスイスの約半分です。日本のITエンジニアは、世界的に見て待遇が良いわけではありません。
出典:世界のIT技術者の給与ランキング、 日本は92カ国中18位(ヒューマンリソシア)
絶対的なITエンジニアに対する需要増と人口減に加えて、こうした要因が重なり、近年の日本では、ITエンジニアの深刻な人手不足が生じています。
海外エンジニアへの評価
ビズメイツ株式会社の調査結果では、外国人エンジニアを採用した企業の約7割が「非常に満足している」「満足している」と回答しています。
出典:外国籍ITエンジニアの採用に関する実態調査(ビズメイツ株式会社)
一方で、国際経営開発研究所(IMD)による2020年のデジタル競争力ランキングでは、知識カテゴリのなかにある「人材」において、日本の順位が特に下がっています。
出典:令和3年 情報通信白書 第1部 特集 デジタルで支える暮らしと経済(総務省)
このことから見ても、世界的に見て日本の人材の知識やスキルレベルには課題もあると考えられます。
そのため、外国人に言語の壁などがあるとしても、海外エンジニアの評価が高く、実際に採用した企業の満足度も高いものになっていると考えられています。
日本に多い外国人エンジニアの国籍
厚生労働省の報告によると、令和2年10月末現在、情報通信業で働く外国人で多い国籍は、以下のようになっています。
- 1位:中国(33,533人)
- 2位:韓国(9,961人)
- 3位:ベトナム(4,790人)
- 4位:アメリカ(2,605人)
- 5位:フィリピン(1,797人) など
出典:「外国人雇用状況」の届出状況表一覧(令和2年10月末現在)
外国人エンジニアを採用する3つのメリット
外国人エンジニアを採用すると、企業に以下3つの効果・メリットが生まれます。
人材不足を解消できる
たとえば、中堅・中小企業やベンチャー企業の場合、日本国内の市場で求人やスカウトメールを出しても、認知度や待遇の低さなどから、なかなか人材獲得ができないことがあります。
前述のとおり、ITエンジニアはさまざまな職種のなかでも格段に採用が難しい状況です。
しかし、IT業界のブルーオーシャンともいえる外国人市場に目を向ければ、競合もまだ少なく、中堅・中小企業などでも採用難を解消しやすくなるでしょう。
優秀なエンジニアを戦力にできる
たとえば、アメリカのIT市場では、高い専門性が重視されるため、新卒でもコンピューターサイエンスの学士が応募要件になっているケースも珍しくありません。
すべての国がそうとは言い切れませんが、外国人エンジニアのスキルレベルの高さは、日本を上回る場合も多々あります。
なお、先述のビズメイツ株式会社による調査結果でも、外国人エンジニアを採用した企業の約5割が「技術力の向上」という目的を達成できたという回答があります。
出典:外国籍ITエンジニアの採用に関する実態調査(ビズメイツ株式会社)
グローバル化による刺激が得られる
外国人エンジニアは、母国を出て海外で働こうとする人材であるため、成長志向が高い魅力があります。
また、日本人とは異なる視点や価値観は、日本人エンジニアなどにとって刺激になる側面もあるでしょう。
こうした特徴を持つ外国人エンジニアとの協働には、社内のダイバーシティー&インクルージョンの推進につながっていく効果もあります。
外国人エンジニアを採用する際に注意すべきこと
日本人と比べてメリットも多い外国人エンジニアですが、実際に採用するときには、以下の点に注意をする必要があります。
就労ビザの取得
まず、日本の法律に基づき、企業が雇用可能な外国人労働者は、以下の人たちに限られます。
- 1.活動に基づく在留資格を持つ外国人
- 2.在留資格が「留学」や「家族滞在」などでも、資格外活動の許可(包括許可・個別許可)を取得できた外国人
- 3.永住者
- 4.日本人の配偶者等
- 5.永住者の配偶者等
- 6.定住者
また、人材紹介サービスなどを通じて海外から外国人エンジニアを受け入れる場合、就労ビザ「技術・人文知識・国際業務」における「技術」の資格許可要件を満たす必要があります。
こうした就労ビザなどに関する制度があることで、初めて外国人エンジニアを雇い入れる場合、就労ビザの申請手続きが難しく、面倒に感じることもあるでしょう。
渡航のサポートコスト
たとえば、いま現地にいる外国人を採用して、日本で雇用するとなれば、自国に引越してくる費用や住宅探し、家賃などのサポートも必要となります。
また、優秀な人材を口説く場合には、人事担当者や幹部などが最終面接のための渡航費用がかかる場合もあるでしょう。
言語の壁
外国人エンジニアのすべてが、日本語が堪能とは限りません。
また、開発現場で円滑なコミュニケーションを図るには、日常会話で使う日本語に加えて、組織や業界の共通語のような言い回しも習得する必要があるでしょう。
外国人と日本人の言葉の壁を解消するには、即時に翻訳可能なコミュニケーションツールの導入や、受け入れ側の工夫も必要です。
転職リスク
これは日本人エンジニアにもいえることですが、成長志向の高い優秀な人材は引く手あまたであるとともに、自身の成長のためにあえて厳しい環境を求めて転職をすることがあります。
近年では、日本でも転職は一般化しつつありますが、外国人エンジニアの場合、退職・転職のハードルが日本以上に低いことも多いです。
特に成長志向が強くスピード感を求める人の場合、社内でのキャリア形成に課題を感じるとすぐに転職してしまう傾向があります。
優秀な人材に定着してもらうには、市場相場に合った賃金・待遇はもちろんのこと、以下のような環境整備や組織風土の変革が必要となります。
- 外国人エンジニアが活躍できる組織
- 外国人エンジニアの提案に耳を傾け、柔軟に受け入れられる組織
- 外国人エンジニアがスキル・キャリアアップできる仕組み など
文化や生活習慣の違いへの配慮
外国人エンジニアを雇い入れた場合、仕事への価値観や進め方のほかに、生活習慣や文化の違いから、メンバーとのトラブルなどが起こる可能性もあります。
この問題を防ぐためには、外国人と日本人のコミュニケーションの機会を増やし、相互理解を進める必要があります。
また、上司のヒューマンスキルなどを高めることも必要でしょう。
外国人エンジニアを採用する方法
外国人エンジニアにも、日本人と同様にいくつかの採用方法があります。
実際に外国人エンジニアを採用する場合は、以下のなかで自社の採用ターゲットや採用力に合った方法を選ぶ必要があるでしょう。
外国人特化の求人媒体を利用する
求人を出してエントリーを待つ採用方法です。以下のように外国人に特化した求人媒体のほかに、dodaなどでも外国人求人を受け付けています。
- NIPPON仕事.com
- Guidable Jobs
外国人エンジニア特化の人材紹介を利用する
高度なスキル・知見・キャリアを持つ外国人エンジニアは、求人媒体よりも、人材紹介サービスに希望要件を伝えて紹介してもらうほうが効率よく採用できることも多いです。
人材紹介サービスには、自社の希望要件にマッチする人材が紹介されるだけでなく、内定承諾までのサポートもしてもらえる魅力があります。
特に初めての外国人エンジニア採用で、ビザ取得などに不安がある企業におすすめでしょう。
LinkedInを利用する
海外エンジニアは、LinkedInなどのSNSを通じた転職活動を行なっている人が日本よりも多いです。
LinkedInを利用する場合、法人としてリクルータープランを契約する必要がありますが、経験者層を採用するには有効な手段となります。
特に英語でのアプローチが可能になると、LinkedInでアプローチできる外国人エンジニアの人数はぐっと増加するでしょう。
外国人エンジニアのコミュニティにてアプローチする
日本に来た外国人は、同じ国の出身者同士の情報共有や交流を目的に、コミュニティの形成・参加をしていることも多いです。
こうしたコミュニティに日本の人事担当者が入れる可能性は低いですが、自社の外国人エンジニアにコミュニティの登録者がいる場合は、自社の魅力を宣伝してもらったり、リファラル採用のようなイメージで優秀な人材を紹介してもらったりしてもよいでしょう。
自社の採用ページに外国人エンジニア募集枠を設ける
いわゆるオウンドメディアリクルーティングのことです。業界認知度の高い企業の場合、自社の採用ページ内で外国人エンジニアの募集枠を公開してもよいでしょう。
また、多くの外国人エンジニアが活躍している場合は、オフィスの雰囲気や外国人が働きやすい環境づくりなどの採用動画を制作し、Twitterなどで発信しておいても良いかもしれません。
まとめ
近年の日本では、ITエンジニアの需要が急激に拡大しています。
一方で、少子化が進んでおり、労働力の絶対数も不足していることに加えて、初期教育が必要であり職種転換が難しい、海外と比較してITエンジニアの待遇が低いなどが要因で、ITエンジニアの採用難は慢性的なものとなっています。
そのような中で、ITエンジニアの不足を解消する一つの方法として取り組む企業が増えつつあるのが、外国人エンジニアの採用です。
ただし、外国人エンジニアを受け入れる場合、就労ビザの取得をはじめ、定着や活躍への配慮や工夫が必要となります。
外国人エンジニアを採用するには、以下のなかから自社の採用力や認知度などに合う採用手法を選択するとよいでしょう。
- 外国人特化の求人媒体を利用する
- 外国人エンジニア特化の人材紹介を利用する
- LinkedInを利用する
- 外国人ITエンジニアのコミュニティにてアプローチする
- 自社の採用ページに外国人エンジニア募集枠を設ける
外国人の人材紹介サービスの詳細や、採用ポイントをより詳しく知りたい人は、以下の記事も参考にしてください。